△月※日
ガキンチョ二人が行方不明になった。
この日記については後日記したものだが、今でもぞっとするぜ。
勲章おじさんにハゲ、天敵だったマッドのおっさんにも聞いてみたのだが、見事に空振り。
過去に何度も行方不明になり、俺が来る前は何度も捜索に駆り出された勲章おじさんは冷静なもので、部下の人だろう人達に連絡し、捜索を敢行。
俺は待っているように言われたが、はいそうですかと頷けるはずもない。
二人が居なくなった理由だが、心当たりはあった。
俺が強くなったからだ。
もちろん、客観的に見れば俺などまだまだ、せいぜいが生徒といい勝負ができるレベルだろう。
未だにガキンチョ以外とデュエルしたことはないので断定出来ないが、あんなに軍隊訓練染みた教育を施されているアカデミアの生徒が弱い筈がないのだから。
GXならばクロノス先生にも勝てる自信はあるが、此処は似て非なる世界、タッグフォース。
ガキンチョ二人からも分かるように、俺の時代とはカードのポテンシャルが違い過ぎるのだ。
その点については俺も無問題だ、まだ見ぬ強者たちにおらワクワクすっぞ! とか思ってるし。
だが、ガキンチョ共はどうだ。
勲章おじさんに護衛され、お菓子を食べたことがないことからも容易に想像できる。
ガキンチョ二人の世界というのは、俺が想像している以上にずっと小さい。
そんな二人にとって、俺という存在は自分の成長を実感する物差しのようなもの。
仮に俺が二人だったとして、全く勝てない、それどころか差が縮まるどころか広がるばかり。
面白くないだろうし、自分は成長していないのだと思っているなど普通にあり得そうだ。
だから、俺の前からいなくなった。
気付いた時は茫然とした。
だが、立ち止まったのは一瞬だけ。
確かに俺は強くなったよ。
でもそれは、新カードでデッキを強化したからだけではない、二人とデュエルしたからだ。
前に行ったデッキ交換デュエル、あれのお蔭で新しいコンボを思いついたからだ。
何よりも、俺はこの世界に来るまで遊戯王から離れていた。
そんな俺に当時以上の熱を与えてくれたのは、二人がいたからなのだ。
そして、それは二人にだって当て嵌まる筈なのだ。
俺という存在が、二人を強くしたのだと、そう信じたかったんだ。
クロノス先生だって言っていたではないか、教師と生徒は一緒に成長するものだって。
教える立場の者が教わる立場の者から逃げてどうする!
立ち止まるな! 足を動かせ! 今この瞬間もガキンチョ達は悲しんでいるんだぞ!
途中、男前ヒロインに会ったが、もちろんサインなど論外だ。
だが、これまでと同じように、ガキンチョ達の行方を聞けば、なんと心当たりがあるとか。
思わず詰め寄り、おっかなびっくりした男前ヒロインは再度肯定。
神様、俺は今ここに懺悔します。
嬉しさのあまり男前ヒロインに抱き着いちゃいました。
ごめんなさい、もうしません。
当然のように固まる男前ヒロイン。
うん、見ず知らずの異性にいきなり抱き着かれるとか、即豚箱行きですね。
本来ならば土下座コースでも生温い所業だが、今は一分一秒が惜しい。
真っ赤になったまま動かない男前ヒロインを放置し、目撃証言のあった場所へと急ぐ俺氏。
去り際に俺の名前と居場所だけ告げ、後日謝罪に行くことを決心しましたよ。
そして、男前ヒロインが告げた場所に、二人はいた。
俺の登場に逃走を図る二人だが、生憎と今の俺はデュエリスト。
うん、意味不明な理由だけど、今なら初期の悟空とかなら倒せるんじゃなかろうか。
おらの体はステンレスみてぇに鍛えてんだぞ! とか素で言えそうだぜ。
そして、始まった逃走劇だが体格差も手伝い、開始数秒で二人を捕獲。
首根っこを捕まえ事情を尋ね、黙秘権を行使する二人と根気比べを敢行。
その時は既に日も暮れ、月も天高く昇り、空には満天の星空。
そんな美しい景色を海岸沿いのこの場所で眺め続けていると、二人は少しずつ語りだした。
内容は俺の想像していたことと殆ど同じだった。
だが、驚きだったことが一点。
俺が成長しない二人を見限って居なくなる……だと……!?
