Β月±日
日記って素晴らしいねと思う今日この頃。
最近のユズ娘の落ち込みように心当たりがあった俺は、過去を振り返るべく日記を読み返した。
そして見つけた、今回のユズ娘に類似した事件を。
ワン娘失踪事件の時とまんま同じやん!?
顔立ち似ているけど、なにもこんなとこまで似なくても。
要するに、身近な人達の急成長に、自分が成長していないみたく感じちゃったってことだ。
今回の場合なら、身近な連中とはトマ娘であり素足ちゃんであり宝石ちゃん。
特にトマ娘は幼馴染だし、宝石ちゃんなんてライバルだもん。
ワン娘の時とは別の意味で焦り感じちゃうのは仕方がないと思うのです。
という訳で、俺氏原因解決に奔走開始。
要するに、ユズ娘に自分は成長しているんだって自覚してもらえばいいんだってばよ。
だけど、あの時みたくデュエルで解決するのってリスク高いと思うんだ。
結果的にワン娘立ち直ったけど、下手したらあのまま潰れてたかもだったんだし。
ならば残された手段は一つ、新カードを入手して戦力強化しかないぜ!
ここで新カード創造すればよくね? と思った俺氏マジでデュエル脳。
そしたら、なんの偶然なのかね。
近々行われる大会の優勝賞品がユズ娘の扱うカテゴリに合致する融合モンスターとの情報入手。
というか、大会主催者、素足ちゃんとこの会社なんですけど。
だったら融通聞かせてくれてもとか思ったんだけどね。
宝石ちゃんも新カードのテスターは実力で勝ち得たし、友達贔屓はダメ絶対ってことですか。
付き合い長いから俺は誤解せずに済んだけど、やっぱりあの娘口下手で誤解されるタイプ。
とはいえ、知ってしまった以上何もしないわけにもいかない訳で。
それとなぁく本人の目に付く所にチラシを置き、大会に出れるように誘導。
狙い通り、大会に参加するユズ娘に続いて俺氏もエントリー。
いやね、もしユズ娘が負けても万が一、俺が優勝とかしたら優勝賞品ゲットできるじゃん。
今なら分かるぜクロノス先生の気持ち、教え子のために何かがしたいって。
しかし、結果的に俺氏の考えは杞憂に終わった。
会場が別だったから知らなかったけど、なんとユズ娘決勝に進出、ついでに俺氏も進出。
つまり、どっちが勝ってもユズ娘の願いは叶うって寸法よ。
ならばと俺氏、ユズ娘が現時点でどのくらい成長してるか確認するために全力で当たる所存。
という訳で合意とみてよろしいですね! それではロボトル――じゃなくてデュエルフェイト!
フェザー・ストーム
バースト・インパクト
クレイラップ
バブル・ロッド
ワイルド・ハーフ
――なんだ、この手札は?
カードエクスクルーダー
オイオイこれじゃ……Meの負けじゃないか!
どどどどういうことなのーネ!? なんだこの致命的にかみ合わない手札はザウルス!?
こらアカンと防御札求めてアクションカードを探すも、全部が全部アクション罠。
今日の俺ってば厄日な訳!? 他のデッキならともかくマイデッキでこんなの初めてやぞ!
やっと手札に舞い込んだHERO同士で融合――しようとするが該当カードがEXにないです。
ペペロンチーノ!? EXデッキの上限15枚を毎回適当に選んでるのが原因でアール!?
EX枠がデッキよりも多いという二十代デッキあるあるがここにきて響いてきたぜ。
勝敗をお知らせします――俺氏敗北なり。
べ、別にいいし。ユズ娘が勝って自力で優勝賞品ゲットした訳だし。全然悔しくないし。
まさかのマイデッキの反抗期に落ち込む俺氏は、ションボリしながら準優勝賞品ゲット。
なんかメッチャ厨二臭いドラゴンだけど、なにこれ全力で俺のデッキ殺しにきてる。
とはいえ、俺のデッキ他にドラゴン一枚しかいないし、しかもそいつ物理的に召喚不可能だし。
今までの傾向から言って絶対手札にこないだろうけど、もう一枚のドラゴンが寂しがるし、一応自力で入手した、主人公カード以外では初めてのカードだし、ということでデッキに投入。
最初に謝っておくよ厨二ドラゴン、君が召喚されることはたぶんというか絶対ないから。
そんな風に新しい仲間の参入の感慨に浸っている俺はこの時、ユズ娘の異変に気付かなかった。
うおーいユズ娘! お前何処行くそして優勝賞品は!?
