ワン娘と俺氏と紫キャベ娘   作:もちもちもっちもち

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日記17

 匿名希望の正体、それは融合次元にいる筈のワン娘だった。

 

 アイエエエ!? ワン娘!? ワン娘ナンデ!?

 おまん融合次元におるはずじゃろうがこんな場所になんばしょっとね!?

 紫キャベ娘は? 勲章おじさんは? 男前ヒロインは? 運命ちゃんは何処?

 というかハゲお前んのとこで預かってるガキンチョが家出してんぞぉおおおおおお!?

 

 などという思考は一瞬で沈静化した。

 間違っても表には出すことはないし、そういう空気では決してないし。

 アレだけ再会することを夢見ていたはずが、いざ対面すると何も言葉が浮かばず。

 それをどう捉えたのか、ワン娘はさっさとDホイールに跨りエンジンフルスロットル。

 今頃のようにデュエルが開始していることに気付き、でも俺は何もできなかった。

 

 ガッチャ教徒は全力でデュエルを楽しむ。

 でも、デュエルは必ずしも楽しいものばかりではない。

 ロック、バーン、デッキデス、パーミッション――なんてデッキは個人的に大好物だ。

 これでもかって妨害を掻い潜って勝利するってメチャクチャ爽快じゃね?

 そうではなく、全力でデュエルを楽しむことが、結果的に相手を不愉快にさせてしまうのなら。

 デュエルは相手がいて初めて成立する。

 だから、自分だけがデュエルを楽しむなんて、そんなことはあってはいけない。

 自分一人ではなく、相手と一緒にデュエルを楽しむ――これガッチャ教の真髄なり。

 

 俺にワン娘とデュエルを楽しむ資格などありはしない。

 他の誰でもない、俺がワン娘からデュエルを楽しむという気持ちを奪ってしまったのだから。

 誤解だと、今すぐにでも声高にして叫びたい。

 俺は被害者だと、赤馬家の家族戦争に巻き込まれただけだと、ワン娘を見捨ててなどいないと。

 でも、果たして今のワン娘にそれが伝わるのだろうか。

 ワン娘から見れば、俺はある日突然失踪し、彼女の教育係を投げ出した無責任野郎なのだ。

 俺とワン娘、両者の間にある認識の差異を正さねば前には進めないだろう。

 だから、今の俺達に必要なのは対話で、デュエルなんかをしている場合ではない。

 ガッチャ教の教えには反するが、ワン娘の為を思えば安いものだ。

 デッキトップに手を添え、降参の意を示す言葉を唱えようとして、

 

 

 ――匿名希望と……あの娘とのデュエルから逃げないで。

 

 

 リン娘と交わした約束が、サレンダーと言う未来を拒絶させる。

 そうだよね、俺ってば約束しちゃったもんね。

 ワン娘から一度逃げた俺が、もう一度逃げるなんて真似できる訳ないじゃん。

 それにだ、もう一つ大事なことを俺ってば見失ってたぜい。

 

 

 ――ならばその想い、デュエルであの娘にぶつけろ。

 

 

 この世界に置いて、デュエルとは万能のコミュニケーションツールであることを。

 物凄く今更な話だが、大人不審者の正体って絶対にあの人だよね。

 匿名希望の正体がワン娘だと判明した以上、大人不審者が()であることは間違いない。

 あの人はきっと、こうなるって分かってたんだろう。

 今のワン娘には何を言っても意味がないから、だからデュエルで気持ちを伝えろ。

 ありがとうございます、これまでワン娘の世話を焼いてくれて。

 だから、ここから先は俺が何とかしますさせてみせますとも。

 

 話は変わるが、俺はメタデッキをいうものが嫌いだ。

 中でも、特定の相手を想定した身内メタと呼ばれるものは忌み嫌っている。

 いや、たまたま偶然、対戦相手のデッキがそうだった分には問題ないのだ。

 更に言えば、想定した相手にただ勝ちたくてとかならもっと嬉しいです。

 メタって言い換えれば対策で、それって勝つための努力の形の一つだと思うから。

 先にも述べた通り、妨害札を掻い潜り掴み取った勝利は格別なものだと思っているし。

 俺が嫌っているのは妨害札ではなく、そのデッキを組んだ意図。

 ただ勝ちたいからというプラス感情ではなく、マイナス感情へ傾倒している別の想いなのだ。

 俺と言う一個人を想定して構築されたメタデッキを前にして、改めてこう思ってしまう。

 

 ああっ、俺ってばこいつに嫌われてるんだなぁ――と。

 

