ワン娘と俺氏と紫キャベ娘   作:もちもちもっちもち

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日記9

 ♪月〇日

 

 我ながらトンデモないことをしでかしたものである。

 まさかおじさまがアクションデュエルのチャンピオンだったとは、道理で強い訳だよ。

 まさかおじさまが大会ドタキャンして他次元へ移動するとは、チャンピオン仕事して下さい。

 

 なるほど、確かにハゲの友人だと思ったね。

 誰かに相談しないところとか、全部自分で抱え込んじゃうところとか。

 子供を巻き込みたくないって心根は分かるけど、もう少し周りに目を配ろうよ。

 おじさまが他次元へ移動したって教えてくれた時の素足ちゃんの顔とかさ。

 私の所為だって考えてるのが丸分かりなくらい悲壮感一色だったんだから。

 その上、ママさんに心配かけまいと表面上はいつも通りに振る舞う姿がもうね。

 

 改めて思う、我ながらトンデモないことをしでかしたと。

 おじさまの代理で大会に出場するとか、よくもまあ思いついたものである。

 渋る素足ちゃんを言い包め、いざチャンピオン代理としてスタジアムに立ってはみたものの。

 うん、超アウェーだね♪

 トンデモナイ場違い感だったが、いざデュエルが始まれば全然だったぜ。

 だって、チャンピオンのおじさまに挑戦できるほどの強者とデュエル出来るんだよ?

 強ぇやつと戦えるなんておらワクワクすっぞ! なんて感じでテンション爆上がりである。

  

 対戦相手の恰好がヒャッハー! な世紀末ファッションだって?

 遊戯王ならいつものことです。

 相手のエースモンスターの攻撃力が3000だって。

 遊戯王ならいつものことです。

 しかも相手はバーバリアン使いとな!?

 

 知り合うデュエリスト全員俺の知らないカードばっかだったから物凄く新鮮です。

 その上俺が遊戯王から離れていたからか、強化されたのだろう。

 懐かしいカードに知らないカード、そしてアクションデュエル。

 マイフェイバリットHEROと一緒に摩天楼の天辺でポーズ決めた時は喜び死ぬかと思った。

 スタンディングデュエルじゃこうはいかない、アクションデュエル様々である。

 とにかくね、もうね、面白かった!

 そして、名残惜しくもデュエルは終了、ガッチャ教徒の作法を終え、ふと我に返って会場を見た。

 

 わぁお、これまた見事な掌返しですなー(棒

 

 良いもんね、デュエル楽しかったし。

 べ、別にあれだし、俺ってばお前等のためにデュエルしたんじゃないんだからね!?

 ……おえ。

 でもまあ、最低限おじさまの代役は果たせたのではないでしょうか。

 おじさまだったら、これに加えた何かしらトンデモナイ事態に発展するんだろうけどね。

 アクションデュエルは素人同然の俺にはこれが精一杯なのですよ、ごめんねホント。

 

 

 でもね、嬉しいことがもう一つ。

 なんと、俺にファンが出来ました! しかも三人も!

 

 

 空気を読んで観客に手を振り、興奮冷めやらぬまま控室へ向かっていた時のことである。

 正面から、背後から、そしてすぐ横の扉から。

 現れました、同じ歳くらいの三人のガキンチョ達が。

 目の前で、自分の気持ちを身振り手振りで一生懸命説明する様がもう、嬉しいのなんの。

 だからかな、融合次元のガキンチョ二人を思い出して、ちょっちセンチメンタルな気分。

 うち二人はなんか紫キャベ娘とワン娘に似てたし、顔立ちとか特に。

 

 あまりに嬉しかったもんだからさ、あげちゃいました融合のカード。

 ちょうどアカデミアでパック買って当てたのが余ってたしね。

 残念ながら三人とも融合モンスター持ってないみたいだけど、そのうち入手するかもだし。

 当然口止めも忘れないぜ。

 俺のファンになる=カード貰えるとか思われたらカードが足りなくなるぜよ。

 

 

 ちなみに、その後誰がファン一号なのかで揉めに揉めたのは完全な蛇足だろう。

 ちなみに、勝者はトマ娘でした、ユズ娘と宝石ちゃんは残念でした。

 

 

 

 

 

 ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

 ♪月○日

 