ユズ娘にカードを届けるという名目で優勝賞品を預かり、それいけユズ娘の元へ。
早々に見失ったり、俺自身が道に迷ったり、そんな感じだけど遂にユズ娘発見したんだけどね。
――けしからぁん!!
ゆ、ユズ娘見失って!! あと迷子になって!! そして到着が遅れてすんませんした!!
突然のお叱りに俺氏反射的に謝罪、あとなんかユズ娘以外にもいるんですけど二人ほど。
一人は見覚えがあります、というか俺の準決の対戦相手だあの娘。
やたら動作が大仰で、その言動は俺に奴を彷彿とさせた。一、十、百、千、万丈目サンダー!
その娘が柳眉を逆立てユズ娘に詰め寄ってるのを、もう一人の女の子が止めてんだけどね。
なにあの娘、鉢巻きに下駄に恰好スケバンとか、素足ちゃんのママさんに匹敵する第一印象。
――憧れているのなら! 手加減させてしまったことを悔いているのなら! 逃げてはイカン!
ど、どういうことだってばよ?
パッと見、サンダー似の娘がユズ娘に詰め寄ってて、それをスケバンが止めてる構図。
でも、スケバンが叱っているのはサンダー似の娘じゃなく、ユズ娘。
冗談抜きで本当にどういうことだってばさ!?
――あの御方に付けた黒星に相応しい強いデュエリストになれるよう精進すればいいのだ!
完全に出ていくタイミングを失いました。
あの、なにこの空気、そしてユズ娘の覚悟完了! 的な瞳は一体なんなの。
あまりの迫力にビビるサンダー似の娘、ついでに俺氏。
だがしかしこれはチャンスだ! ここだ! 登場するなら此処しかない!
――受け取れぇ! ユズ娘!
こんな時のためにと密かに詰んでました、カード手裏剣の練習。
それを指で挟むクールキャッチで余裕に掴んだユズ娘まじストロング。
受け取った優勝賞品に目を見開き、こちらを見るユズ娘に俺氏グッと親指突き立てる。
うん、まるで意味が分からんけど空気読んで分かったフリしときます。
そのままデュエル開始、そして見事融合召喚したモンスターでユズ娘勝利。
決勝で戦った時以上のユズ娘のプレイングに、強くなったなぁと全俺が感動するのだった。
で、結局なんでユズ娘はデュエルしたの?
で、結局なんでサンダー似の娘はユズ娘にデュエルを挑んだの?
で、結局なんでスケバンはユズ娘を叱ったの?
未だに置いてけぼりの俺に、ユズ娘が差し出してきたのはブレスレット。
私が強くなるまで預かっててって、絶対に貴方に相応しいデュエリストになるからって、あのユズ娘やお願いだから俺と言葉のキャッチボールしてくれない?
というかこのブレスレット、ユズ娘が肌身離さずつけてた奴じゃん。
返そうとする俺氏、私が勝ったら返してもらいますとユズ娘にっこり。
それは憑き物が落ちたような、久方ぶりに目にしたユズ娘の心からの笑み。
その笑顔が、あまりにもワン娘とそっくりだったものだから――
うん、感極まって抱き締めちゃったZE!
突然のことにパニくる仕草までそっくりなもんだからもうギュッと、ギュウっとね。
当然のようにユズ娘赤面、どこからともなく取り出したハリセンで俺氏星になる。
後日、謝罪に赴く俺は、ならばとユズ娘のブレスレットを肌皆離さずに付けることを約束。
うん、ユズ娘の希望でブレスレットに紐通して首から下げてみたんだけどね。
うわー、俺ってば似合わねー。
でもまあ、ユズ娘嬉しそうだし、これで良かったんだろうと思う俺なのだった、マル。
◆ ◇ ◆ ◇
Β月×日
道場破りがやって来た。
ごめん嘘だわスケバンの格好した娘と、彼女に首根っこ掴まれたサンダー似の娘です。
突然の来訪に戸惑う俺とユズ娘に、スケバンはサンダー似の娘を俺等の前にぽいっと。
なんでも、先日の一件の事で話したいことがあるんだって。
ちょうどよかったよ、結局俺ってばユズ娘に聞けずじまいだったし。
1.ストロングとの試合を観戦していたサンダー似の娘、俺氏のファンになる。
2.俺に会いたいと探すが見つからず、偶々参加した大会で俺氏と試合、本人大満足。
3.決勝でまさかの俺氏敗北。
4.ユズ娘不正したんじゃね? だって決勝の時の俺氏明らかに事故ってたし。
5.俺氏に代わってお仕置きよ! と奮起し、ユズ娘にデュエルを挑む。
わーい、俺氏のファンが増えたぞーい(棒
ゴメン後でちゃんと謝るからマイデッキとちょこっとだけO・HA・NA・SHIさせてくんない?