 ワン娘のデッキは、俺の知っている彼女ならばまず組まないだろう内容だった。

 俺の知っているワン娘のデッキは、直情型という気質を体現した愚直とも呼べるビートダウン。

 烈火のような苛烈な攻めは、ワン娘の長所であり短所。

 でも、目の前に展開された光景は、その真逆だった。

 融合を多用する俺をデッキの特徴を徹底的に殺しに来た、露骨なまでのメタデッキ。

 手札融合も、フィールド融合も、墓地融合も、除外融合も、デッキ融合すらも封じられた。

 必然的に守勢に回らざるを得ない俺を、アンティークギア固有の魔法・罠封じが攻め立てる。

 デュエルの最中、その気持ちは嫌と言うほどに伝わって来た。

 

 嫌いだ、大嫌いだ、言い訳なんか聞きたくない、絶対に、絶対にお前だけは許しはしない――。

 

 ワン娘は気付いているのだろうか。

 今の彼女のデュエルは、他ならぬ彼女自身が忌み嫌っている卑怯者がやる戦法だということに。

 例え俺が肯定しても、潔癖な彼女ならば到底受け入れられるものではないだろう。

 

 そこまで、それほどまでに俺のことが憎いのか。

 自分のアイデンティティーを曲げてでも、俺という存在を否定したいというのか。

 未だかつて、こんなにも苦しい勝負が、楽しくないと感じるデュエルがあっただろうか。

 今すぐにでもサレンダーをして、目の前のデュエルから逃げ出したい。

 自分のことを忌み嫌う相手とのデュエルがこんなにも辛いものだなんて知らなかったから。

 

 

「――また逃げるのか」

 

 

 不意に、その声が聞こえた。

 

 

「卑怯者。逃げるなど卑怯者がすることだ。それでもきさま、デュエリストか」

 

 

 けれど、何故だろう。

 他ならぬ、その言葉を吐くワン娘自身が。

 誰よりも、俺に対してよりも、自分自身に絶望しているように見えて。

 

 

「それとも……わたしが、お前に勝ったから……だから、いなくなったのか?」

 

 

 脳裏に過った、かつての光景。

 最初に出会ってから暫く、ずっと黒星続きだったワン娘。

 自分が弱いから、だから俺がいなくなると、そんな恐れを抱いた結果、彼女は行方を晦まして。

 でも、デュエルを通して成長し、ついに俺から初の白星を勝ち取った。

 ならばもし、逆に自分が強くなったと実感して。

 そんな時、目の前で俺がいなくなってしまったとしたら、ワン娘はどう思うのだろうか。

 ならば仮に、俺の失踪になんらかの事情があったとワン娘が理解を示していたとして。

 原因に思い至った時、それが自分のせいだと勘違いしていたとしたら。

 

 ふと、ワン娘にフィールドに目をやった。

 そこには≪古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)≫ともう一体、かつての俺がワン娘に与えた、見た目悪役なHERO。

 地属性が主なアンティークギアを闇属性に変えるという面倒な手順を経て、それは召喚された。

 墓地利用やドロー札を多用する俺にとって、奴は天敵と言っていい。

 攻めの一辺倒ではなく、搦め手という術を得た彼女は、昔より堅実なプレイングをしている。

 だけど、それはワン娘というデュエリストの強みを殺す行為だ。

 表面上は俺を圧倒していても、それは俺というデュエリストに対してメタをした結果。

 仮にワン娘本来のデッキで同じことをされていれば、俺のLPはとうの昔に尽きている。

 こうして今も俺が生き延びていることが、何よりの証だったんだ。

 ずっと疑問だった、ワン娘が本来の獣娘デッキではなく、アンティークギアを使う理由。

 態々不得手なアンティークギアを使っているのがもし、俺が考えている通りだとするならば。

 

 ワン娘は弱くなっている。

 なによりも、そうなることをワン娘自身が望んでいる。

 それが、他ならぬ俺が招いてしまった結果なのだとしたら。

 

 ≪古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)≫の召喚を目の当たりにできた興奮から、冷静な判断を下せずにいた。

 ワン娘への罪悪感から、デュエルに消極的になっていた。

 それが、ワン娘が抱える不安を煽る事態になっていたとしたら。

 自分が強くなったから、だから俺がいなくなったのだと思い込んでいるとしたら。

 だから、唯一俺に白星を付けたメタビートである獣娘デッキを封印したとしたら。

 使い慣れないアンティークギアで俺に挑んだが、少しでも自分を弱く見せるためだとしたら。

 まずはそのふざけた幻想をぶち殺す。

 そのために、為すべきことを成せなければ。

 

 

「…………」

 

 

