斯くして一色いろはは本物へと相成る。   作:たこやんD

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週イチとか言ってたくせに翌日書いちゃいました笑
(UAが予想以上に伸びて調子乗ったとか言えない,,,)

今回のお話は本編第一話、という扱いになってます。

プロローグは少し硬くなりすぎたので、本編は軽くしようと決めていたのですが...
あんまり上手くいきませんでした←

まあ出だしはこんなものかなぁと、割り切りつつ読んでもらえると幸いです!

それでは稚拙な文章ですが、どうぞ。



1話 斯くして一色いろはの思惑は外れる。

 

Pipipipi……Pipipipi……

 

ぼんやりとする頭の奥にアラームの音が響いた。

最近は色々と考え事が多いせいか夜寝つけないことが多く、昨日もだいぶ夜更かししてしまったからか、夢からではなく真っ暗な暗闇からの目覚めと言った方がしっくりくる目覚めだった。

 

Pipipipi……Pipipipi……

 

「ん…うーん……うるさい…」

 

私は枕元に置いてあるはずのケータイに手を伸ばした。

ベッドの上で壁に身体を向けて横になっているわたしは、身体を半回転させるようにして後頭部へ向けて手を伸ばした。

すると思いのほか背中とベッドの端との隙間が狭かったことに遅れて気づく。

 

「え…」

 

そしてそのまま

ドテッ

と、鈍い音を立ててわたしはベッドから転がり落ちた。

こんなはずじゃなかったのに…

朝からついてないなぁ、と思いながらしばらくの間見慣れた天井を眺めていると

 

Pipipipi……Pipipipi……

 

今度は少し頭上から、やかましいアラームの音が聞こえてきた。

もう…

 

「うるさいっ」

 

ベッドの上から少し乱暴にケータイを掴み取り、すぐさまアラームを解除する。

はぁー、とため息をついて、自分の息が少し白いことに気が付いた。

そりゃそうか、まだ二月だもんね…

少し冷えた身体を両手でさすりながら起きあがったわたし、一色いろはは、顔を洗うべく洗面所に向かうのだった。

 

   × × ×

 

「うぅ…、さっむ~」

 

いつも通り電車を降りたわたしは、いつも通り寒い通学路を歩きながらぼんやりと考え事をしていたのだが、あまりの寒さについ声に出してしまった。

誰かに聞かれたかな…

と思いながら辺りを見回すが、幸い近くに人はおらず遠くにちらほら見慣れた制服が歩いているぐらいだ。

普段のわたしなら、今のを男子に聞かれてたらいいアピールになったかもな…とか考えたんだろうけど、あいにく今はそんな気分ではないのだ。

朝からついてなかったわたしは、そのままズルズルとそんな気分を引きずり、ここのところ多くなった考え事に気を取られていた。

一色いろは、絶賛お悩み中である。テヘッ

と心の中で軽く舌を出してみる。

んー、どうにも外と内が逆転してしまっているなぁ。

 

それはさておき、悩みというのはほかでもないあの奉仕部のことだった。

クリスマスイベントを手伝ってもらったぐらいから、わたしはあの妙に居心地のいい空間、奉仕部の部室にほぼ毎日顔を出していたのだけれど、ここ数日足を運べないでいる。

理由は数日前無事に…いや、無事にではないのか…終わった生徒会主体で行ったバレンタインイベントだ。

あの日、確実に奉仕部の三人の中で何かが崩れだしたのは疑いようもない。いや、それどころかもうすでに崩れかけていたのかもしれない。

ここ最近のあの三人を思い出すと、とても不安定な三角形の足場の頂点にそれぞれが立っていて、少しでも誰かが動き出したり外から揺さぶられたりすると、たちまちバランスを崩してしまうような、そんな状態だったのではないかと思う。

それがついにあの日、はっきりと強く揺さぶられた。

あー、あの時のはるさん先輩、めっちゃ怖かったなぁ~

 

そんなこんなで異常事態をきたした奉仕部の面々に、わたしは顔を合わせられずにいた。

それは単にそっとしておいた方がいいのではないかという思いだけではなく、あの心地いい場所がもう二度と戻ってこないのではないかという恐れからでた考えでもあった。

 

