斯くして一色いろはは本物へと相成る。   作:たこやんD

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お待たせしました!

高校生活最後の定期考査がゴミ点だったためパソコンを没収されていたため更新が遅れてしまいました...申し訳ないですm(__)m

まさか紙媒体に書きためることになるとは思いませんでした...笑

内容についてですが、途中から智咲と茉菜は空気になります。それだけです。あとはいつも通りです。


それでは本編、どうぞ!




12話 斯くして温度は重なり高鳴り合う。

 

カーテンの隙間から差し込む光が瞼越しに網膜を刺激してくるのを感じ、深い水の底から意識が吸い上げられるように夢から覚める。

いつも目覚まし時計に叩き起こされている私にとっては、久しぶりの気持ちいい目覚めだった。

 

「んっ、んん…」

 

あくびを噛み殺しながら大きく伸びをしてチラッと目を遣った目覚まし時計の二本の針は、丁度一直線に並んでいた。

 

まだ6時か…ちょっと早起きしすぎな気がするけどまぁいっか。

 

二度寝の線を排除し、まだ少し眠い目を擦りながら洗面所に向かう。

顔を洗い終えた後、そのまま早めの朝食をとろうかと思ったけどやっぱりシャワーを浴びることにした。

別に昨日お風呂に入り損ねたとかそういうのではないし、むしろいつもより長めに入ったまであるけど、それでもやはり念には念をというやつだ。決して多くはないチャンスに万全の状態で臨まないというのは、この戦局では望ましくないことでもあるし。

 

それにしても昨日は、あの後智咲と茉菜に特に何も言及されなかったけどなんでだろう。あの二人なら絶対色々聞いてくると思ったんだけど...。

はっ、もしかして今日直接見極めるつもりであえて何も聞かなかったとか…?

それはそれで怖いんだけどなぁ。

 

そんなことを考えながら服を脱いでいくと、日中の気温が上がったとはいえこの時間帯はまだ少し肌寒さを感じる。

 

「うぅ…寒っ。早くシャワー浴びちゃお」

 

 

風呂場に入った時に感じた床の冷たさも、身体を伝い流れていくお湯によって徐々に温められていき、それと同時にわたしの血の巡りも早くなるのを感じる。

 

こうして流れるお湯に身を任せていると何故か先輩のことが頭に浮かんでくる。

まぁ今日は先輩とお出かけだしそのせいだろうなという言い訳が一瞬浮かんだが、それもすぐにお湯とともに流れて行ってしまった。そんな言い訳では自分すら誤魔化しきれないみたいだ...。

たぶんこの頭から足の先までゆっくりと温もりに包まれていく感覚とか、妙に鼓動が早くなり全身に暖かな血が巡っていく感覚が、無意識的に先輩との記憶を呼び起こしているんだろう。

 

「はぁ…こんなことでまで先輩のことが浮かぶなんて、我ながら…」

 

まったく、朝からわたしの乙女回路は仕事しすぎですよ。本気を出すのはもっと必要な時だけで大丈夫なのに。もう少し先輩を見習って手を抜くことも覚えてくれないと困る。

て、結局先輩に繋がるし…。

 

これぐらいでいっか、あんまり長い間浴びてるとのぼせちゃいそうだし、いろんな意味で...。

 

って、通常運転に戻すつもりが先輩を引き合いに出して自爆しかけている時点でのぼせてるんだよなぁ…。うん、もう出よう。

 

風呂場の扉を開けると、油の跳ねる音とともに香ばしいにおいが漂ってきた。いつの間にかお母さんが起きてたみたいだ。

 

そんじゃ、朝ご飯食べて早めに準備しとこっと。

 

そんなわけで、メインの10時までまだ3時間以上あるが、少し早めの一色いろはの土曜日が始まった。

 

 

 

 

  × × ×

 

 

 

 

「あ、せんぱーい! お待たせしちゃいましたかぁ?」

 

現在時刻10時5分。

この遅刻は女子としてはむしろ時間ぴったりと言ってもいいぐらいだ。

そしてこういう時の対応は前回ちゃんと教えているはずなのです。

 

「あぁ、少しまっ…」

 

はずなのです。

 

「…い、今来たところです」

 