俺約束したやん! (しばらくは)何処にも行かないって誓ったやん!
はい、元・不法侵入誘拐監禁暴行窃盗犯の言うことです。信用皆無だね、生きててゴメン。
それから暫く、二人の首根っこを離して立ち上がる俺っち。
ガキンチョ二人の顔が絶望に染まる様子に見て見ぬ振りをし、一定距離を取って振り返る。
慌てて追い掛けようとする二人を手で制し、デュエルディスクを構えた。
たぶんだけど、今の俺が何を言っても二人には届かないだろう。
ならば、デュエルで語る以外に方法はない。
うん、今まで自覚なかったけど、この調子じゃあワン娘に偉そうなこと言えんわ。
これって完全にデュエル脳です、ありがとうございました。
デッキケースから賢者の石を取り出し、二人に見せてからデッキへと投入。
たぶん、というか絶対に俺が手を抜いてるの二人とも気付いてたよね、今思えば。
息を呑む二人へ一方的に告げた開始宣言により、俺vs紫キャベ娘&ワン娘のデュエル開始。
初手から来た賢者の石で序盤から押せ押せモード。
キレッキレのデスティニードローも後押しし、蹂躙するように相手の場を喰い散らかす。
だが、ガキンチョ二人もただ一方的にやられていたわけではない。
キモ竜で俺のモンスター達を道連れにし、続くターンでワン娘が猫娘を融合召喚して直接攻撃。
甘いぞワン娘! 伏せカードオープン! 笛! クリクリーと相棒が颯爽登場!
響き渡るbrave heart! 相棒ワープ進化! 相棒LV10モン! 粉砕! 玉砕! 大喝采!
光が弾け、開けた視界に広がるのは更地になったガキンチョ二人のフィールド。
へたり込み、俯き、月明かりがガキンチョ二人から零れる涙を照らし、嗚咽が静かに響く。
今まででのデュエルでも群を抜いて、一方的な展開だった。
だが、別に俺が主人公補正を得て超パワーアップしたわけではない。
逆だ、二人が弱くなっているのだ。
思い返せば、その兆しはあったんだ。
俺が新カードを手に入れて何度かデュエルをしてからだろう、二人は負けることを恐れだした。
勝てない悔しさよりも負けることへの恐怖が勝り、それはプレイングにも滲み出ていた。
リスクを恐れ安全手ばかり選び、負けそうになるととにかく特攻。
紫キャベ娘、キモ竜で俺のモンスター達を道連れにしたのは良いがブラフでもいいから一枚くらいは伏せて次のターンに備えなくていいのか。
ワン娘、攻めることは大事だが俺の伏せカードに対してあまりにも無警戒過ぎるぞ。
勝敗に関係なくデュエルを楽しんでほしい。
その想いに偽りはないし、二人にはそんなデュエリストになって欲しいと心から応援している。
だが、デュエルは楽しいことばかりではない。
俺は基本的に自分に出来ないことは言わない主義だ。
だから、こんな状況でデュエルを楽しめなんて口が裂けても言わない。
GXの主人公もそのことに悩み、十代から二十代へ成長することでその描写は顕著になった。
だからこそ、あの頃の彼と同じ状況に陥った二人に、俺は問いたかった。
デュエルが楽しくないと思う時間は絶対にやってくる。その時、お前等はどうする?
