ワン娘と俺氏と紫キャベ娘   作:もちもちもっちもち

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シンクロ次元編スタート。


日記13

 %月‰日

 

 新次元に渡った当初、真っ先に俺が直面した問題が一つあった。

 土地勘? 戸籍? 人間関係? 住居? デュエルエナジーの補充方法?

 どれも困ってはいたが、しかしそのどれもが一番ではない。

 

 

 さっさと結論を述べよう――この次元、融合次元やスタンダードと流通してる通貨が違います。

 

 

 見ろ、ハゲから貰った札束がゴミのようだ!? 

 あの時の状況を現すならまさにそれ、やけになって滅びの呪文でも唱えてしまいたい気分。

 どんぐりピエロみたいなムカつく顔をした奴が描かれた、それがこの次元の通貨だった。

 今でこそなんて恩知らずな発言だと思うが、あの時はそれだけ切羽詰まってたのだ。

 土地勘なし、戸籍なし、知り合い皆無、住居不定、その上一文無しときた。

 当初の目的である融合次元へ渡れば大体は解決する問題だったが、それが出来ない訳もあって。

 ならばと職探しに走るが、上記のようにないない尽くしな俺を雇ってくれる善人はおらず。

 そのまま数日が経過、あまりの空腹に日記を書く余裕もなく、このまま野垂れ死にを覚悟した。

 そんな時だった、ガキンチョ達によく似たガキンチョ二人に出会ったのは。

 

 いやー、俺ってばそういう星の元にでも生まれたのかしら。

 日記と言えど個人名を出すのはアレなので、仮に二人をバナ男とリン娘と名付けよう。

 片やわんぱく坊主、片やオカン属性持ち――そんな二人が路地裏に暴漢に襲われていたのだ。

 筋骨隆々の巨漢が、背中でリン娘を庇い、小さな体で威嚇するバナ男を見下ろす構図。

 即通報回避不可待ったなしの状況だが、生憎お巡りさんは近くには不在。

 このままじゃあアカンと俺氏参戦、デュエルで不審者を追い払うことに。 

 

 しかし、言動やらプレイングがやたらと暴力的なのは頂けない。

 明らかに犯罪者な見た目だが、俺はクロノス先生をリスペクトする身、彼を光に導かねば。

 そんな訳で、暴力を振るう彼には振るわれる側の気持ちを知ってもらうのが一番だと判断。

 リアルダイレクトアタックして来た犯罪者を前に、我がデッキのヤンデレ枠を召喚。

 これぞ因果応報と言わんばかりに、奴の攻撃をそっくりそのまま跳ね返してやったぜ。

 最終的に過労死とジョグレス進化させて勝利、見事改心に成功する俺氏なのだった。

 

 やりましたよクロノス先生! 犯罪者を見事光の道に歩ませることに成功しました!

 なんか後半辺りから進んでヤンデレに攻撃して反射ダメージ喰らいにいってたけれども!

 メッチャはぁはぁ喘いでたけれども! 多少の代償は更生には付き物だよね!

 

 そんな訳で、偶然通りかかった高級車の持ち主に通報してもらい、犯罪者は連行されていった。

 その満足そうな後ろ姿は、出所後には真人間として世の中に奉仕してくれることだろう。

 ガキンチョ二人にもお礼を言われたし、テンションは最高にハイってヤツだった。

 だが、既に俺はこの時、限界を超えていたのだ。

 それこそ、通報してくれた高級車の持ち主の顔を認識できないくらいには。

 

 強靭な肉体を有するデュエリストと言えど、空腹には勝てない。

 それを証明するように、あまりの空腹に意識を失い、気付いたら見知らぬ場所で眠っていた。

 ガッチリと握られた両手の感触に、左右を見れば寝入っているガキンチョ二人の姿が。

 改めて二人を観察するが、やっぱりパッと見た印象は他次元のガキンチョ達にそっくり。

 バナ男は性別違うけど、紫キャベ娘もトマ娘もぱっと見は男の子みたいなもんだったし。

 理由とな? ぺったんこだからだよどこがとは言わないけれども。

 一人称がオレで言動は粗暴なバナ男だが、最後までリン娘を守ろうとするその意気やよし。

 思えば俺の周りって女の子ばっかで男の子皆無だったからお兄さんはとっても嬉しいです。

 

 そんな風に感慨に浸っていた俺の元に、ひっひっひっと不気味な笑い声と共に謎の人物が入室。

 奴こそは、俺に無一文という現実を突き付けてきた怨敵ことどんぐりピエロ。

 警戒する俺に、奴はまたもやひっひっひっと笑い、俺にとある物を差し出してきた。

 途端に鳴りだす腹の虫、しかし敵の施しは受けん! そう突っぱねる俺に、奴は言ったのだ。

 

 

 ――カップ麺を食べれば、みんな笑顔になりますよ。

 

 

 どんぐりピエロ――否、ピエロのおじさんの瞳を、俺は直視することができなかった。

 なにが犯罪者を更生させるだ! 光の道に戻すだ! 俺は何様のつもりだったんだよ!