しかしそうも言ってられないのが、この総武高校で弱冠16歳ながら、生徒会長という重大な役職を背負っているわたしの心境だった。ま、悪戯の結果だけど。

二月も終盤にさしかかり、三年生の先輩方にとっては長い人生の中でもかなり上位に位置するであろうイベント、卒業式がすぐそこまで迫っていた。

こう見えてもわたしは、生徒会長に就任してからの約半年間で、それなりの仕事はできるようになってきた。

最初は全く手につかなかった行事ごとでのスピーチの原稿なんかも、このところは先輩たちの手を借りることなく、ほぼ完成させることができている。まぁ、結局最後は先輩にチェックしてもらってるんだけどね。

 

とはいえ卒業式なんて一大イベントの指揮は、これまでの仕事とは比べ物にならないぐらいのプレッシャーがあるわけで、今すぐに先輩たちに泣きついて仕事のちょっとした愚痴を聞いてもらって、そのあとで原稿のチェックなんかしてもらいながら雪ノ下先輩の淹れた紅茶を飲んで結衣先輩と談笑でも…そしてそして先輩をからかうのも忘れずに…

と、ついついそんな妄想がはたらいてしまうほどには、もうわたしの中であの空間の存在は大きいものになっていた。

 

やっぱり改めて考えてみても、このままじゃダメだ。とわたしは思った。

今日こそはあの奉仕部に突撃して、数日の疲れをゆっくり溶かしてもらうぞーっ!

よし、と自分に気合を入れなおして、こぶしを握った時だった。

すでに正門を抜け、正面の階段に足をかけたわたしの目の前に、その人はいた。

 

ポケットに手を突っ込んだ猫背に、わたしと同じマフラーの巻き方―――真似したのは私だけど―――、そして後姿だけでもわかるその圧倒的な負のオーラは、間違いなく先輩だ。

 

いつもなら、

せーんぱいっ♪

と、音符の付きそうな甘い猫なで声で呼びかけながら、制服の裾を掴んで上目づかいで見上げて、あざとい。と照れた先輩に一蹴される…というところまでが一連の流れなのだが。

さっき気合を入れなおしたにもかかわらず、どうしてもその一歩が躊躇われた。

そしてそうこう葛藤している間にも、先輩は昇降口の中へ、雑踏に吸い込まれるように消えて行ってしまった。

そしてしばらく先輩が消えて行った方をぼやっと眺めていた。

階段の一段目で立ち止まるわたしを不審そうな横目で流してくる数人の生徒が通り過ぎるのをいくらか数えたあと、ふと周りを見ればほかの生徒が誰もいなくなっていて、ずいぶん長くこうしていたことに気付いたので

 

「らしくないなぁ、わたし」

 

そうポツリと呟いて、わたしも自分の靴箱へ向かうことにした。

 

   × × ×

 

それからというもの、今日一日の授業は全く頭に入らず、ずっと上の空の状態だった。

今朝の先輩の後ろ姿が脳裏に浮かんでは、もしかしたらあの二人と何かあったのかも...とか、奉仕部はもう…とか悪い想像ばかり浮かんできてしまう。

 

昼休みには、いつも一緒にお昼を食べている二人の友人から

 

「どしたんいろはー?」

「そうそう、今日は朝からやけに元気ないじゃん。最近ずっとそうだったけど、今日は特にひどいよ?」

 

と、心配そうに尋ねられた。

その場は、

 

「えー?そんなことないよ~」

 

とパタパタ手を振って誤魔化したけど、何かとよく一緒にいる二人がダマされるわけなく、

 

「ま、いろはが話せるようになったらちゃんと話してね」

 

と、優しく微笑みかけてくれたのだった。

 

なんだかんだよくわたしのことを見てくれているのだ。

今度ちゃんと二人には話さないとな~、でも話したら話したで絶対面白がってあれこれ吐かされるじゃんこの話題…と思いながら歩いていると、いつの間にか奉仕部の部室の目の前まで来ていた。

