生物兵器の夢   作:ムラムリ

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8. 警護ミッション 3

 戻ると、人間が古傷を投げ飛ばしていた。

 本当に退屈らしい。腕を丁寧に掴み、足を丁寧に引っ掛ける。すると、簡単に転ぶ。

 突き出された腕を掴み、背負って投げ飛ばす。そのまま引っ張って転ばせる。

「力が無くたってな、こうやって有利になれる状況は作れるんだ」

 退屈だからと言って、自分達に何かを教える物好きであるとまではちょっと驚いた。

 古傷とまた警戒に周り、戻ってくると、今度は片目にも同じようにしていた。

「お前もやるか?」

 座って、空を眺めて中途半端に変な気分になるよりかは良い気がした。

 自分の半分ほどの太さしかない腕で、軽く投げられるのは初めての体験だった。自分の体重が無くなったかのような、そんな感覚だった。

 様々な方法で投げられたり転ばされたりしながら、男は喋る。一番大切なのは、相手の力を利用する事らしい。

 だから、飛び掛ってきたハンターなんて、カモでしか無いと。

 確かに、それは言えた。

 自分もファルファレルロに対して爪を置いただけで殺し、片目に至っては首を動かすだけで隙を作らせた。

 遠くで、哨戒の最中にも岩陰に隠れて片目と古傷が投げ合っているのが見えた。

 

 太陽が昇ってくると、人間から食料と水を貰う。片目に対しては、水が多めだった。T-アビスの影響らしく、喉が渇くらしい。

 まだ、特に何も起きていない。

 森の奥だったら適当に野生動物を狩れる事もあるだろうが、この見通しのそこそこ良い場所ではそういう獣も居ない。それに片目はともかく、緑色のこの体は、荒地では目立っている。

 途中から喋る事も無くなったのか、人間も自分達に混じって警戒をするようになった。

 休める時間が増えるのは良い事だったが、人間がその投げ方とかに対して教えたせいで、片目や古傷に良く投げられた。見様見真似でやっているのにも関わらず、昼も過ぎると随分上達していた。

 人間のように、気付いたら投げられている、転ばされているという程ではないが、それにもう近い。

 そういう体を使った動作の理解は、この二体は早い。

 自分はそこまで好き好んでやる気にはなれなかった。

 人間と片目が戻って来た。

 緊張を解いて、退屈だと言うその姿からは、自分達が襲って来るなんて全く思っていない様子だった。

 その通りだけれども、生物"兵器"と呼ばれている自分達に対してそう気を許しているような感じは珍しかった。

 ただ、ファルファレルロの時のあの男は、自分達を買っているとか言いながらも、ここまで隙だらけになりはしないだろうなとも思った。

 個性、とか言うんだったか、そういう事を。

 

 夜が近付いてきて、星が見えてくる頃だった。

 岩陰から身を低くして、次の木陰まで飛び出したその瞬間、頭上から音がした。

 鋭く、風を切る音。

 木陰に飛び込んだ時には、後ろにあった岩が弾け、弾丸が突き刺さっていた。

 ……狙撃銃。

 頭を少しでも高くして飛び出していたら、死んでいた。

 木陰の近くに弾丸が二度、三度と突き刺さる。太い木の根元に隠れて、まだ岩陰に隠れている片目と目を合わせた。

 任せろ。

 そう自分の手で胸を叩くと、片目の姿が掻き消えた。僅かに輪郭が見えるだけ。

 片目が動き出し、砂が岩陰で舞った後も、銃弾は執拗に自分だけを狙ってきていた。

 片目がただのハンターαでは無い事に気付いていないのか、自分の居る場所以外からは着弾する音が聞こえて来ない。

 動けそうにもなかった。

 少しして、こっちの人間も狙撃銃で応戦し始めたが、一発撃っただけで後は何もしなかった。

 何故? 死んでもいないだろうし、古傷が何かした訳でも無いだろうし。

 覗く事も出来ず、ただ片目に頼るしか無かった。

 暫くすると狙いが自分から外れて、それからぽつぽつと銃声の頻度が低くなっていくのが分かった。

 そして、一発も鳴らなくなった。

 ……終わったのか? そう思って顔を出した瞬間死ぬ何て事は避けたい。

 それからまた暫くすると、古傷と人間が顔を出したのが見えた。自分も顔を出して狙撃されていた方向を見てみると、片目が岩陰で人間の首に齧り付いているのが見えた。

 喉が渇いていたのか。

 ただ、それから驚いた。目を凝らして見てみれば、死体が複数の岩陰にあった。しかも、ここからかなり遠く、身を隠せる場所も多くない。更に、それぞれの死体も遠く離れていた。

 片目は、複数の場所から狙撃銃で狙って来ていた人間を、容易く全滅させていた。

 味方の人間の銃声が一発しか鳴らなかった理由が、何となく理解出来た。

 多分、姿を消せる片目にとって、その人間の援護は危険要素でしかなかったのだろう。

 人間からも、片目の姿は見えないのだし。

 片目は血を飲み終えると、首を食い千切り、食べながら、爆弾を複数持って帰って来た。

 全くの無傷だった。返り血すらほぼ無く、爪先と、口の周りに飲んだ血の跡が残っているだけだった。

 ……凄過ぎた。

 この暗い今、身を隠し易いと言うのもあるだろうが、それでもこのそう長くない時間で殲滅せしめたという事は、頼もし過ぎて恐怖さえ浮かんだ。

 この状況、ただのハンターαである自分達が殲滅しようと思ったら、犠牲は必ず出るだろうし、何体居たとしてもこれ以上の時間が掛かる。

 片目は、それ以上だった。正直、自分達の必要性すら微妙に思えてきた。

 ……いや、多分。

 そこまで思って、更なる可能性に気付いた。もし、このまま片目があのファルファレルロ達みたいに粗暴な様子にならなければ、能力の利便性が欠点を上回るのなら、自分達もファルファレルロにされるのではないか?

 即ち、首輪は外れ、その代わりに腹に爆弾を埋め込まれる。

 …………もう、時間が無い。




誇る事かどうか分からないけれど、バイオハザード原作で平均評価が一位になりました。
とても嬉しいです。ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
(モットホシイ)

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