 今更だけど、俺の現状ってアレだよね、素足ちゃんに寄生状態。

 いやね、別に俺がスタンダードに飛ばされたこと盾にして脅迫してるとかじゃないのよ。

 あれだよ、俺一人暮らししたいんで出ていきます的な話を切り出すタイミング見失いました。

 素足ちゃんの家に厄介になってる訳だけど、俺ってば別に家事とか素人レベルなんですよ。

 その上、素足ちゃん家豪邸なので、掃除は業者雇ってるそうだからそういうの必要ないし。

 だったら素足ちゃんの会社の手伝いとかするのがいいんだろうけど、そうもいかないのである。

 というのも、素足ちゃんの会社が俺に対して超VIP待遇で配慮しているんだ。

 融合次元での一件で素足ちゃん俺に負い目感じてるし、しかも俺ってば先日チャレンジャーをおじさまの代理ってことで降したでしょ。

 お蔭で素足ちゃんが俺を特別扱いすること、従業員連中全然抵抗とかないわけよ。

 超ビビったよ、用事あって素足ちゃんの会社行ったら全員俺に頭下げて来るんだもん。

 そんな俺がですよ、今更アルバイトとかで下っ端として働くとか、それは無茶な話でしょうよ。

 唯一例外なのが社長の秘書っぽい磯野もどきだけど、あの人俺のこと超敵視してるし。

 あの人素足ちゃんのこと大好きだよ絶対、完全に親戚の娘に悪い虫付いたと憤る叔父の図。

 

 そんな訳で俺氏、自立するために素足ちゃん家からお暇させて頂きます。

 一応ハゲから貰った給料から宿泊代ってことで書き置きと一緒に残したけど足りるか心配。

 素足ちゃんとママさんに黙っていく理由とな?

 猛反対される構図がありありと浮かぶからだぜ。

 なので、そうなる前に新たな住居先を確保せねばなりません。

 じゃないと素足ちゃん家に強制送還とかされそう、というか絶対そうなる。

 

 お金はハゲからの給料がかなり残っているから問題なし。

 早速借家を求めてその手の店に突撃じゃあ!

 俺ってば一人暮らしとかするならロフト付きの部屋って決めてるんだ!

 

 

 悲報:俺って戸籍ないやん(白目

 

 

 やばいやばいやばい。

 寝泊り目的ならそれこそネカフェでも全然OKだけど、素足ちゃんにバレたら即終了や。

 素足ちゃん目線で立派な一人暮らしとか、今更だけどハードルたっけぇなオイ。

 別に素足ちゃんやママさんが嫌いとか、そんなんじゃ全然ないノーネ。

 特にママさん、ハゲが残した会社守らなきゃって思ってるから外では高圧的だけど、家庭に戻って身内の前に立つと、あんだけおっかなかった目尻が下がってホンワカさんになるんだもん。

 思うに、あの奇抜な髪型に厚化粧って、ママさんのなりの武装なんじゃなかろうか。

 そんなママさんが俺に心を許しているのは、気難しい素足ちゃんが心を許しているのもあるが、なによりも行方知らずだったハゲのことを知っているからなのだろう。

 最初、ハゲのことを知りたいって言ってきたママさんってなんか鬼気迫るものがあったんだ。

 それが、話すうちに表情が柔らかくなり、素足ちゃんもあんなママさんは久しぶりに見たとか。

 俺が居ればママさんの笑顔が増え、それを見て素足ちゃんが喜ぶ、そして俺は養われる。

 一見win-winな関係なんだけどね、それでも男として俺は年下に養われるつもりはありません!

 新生活が落ち着いたら手土産持参してお邪魔しますので、それまでの辛抱だぜ素足ちゃん!

 

 とはいえ、戸籍がないのでは部屋が借りれない。

 ならば贅沢は言わない、住み込みとかなら俺の男としての矜持が保たれると思うんだ。

 でもご飯とか自炊できるほどマメじゃないから、出来れば三食でてくるのが望ましい。

 そんな風に色々と条件を絞っているけど、これって全部素足ちゃんからOKもらうためだよね。

 なんか素足ちゃんがだんだん俺のオカンみたい思えてきちゃったぜ。

 

 そんな感じであーでもない、こーでもないと街を放浪。

 なんか時々っていうかかなりの頻度で視線を感じるけど、俺ってばそんなに不審者っぽいの?

 まあ悶々といかにも悩んでいる風だから近寄りがたいかもしれないけどね。

 このままではマジで補導されかねんと、一息ついた時だったと思うんだ。

 

 

 ○資  格  必要なし

 ○時  給  要相談

 ○仕事内容  デュエル講師の補助、他雑務

 ○そのほか  住み込みOK、三食おやつ付き

 

 

 とある塾の求人広告を見つけたのは。

 そして、その塾が俺とは無関係ではなかったのは、本当に運命という他ないのだろう。

 

 

 

 

 

 ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

 ♪月∞日

 