なんで決勝の時事故ったの? ねえ反抗期? ていうかどんだけ俺に勝たせたくなかったの?
原作主人公のファンデッキなんだから事故って当たり前の構築だって?
俺は今までマイデッキ使ってで事故ったこと一度もねぇんだよ!
EX枠だって今まで適当に突っ込んでたらピンポイントで使用できたんだよ!
チクショウ文章に起こしたら全部俺が悪いみたいに思えるじゃねえかホントごめんなさい!!
当人同士はデュエルをして和解したからと気にしてない風だったのがせめてもの救い。
しかし俺氏、このままスルーする訳にもイカンと、俺に出来ることなら何でもすると約束。
そしたらサンダー似の娘ってば、俺にデュエルを習いたいと懇願。
お安い御用だと、常備している入塾用紙をプレゼントする俺ってほんとバイトの鏡。
費用はこのくらい、必要事項記入してね、あと親御さんからのサインも必要なり。
ところでスケバンの娘は体験入塾とかしてみない? あ、道場の跡取り娘なのそりゃ残念。
というわけで、宝石ちゃんに信号機トリオ次ぐ第五の塾生ゲットだぜ!
約束するよサンダー似の娘――否! 今日から君は二代目サンダーだ!
昨日の君は過去のキミ! 今日を持って君はネオでニューなキミに生まれ変わるんだ!
そうと決まればまずは君に合うカードを探さなくちゃ!
俺のオススメはオジャマとアームドとユニオンの混合デッキなんだけどどうかな?
そんなデッキ構築で回せる訳がないって?
大丈夫俺も似たようなデッキ構築だけど普通に回せるから余裕余裕。
よっしゃ行くぞ二代目サンダー俺に続けぇ!
この街の何処かにある筈のカードが捨てられた井戸探すんだなこれぇ!
カードは拾った(キリっ
◆ ◇ ◆ ◇
Β月◎日
なんかこう、物足りなさを感じている気がする。
住み込み先での生活にも慣れ、入塾者も増え経営も回復、彼女達との仲も良好。
でもなんだろう、このポッカリと空いた、ふとした瞬間に空虚な気持ちになるのは。
こんな時には気分転換だと、日の出前から近所へ釣りに。
クソ眠かったけど、こうでもしないと一人になるとか無理ゲーなのよね最近。
トマ娘とか素足ちゃんとかユズ娘とか宝石ちゃんとか二代目サンダーとか信号トリオとか。
うん、慕われるのは嬉しいんだけど、俺ってばアレだから、年上のお姉様好きだから。
ママさんとママンの女子会に誘われた時とかメッチャ張り切っちゃったのはいい思い出。
ホントあの二人人妻じゃなかったらヤバかったわ、お姉様オーラで俺氏陥落してたわ。
トマ娘と素足ちゃんが俺を挟んでガン飛ばし合ってたから全然楽しむ余裕なかったけどね!
お願いだから二人とも仲良くしてくれないかなぁ喧嘩しないでさぁ!?
ふぅと、浮きを見詰めながら過去を振り返る俺氏。
カランコロンと、その音が聞こえたのはそんな時でした。
後ろを振り返れば、朝日に照らされ光り輝くスケバンが――ふつくしい……!!
曰く、日課の早朝ランニングなんだとか。
ご精がでますねぇと何故か敬語で話してしまうのは何故なのかしら。
そんな風に二、三会話を交わし、釣りを再開しようとする俺氏の隣にスケバン着席。
あのっ、ボクお金とか持ってませんよとカツアゲを恐れ年下にビクビクする俺って……。
だがしかし、それは全て杞憂に終わった。
悩みがあるなら、自分なんかで良ければ相談に乗りますって――!!
もしかしなくても顔に出てたの俺ってば恥ずかちー!?