 ピエロおじさんと目もまともに合わせれない俺自身の性根が、一番腐ってたんじゃないのか!

 ピエロのおじさんが差し出すカップ麺を受け取り、俺は一心不乱に啜った。

 平凡なカップ麺、だけどそれはスタンダードで味わったママンの料理に匹敵するほどで。

 あっという間に完食した俺に、ピエロのおじさんは笑っておかわりを差し出してくれて。

 その日、俺は新次元で体験した優しさという味に、只々ピエロのおじさんに感謝するのだった。

 

 

 

 

 

 ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

 %月&日

 

 曰く、俺はシティのHEROなんだとか。

 ピエロおじさんに言われた言葉に、俺は思った――だったらあんたは俺のHEROだぜ、と。

 

 俺が倒した犯罪者だが、どうやらただの犯罪者ではなかったみたい。

 星の数ほどのデュエリストを再起不能、セキュリティでさえ数で圧倒して漸く互角。

 犯した数々の極悪非道振りから、付いた異名がデュエリスト・クラッシャー。

 奴はこの大都市――シティを恐怖のどん底に叩き起こした、絶賛指名手配中の凶悪犯なのだ。

 

 ――えっ、なにそれこわい。

 

 確かにデュエル開始直後までは、中々な凶悪っぷりをあの犯罪者ってば披露していた。

 でも、後半からは大人しかったというかハァハァしてただけ。

 デュエルの結果に文句の一つも漏らさず、連行されても抵抗する素振りすら見せない。

 それどころか、清々しいまでの、なんていうか満足しちまったぜ的な表情だった気が。

 ピエロおじさんの言葉がすぐに合致できないくらい、それは犯罪者の人物像に重ならなかった。

 でもまぁ、ピエロおじさんがそう言うんならそうなんだろう、疑うなんてマジ以っての外。

 

 そんな訳で、行き倒れた俺をピエロおじさんが介抱してくれたのは、純粋な感謝からだとか。

 妻や我が子も怖がってましたからと、紹介されたピエロおじさんの家族を見て俺氏ビックリ。

 子供は分かるけど、奥さんまでピエロおじさんそっくりって物凄い運命を感じるのは俺だけ?

 その後もピエロおじさんや奥さん、子供達という家族の団欒と触れ合うこと暫く。

 その間、現実世界の家族を思い出し内心でちょっぴりセンチメンタルになっちゃった。

 

 ――はっ、としたね。

 急いで振り返ったね。 

 そこには頬を膨らませ不貞腐れているバナ男とリン娘の姿が――

 

 その後、完全に存在を忘れてた二人の機嫌を回復させるために俺氏奔走。

 そんな俺の姿を、ピエロおじさんとその奥様が微笑ましげに見守るのだった。 

 

 

 

 

 

 ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

 %月!日

 

 翌日、お世話になったピエロおじさんの元からお暇することに。

 バナ男とリン娘も家族が心配するからということで俺氏と同伴。

 あと、俺の仮住まいについてだが、なんとガキンチョ達の孤児院に住まわせてくれるとか。

 二人からの熱烈なラブコールを断る理由もない。

 というか是非住まわせてください扱き使って構わないので新参者ですがよろしくおなしゃす!

 シティ滞在中は我が家でピエロおじさんからも誘われたが、それには丁重にお断りを。

 ホームレスの分際で選り好みとかなんて思うが、素足ちゃんの豪邸で俺氏お腹一杯なり。

 そして、ピエロおじさんの好意で俺達三人は車で孤児院へ送ってってもらえることになった。

 

 道中の車内、俺氏気付く。

 俺ってばデュエリスト・クラッシャー? のこと非難なんてできないじゃん。

 脳裏を駆け巡るのは、俺が融合次元にトリップした当初に犯した罪の数々。

 不法侵入婦女誘拐監禁暴行窃盗――ははっ、俺ってばマジE-HERO。

 トリップした時に持ってたデッキケースに入ってたのって予備のカードもなんだよね。

 アニメだと悪しき存在だったけど、HERO大好きの俺からすればそんなの関係ねぇ。

 だからこそ悔やまれる、何故E-HEROを使って運命ちゃんとデュエルをしなかった過去の俺ぇ!

