生物兵器の夢   作:ムラムリ

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5. 淘汰ミッション 3

 片目を担いで戻ると、別に散った四体の方の内の二体、痩身と悪食も片目と同じように倒れていた。

 血を舐めてしまったのは同じらしかった。

「嘘よ……。負けるのはともかく、一体も殺せていないなんて……。

 ……もしかして、ファルファレルロと戦った事自体あったんじゃないの?」

「いや、俺の知る限りじゃ無いな。だからと言って何だ? どっちにせよ、こいつらの方が圧倒的に上なのは確かだろう」

「嘘よ……」

 未だに信じきれない女に対して、その男は告げた。

「タイラントと戦った事はあるが」

「……え?」

「タイラントとすらも戦って、こいつらは生き延びているんだ。舐めないで欲しい」

「そんな……」

 茫然とするその女は、どこも見ていないようだった。

 そして、やはり、片目も痩身も悪食も、誰も一向に良くなる気配はない。他の皆は、どうしたら良いのか分からないまま、ただ様子を見ていた。

 女に歩いた。

「え?」

 首に爪を突きつけ、服を破った。

 疳高い悲鳴が上がる。

 破った服の裏側には、自分達の鱗さえも貫けないような小さい銃器もあれば、注射器も複数あった。

 赤と青の注射器が、それぞれ3本ずつ。

 男が、何となく察したようで、女に聞いた。

「その注射器は何だ?」

「T-アビスのウイルスと、その抗ウイルス剤よ……」

「どっちがどっちだ? 正直に答えないと死ぬぞ」

 男の声には切迫感など全く無く、殆どいつもと変わっていなかった。

「そうさせない為にあんたが居るんだろうが!」

「役に立たない商品と戦わされて、そしてこっちの兵器にも傷が付いた。損害を被ったのはこっちだ」

 時間が無いんだよ。

 爪を喉に当てた。

「……赤い方よ」

 観念したように言った。が、男は更に聞いた。

「本当か?」

「こんな状況で嘘言えると思う?」

「……さあな」

 ……分からない。

 男の方を向いた。

「何だ?」

 爪を女の方に向けた。

「間違ってたら殺していいかという事か?」

 頷く。男は少し考えてから、言った。

「……いいぞ」

「えっ、ちょっと?」

 色欲狂いに押し倒させて、命じた。

 まだ、犯すな。

「本当にそうするつもり? 何が起こるか分かっている訳?」

「どっちにせよ、ファルファレルロを全て死なせて手ぶらで帰るんだろう? どの位の損害になるかは知らないが、かなりのものだろうし、死んでも死ななくてもそう変わらないだろ」

 赤い注射器と青い注射器をそれぞれ丁寧に拾う。

 使い方は知ってる。針を血管に突き刺して、押せばいいだけだ。

「まあ……死ぬより酷い事になるだろうがな」

 振り返れば、色欲狂いの股間からは既にソレが出始めていた。

 そこで女が叫んだ。

「青よ! 本当に! だから!」

 後はもう、青い注射器を突き刺せば良かった。

 が、まず片目に突き刺そうとした時、片目がそれを弾いた。

 刺そうとしたその青の注射器が飛んで、岩に当たって砕けた。

 ……え?

 片目の呼吸は、深く、長くなっていた。気付けば、体色がやや変わっていた。

 変異、したのか。

 ハンターαという種から、ファルファレルロという種に。死なずに、ただ血を舐めただけで、変異したのか。

 そして、片目はそれをもう、受け入れている。

 残り二本の注射器と、痩身と悪食を見た。

「早くどかしてよ! ねえ!」

 色欲狂いの口から涎が、女の顔に垂れていた。

 ……まあ、赤い方の注射器があれば、いつでもファルファレルロには変異できる。戻れる訳じゃないが。

 痩身と悪食は、青い注射器を弾く事は無かった。

 呼吸は落ち着き始め、体色も変わりはしなかった。

「終わったんでしょ? なら早くどかしてよ! ねえ!」

 色欲狂いは我慢しきれないように、顔を舐めていた。

 男は、やはり変わらない口調で言った。

「好きにしていいぞ」

 その途端に色欲狂いは、暴れ始めた。

 

 空になった注射器を捨てて、赤い方を眺める。

 これを打ち込めばファルファレルロになる。ただ、あんな粗暴にならざるを得ないのなら、それは止したかった。

 片目は、今はもうすっかり落ち着いて、けれど疲れ切った様子で腰を下ろしていた。

 体の大きさや爪の形とかの変異は全くない。体色と、目の色が少し変わっているだけだった。

 大丈夫なのか? 痩身はそのまま寝ていて、悪食は恨みを晴らすかのように色欲狂いと共に女を犯していた。どちらも、ハンターαのままだった。

 そして、片目も今の所は、あんな粗暴な姿とは違うような、ハンターαだった時のような印象のままだった。

 片目は、自分の身体の調子を確かめるように両腕の爪を何度か動かした。

 ……恐怖が体を襲った。

 その爪が、自分達に向けられる事は無いのだろうか。

 その仕草から、万が一にも、という事を考えてしまった。

 片目が自分の目線に気付いた時、丁度男が自分の前にやって来ていた。

「その赤い注射器は渡して貰おうか」

 男には素直に従った。

 首輪がある以上、この組織の人間にはいつまでも逆らえない。

 赤い注射器も無くなり、ふと、犯されている女の方を見た。

 破り捨てられた服の端に、赤と青の注射器がもう一つずつあったのが見えた。

「そろそろ戻るぞ」

 そう言う男はそれに気付いていなかった。

 女のぎりぎり手の届く範囲に、護身用の銃が未だに転がっている。

 歩くと、男の目線は自分に向かう。だが、銃を遠くに投げ捨てると、男の目線は逸れた。

 そしてそのまま男が自分の方を見ていない隙に、その注射器を口の中に入れた。

 舌で巻いて、口を閉じた。




No.10:

痩身
その渾名の通り痩せ型。体力はやや低め。敏捷性は随一。

No.21:

悪食
体力は随一。やや体は大きめ。リッカーとハンターγも少し食べた。

No.1:
片目
タイラントとの戦闘の時、一番表立って時間を稼いだ。その時に片目を失った。
ファルファレルロに正常に変異。

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