ワン娘と俺氏と紫キャベ娘   作:もちもちもっちもち

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日記2

 □月○日

 

 ハゲに教育係として任命された翌日。

 早くも挫折しそうです。

 

 いや、ちゃうねん。

 俺はおかしゅうない、おかしいんは周りやねん。

 なんやねんドローの練習って! デュエルマッスルってどこの筋肉やねん!

 ドローってカード引くだけやろ!? デュエルってただのボードゲームの筈だよね!?

 なにぶん俺は教育についてはずぶの素人。

 以前までワン娘の教育係を担っていた勲章おじさんにアドバイスを貰おうと訪れたところ、クソ真面目な顔でされた愉快な話は、今でもなお鮮明に蘇ってくる。

 ワン娘は勲章おじさんの発言を当然のように受け入れているし、紫キャベ娘はボクは優秀だから必要ないんだとドヤ顔しながら地味に自慢をしてくるし。

 

 という訳で、予定を変更。

 教育係として任命されたものの、ハゲは無茶ぶりをするブラックではなかった。

 俺に一週間ほど準備期間を与えてくれ、その間は自由にしてくれと。

 しかも、その間は有給扱い。

 ハゲって言ってごめんなさい! あんた最高だぜ、プロフェッサー!

 

 あっ、ちなみに初日はガキンチョ二人の相手をしてたら潰れました。

 少しは俺を休ませろ! 後二人とも、風呂やらトイレにまで着いてくんじゃねぇ!

 

 

 

 

 

 ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

 □月×日

 

 一日掛けて島内を探検した。

 当然のように着いてきた紫キャベ娘とワン娘だが、ガイドの真似事をする姿が大変微笑ましい。

 張り切って道案内をしてくれる姿は、教育係を受けて良かったと心から思えるものだった。

 ただ、それで終われば良かったのに、素直に喜べない訳がある。

 

 勲章おじさんがストーキングしてくる件について。

 想像してみろよ、厳つい顔したガチムチのオッサンに四六時中後を着けられる図を。

 平静を装うのがやっとでガキンチョ二人の話どころかどこ回ったのかも全然覚えてねぇよ!

 いやね、気持ちは分かるよ。

 ポッと出の奴に今までの役職を奪われるとか、俺だったら絶対泣くね。

 でも俺としては普通に仲良くしたいので、出来れば今度からは同行してくれると助かります。

 

 それと、此処はGXの世界のようだが、どうやら時間軸が原作が始まる前のようだ。

 校長はハゲだけど、デュエル実技最高責任者がクロノス先生じゃないんだもの!

 もうね、滅茶苦茶悔しかったね、壁ドンとかしちゃったりさ。

 途中で寄った購買で色紙とサインペンを買った金を返せと叫びたかったね。

 でも、これだけだと原作よりも未来という線もあるのだが、それは違うと断言できる。

 

 

 ――男前ヒロインを見かけました。

 

 

 取り敢えずサイン貰おうと話し掛けようとしたらガキンチョ二人に止められた。

 HA☆NA☆SE! 絵面的に問題だけど! 男前ヒロインの見た目なんか幼いけれども!

 最終的には勲章おじさんまで出張ってきて引き摺られていきましたとさ。

 ちくしょう、絶対に俺は諦めねぇからな!

 

 しかし、改めて思うとおかしな点が幾つかある。

 男前ヒロインの見た目は中等部くらい、つまり原作はまだ始まってはいない。

 だが、それ以外の点に注目すると、おや? と思うことが多々あるのだ。

 一つは各寮の呼び名についてだ。

 それぞれがDMに登場する三幻神の名を冠した名前なのだが、なんか微妙に違うような。

 俺の原作知識は、遊戯王から離れて結構経っているので正直穴だらけ。

 だが、確か(三幻神)+(色)という組み合わせで、(三幻神)+フォースではなかった筈。

 他にも相違点はある。

 なんか授業というよりも、訓練的なニュアンスが生徒たちに施されているのだ。

 あと、女性寮が青色以外にもあったり、なんか矢鱈とデュエルディスクがハイテクだったり。

 一つずつならばさほど気にせずにいられるが、こうも続くと気になって仕方がない。

 

 ――などと日記に書きながら状況を整理している俺に天啓のような考えが閃いた。

 なるほど、それならば全て辻褄が合う。

 GXの世界なのに、何故か色々と存在する相違点。

 ふはは、謎は全て解けたぜ、じっちゃん!

 

 

 この世界の正体、それはずばり――タッグフォース!

 カードゲームも出来るギャルゲーと名高いあの名作の世界に俺はやって来たんだ!

 ということは、俺にもいつか可愛いヒロインが――!!

 

 

 この後、何故か紫キャベ娘とワン娘にビンタされたり蹴られたりした。

 マジ解せぬ。

 

 

 

 

 

 ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

 □月±日

 

 準備期間も今日まで、いよいよ明日から教育係としての日常が始まる訳だが。

 ごめん、辞退してもいいっすか?

