気づいたら一週間経ってしまっていて本当に申し訳ないです...。
にもかかわらずまったく書けておらず、変な区切りになってしまいました。
少々夜の時間に余裕がなくなってきたので、これからは少し短めの区切りでの投稿が多くなるように思いますが、ご理解の程よろしくお願いいたしますm(__)m
それでは、今回はあの方々があの方と邂逅を果たすお話です。どうぞ!
追記:挿絵を追加してみました!右目描けない症候群によりいろはのお前誰感が加速しております...(-_-;)
「いーろは!」
「うっ」
前の方から声が聞こえたと思って顔を上げたのに、後方から不意打ちを食らって変な声が出てしまった...。
「おはよーいろはちゃん」
「二人ともおはよー、てかビックリするじゃん茉菜ぁ」
衝撃に遅れて耳に入ってきたその声の持ち主は、予想通り茉菜だった。
予想通りというのは言わずもがな、ぶつかった瞬間に伝わった女性として敵わない感触が、その持ち主が真鶴茉菜だということを物語っていたからだ。
というか、重すぎ大きすぎ柔らかすぎ!
ひょっとして結衣先輩にも負けてないんじゃ…?
女子のわたしでも少しそそられてしまうその質量感を背中に感じながら、至って一般的な自分の胸元を見下ろして複雑な気持ちになっていると、前に立つ智咲が改めて声をかけてきた。
「おはよ、んで…それ何やってるの?生徒会の仕事か何か?」
ソレというのは、今わたしの手元にあるコレのことだろう。
わたしは今朝早めに登校して、明後日に迫った卒業記念パーティーに必要なものをまとめた買い出しリストを制作していた。明日買い出しに行く予定なんだけど、食事とかも用意することにしたから結構な量になりそうで...。
「違うよ~、これは奉仕部のお手伝い…かな?」
自分で依頼しといてお手伝いって言うのも変な話だ。実際手伝ってもらってるのはこっちなわけだし…まぁ実行指揮は雪ノ下先輩だからやっぱりお手伝いで合ってるのかな?
ま、どっちでもいっか!
同じことを茉菜も考えたらしく、不思議そうな顔をした。
「お手伝いをしてくれる部活のお手伝い…?」
んー、と頭を捻っている。
「先に依頼したのはこっちなんだけどね」
「ますます意味わからん…」
と、今度は智咲も首を傾げている。
奉仕部のシステムやわたしの依頼内容を知らない二人には、確かに状況が伝わりにくかったかもしれない。
「奉仕部の先輩方と関わりの深かった人たちを呼んで、卒業記念パーティーみたいなのをやりたいなーって依頼しに行ったの。それでその準備をやってるってわけ」
たち、って言ってもここの卒業生で参加するのは城廻先輩だけなんですけどね。
ちゃんと説明してあげるわたし優しいえらい!
二人ともすごい納得したって顔してるし。
ん、納得した?何を?
「「なるほど…」」
「それで最近ずっと上機嫌だったんだね~」
後ろからさらに体重をかけながら、智咲と目を合わせた茉菜が質問ともつかぬ言葉を発した。
重い…潰れる…。
というか、
「そんなんじゃないって~」
勝手に納得しないでもらいたい。
わたしが最近学校に来るのを楽しみにしているのは、先に立つ計画だけが理由なのではないというか、むしろもう済んだことにいつまでも浮かれているからでありまして...。いいや、やめとこう。
ここで無駄に抗議したりすると、かえって二人の興味を引きかねない。
ここは早急に話題を変えなければ。
「ところで二人とも、今日はやけに早いけど、どしたの?」
「え、何言ってんのいろはー。もうすぐ予鈴鳴るよ?」
何言ってんのこの子は。って顔で見てくる智咲を、同じく何言ってんの?って顔で見返すという間の抜けた構図の中、ふと壁に掛かった時計が目に入り、智咲の言っていることが正しいことに気が付いた。
まさかこんなに作業に没頭していたとは...。すると笑い交じりの智咲の声が聞こえてきた。
「ま、好きな人のために頑張りたいって気持ちはわかるけど…ぷっ…あまり根詰めないようにしなよ?」
ちょ!
