毒舌提督の所為で相談室は暇無しです   作:NTK

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第六話 こいつ憲兵さんです

蓮也が金剛さんにブチ切れた事件からしばらく経ち、鎮守府はやや慌ただしくなっていた。

年末と言うのもあるのだが、蓮也が新人提督とは思えないくらい運用指揮を執っていたのだ。

首席卒業の名は伊達ではなく、素人の俺から見てもみごとな指揮を執り、艦隊運用は順調であった。

また、その間に伊26、水無月、アクィラの三名が遅れて着任してきた。ウォースパイトについてはイギリス側の事情があり、もう少し遅れて着任するようである。三人ともすぐに鎮守府に馴染み、少しでも早く戦線に出れるよう訓練を積んでいる。

…まぁここまではいいんだよ。問題はここに来てからというもの、この相談室に艦娘達が来ない日が一日足りともないという事だ。

指揮官として有能な一方で、持ち前の口の悪さと毒舌、そして人をおちょくる性格のおかげで艦娘達の不満はタラタラで、俺が前に予想した被害者候補はほぼ全員来た。中には何度も来る人もいる始末だ。相談室って何度も来るような所じゃないんだけどなぁ…。

そして、その被害者達の中でほとんど常連になりつつあるのが…

 

「まったく、司令官には頭に来るわ〜!なんやねん!人の気にしとるところを何度も言いおって!そうやろ諸星さん?」

 

「は、はぁ…。」

 

龍驤さんである。その側では瑞鳳さん、瑞鶴さん、葛城さん、大鳳さんの四人もいる。

このメンバーでわかるように、えっと…グラマラスな体型が多い空母の皆さんの中でもこの五人は、その…胸部が少し足りない人達である。蓮也にとってこれほど弄りがいのある人達を弄らないわけがなく、よくからかっているらしい。

 

「それで、今回は何を言われたんですか?」

 

「ウチと大鳳が話しとったらな、途中で瑞鶴や葛城も交じってきて、最終的に瑞鳳も来て五人でワイワイ話し合ってたんねん。そしたらたまたまそれ見てた司令官がな、『やっぱまな板同士引かれあうんだなww』って言いおったんや!」

 

うわ、どストレートに言うなぁ…。これはどう対処すればいいのかわからん。いや、そもそもだ。

 

「あの、毎度思うのですが何故男の俺にその事を相談しますかね?」

 

「なんでって、何の為の相談室なん?相談する為の相談室やろ?」

 

はい、ごもっともです。

 

「それに、男の人に相談すれば、女の人とは違った意見もあるかもしれないじゃない?提督さんに言われた事を提督さんに相談しても意味ないし。」

 

「とはいってもですよ、瑞鶴さん。そういうのは個人の体質ですから、気にすることはないですよ。…っていっても、それで済めばここにいませんしねぇ…。」

 

ふむ、どうしたものか。ここに来たからには悩みを解決させなくては。うーん…。

 

「なぁ、一つ聞いてええか?」

 

「なんでしょう?」

 

「司令官はウチらの胸の事を散々言っとるけど、司令官ってもしかして巨乳好きなん?」

 

「ブッ‼︎」

 

やべ、思わず吹いちまった。あいつの好みを今ここでバラしてもいいものか…ま、いっか。別に問題ないし、それに、日頃の鬱憤を晴らすのに丁度良い。

 

「いや、そうじゃないんですよ龍驤さん。」

 

「あ、言い忘れとったけど、『さん』じゃなくて、普通に話してくれてええよ。」

 

「そう?わかった。あいつの好みはうるさいが、あいつにとってそんなんはどうでもいいんだ。」

 

「ん?どういうこと?」

 

「あいつの女性に求めるものの基準はかなり高いからな。もし当てはまる女性がいても、あの性格を好きになるのはさらに少ない。それはわかるだろう?」

 

うんうんと五人は思い切り頷いてるけど、よっぽどあいつの被害にあったんだな。

 

「それはあいつもわかってるんだ。だから自分が心から惚れるような女性を探している。それなら例え自分の理想ではなくても、自分の理想をその女性に変えればいい話だって前に言ってたよ。」

 

「う〜ん、よくわからんなぁ。」

 

「つまり、あいつの好みに胸の大小は関係ないって事。あ、前提条件としてコーヒーに理解がある事が必要だけどな。」

 

あ〜、と五人は苦笑いを浮かべた。多分金剛さんの事を思い浮かべたのだろう。だってそれだと金剛さん、初めからアウトだもん。

…てか、何でこんな話になってんだ?