だが、気付けば俺は胸の内を吐き出していた。
相手は年下で、知り合い程度の関係で、その上俺は自分の中の悩みを理解しきれていない。
でも、なんでだろう、俺はスケバンに打ち明けていたんだ。
たぶん、外見ではなくスケバンの中身の頼もしさに、何時の間にか惹かれていたんだと思う。
スタンダードに来てから色々あった。
本当に色々あって、でもたくさんの人に出会えた俺はすんごい幸せ者なんだと思う。
でも、ふとした時に思っちゃうんだ。
此処は大都会で、皆がデュエルを楽しんでて、それこそ争い事とは無縁の平和な世界。
それこそ、俺が元いた現実世界と同じといっても過言じゃない。
だけど、やっぱり俺ってば戻りたいんだ。
田舎っつーか絶海の孤島で、生徒が実はデュエル戦士で、今思えば物騒な所だったんだけれど。
うん、俺ってば早く融合次元に戻りたいとか思っちゃってるんだね。
勲章おじさんに会いたい。男前ヒロインに、あざ娘に、運命ちゃんに、皆の所に戻りたい。
あと、ハゲはやっぱりぶっ飛ばしたい。そしてマッドには二度と会いたくない。
んで、ガキンチョ二人には謝らなくちゃだし、勝手にどっかに行ってごめんって。
そんな俺の話を、スケバンはずっと黙って聞いてくれた。
話の半分以上理解不能の筈だし、気の利いた言葉をくれた訳でもない。
ただ黙って、俺が話終わるまで、耳を傾け続けてくれたんだ。
いやー、お蔭でスッキリしましたわー!
ランニング中にゴメンねと謝る俺氏に、気にしないで欲しいとスケバンがニッコリ。
――瞬間、ズキューン! と俺氏の心臓が撃ち抜かれた。
皆にも覚えがある筈だ。
見た目不良のキャラがふとした瞬間に見せる優しさに惹かれるシーン。
正直、スケバンには初対面から怖いイメージしか抱いていなかった。
ユズ娘のこと思いっきり怒鳴ってたし、二代目サンダーを屈服させてたし。
だが、実際に接してみればどうだ。
礼儀正しく、儀を重んじ、なによりも母性すら感じさせる包容力と漢な頼もしさ。
言うなら、ママさんとママンに勲章おじさんの良いとこ取りをしたみたいな。
そうか、無意識のうちに俺ってば求めていたんだ。
融合次元でいう勲章おじさんポジ、言うなれば頼れる大人という存在を。
実年齢こそ年下だが、早熟かつ醸し出すオーラがまるで同年代か年上と接しているみたい。
こりゃスケバンなんて日記であっても記せんわと、この場を借りて新しい呼び名を考案now。
彼女に別れを告げ、常備しているペンと日記にこれまでの顛末を記し、いざ――。
――姉御?
確かにそう呼ぶにふさわしい風格の持ち主だがこれじゃあいきなり過ぎる。
――ゴンちゃん?
確かに年下だから何の問題もないんだけど気安すぎではなかろうか。
――お館様?
何故だろう、彼女とヒートアップし殴り合いに発展する光景を幻視してしまうのは。
かつてこれほどまでに頭を悩ませたことがあっただろうか。
いきなり過ぎず、気安すぎず、最低限の親しみがあり、その人の素晴らしさを醸し出す渾名。
――ゴンさん
キタコレ。
スケバンもとい、彼女をゴンさんとお呼びすることに決まった瞬間だった。
◆ ◇ ◆ ◇
Β月Δ日
俺のデュエルディスクが故障した件について。
やはり信号機トリオとフリスビー代わりにして遊んだのがマズかったようだ。
アカデミアの倉庫から借りパクして以来苦楽を共にした相棒の一大事に立ち上がる俺氏。
スタンダードのくの字型も良いが、俺個人としては融合次元の男心を擽る剣型を勧めるね。
一番はクロノス先生とお揃いのデュエルコートだけど。
アカデミア中を血眼になって探したが結局見つからず失意に沈んだのは今でも忘れられません。
そんな訳で、素足ちゃん家に入り浸る影響か、やたらとメカに強くなったトマ娘に修理を依頼。
待つ間、遊びに来ていた信号機トリオにデュエルをせがまれたのでテーブルでデュエル。
元居た世界だと当たり前のテーブルデュエルなのに、やたらと懐かしく感じるのは何故かしら。
遅れてやって来たユズ娘も加わり、和気藹々とした時間を過ごしていたんだけどね。
血相変えて俺のデュエルディスクを突き出してきたトマ娘による終了のお知らせ。
致命的な故障でも!? と突き出されたマイデュエルディスクに表示された画面を焦り見る。
――移動先の次元を選択してください。
次回、エピローグ。
――スタンダード次元編が。