うん、よろしい。

まったく先輩は、一度言ったことはちゃんと覚えといて欲しいです。

わたしだけだったら別にかまわないというか、むしろ先輩らしさを感じられていいんだけど…生憎今日はわたしの他に二人もいますし。

友人として二人には、あまり先輩のことを悪く見てほしくないんだよね。

 

「おはようございまーす。…でもそれだとヒキタニ先輩も遅刻したことになりますよ? 女の子との待ち合わせに遅刻は厳禁ですよー」

 

「チサちゃん、ここはみんな遅れたんやし無かった事にしようよ…。比企谷先輩もそれでいいですよね??」

 

智咲の意地の悪い発言に、茉菜がすかさずフォローを入れる。

こういうとこ、なんかちょっと雪ノ下先輩と結衣先輩に似てるなぁ。

 

そして同意を求められた先輩はというと、腑に落ちないという顔をしている。

 

「いや、まぁ、いいけど…」

 

いいけど…『俺10時ピッタリには着いてたし、そもそもヒキタニじゃないんだよなぁ。いろはす怖いから言わんけど』って言いたそうな顔だった。

なのでわたしも、『わたし別に怖くないじゃないですかー』って顔を作って予定の消化を促す。

 

「まぁまぁ、ここにいてもなんですし、早いとこ買い出し済ませちゃいましょうよせんぱい!」

 

そう言ってしっかりと先輩の左腕を取る。

昨日の昼休みは少々やりすぎてしまったけど、今日はしっかりブレーキが効く程度にスキンシップを取って二人に見せつけないとですからね!

 

…と思ってたのだが、二人はわたしと先輩を置いて先に進んでしまっている。

まぁこれはこれで、先輩と二人でいちゃつきながら歩けるからいいんだけど…なんか腑に落ちないなぁー。

 

「……ちょっと一色さん? さすがに歩きづらいんだが」

 

「…へ?」

 

「いや、へ? じゃなくて..」

 

遠慮がちに向けられた先輩の目線を追うと、わたしが体に巻き込んでいる先輩の腕があった。…どうやら無意識のうちにかなり密着してしまっていたみたいです。

 

「あっ、す、すみません…」

 

「あー、いや、別に…」

 

うぅ…やっぱり最近先輩とのスキンシップがうまくいかない…。

まさか開幕早々にドジを踏むとは...。

先輩のことを意中の相手としてはっきり意識するようになってからというもの、今まで何の気なしに測っていた距離感が全然掴めなくなっているみたいです。

 

握ってしまった裾を離すわけにもいかず、先輩との気まずい空気を少しでも軽減するためにそのまま歩き出そうとしたとき、ふと視線を感じた。

 

これは気付いちゃダメなやつだ…。

 

そう思った時にはすでにわたしの視線は、前を行っていたはずの二人の視線と交錯していた。

 

こらそこ! ニヤニヤしない!

 

…無言で目を逸らさないでよぉ…。

 

含みのある流し目を残した智咲たちは、そのまま歩き出してしまった。

既に友人二人にいろいろ楽しまれてる感がしてならないんだけど...。

 

 

 

そんなこんなで歩みを進めたわたしたちは、駅近くのショッピングモールに到着した。ここなら一度で全て買い揃えることができるということでの選択だ。

 

先輩は、百均でよくね? とか言ってましたけど…。

 

せっかく先輩と出かけるチャンスだというのに近場ではもったいなかったので、千葉まで出てくることにしたのだ。うんまぁ、こっちが本音。正直百均と近所のスーパーで事足りる。

 

しかしこう広いと、どこから回ったものかと悩んでしまう。

とりあえず今日のプランを確認するためにみんなに声をかける。

 

「最初、何から買いますか?」

 

「んー、適当に近いとこからでいいんじゃない?」

 

どうでもいいよ、という感じで智咲が答える。この子買い物とか興味なさそうだからなぁ。

すると先輩が対案を提示した。

 

「いや、まずは買うモノを確認した方がいい。なるべく荷物を持って歩く時間は少なくしたい。どこで何をどれだけ買うか明確してからルート決めだな」

 

さすが先輩、すぐに効率のよさそうなプランを思いつく。まぁ自分の労力を最小限にしようとしてる感は否めないんだけど…。

 

「あ、じゃあその確認作業、手分けしてやりません?」

 