 俺はワン娘の教育係だ。

 始まりはハゲから任されたからで、結果的に見捨てたことになろうと、次元を超えても。

 昔も、今も、これから先もずっと。

 いつかは訪れる、別れの瞬間まで、俺はワン娘の先生なんだ。

 

 

「――最強デュエリストのデュエルは全て必然!」

 

 

 証明しろ、このデュエルで。

 ワン娘よりも俺の方が強いということを。

 かつて付けられた黒星が霞むような、そんな圧倒的な強者であることを。

 

 

「ドローカードさえもデュエリストが創造する!」

 

 

 ワン娘のために、俺は最強でありたい。

 そうなれば、もうワン娘を悲しませずに済む筈だから。

 

 

「俺のドローは奇跡を起こすぜ! 俺の……タァアアアアアアアアアアアアンッッ!!」

 

 

 できるできないじゃない。

 やれ、やるんだ、やり遂げてみせろ。

 何度も味わってきた、何度も体感してきた、何度もこの目で見てきた。

 これまで戦ってきたデュエリスト達が成し得た奇跡を、この手で引き起こせ。

 

 

「俺はチューナーモンスター、≪ジャンク・シンクロン≫を召喚!」

 

 

 光り輝くデッキから、創造されたカードを引き抜く。

 EXデッキが更なる煌きを迸らせる。

 

 

「集いし願いが、新たに輝く星となる! 光さす道となれ!」

 

 

 融合召喚が封じられているのなら、別の召喚方法をすればいい。

 スタンダードではどれだけ試みても出来なかった。

 チューナーをデッキに入れれば手札に来ず、シンクロモンスターはEXデッキから消失する。

 俺には融合しかできないと、無理だと思い込んでしまった。

 でも、俺はワン娘の教育係だから。

 先生なら、教え子のためなら、不可能なんて可能にしてみせろ。

 俺のデッキなら、持ち主の想いぐらい汲み取って見せろ。

 

 

「シンクロ召喚! ――飛翔せよ、≪スターダスト・ドラゴン≫!!」

 

 

 綺麗だ。

 本当に、息を呑むほどに美しい、星屑の舞い散らすドラゴンだ。

 でも、駄目で、これじゃあ足りない。

 まだ、この程度のことでは最強は名乗れない。

 シンクロ召喚の極致、ダブルチューニングを操るクイーンに比べれば、所詮は付け焼刃。

 やはり、俺が最強を名乗れるとしたら、それは融合に置いて他にない。

 

 

「何度でも受け止めてやる! 全部吐き出せ! お前の悲しみを!」

 

 

 虚勢でもいい。

 俺は弱いけど、情けないけど、ワン娘にとっては裏切者でしたないかもしれないけれど。

 悩みがあるなら言ってくれ、打ち明けてくれ。

 生徒の悩みを受け止められないで、どうしてワン娘の教育係が名乗れようか。 

 

 

「――――いくな」

 

 

 ワン娘は、泣いていた。

 

 

「一度だ。わたしはまだ、お前に一度しか勝っていない。だから行くな。いかないでくれ」

 

 

 俺のせいだ。

 俺が不甲斐ないばかりに、自分のせいだと思い詰めさせてしまった。

 

 

「頼む……もう、どこにも行かないでくれっ」

 

 

 ならば、迷うな。

 反省だけをしろ、後悔など時間の無駄だ。

 俺が迷えば、後悔をしている間、ワン娘はずっと泣き続けることになるんだぞ。

 

 

「きらわないで……わたしをおいて、いかないで……!!」

 

 

 イメージしろ、最強の自分を。

 弱くない、情けなくない、不甲斐なくない、ワン娘を笑顔にさせる、そんな――。

 力が欲しい。

 圧倒的な、何者にも勝る、そんな絶対無敵の力が。

 でも、そんな力を手にして、ワン娘は笑ってくれるだろうか。

 力だけを求め、デュエルを楽しまない、恐怖と闇をもたらす、そんなデュエリスト。

 

 

 ――デュエルってのは希望と光を与えるもんだ。恐怖と闇をもたらすものじゃない。

 

 

 違う。

 違うだろう。

 他の誰でもない、俺がそんなデュエリストになっちゃいけない。

 デュエルは光だと、闇ではないのだと、そうワン娘に教えた、他ならぬ俺が、そんな真似。

 生徒は教師の背中を見て育つものだから。

 だから、強くなりたい気持ちは変わらないけれど、それは俺が求める強さじゃない。

 そうじゃなくて、俺が成りたいのは、あの人を置いて他には有り得ない。

 

 

 できることなら、俺はあの人のようなデュエリストになりたい。

 