答えは言葉ではなく、行動で示して見せた。
泣きながら、それでも必死に手札を、場を、墓地を、食い入るように何度も確認している。
必死に模索しているのだ、この状況を切り抜くための方法を。
二人はまだ、勝利を諦めてはいなかった。
その姿はかつて存在し、いつの間にか失われてしまっていた、不屈の魂。
立ち止まるのではなく、振り返るのでもなく、必死になって前へと進みだしたのだ。
気付けば俺は心の底から笑っていた。
教育係という、人生で初めて経験した、誰かを教え導くという立場から見た景色。
今見た光景を、俺は決して忘れはしないだろう。
教え子が諦めずに一歩前へと踏み出す、成長する瞬間というものを。
◆ ◇ ◆ ◇
□月▽日
Q.何のことだ! まるで意味が分からんぞ!?
A.いつもの遊戯王です。
おい、みんな知ってるか。
デッキからカードが創造されても、デュエルディスクって反則と見なさないんだぜ。
あれから一夜明け、場所は俺に与えられた部屋。
あの時の出来事について白昼夢を疑ったが、どうやら真実だったようだ。
しかし、はいそうですかと納得できるほど、俺は遊戯王の世界に染まり切っていないようだ。
結論から言います、俺氏デュエルに負けました。
敗因とか言います、二人のデッキからカードが創造されたからです。
れれれ冷静になるノーネ、文章に文字を起こして状況を整理するザウルス。
教え子の成長する姿を見届け、しかし俺は一切手を抜かなかった。
空気を読めとな? そこは大人しくやられるのが筋だろうがとな?
偉大なるクロノス先生はな、進級or就職を賭けたデュエルで覚醒したコアラの学校生活の集大成と呼べる一撃をリミ解で強化した巨人兵でカウンターぶちかまして返り討ちにしたんだぞ!!
締めるところはきっちりと締める! 獅子が我が子を千尋の谷に突き落とすってヤツよ!
だが、二人は見事、俺の猛攻を防ぎ切った。
墓地から罠発動した時はマジでビビったもん。墓地から罠だと!? とか叫んじゃったし。
そして、返しの紫キャベ娘のターン。
1.デッキが輝く。
2.キモ竜を蘇生。
3.融合。
4.キモ竜の進化体っぽい超キモ竜爆誕!
5.俺氏大ダメージ。
え、なにそのカード。俺初めて見るんですけど。
そして、次のワン娘のターン。
1.デッキが輝く。
2.猫娘を蘇生。
3.融合。
4.猫娘の進化体っぽい豹娘爆誕!
5.俺氏大ダメージ。
6.もう一度デッキが輝く。
7.バトルフェイズ中に融合。
8.豹娘の進化体っぽい獅子娘爆誕!
9.俺死亡。
え、なにそのカード。俺初めて見るんですけど。
デュエル終了のブザーが鳴り響き、茫然とする俺とガキンチョ二人。
かつてのデッキ交換デュエルの時に、二人のデッキレシピを俺は網羅している。
流し読みだったからテキストまでは把握していないが、あのようなイラストは初めて見た。
だから尋ねた、いつの間にそんなカード手に入れたんだって。
そうしたらガキンチョ二人は応えた、カードは創造したって。
どういう……ことだ……。
ジャッジー! ジャッジを務められる方はおられるかー!
デュエルディスクのジャッジ機能が仕事をしないんですけども!
後から確認したのだが、この時二人のデュエルディスクに異常はなかった。
つまり、デュエルディスク的にはデュエル中のカードの創造はOK。
俺、明日になったら海馬さん家の会社に抗議の電話をかけるんだ。
とはいえ、傍から見れば最高に盛り上がる展開だったと言える。
圧倒的ピンチを乗り越え、新たな力を手にして、強敵を打ち倒す。
デュエル中はあまりの超展開にそれどころではなかったが、終わった今だからこそ思う。
断言しよう、今までして来たデュエルの中で一番、ダントツにワクワクしたと。
だから、俺は未だに固まっている二人に近付きながら、指を突き付け言ったのだ。
――ガッチャ! 最高に楽しいデュエルだったぜ!