唐突にそう言った智咲の顔は、実に楽しそうに笑っていた。

間違いない。これは何か企んでる顔だ。

 

よく分からないけど阻止するべきだと思って意見を出そうとしたとき、智咲の提案に賛同する人が現れた。

 

「全員で回ると時間かかりそうやし、いいんじゃない?」

 

茉菜は恐らく智咲の意図するところは分からずに賛同しているのだろうけど、味方を得た智咲はさらにニヤニヤ度が増している。

 

「じゃあグッパで…」「いやいや、茉菜は私と行くから。比企谷先輩はいろはとお願いしまーす」

 

茉菜が班分けの案を提示しようとした瞬間、すかさず智咲がそれを遮った。

 

「じゃあ二人とも、1時間後にここで!」

 

そう続けると、そのまま茉菜の腕を引っ張って人ごみの中に消えていってしまった。

やっぱりそういうことだったか…。智咲は最初から、わたしと先輩を二人きりにする魂胆だったのだろう。

 

そして思惑通り残されたのはわたしと先輩というわけです。

いつもならなんてことない状況だし、むしろ二人きりになれて好都合ですらあるんだけど…。どうやらわたしはこういう不測の事態に弱いみたいで、二人が消えていった方を呆けた顔で見つめることしかできない。

 

「よく分からんが確かにこの方が効率いいし、俺たちも行くか」

 

柄にもなく動揺しているわたしをよそに、先輩はなんでもないように言って歩き始めてしまう。

 

なんでそんなフラットな対応なんですか…もう少し緊張してくれても...。

 

ぷくーっと頬を膨らませてみたのだが、先輩はこちらを振り返るつもりはないらしい。

せめてもう少し意識してくれるようになったらなぁ。

 

いや、それも無理があるか。

先輩のこの耐性は、普段から過剰にスキンシップを図っているわたしが悪いところもあるし。むしろ妹のように思われるようにわざわざ仕向けてたところもあるんだから...。

 

「まってくださいよー、せんぱいってばー!」

 

結局のところわたしは“わたしらしく”、先輩に甘えるほかないのかもしれない。

その“わたし”は、先輩に見せたい“わたし”ではない。むしろ逆をいっているぐらいだ。

何でもない時には普通にできるのに、意識すればするほど、本当の“わたし”は隠れてしまう。先輩といる時は、素のままの“わたし”を見てもらいたいんだけどな…。

 

いつもの甘ったるい声で先輩を追いかけながら、そんなことを考える。

こんなんだから、いつまで経っても妹ポジションなんですよね...。

最初の頃のアプローチの仕方をミスったんだろうなぁ…。

あの頃の私は、まさか先輩にこんな感情を抱くとは思ってもみなかったのだろうから無理もないけど。

 

「そういえば」と、少し長めの沈黙を破ったのは先輩の声だった。

顔は右手にあるホビーショップを向いているせいで表情は見えないけど、その声音だけでわたしへの気遣いが含まれていることがうかがえる。

 

「俺まだ何買うか知らないんだが…リストとか持ってんの?」

 

「はい、昨日部室に持ってってたやつが。見ますか?」

 

そう言って、雪ノ下先輩からのメモが新たに書き加えられたリストをカバンから引き出す。

 

「いや、あるならいい。店とかはお前の方が詳しそうだしな」

 

「まぁ先輩が料理とかしてるの、想像つきませんしねー」

 

少し茶化してみると、先輩もすかさず反撃してきた。

 

「いや、一色が料理できるってのも十分意外だけどな」

 

…なんですと?

 

「あー、バカにしてますよね絶対! こう見えても家庭的なんですから! だいたい、専業主夫志望なのにカップ麺ぐらいしか作れない先輩にだけは言われたくないですーっ」

 

気付いたらわたしはいつもの調子を取り戻していた。変に飾らなくていい、先輩との距離感を。

 

「こう見えてもって言ってる時点でもう…」

 

ボソッと言う先輩に「細かいこと気にしてたらハゲますよ」と返す。

 

こうやって普通に憎まれ口をたたけるのも、学校の男子の中では先輩ぐらいなんですよね。あ、戸部先輩はノーカンで。あれは気付いてないの承知でやってるので。ごめんね戸部先輩っ。

 