 

 命を賭けた闇のデュエルで、自分の魂を奪われる、まさにその瞬間であっても。

 命乞いも、泣言も、逃げ出すこともなく。

 守るべきものの盾に、道標に、光に、理想の教育者であり続けたあの人のような。

 弱い時もあった、情けない姿ばかりだった、実技の最高責任者なのに勝率は全然だった。

 初期の頃なんて俗物で、一部の生徒ばかり依怙贔屓する姿は教育者失格だったかもしれない。

 でも、俺は知っている、あの人が人間として、教育者として成長していく過程を。

 誰よりも生徒のために一生懸命だった姿を。

 初めから理想の教育者だったのなら、俺はきっとこんなにも憧れなかった、共感しなかった。

 生徒と一緒に成長していったから、だからこそ俺は、あの人のような教育者になりたいんだ。 

 

 

「絶対無敵! 究極の力を解き放て! ――――発動せよ、≪超融合≫!!」

 

 

 クロノス先生(教師)主人公(生徒)達の光であったように。

 

 

「セレナの≪ダークロウ≫と俺の≪光牙≫、フィールドに存在する2体のM・HEROで融合!」

 

 

 だから、(教育係)も最後までワン娘(生徒)の光であり続ける。

 最強には成れなくても、ワン娘が抱える心の闇すらも照らす、そんな教育係になりたい。

 清濁全てを呑み込み、いつかは訪れる最後(別れ)の瞬間まで、輝き続けて見せると決めたから。

 

 

「闇は光を凌駕できない! これがその答えだ! ―――融合召喚、≪C・HERO(コントラストヒーロー) カオス≫!!」

 

 

 闇属性であり、光属性でもある。

 光の象徴であるクロノス先生と比べ、お前は半人前に過ぎんと嘲笑うNEW HEROの誕生。

 気付けば、俺は笑っていた。

 虚勢を張って背伸びをしても、カードが応える範囲には限界があるから。

 でも、今はこれでいい。

 足りないのなら補え合えばいい。

 クロノス先生も言っていたではないか、生徒を導くことで教師もまた成長するって。

 

 

「≪カオス≫でセレナの≪古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)≫を攻撃!」

 

 

 見ていてください、クロノス先生。

 アニメで主人公の最初の障害となって立ち塞がった、俺の憧れた人のエースモンスター。

 お前を踏み越えて、その先にあるものを掴み取るぞ。

 お前の真の担い手であるクロノス先生のような立派な教育者に、絶対になってみせるぞ。

 

 

「これで最後だ! ――響け! シューティング・ソニック!」

 

 

 流星がワン娘へと駆け抜け、直後に響くデュエル終了のブザー。

 クラッシュ寸前のワン娘を助け出し、抱えた彼女に言うべき第一声は。

 

 

「ごめん――――そして、ただいま」

 

 

 烏滸がましいかもしれないが、俺はやり直したい、

 俺はまだ半人前で、ワン娘もそれは同じで、だからこそできることがあるのだ。

 生徒を導くことで、教師もまた成長する。

 俺は、ワン娘と一緒にこれから強くなるんだと。

 だから、その為の仲直りがしたかったから。

 

 

「……もう、どこにもいくな」

 

 

 背中に回された両手が、ぎゅっと、絶対に離すものかと。

 

 

「ずっと、わたしのそばにいろ」

 

 

 懐かしい感覚に、帰るべき場所へ戻ってこれたんだと心の底から思えて。

 

 

「――ガッチャ。当たり前だろうが、俺はセレナの先生なんだから」

 

 

 

 

 




注)フォーチュンカップで行われるデュエルは全てシンクロ次元全域に生放送されています。


※補足説明
今回のデュエルで創造した≪ジャンク・シンクロン≫及び≪スターダスト・ドラゴン≫について。
本作の主人公の使用カードは≪十代が使用したカード≫という縛りを設けています。
ならば何故主人公が遊星のカードを使用できたのか、理由は以下の通りっス。

1.作者、≪劇場版 遊☆戯☆王 〜超融合! 時空を越えた絆〜≫を久方ぶりに視聴。
2.遊戯&十代&遊星vsパラドックスの変則デュエルで孤軍奮闘するパラドックスを応援。
3.主人公サイドがフィールド、ライフ共有なのを見ておやおやぁ?
4.十代の≪クリボーを呼ぶ笛≫の効果をターンプレイヤーである遊戯が使用。
5.これってフィールドにあるカードは味方全員で共有して使用してるってことになるんじゃね?
6.おっしゃ! ならパラドックス戦で味方が使ったカード全部十代も使ったってことにしたろ!

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