 だってだって、遊戯王のルールって一見簡単に見えてメチャ複雑なんだもん!

 昔やってた頃は友達の間だけで大会とか出たことなかったんだけれども。

 準備期間の間、改めてルールのおさらいをと思って図書館に行った訳だけれども。

 

 タイミングを逃すってどういうこと?

 優先権ってなによ?

 ダメージステップってどんだけ手順踏むの?

 

 否が応でも理解せざるを得なかった。

 俺が遊戯王というカードゲームのルールをまるで理解していなかったということを。

 改めて俺の弱さを実感させられた瞬間だった。

 俺ってばガキンチョ相手に辛勝するくらいだし、たぶんその辺の学生に負けるレベル。

 そんな俺は準備期間最終日の夜、人生の先輩である勲章おじさんの元を訪れた。

 ちなみにガキンチョ達は先に寝かせてある、でないと地の果てまで着いてくるだろうし。

 どうにかして風呂とトイレにだけは着いてこないことを約束させたくらいなんだよ今のところ。

 そんなに俺ってば信用ないの? (しばらくは)何処にも行かないって約束したでしょうが。

 はい、元・不法侵入誘拐監禁暴行窃盗犯の言うことです。信用皆無だね、生きててゴメン。

 

 結論、教育係とか名ばかりでした。

 俺が教育係に任命されたのは、単純に二人が俺以外には懐かなかったからとか。

 ルールについては、デュエルディスクが勝手に処理してくれるからさほど問題ないって。

 最近の機械はハイテクだねぇ、お兄さん感心しちゃうわ。

 お蔭でなんとかなるだろうと前向きな気持ちになれた。

 ありがとう、勲章おじさん! クロノス先生の次くらいにいい先生になれると俺は思うよ!

 

 あと、去り際にデュエルの腕前を褒められた。

 それだけ強ければルールなど些細な問題だとか、間違いなく俺はアカデミア最強だとか。

 見た目通り不器用なのだろう、見え見えの世辞に俺が出来るのは苦笑だけだった。

 相談に乗ってくれたお詫びにと、プロテイン一箱をプレゼントして退室。

 よっしゃ、明日から頑張るぞ! 

 

 

 帰ったら紫キャベ娘とワン娘が起きててメチャクチャ叱られた。

 理由を聞けば、俺が二人に無断で出掛けたからだとか。

 どうやら俺には人権だとかプライベートというものが存在しないらしい。

 

 

 

 

 

 ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

 □月☆日

 

 前の日記から暫く、教育係として充実した日々を送っていた。

 俺が教えられることは少なく、逆に二人から学ぶことの方が多いくらいだ。

 正直、劣等感を抱かずにはいられなかったが、そんな俺をクロノス先生の言葉が奮い立たせる。

 

 ――生徒を導くことで、教師もまた成長する。

 

 クロノス先生!!

 そうだよ、教育だって教える側は全知全能の完璧な存在ではないのだ。

 一方的通行じゃない、教え子からも学ぶことで一緒に成長するのが教育というものなのだ。

 改めてクロノス先生の素晴らしさを再認識、早くアカデミアに来ないかな?

 それに、デュエル知識はアレでも、一般的な知識ならば俺に圧倒的軍配が上がる。

 というのも、紫キャベ娘もワン娘も一般常識というものがまるでない。

 家族とはデュエリストではないのか!? とか、ワン娘お前どんだけデュエル脳なんだよ。

 紫キャベ娘も、男の前で服をぬぐものではありません。

 無防備なガキンチョ二人に辟易、まったく俺が年上好きじゃなかったら色々とアウトだったぞ。

 という訳で、俺は二人からデュエル知識を、二人は俺から一般常識を学ぶのだった。

 教えた一般常識が二人に一向に反映された様子がないのは俺の気のせいだと思いたいけどね!

 

 ちなみに、本日の講義内容は互いにデッキを交換してのデュエル。

 基本的にこの世界の住人はデッキを複数持たないのは、DMとGXの視聴したことからも明らか。

 デュエリストにとってデッキは自分の魂の一部。

 二人も当然のように渋るが、俺だってなにも意地悪をしているのではない。

 カード知識は、あればあるだけ良い。

 俺の友達にもいた、こっちが使ったカード一枚でこちらのデッキ内容をほぼ把握する奴。

 これは豊富なカード知識があるからこそ出来る芸当で、そういう奴は大抵強い。

 他にも、他人のデッキを使用することで別視点で自分のデッキを見直せる。

 そうすることで今までは考え付かなかったコンボとか生まれたりするのだ。

 なので、デッキ交換デュエルはとても勉強になる筈なのだ。

 決して、たまには他人のデッキでデュエルしてみたいとか、紫キャベ娘やワン娘のパワーカード使って無双したいとかではない、ないったらない。

 

 結果を申し上げます、俺は一度も勝てませんでした。

 カードパワーはガキンチョ達のデッキが圧倒的に上なのに、なんで負けるのかって?