と、わたしの特別カテゴリから戸部先輩を無理やり締め出したことに心中で謝罪していると、先輩が思い出したように付け足した。

 

「まぁ、最近はそうでもないかもな…」

 

情報が欠落したその呟きは、しかしすんなりと腑に落ちる心地いい響きに感じられた。わたしが感じているこの気持ちの半分でも、先輩が同じく抱いてくれているのだとしたら、それはわたしにとって何よりの喜びだ。

 

言葉の端をぼかした先輩に倣うかたちで、わたしも感情は読まれないようにただ一言、

 

「へー」

 

と、気のない返事を添えておいた。

 

先輩との会話は、きっとこれでも成り立っている。そう感じられた。

 

 

 

  × × ×

 

 

 

「だいたいこんなもんですかねー」

 

喋りながらぼちぼち歩いていると、いい具合に時間が経っていた。

言いながら先輩に同意を求める視線を向けると、先輩も軽くうなずいてくれる。

 

「だな、今から戻ればちょうどいいぐらいか」

 

腕時計をチラッと見ながら言う先輩に、ふと思いついた提案を持ちかける。

 

「あ、どうせなら帰りは上通りませんか?」

 

「任せる」

 

「早っ。まぁいいです。それじゃあ行きましょう!」

 

 

このショッピングモール、一階は日用雑貨などを取り扱う店が多いのだが二階はアパレル系のショップが並んでいる。同じ道を戻るのもつまらないし、最近は忙しくてこっちのチェックができていなかったからちょうどいい。

 

ターゲット層の違いからか、二階に上がってきてから人口密度が増し客の年齢層が少し若くなった気がする。

隣を行く先輩はその変化を好む方ではないので、あからさまに嫌な顔をしている。

 

「なぁ、やっぱ一階で…」

 

「任せるって、言いましたよねー?」

 

「…はい」

 

「それにたまには先輩もこういう所に足を運んで、女の子との買い物に慣れた方がいいですよ?」

 

「小町で十分なんだよなぁ」

 

出たなシスコン!

どんだけ妹さんのこと好きなんですかホント...。

 

わたしもこんなお兄ちゃん欲しかったなぁ…。

 

っと、ダメダメ、先輩にそんな感覚を重ねたら自分で墓穴を掘りかねない。

 

そんなやりとりを続けながらたまに店の中を覗いたりしつつ歩き、合流地点の近くまで来たとき、ひと際存在感を放つ店が目に入った。

その店は高校生には少し手が出しづらい値段設定になっているが、それに見合ったデザイン性の高さである種学生の憧れの対象となっているブランドショップだった。

かくいうわたしも、クリスマスやら誕生日やらを使って地道にアイテムを集めている女子高生の一人だった。

 

その店の店頭に、期間限定と銘打った商品が陳列してあるのが目に留まり、ついそこで足が止まる。

 

このネックレス、可愛い…。

 

気付いたら手に取っていたそれは、あまり派手な主張はないがシンプルさの中に洗練されたデザイン性が感じられ、自然と視線を集める、そんな不思議な魅力を放っていた。

つまるところ、一目惚れしてしまった。

 

そのまま自然な流れでそれを首にかける。

鏡に映った自分の首元を見ると、自分で言うのもあれだけどかなり似合っていた。

 

しかしその鏡の斜め下、ぶら下がる値札に目が行ってしまい一気に肩が落ちてしまう。

 

これは、さすがに無理だな...。

 

溜め息を一つ零し、持っていたネックレスをそっとその場に戻す。

そのまま店を出ようと方向を変えたとき、今まで黙ってわたしの行動をぼーっと眺めていた先輩の口から思いもよらぬ言葉が飛び出した。

 

「買わないのか?…その、結構似合ってたと思うけど…」

 

「へ...?」

 

予期せぬところからの攻撃に、素っ頓狂な声が出てしまった。

 

似合ってる...って、確かに今そう言いましたよね!?