俺の教育方針はクロノス先生と同じ、飴と鞭。
厳しくはするが、褒める時には思いっきり褒めるのだ。
二人の頭を撫で回し、体を屈め、二人を力一杯に抱き締めた。
一瞬ビクリと震え、恐る恐る俺を抱き締め返し、二人は泣いた。
ワンワンと、今まで溜めこんでいたものを吐き出すように、二人は気の済むまで泣き続けた。
途中、涙と鼻水で上着ぐっちゃぐちゃ、下着まで侵食する事態に顔を引き攣らせるも、俺は空気の読める大人であり紳士でもある。
ガキンチョには厳しい時間帯でもあるせいか、二人はいつの間にか眠ってしまった。
紳士である俺は二人をおぶり、アカデミアへとのんびりと帰宅。
今でも二人を捜索中だろう勲章おじさんへの報告も忘れない俺マジ未来の社会人の鏡。
部屋に戻り、二人をベッドに寝かせ、そして今のような日記作業へと移行中なのである。
しかし、こうして文章に起こしてみると俺ってばマジで何様。
結果的に二人の成長に繋がったが、俺がキチンとしていればもっと穏便に済んでね?
罪悪感で胃がキリキリし出したので、俺氏恩返しを敢行。
二人ともホント頑張ったし、何か贈り物がいいなと思い、デッキ弄りをしながら思考開始。
食い物なら間違いなく喜ぶが、消え物はなんだか味気ない。
今日という日は二人の成長の記念と俺への戒め、可能なら形に残るものが良いだろう。
そして、ふと目に止まった、俺のデッキに眠る三枚のカード。
このカードを二人のデッキに組み込んだら強くね? そんな訳で即決断。
紫キャベ娘のデッキに一枚、ワン娘に二枚投入し、最後に決め台詞も忘れない。
――ラッキーカードだ。こいつらがお前等のところに行きたがっている(キリッ
二人が寝ていて良かった、言った後メチャクチャ顔が熱い。
暫く床をゴロゴロと転がり回って羞恥心を静め、落ち着いたところで深呼吸、そして欠伸。
いい加減に寝るかと思い、最後にもう一度日記を見返す。
今までは俺が二人を寝かしつけねばならず、その時は決まって俺を中心に川の字。
その際に両方から手を繋がれ、寝たら最後絶対に手は離れない。
なので、今日は久方ぶりの一人寝である。
ガキンチョ二人には悪いが、久方ぶりに到来したこのチャンス、堪能させて頂きます。
さらば今日記を見ている俺、そして未来に日記を見返す俺よ。
◆ ◇ ◆ ◇
アカン、男前ヒロインに抱き着いた件、どうやって謝ろうか考えてへんかった。
結局朝まで完徹、全く思いつかなかったので誠心誠意謝りました。
衆人観衆の中でだったので俺氏赤面、突然の謝罪に男前ヒロインも赤面。
そう言えばとガキンチョ二人が見つかったことを報告、ならば仕方がないとお咎めなし。
俺の姿が抱き着かれたシーンを連想させるだろうに、そのことには触れない健気な姿。
良かったですねと、そう言ってはにかむ姿は、幼い中に成長した彼女の凛々しさを滲ませ――
ヤバいです、正直惚れそうになりました。
さすがは俺に年上好きを芽生えさせた張本人、原作まで成長してたら俺絶対に陥落してたわ。
≪E・HERO オネスティ・ネオス≫……だと……!?
どうしよう、これって十代が使った判定していいのかな?
アニメで≪ネオス≫に≪オネスト≫を使った絵面がまさにこれなんだけど。
読者の皆が一押しする遊戯王の女性キャラって誰なんだろうとふと疑問。
ちなみに、作者が押すのはもちろん男前ヒロインです。