「ちがっ!そんなんじゃないって!」
反射的に出た声にほぼ全員が登校し終えて喧騒に満たされていた教室が、水を打ったように静まり返った。
まずったぁ…。
二人と会話していて完全に素だったし、何より普段は猫をかぶっている私があげた抗議の声に奇異の視線が刺さる。
キーンコーン―――。
どうしようこの空気…と思っていたところに、運よく予鈴が鳴り響いた。
なんとなく喋ったらいけない空気になっていた教室は、席につき始める生徒とともに、徐々に音を取り戻した。
何とか危機を脱し胸をなでおろしていると、未だに笑いをこらえている智咲と目が合った。
コノヤロウ…。
無言で睨めつけられた智咲はばつが悪そうに視線を逸らした。
「あ、でもさ、頑張って疲れたら、比企谷先輩が心配してくれるかもしれないよ~?」
なっ...。
耳元で囁かれたその誘惑に少し心が揺らいだが、先輩にはそれが通じないであろうことに思い当たる。
もともとそれは先輩がわたしに提案してきた葉山先輩攻略プランのひとつだったからだ。
「んー、それは…」ないと思うけどな~。と言いかけたが、智咲に遮られた。
「あー、なるほど。さすがのいろはも、初めて片思いする立場になって必死なんだね(笑)」
「だから、そんなんじゃないってばぁ!」
何言っちゃってるんですかこの人は!
だいたいこの間までわたしが葉山先輩に片思いしてたんだから、全然初めてじゃないし!むしろ片思いしか経験ないし!
あれ…?てことはわたしって結局、片思いするかされるかしかしてないのか...。
と、我ながら報われない人生だという衝撃の事実に行き当たったところで、またも教室の空気を変えてしまったことに遅れて気づく。
先ほどまで柔らかい感触に包まれていた背中に、大量の視線を感じる。
いつの間にか自分の席に撤収した二人は、おそらく遠くで口元を押さえていることだろう。
本日二度目の静寂に居心地の悪さを感じつつ、どうやってこの場から逃げ出そうかと思案していると、すぐ横のドアが開けられた。
頭髪が薄れかけ、1年生をもつにしては少々フレッシュさに欠けるんじゃないかと思われる担任の顔が、今日はやけに輝かしく映った。
SHRが始まってしまえば、さすがにみんなも落ち着くだろう。
「な、なんだね君たち…。…あ、こ、これは違うんだその…最新技術だっていうからつい……ばれないって言ってたのに…」
入り口に一番近い席に座るわたしが祈るような視線を向けたことで、先生にはこのクラスの好奇心に満ちたほぼ全員分の視線が、自分に向いているように錯覚したのだろう。
室内に顔を向けた先生が、少したじろいだ後、何かに思い当たったように弁明をはじめた。
…そういえばなんか、いつもと印象が違うような気がしないことも...。
同じことに思い当たったクラスメイト達も、近くの友達とひそひそ確認し始め、次第にわたしへの興味は削がれていった。
予想とは違う展開だったけど、運よく状況が変わったので良しとしましょう♪
先生は気の毒だけど…。
言わなきゃバレてなかったと思いますよ、その増毛…。
そして教室がひとしきりざわついた後、悔しそうな顔をした先生が半ばやけくそな口調で点呼を取り始めたのでした。
× × ×
「あ、いたいた…。ほらあれ、先輩だよ」
昼休み。
校内某所。
わたしは今、友人二人と連れ立って人気のない場所へ訪れていた。
そこは先輩のいう所のベストプレイスである。
そして前方には、背後から近づかれていることに気付いていないのか気付いていて無視を決め込んでいるのか、丸まった背中に不規則に揺れるアホ毛を乗せた先輩が座っている。
なぜこうなったのかって?