 

「まぁ、納得したらええわ。ありがとな。」

 

そういうと五人は出て行った。解決はしたのならまあいいか。さて、時間が空いたし何となくだけどあいつのとこ行ってみるかな。

 

 

「はぁ…。」

 

「どうしたんだ蓮也?珍しくため息なんかついて。」

 

「ああジャックか。いやな、この鎮守府、憲兵達のリーダーが人事異動でいないって話前にしたよな?」

 

「それがどうした?」

 

「それで今日、新しいリーダーが来るらしいんだが、それがこいつなんだ。」

 

そういい蓮也は俺に資料を見せた。…ゲ。この名前は…⁉︎

 

「そ、”キング”だ。今大和が港で迎えに行ってる。そろそろ来ると思うんだが…。」

 

なるほど、秘書艦がいないのはそういう事か。しかし、キングまで来るなんてな。取り敢えず、駆逐艦の子達を何とかしないと…。

 

「いや〜、今日の秘書艦が駆逐艦達じゃなくてよかったよ。」

 

「それには同意だな。」

 

するとそこへ、ドアをノックする音が聞こえた。…とうとう来たか。

 

「提督、憲兵長をお連れしました。」

 

「ああ、通してくれ。」

 

蓮也の許可を得て扉を開けた大和さんに続いて彼女(・・)が入って来た。

 

「久しぶり蓮也〜♪それと、ジャッ君も。」

 

「まさかこんな形で再会するなんて思わなかったよ、綾香。」

 

彼女の名は王野(おうの)綾香。俺と蓮也の共通の従姉妹だ。俺の親戚の王野家に養子入りした俺の父さんの弟と、蓮也の父親の妹の子が綾香だ。というか、ジャッ君はやめろ。

 

「本当、私も驚いたよ。転属先にあなた達がいるんだもん。」

 

「よく憲兵になれたな。てか、その荷物何だ?」

 

「あっ!忘れてた!もうすぐご飯の時間だったけ!」

 

綾香はそう言うとカゴをゴソゴソあさり始めた。あっ、まさか…⁉︎

 

「綾香さん、ペット飼ってるんですか?カゴってことはハムスターか何かですか?」

 

「あー、大和。そいつのペットは見ない方がいいと思うぞ…!」

 

蓮也が忠告するも、綾香はカゴの覆いを外す。するとーー

 

「っ⁉︎キャアァァーーッ⁉︎ク、クモ⁉︎」

 

そう叫びながら大和さんは腰を抜かした。カゴの中に入っていたのは、大きなタランチュラだった。やっぱりな。綾香は大の蜘蛛好きだったが、まだそれは続いてたらしい。

 

「名前はナチュラルっていうの。可愛いでしょ?」

 

「まだ生きてたんだナチュラル。」

 

「タランチュラってメスは十五年くらい生きるわよ。」

 

そう言い綾香は冷凍マウスらしきものを取り出したのを見て蓮也は思わず怒鳴った。

 

「ここでエサやんな‼︎それと大和、脚閉じろ。スカートの中見えるぞ。」

 

「ふぇっ⁉︎」

 

慌てて脚を閉じた大和さんだが、少し残念に思ったのは内緒だ。綾香はというと、不服そうな顔でマウスをしまった。

 

「ったく、だから高校時代彼氏にフラれたんだろが。」

 

「あーひどい‼︎今それ言う⁉︎」

 

ギャアギャア喚く二人からわかる通り、この二人は仲が悪い。あぁ、俺の悩みがまた増えそうだ…。

そこへ、睦月ちゃんが入って来た。

 

「提督〜。遠征終わったにゃしぃ〜♪」

 

瞬間、綾香は睦月ちゃんを見つめたまま固まった。あ、ヤバイ。睦月ちゃんはというと、見知らぬ綾香に首を傾げていた。

 

「……か、」

 

「およ?」

 

「可愛い〜〜♡」

 

「え⁉︎」

 

綾香は目にも留まらぬ速さで睦月ちゃんに飛びついていった。

 

「何この子にゃしいとかいって超可愛い〜!ねね、名前は?「む、睦月です…。」睦月ちゃんね、睦月ちゃんは姉妹とかいるの?「はい、妹がたくさん…」本当⁉︎見せて見せて〜!」

 

揉みくちゃにされている睦月ちゃんを前に大和さんはただ呆然としていた。

 

「あ、あの…これは?」

 

「綾香はな、ロリコンなんだ。それもかなり。」

 

綾香が憲兵になったのが不思議がってた理由がこれだ。こいつを憲兵長に任命した奴の気が知れないよ。

 

「もしもし憲兵?今おたくらのリーダーが早速やらかしてるんどけど何とかしてくれる?」

 

蓮也は憲兵に通報してるし。絶対相談室に駆逐艦達の来客が来るよ…ああ、本当に俺の胃が心配だ…。

 

 

 

ちなみに、綾香を何とかしようとした憲兵達だが全員返り討ちにあった。ありえねぇ。




新キャラ登場です。
どんどん悩みのタネが発生するなか、果たして、彼の胃は持つのでしょうか?
あと、タランチュラの名前ですが、ちょっとしたネタがあります。わかる人にはわかります。ヒントは彼女のアダ名です。
ちなみにウォースパイトさんが出ないのをを引きずってるのはちょっとした伏線的なものです。
ではまた次回まで。

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