 無事就職先が決まりました。

 遊勝塾っていう、おじさまの後輩が経営している塾でした。

 おじさまの娘でファン第一号のトマ娘が塾生でした。

 住み込み先の塾長の娘がファン二号でストロングなユズ娘でした。

 遅れて入塾してきたのがファン三号な宝石ちゃんでした。

 

 ふはははー、スゴイぞー(白目

 

 

 

 

 

 ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

 ♪月※日

 

 いやー、偶然って怖いなと思う今日この頃。

 無事働き先兼住み込み先が見つかったんだけど、なんの偶然なんでしょうね。

 此処って、俺のファン2号の父親が経営している塾で、ファン1号の学び舎だったんだ。

 しかも、俺の採用が決まった後にファン3号が来てそのまま入塾しちゃうとか。

 うん、ホント偶然ってこわいわー、マジオカルトだわー。

 

 そんなことがありましたが、俺氏今日から頑張って働くぞい!

 なんて気概はあっという間に消えてなくなりました。

 いやね、最初が肝心と仕事を覚えようと張り切りまくってたんだけどね。

 俺は甘く見てたんだ、ファンを持つっていうのがどういうことなのかを。

 

 

 お願いだからユズ娘や、俺の仕事盗らんといてくれへん?

 俺にこんな雑用させられない! とか、俺ってばそんな高尚な存在じゃないから。

 ごめんなさいトマ娘や、俺にエンタメデュエル教えてとかそんなの無理です。

 おじさまの一番弟子っていうのはね、口からでまかせです、だから無理なんだってば。

 これで何度目宝石ちゃんや、俺はあなたの家にはお呼ばれしません。

 あなたほど綺麗な瞳は見たことがない? パパに紹介したい? 俺の目って宝石扱いなの?

 

 

 紫キャベ娘とワン娘の相手してたからか慣れてたつもりだったんだけどね。

 女三人寄れば姦しいっていうけど、本当にその通り。

 ヤバいわこの三人娘、マジでぐいぐい来るんですけど。

 最初はあまりの熱血っぷりで若干引いてた塾長のテンションが心地よく思えるくらいですわ。

 

 後ね、実は俺ってば塾長にはかなり迷惑かけたみたいなのよ、いや俺だけの責任じゃないけど。

 聞けばね、俺が来る前に大量の入塾申し込みがあったんだって。

 でも、暫くすると入塾キャンセルの申し込みもまた大量にあったんだとか。

 元々暇があれば現役チャンピオンのおじさまが手ずから指導してくれたりもしてたんだけど、おじさまも忙しいから不定期だし、安定して塾生を確保できないからと常に経営は火の車。

 だから、今までは塾長と娘のユズ娘だけで経営が成り立ってたけど、そこへ大量の新規生徒。

 これは人手が回らんと求人募集を出したんだけど、結局それは無駄になってしまった。

 理由は簡単、未だおじさまの行方が掴めず、一番弟子を名乗る俺が遊勝塾と無関係だったから。

 二人から指導を受けられると思っていた連中は、俺達の不在に怒り、そのままキャンセル殺到。

 あまりのショックに塾長は落ち込み、求人広告の存在も忘れちゃってたんだって。

 

 最初面接に来た時はとにかく驚かれたよホント。

 そして、驚かれた経緯を聞いて俺は自分の安易な行動を恥じた、タダ働きも辞さない所存。

 でも、そんな俺に塾長は恨み言を吐く訳でもなく、挙句これで良かったのだと宣う。

 元々、遊勝塾はおじさまが地域の子供にデュエルを教えていたのが始まりで、後輩だった塾長はそんなおじさまに感化され、プロデュエリストの道を諦め、一緒に遊勝塾を起ち上げたんだとか。

 でも、暫くして気付いたんだって、塾長には指導や経営の才能がないって。

 正直、雇った俺の存在を前面に出せば、経営はV字回復、塾の規模も大きくなる可能性大。

 でも、それは同時に、塾生一人一人に接する時間の希薄化を意味する。

 勿論キチンとした体制が組めればそれらの問題も解決するのだが、塾長自身の気質といえばいいのか、街の小さな塾として少数の塾生と一緒に和気藹々とやるのが性に合っているそうな。

 だから君が気に病む必要はないと、そう言って俺を笑顔で励ましてくれたのである。

 

