「諸星さんですね?ご同行願えますか?」
「え?」
そう言われて俺、諸星
そこそこレベルの高い大学を出て、カウンセラーの資格を取得して、この仕事に就いてようやく一年ってところでこれだよ。通りかかる人達こっち見てヒソヒソしてるし。俺何も悪い事してないよ?何でこんな目に合わなきゃいけないの?
「あの、何処へ連れてくつもりですか?と言うか、何で俺を連れてくんですか?」
「それについては大本営にてお話しするので着くまでお待ちください。」
大本営⁉︎ますます訳がわからない。何だってそんな所に連れてかれなきゃならない?
車に乗せられ二時間程で大本営とやらにたどり着き、海軍の人達からようやく話を聞かされた。どうやら俺はこの後元帥と話をするらしい。と言うのも彼らもそれしか聞かされていないようだ。そこで俺はピンときた。もしかしたら俺は元帥のカウンセリングに呼ばれたのではないかと。だとすればかなり迷惑だ。あんな厳つい人達に連行されて、今頃俺の評判はただ下がり真っ只中だ。これで仕事が減ったらどうするつもりだ?事と次第によっては訴えてやる。
そんな事を考えてるうちにドアの前まで案内された。入りたまえ、との声が聞こえたので俺は扉を開けて中に入った。
そこにいたのは元帥らしき老人と背の高いポニーテールの美女だった。あれは秘書か何かか?
「君が諸星君だね?仕事の邪魔をしてすまなかった。」
「あ、いえ。幸い診察はしていなかったのですが、何故自分はここに連れられたのでしょうか?」
ようやく俺は元帥に本題を聞きだすと、少し黙った後でようやく元帥が話し始めた。
「君の知り合いに妃 蓮也というのがいるだろう?」
「れ、蓮也ですか?」
聞きたくなかった名前を聞いて俺は思わず顔をしかめてしまった。蓮也の事は知っている。小さい時からの幼馴染であり悪友であった。いい意味ではなく、本当の意味で悪友である。
昔から成績、体力、容姿のいずれも良く、全国模試もいつも一位と天才なのだがただ一つ、口がとんでもなく悪いのだ。
言っていることは正しいのだがもっといい言い方があるはずなのに、きつい言い方でしか物事を言わなかった。そんな事をすれば嫌われるはずだが、なぜか同級生からは慕われていた。だが、彼の言い方で泣かされたりトラウマを持ったりした奴も居たにはいたし、俺に対してはかなりきつい言い方ばかりであった。いつも俺は成績は二位だったので『永遠の二番手(笑)』とか言われたり事あるごとにバカにされてきていた。
そのおかげで高校卒業間近になってストレスに胃が耐えられなくなったのか、胃潰瘍になって皆勤賞がパァになった。
そんな蓮也の名前が何故元帥から聞かされるのかと疑問に思うとその答えはすぐわかった。
「実は彼は軍学校に入ってね。ついこの前首席で卒業したんだ。」
「はぁ、だいぶ彼には苦労したでしょうね。」
「まぁそうだな。卒業までに六人の教官が胃潰瘍になったよ。」
マジかよ。軍の教官の胃に穴開けるなんて相変わらずの口の悪さだな。つか、よく退学にされなかったな。
「それで、今度彼は提督になる事が決まったんだ。」
「提督に?」
提督って言えば深海棲艦と戦う艦娘とか言うのを指揮する人の事じゃないか。しかも、艦娘ってのも美人ぞろいで仮とはいえ結婚もできると聞いている。なんて羨ましい。ん?何か嫌な予感がしてきたぞ?
「それで、彼が着任する鎮守府だが、ちょうど歳の関係で退役する提督がいるからそれと入れ替わりで入るのだが、知っての通り彼は口が悪いから、艦娘にきつく当たって艦娘の精神に影響を与える可能性も無くはない訳だ。」
だろうな。あいつ女にも容赦なく言ってたし。そして元帥は思った通りの言葉を言った。
「それで君には彼と一緒に鎮守府に着任して艦娘のカウンセラーとして生活してもらいたい。」
「はぁ。」
「もちろんそれなりの給料は出す。大和、彼に見せてやってくれ。」
大和と呼ばれた先程の美女が俺に紙を手渡す。それを見た俺は目を見張った。今までの仕事より断然良い給料だったからだ。
「い、良いんですか⁉︎こんな貰って?」
「彼と生活してもらうんだ。それくらいじゃないと見合わないだろう。やってくれるかね?」
確かにそうだ。あいつと生活するとなれば胃潰瘍や円形脱毛になってもおかしくない。そう考えると妥当か。
「わかりました、引き受けましょう。」
「では三日後に使いの者がくる。それまで準備すると良い。」
それから三日間、アパートの解約などの準備と近所の人の誤解を解いたりした。軍に連れられたまま消息不明なんて噂立たれたら嫌だからだ。
そして三日後、使いの者とやらが来たのだが、その中には蓮也の姿もあった。
「いや〜久しぶりだねジャック。」
「できれば二度と会いたくなかったがな。というかそのアダ名で呼ぶな。」
ジャックというのは俺の名前『士』が十と一になるからとあいつがつけたアダ名だ。
「なら何で断んなかったの?結局金で動いたんだろ?」
「相変わらず嫌な言い方するなお前は。」
「ま、とりあえず早く行こうか。」
鎮守府へ移動して行く中、俺は気になった質問をした。
「お前は何で軍に入ったんだ?」
「深海棲艦と艦娘に興味が湧いてね、調べるなら軍に入って提督になった方が手取り早いと思ったんだ。平和も守れて一石二鳥だろ?」
「なるほどな。」
それからは車から船に乗り換え、移動途中は蓮也の軍学校での自慢話延々と聞かされた。
そんなこんなで俺らは鎮守府に到着した。
「さーて、ここから僕の提督ライフが始まる訳だ。」
「提督、お待ちしておりました。」
俺らを出迎えたのは眼鏡をかけた艦娘であった。確か、大淀だったか?
「えっと、あなたは?」
「ん?聞かされてないの?俺は諸星士。元帥殿に命じられて君たちのカウンセラーをやる事になったんだ。」
「ああ、あれはあなたの事でしたか。では、案内しますのでこちらへ。」
そう言われ俺らは鎮守府内をぐるっと案内された。その途中に相談室と書かれた部屋があった。おそらくあれが俺の職場だろう。
執務室へと案内されると彼女はこちらに向き直った。
「改めて言います。ようこそ、鎮守府へ。」
こうして、俺の鎮守府でのカウンセラー生活は始まったのであった。