 毎回手札事故起こすんだよ! 見事なまでに引いたカードの組み合わせが合致しねぇんだよ!

 勲章おじさんの嘘つき! なにがアカデミア最強のデュエリストだよ!

 入学前のガキンチョに勝てないとかアカデミア最弱の間違いだろうがよ!

 ごめん俺のデッキ! もう浮気しないから! 俺にはお前達しかいないから!

 

 

 P.S.

 勝者権限により俺のデッキを公開させられた結果、ガキンチョ二人にドン引かれた。

 別にいいじゃん! 二十代先生カッコいいじゃん! 主人公と同じデッキ使いたいじゃん!

 

 

 

 

 

 ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

 □月§日

 

 デッキのパワーが貧弱ならカードを買って補えばいいじゃん。

 それに気付いたのは、ガキンチョ達と一緒に三時のおやつを作っている時だった。

 俺の料理経験など凡骨レベルだが、ガキンチョ二人に至っては料理はおろか甘味を食べたことがないんだとか。

 基本的に男女差別するつもりはないけど、料理できるって俺的にポイント高いと思うんだ。

 ならばとハイテクなデュエルディスクでネット検索、こうして何度か一緒に作ってたりする。

 容器にプリン液を流し込み、冷蔵庫へ放り込み、目指すは購買部。

 シングル買いも良いが、やはり遊戯王もといカードゲームの醍醐味はパック買いだろう。

 俺よりもワクワクしている二人に急かされるがまま、一袋目のパックを開封する。

 

 

 フェザー・ストーム

 バースト・インパクト

 クレイラップ

 バブル・ロッド

 ワイルド・ハーフ

 

 

 ものすっごいピンポイントだなおい、なんの嫌がらせだこれ。

 全部専用サポートカードって、いや全員デッキに入ってるから問題ないけども!

 いや、たまたまだ、偶然ってあるよね。

 続けて次のパックを開封する。

 

 

 テイク・オーバー5

 コンタクトソウル

 クロス・チェンジ

 ENシャッフル

 Nシグナル

 

 

 嬉しい、でも複雑だ。

 前のデッキ交換デュエルの時もだが、俺って呪われてるのかな。

 ――病名・十代病、厨二かっ。

 そのあともパックを幾つか開封するが、出るわ出るわ、GXの主人公関連のカード。

 印象深いものから、主人公関連なんだろうけども見覚えのないものまで実に多種多様。

 というか、主人公関連のカード以外は全く当たらないんですけれども。

 それにしても、当時は未OCG化だったカードもあるが、あれから発売とかされたんだろうか。

 そんなことを続け、出会ってしまいましたよあのカードに。

 

 

≪賢者の石-サバティエル≫

通常魔法

「ハネクリボー」が破壊された時、デッキのこのカードを手札に加える。

ライフポイントを半分支払い、自分のデッキ、墓地にあるカードとこのカードを交換する。

交換したカードを使用した後、このカードを手札に戻す。

この効果で3度交換した後、次の効果をこのカードは得る。

このターン、対象となったモンスター1体は相手フィールド上にいるモンスターの数だけ、

モンスターの攻撃力を倍化させる。

 

 

 なぁにこれぇ(白目

 

 

 

 

 

 ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

 □月●日

 

 強化したデッキでガキンチョ二人とデュエルした。

 全勝だった、無双しまくった、賢者の石マジ壊れカード。

 ワン娘には依然連勝記録継続中だが、まさか紫キャベ娘にも無敗とは。

 賢者の石の蹂躙ゲーの前では、ガキンチョ二人VS俺であってもあっけない結果だ。

 そんなこんななことが続き、途中から泣きそうになるガキンチョ二人。

 こらアカンとこっそり賢者の石をデッキから抜く。

 堂々と禁止宣言すればいいだろうがって? 手加減したってばれるとマジギレされるもん。

 一度ワン娘に接待デュエルでワザと負けたら、涙目で延々と睨まれたからね。

 紫キャベ娘とか目のハイライト消えたもん、夢に出てきたら俺漏らす自信あるよ。

 

 賢者の石を抜いた結果、紫キャベ娘には何度か負けた。

 だが、以前までは限りなく五割に近かった勝率がまさかの九割越え。

 毎度辛勝だったワン娘には、以前よりも余裕を持って勝利することができた。

 俺も強くなったって実感したよ、心なしか以前よりもデスティニードロー増えたし。

 取り合えず、これで教育係としての面子が保てるぜ。

 ふぅん、ガキンチョどもよ、師匠を超えるなど十年早いわ!

 

 

 

 

 

 ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

 

 □月◇日

 

 毎朝俺のベッドに潜り込んできたガキンチョ二人が、今日はいなかった。

 そしてこの日、俺はついぞ二人の姿を見ることがなかった。

 

 

 

 

 




次回予告

紫キャベ娘&ワン娘「実家に帰らせて頂きます」
主人公「ちょ、待てよ!」

※嘘です。

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