 そんな風に、アニメでは叶わなかった悪と運命のHERO対決に想いを馳せている時だった。

 なにやら外が騒がしい、そしてバナ男とリン娘がべったりと窓に張り付いている件について。

 

 聞けば、シティのデュエルチャンピオンが近くにいるんだとか。

 それなんてストロング? アレかな、肩にトゲ的なもん着けた世紀末ファッションしてんだろ。

 ガキンチョ二人を微笑ましげに見やり、寄り道してくれた運転手さんマジできる大人。

 そのまま野次馬根性で、バナ男とリン娘を両肩に担ぎながらチャンピオンの顔を拝見。

 感想を述べると、ごめんスタンダードのストロングを貶すわけじゃないんだけどね。

 オーラからして段ち、似てるの肩に填めてるトゲだけやん。

 そんな風にほへーっと暢気に眺めていた時、事件は起こった。

 

 1.バナ男とリン娘が我慢できずにチャンピオンの前に飛び出す。

 2.憧れの存在を前にお目目をキラキラさせる二人に、チャンピオンからの贈り物。

 3.うちの子供がご迷惑をと保護者ポジということでチャンピオンに平謝りする俺氏。

 4.そんな俺の肩に手を置き「気にするな」と言って颯爽と去るチャンピオン。

 

 やばい、かっこいい、チャンピオン超かっこいい、あんな大人に俺もなりたい。

 聖人レベルに該当するピエロおじさんには届かないが、それでも刻まれたあの後ろ姿。

 ガキンチョ二人が憧れるのも無理ないわ。

 帰りの道中でチャンピオンについてガキンチョ二人と熱く語り合う俺氏なのだった。

 

 

 

 

 

 ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

 %月¥日

 

 先生って彼氏さんとかいたりするのかなぁ?

 そんな一文で始まる本日の日記では、孤児院の先生の聖女っぷりについて語ろうと思う。

 

 ピエロおじさんのお抱え運転手に送られ、やって来ましたガキンチョ二人の家である孤児院。

 正直に打ち明けよう、俺は不安だった。

 二人は快く承諾してくれたが、こういうことを言うのはアレだが所詮は子供との口約束。

 何処の凡骨とも分からぬ俺を、只でさえ大所帯だろう孤児院に住まわせるなんて。

 新次元にやって来て以来、社会の厳しさに荒んでいた俺の心は、そんな風に悲観的だった。

 

 ――結論から述べよう、1秒くらいで了承された。先生、彼氏候補に立候補していいっスか?

 

 もうね、先生ってばマジで俺のストライクゾーンど真ん中。

 優しく、包容力があり、芯が強く、美人――なによりも年上だ。

 眼鏡の似合う大人のお姉様って俺的にグー。

 ははっ、俺ってばもう張り切ってお手伝いしまくっちゃったぜ。

 塾長の所でアシスタント経験を積んだ俺に死角なし、家事に日曜大工まで何でもござれ。

 懸念事項だった孤児院の子供達との関係だが、此処は遊戯王の世界。

 万能のコミュニケーションツールたるデュエルで、今やガッチャ先生と呼ばれ親しまれている。

 今では皆の人気者だと自負してます、気分は歌のお兄さん。

 

 衣食住が確約され、児童達には慕われ、先生は美人で年上なお姉さん。

 このままこの孤児院に永住するもの悪くはないと思えるくらい居心地がいい。

 しかし、俺には融合次元へ戻るという目的があるのだ。

 そして、そのためには解消せねばならぬ問題があった。

 

 次元移動に必要なエネルギー源――デュエルエナジーの確保である。

 

 GXに登場した謎動力、供給方法はデュエルをすること。

 デュエリストから供給可能なのは一人につき一度のみ、対戦相手の強さと供給量は比例する。

 デュエルエナジーについて説明するのなら、要点は以上の通りだ。

 子細は記憶していないが、なんか危ないエネルギー的な存在だった気がするんだけどね。

 素足ちゃんと再三の実験の結果、人体に害がないことは確認済み。

 融合次元に渡るにはデュエルエナジーを供給しなきゃなのだが、今のところ全然だ。

 この次元の連中、言ってはアレだが弱い、というかカードに統一性がない。

 それこそ購入したパックでそのままデッキを構築したみたいな、寄せ集め感満載というか。

 中にはデュエリスト・クラッシャーみたいなキチンとしたデッキを持ってる奴もいるけどね。

 