朝のこともあるし、入りづらいなぁ…

どんな顔して入ればいいんだろ…

バレンタインイベントの後何もなかったなんてことはないだろうから、少なからずこの奉仕部に変化があることは間違いない。

わたしにその変化を受け入れられるだけの余裕があるだろうか。

あれこれ考えてドアの前で頭を抱え、うーっと唸っていると、右側から足音が聞こえてきた。

恐る恐る顔を上げるとそこには、

 

「おう。一色か、久しぶりだな。てか、こんなところでなに頭抱えてんの?」

 

と、いつものように心底気だるげに声をかけてくる、死んだ魚のような眼をした先輩が立っていた。

突然のことにビックリしたわたしは、頭を抱えたシュールなポーズのまま数秒間フリーズしてしまった。

硬直からなんとか脱して、あわあわと手を振り回したがうまく言葉が出てこない。

 

「え、っと…そのぉ…」

 

あーもう、せっかく久しぶりに先輩と話せるチャンスだっていうのに…

これじゃあまるで女子に話しかけられてキョドってる先輩みたいじゃん!

あ、いやさすがにそんなにキモくはないか。と、一人脳内でテンパっていると、

 

「なんだよ反応…俺何か変なこと言ったか…?あとお前、今絶対失礼なこと考えてただろ」

 

と、先輩が訝しげに言いながら少し距離を詰めてきた。

バレてるし…

いまだに上手く言葉が見つからないわたしの横を通り越すかたちで先輩がドアの前まで行き、寸前で振り返って少し照れたような、どこか優しさに満ちたような、そんな表情になる。

 

「一色。その…なんだ、あ、ありがと...な。いろいろと気つかってくれて…」

 

そして、急にお礼を言われたかと思うと先輩はわたしの頭に優しく手を乗せた。

 

え…?

 

ええええええええ!?

 

なにコレ!全然聞いてないんですけど!?

 

思考回路が完全にショートしたわたしはなされるがままに、先輩に手を乗っけられていた。

するとすぐに先輩が、

 

「な、なんだよその反応…こっちが恥ずかしくなるじゃねぇか」

 

と言って、手を引っ込めた。

あぁ、もう少しそうしててほしかったなぁ…と名残惜しそうに離された右手を眺めるわたしに、再度先輩は訝しげな顔を作った。

 

「マジでどしたのお前…。ま、まぁこんなところで立ち話もアレだ、入るぞ。ほれ」

 

そう言ってドアに手をかける先輩を、まだ少しぽーっとする頭を整理しながら見つめることしかできなかった。

今日ここに来るまであれこれと最悪の事態を想定したことからのギャップもあって、まるっきりいつも通りの先輩に、咄嗟にどう接したらいいのかわからなかった。

もうここには来ないのかもしれないと思っていた。

もう二度と、そのさりげない優しさに触れることはないかもしれないと思っていた。

そんな先輩が今、わたしの目の前で、わたしが想像の中で勝手に崩壊させてしまっていた奉仕部の部室に、何の気なしに足を踏み入れようとしている。

 

それにさっきの…。

 

つい先刻まで手が乗せられていた頭に意識を向けると、そこにはまだ仄かな暖かさが残っているようだった。

 

なんだ…全部私の取り越し苦労だったのか。

 

そう思うとなんだか急に、さっきまでの自分の態度が恥ずかしくなってしまい、顔が熱を帯びてくるのがわかった。

 

「ほんとあざといですよ…急にあんなこと…」

 

目の前の先輩には聞こえないように、ぽそりと小さく呟いた。

そして先輩が引き戸を少しずらすと、中から二人の女の子の話し声と、柔らかな紅茶の香りが伝わってきた。

 

ここ数日ずっと欲しがっていた日常が、やっと少し戻ってきた気がした―――。

 




いかがだったでしょうか!

なんというか...全体的に地の文が多くなってしまいました。
会話的なテンポが悪いのはどうにかしたいところです(-_-;)

次回も書け次第、更新という形にしたいと思いますので、
感想やご指摘など、お待ちしております!!

ではでは、引き続きよろしくお願いします。

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