私が聞きたいですよ…。
とはいえここまで来てしまっては仕方ない、ここはひとつ今のわたしと先輩との距離感を二人に見せつけて差し上げよう。
最近少しはいい感じだと思うんですよ♪
「せーんぱいっ」
ぴたっと、背後から覆いかぶさる形で先輩に身体を寄せながら声をかける。
甘い声とほぼ同時に触れたことで、触覚と聴覚の同時侵略を受けた先輩の身体が、ビクッと過剰に反応する。
よしよし、ファーストコンタクトは完璧ですね…
しかし今日の私は少々厄介なものを背にしてまして、これで終わるのは物足りない気がした。
後ろから抱きついた体勢のままで、不意打ちによる硬直が解けない先輩の耳に至近キョリから鼓膜を揺らす。
「少し付き合ってただけますか?せんぱい…」
ぶるっと身震いして耳を仄かに朱く染める先輩の体温がやけに近いことを今さら感じて、友人の前で調子に乗った自分がいかに暴走しているかを実感する。
気付いたはいいものの時すでに遅し。むしろ気付かない方が良かったかも...。
おそらく真横にある先輩の耳よりもさらに紅くなっているであろう顔を伏せ、先輩の左肩に顎を乗せた状態でぷしゅーっとなっていると、先輩がようやく口を開いた。
「なんだ、一色か…。重いし飯食えないから離れろ」
重いとはなんですか!
と、いつものように言い返せばいいのだが、自滅してフリーズ中のわたしにはそうする余裕すらなかった。
でも後ろで二人も見てるし何か言わないと…と思ったがなかなか言葉が見つからない。
急に背後から抱きついてきて急に黙りこくった後輩に、先輩は短い溜め息でもって諦めの意を表明した。
「はぁ…どした。何か用があったんじゃないのか?」
肩にわたしを乗せたままの状態で、顔を正面に向けた先輩が優しい声音になる。
が、先輩が気を遣ってくれたにもかかわらず友人二人にこの状況を見られている恥ずかしさと、不意の優しさにやられたわたしの感情は、しばらくの間わたしから思考を奪い去ってしまっていた。
あくまで無言を貫くわたしを急かしても無駄だと感じたのか、またも先輩が気を遣ってくれた。
「ほれ。これでも食って少し落ち着け。そして用が済んだら早く離れろ」
と、優しいのか素っ気ないのかよく分からないセリフとともに、食べていたキュービックラスクをひとつ、わたしの口元に差し出してくる。
ほんっと、こういうとこあざといですよね!
先輩のくせに…。
無言で口を開けたわたしに先輩は少し躊躇う素振りをみせた後、小さなラスクを放り込んでくれた。
閉じた唇の先と先輩の指先がわずかに触れ、そこから先輩の熱が伝わるかのように顔中が熱くなる。
このまま時間が止まってくれたらいいのに...。
なんて、似合うのは城廻先輩ぐらいだろうと思われるような乙女チックな考えが浮かんで、雲間から覗いた春の陽気とともにわたしの顔を温める。
明後日の方向に顔を向けるこの人も、同じことを考えてくれていたらいいのになぁ...。
でもそれはないか。
こうやって優しくするのだって、きっとわたしと妹さんを重ねてつい甘くなっているだけだろうし、実際本人も言ってたことあったし…。
大体先輩が好きなのは、もっと大人しい清楚な感じの…言うなれば雪ノ下先輩のようなタイプの人だろう。
そして先輩が求めているのは、こんな強引で可愛げのない自分勝手な温もりではなく、もっと柔らかな、あの部屋のような温もりで…。
と、そんな消極的思考にシフトしかけたわたしの意識は、今一瞬完全に忘れかけていた背後の友人の一声によって急に現実に引き戻された。
「あのー、お二人さん。そろそろイチャつくのやめてもらってもよろしいでしょうか…」
そう、この場にいるのはわたしと先輩だけではなかった。
むしろあとの二人が、今わたしがここにいる理由なのだ。
失念していただけのわたしと違って二人の存在に気付いてすらいなかった先輩は、背後から急に声をかけられたことに心底驚いたようで、その声に反応してビクッと肩を震わせた。
それはつまり、先輩の肩に顎を乗せていたわたしにも衝撃が伝わるというわけでして...。
急に跳ね上がった先輩の肩にアッパーを食らったわたしは、カツっという奥歯の小気味良い接触音とともに後ろに反り返り、そのまま地面に背を着けてしまった。
仰向けになった私を今朝のよりもっと幸せそうなにやけ面で見下ろす智咲と茉菜と目が合い、その視線から逃れた先で振り返った先輩とバッチリ目が合う。
ホントにもう…
痛いし、恥ずいし、教室帰りたい...。
覗いていた太陽は、薄い春の雲に隠れてしまったようだった。
ちょっと甘すぎですよ…このラスク。