 もうね、アレだね、塾長マジ人格者。

 住み込みで食事も出るから生活費はほぼ必要ない、ハゲから貰ったお金はたんまり残ってる。

 だから、タダ同然の賃金でもいいので此処で働かせて欲しいと、俺ってば塾長に願い出ました。

 当然反対されたけど、俺には味方となる三人娘がいるのである。

 それに、なにも俺は塾長の話を聞いて絆されたからって理由だけじゃないのよ。

 俺ってばおじさまに任されたんだ、出来れば私の家族も頼むって。

 一方的だったし了承もしてないけど、それにメチャクチャ個人的な理由なんだけどね。

 おじさまの娘のトマ娘と、あと塾長の娘のユズ娘、似てるのよガキンチョ二人に。

 性格とか全然だし、似てるの顔立ちくらいなんだけど、ふとした時に重なっちゃうんだ。

 所謂代償行為ってヤツなんだろうけど、それでも俺には避けて通ることはできなかった。

 紫キャベ娘とワン娘に教えられない分、トマ娘とユズ娘に教えなくちゃいけないんだって。

 それにしても、日記でこんな風に言い訳してる俺をクロノス先生が見たらどう思うのかな。

 

 

 所詮はドロップアウトボーイに過ぎませんーノ、だったら自分の信じた道を貫くしかないーノ!

 

 

 一見貶してるようで実は励ましてる的な? うわー、クロノス先生だったらマジで言いそう。

 こんな感じでウジウジと日記に書き連ねている自分が情けなく思えて仕方がないぜ。

 俺ってばそう言うキャラじゃないし、それに次元移動装置が完成しないうちには動けないんだ。

 だったら、俺は俺に出来ることを精一杯やるしかない。

 ありがとう、脳内クロノス先生! 脳内でこれとか本物ってどんだけ偉大なんだよって話だぜ!

 よっしゃ! おらいっちょやってみっか!

 そんな感じで、明日の仕事も頑張ろうと張り切る俺なのだった。

 

 

 

 

 

 ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

 ♪月×日

 

 朝一に素足ちゃんが来ました。

 案の定強制送還されそうになりました。

 俺氏断りました。

 

 

 ――教えてください! 私のどこがいけなかったのかを! 全部! 全部直しますから! 

 

 

 そしたら何故かこうなってしまったの巻。

 ゴメン意味わかんないよね、大丈夫俺も意味わかんないから。

 あのクールな素足ちゃんのあまりの剣幕に固まっている俺は、背後からやって来るもう一人の存在に気付かなかった!

 

 

 ――いなくなっちゃうの? お父さんみたいに、あたしを置いて……っ。

 

 

 おはようトマ娘、そして何故にお前も泣きそうになってんのよ。

 思考停止状態な俺から標的をトマ娘に移した素足ちゃんは、そのまま彼女に詰め寄った。

 そして始まる女のバトル。

 なんか俺の所属を巡って言い争っているんですが。

 やめて! 二人とも俺のために争わないで! なんて思ってたあの時の俺をぶん殴りたい。

 

 どうやら、俺ってばとんだロマンチストだったみたいだぜ。

 その時はあまりの事態に頭が追い付かず傍観決め込むだけだったけどね。

 こうしてトマ娘と素足ちゃんの言い争ってた内容を思い出してみると自ずと答えがでる訳よ。

 というか、なにゆえ気付かない俺のバカチン!

 

 素足ちゃんってば、ハゲのこと追って態々次元飛び越えるような娘なんだぞ。

 それなのに、結局ハゲは訳も話さずに素足ちゃんを拒絶したんだ。

 そんな状態の素足ちゃんに、俺は書き置きだけ残して碌に相談もせずに家を飛び出した。

 真面目な素足ちゃんのことだ、自分に原因があるとか考えてもおかしくないじゃんよ。

 トマ娘だって似たようなもんだよ、だっておじさま家族に黙って行っちゃったっぽいもん。

 他次元云々は他言無用、おじさまの行方だってそれは当然のように当て嵌まる。

 つまり、トマ娘ちゃんからしてみればある日突然おじさまがいなくなっちゃってことだ。

 今にして思えば、エンタメデュエル教えてって、トマ娘俺におじさま重ねてるよ絶対。

 

 二人からしてみれば、俺はいなくなった父親ポジ同然の存在。

 だから居なくなってほしくない、だから取り返そうと必死になる。

 うぉー! 目覚めろもう一人の俺! 千年パズルはどこじゃー! 闘いの儀して分離じゃー!

 なんて思ってる間に俺の所有権は勝者だと決定、あの俺の人権とかそこらへんどうなってんの。

 そんな感じに、当事者の筈の俺氏を置いてけぼりに二人はデュエルを開始した訳なんだけどね。

 

 

 

 

 えっ、チューナーってなに?

 えっ、シンクロ召喚ってなに?

 えっ、エクシーズ召喚ってなに?

 えっ、オーバーレイ・ユニットってなに?

 

 あれれ~、トマ娘ちゃんの持ってるカード、上と下で色が違って見えるような――。

 

 

 

 

 




オッ素「あの、私の登場シーンは?」
過労死「良いじゃないか、君は休めるんだから」

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