 

まさか先輩からそんな感想が聞けるだなんて思ってもみなかったし、しかも今回のはいつもみたいにわたしの誘導の結果じゃなくて、先輩の自発的な感想...。

 

頭の中がフル回転して現実がお留守になってしまっていたわたしの反応をどう捉えたのか、先輩が慌てて、というかキョドって弁解をはじめた。

 

「い、いや、似合ってるっつても俺のセンスじゃあてにならないし、お前が買わないってんならまぁ、そういうことなんだろうし…気にするな、忘れてくれ」

 

「え、いや、さっきの反応は別にそういう意味ではなくてですね…素で驚いただけと言いますか…」

 

早口気味でまくしたてた先輩とわたしは、揃ってそっぽを向いてしまう。

必死で弁解しようとしたのがかえって恥ずかしくなったのはお互い同じだったのだろう。

 

数瞬ののち、少し落ち着きを取り戻したわたしは、まだそっぽを向いている先輩の横顔に声をかけた。

 

「あの、ホントにわたしもこれは気に入ったんですけど…値札見てください、値札」

 

わたしに促されて値札を見た先輩は、納得した、という顔になる。

 

「これは確かに、高校生がその場の思い付きで買える額じゃねぇな」

 

「はい、なので残念ですけどこの子は諦めます」

 

諦める。とは言ったものの、さっきよりも買いたい欲求が強くなってしまっていることに気付く。

…先輩が褒めてくれたからだろうか。

しかし今現在の財布の中身を全てはたいても、とてもじゃないけど手が出せない金額なのに変わりはない。

誕生日を使うという手も思いついたけど、よく考えるとこの間先輩とのデートに履いて行った靴を買ってもらうので前借してしまっていたことを思い出す。

今月は残り20日ほど、一文無しで生活するのはさすがに無理があるし...。

 

やっぱり諦めるかぁ…。

 

けど、ここで落ち込みモードに入って先輩との時間を楽しめないのはもったいないよね!

優先すべきはネックレスではなく先輩との距離を縮めることだよね!

 

よし、まずはこの陰鬱な雰囲気を何とかしないと...。

 

「けどせんぱい、ネックレスなんてそのうち同じようなの見つかりますし、今日は運がなかっただけですよ! それより早く智咲たちと合流しちゃいましょう!」

 

何とかするつもりで調子っぱずれになってボリュームがだいぶ上がってしまったせいで、近くを歩く買い物客数人がこちらを振り返った。

 

一応わたしの容姿はそれなりなので、一度視線を集めてしまうとなかなか離れてくれない。

その中でちらほらと、学生たちが話しているのが耳に入ってきた。

 

―――なあ、あの子可愛くね?

 

―――でもあれ、隣にいるの…

 

―――え、あいつが連れかよ、意味分かんねー

 

明らかにわたしたちを指して噂しているその声は、おそらく先輩にも聞こえていることだろう。

 

先輩のこと、何にも知らないくせに勝手なことばっかり…。

 

けどわたしにはこの状況をどうにかするだけの度胸も策もない。ただ立ち竦んで、みんなの興味が薄れていくのを待つことしか...。

 

すると口を結んで沈んでいるわたしの額を先輩が軽く小突いてきた。

 

「アホ…でかい声出しすぎだ。目立つの嫌だし早く行くぞ」

 

そう言って先輩はわたしを連れて、軽い人だかりになっていたその場を抜け出した。

 

うぅ…結局最後はうまくいかないなぁ...。

また先輩に助けられちゃったし...。

 

 

けどまぁ、たまにはこういうのもアリかな…。

 

少し早足で歩くわたしと先輩の間には、先輩の手に引かれるわたしの腕がある。

 

きっと先輩は無意識にそうしているんだろうけど、いつもはわたしが何かとせんぱいを引っ張り回すことが多い、というかそれしかないから、こうして先輩に手を引かれているのがすごく新鮮に感じる。

 

背中越しのこの状況にまだ気づいていない先輩が少し可愛く見えて、ほんの少しイタズラしたい気持ちが芽生えてしまったわたしは、静かに手首を捻って先輩の右の手のひらに自分の左の手のひらを重ねた。

 

重ねた手のひらから伝わる温もりは鼓動までも伝えるように、触れているのはたった一点だけなのに体中を包み込んで、さっきまでの沈んだ気持ちをゆっくりと溶かしてくれるようで…。

 

二度目の温もりは、心音とともに呼び起こされた記憶を上書きする温度だった。

 





(話の中で)来年度になったらもう少し砂糖マシマシにできると思うのですが、なかなかそこまで進んでくれない、進度が遅い!笑


それにしても友人二人の扱いがテキトーなのをどうにかせねば...。

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