 だけどまあ、理由については見当がついている。

 ピエロおじさんの元で厄介になり、孤児院で生活したからか尚更そのことを思うのだ。

 この次元、貧富の差がとても大きい。

 そして、大多数の人間が貧困層に属し、此処(孤児院)みたいに衣食住が揃っている環境が珍しいくらい。

 だから、嗜好品である遊戯王に回せる経済的余裕がないのだ。 

 聞けば、貰ったり拾ったりの寄せ集めで構築されたのが児童達のデッキなんだとか。

 ははっ、そりゃ無双する訳だよ、俺ってば最強とか思ってた過去を俺をぶっ飛ばしたい気分。

 

 以上のことがあり、必然的にキチンとしたデッキを組めた奴は必然的に強い奴扱い。

 孤児院の連中でいえばバナ男とかリン娘だろう。

 カードは拾ったであれほど完成度の高いデッキ作っちゃうとか、連中の運命力マジぱねぇっス。

 この間とかバナ男のデッキが輝いてシンクロ竜の進化体っぽい水晶竜とか創造しちゃうし。

 ホント二人の運命力ってどうなってんの?(大事なことなので二回言う

 

 そんな二人に主人公デッキで無双する俺氏の大人げなさよ。

 とはいえ、俺が融合モンスターを多用するせいだろうか。

 オレは融合じゃねぇ! と毎度のようにツッコむバナ男が実に微笑ましい。

 そんなバナ男に文句を垂れながらも世話を焼くリン娘は完全なオカン。

 争いを勃発させる二人をめっ! と叱る先生マジ女神さま。

 やっぱり先生、あなたの彼氏に俺氏を立候補させてくださいお願いします――

 

 なんて感じに先生にアピールしたのに冗談の一言で片付けられたマジ死にたい。

 そして、何故かバナ男とリン娘にガジガジと頭を噛まれた。

 マジでホントに解せぬ。

 

 

 

 

 

 ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

 オレっ娘――。

 

 

 一人称にオレ(俺、おれ)を使用する女性を指す言葉。

 同じく男性一人称を使用する女性としてボクっ娘が存在するが、オレっ娘の場合非常に気が強い女性が大半で、≪おっぱいのついたイケメン≫や≪漢女≫などがセットになることも。男性的な格好良さだけでなく、時折見せる女性的な一面を際立たせる効果も期待できる。

 もう一つボクっ娘との違いとして、≪現実における人数≫がある。

 幼少期には男兄弟や創作作品の影響などでボクっ娘になる女性もよくいるが、それもせいぜい中学生まで。それに対し、オレっ娘は高校生以上でも珍しくなく、下手をすると大人でもプライベートではオレっ娘を継続する女性が結構いる。方言などではむしろオレっ娘――あるいはオイラやワシなど男性的な一人称――の方が支配的、という地域すらある

 

 

 ――以上、とある百科事典を参照。

 

 

 

 

 

 ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

 ピッと、目を通し終えたデュエルディスクの検索機能を閉じる。

 

 

「…………」

 

 

 ジッとこちらを睨む、入浴中だった故に素っ裸な少女(・・)を見遣る。

 

 

「……なぁ、ユーゴさんや」

 

「な、なんだよっ」

 

 

 意を決して、俺は尋ねた。

 

 

「お前って男だよな」

 

「男じゃねぇ! オレは女だ!」

 

 

 悲報:バナ男じゃなくバナ娘だった件について。

 

 

 

 

 




神月アンナ「ユーゴがやられたようだが……フフフ、奴はオレっ娘の中でも最弱」
ジャッカル岬「主人公ごときに篭絡されるとは、オレっ娘属性の面汚しよ……」

海老&赤帽子「おい、デュエルしろよ」
オレっ娘属性「し、しょうがねぇなぁ! 仕方ねぇけど付き合ってやるよ!」


朗報:≪古代の機械巨人-アルティメット・パウンド≫がOCG化決定。
けど何故だろう、≪アンティーク・ギア≫特有の魔法・罠封じが搭載されていないのが、かつての墓地から蘇生不可だったヲーを作者に彷彿とさせるのだが……。

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