生物兵器の夢   作:ムラムリ
<< 前の話 次の話 >>

34 / 36
β. 気付き

 思い返してみれば、特別親しいという奴は居なかった。
 一番親しかったのは変な物を食うNo.21か、司令塔のNo.27か。
 けれど、No.21が死んだ時もそう大して、あの寝返った奴が死んだ時のNo.1程には悲しまなかった。こうして唐突に連れ出されようとも、余り思い悩む事も無かった。
 ま、自分はそういう奴だ。
 仲間の大半が死んだ。聞く限りじゃ、No.7、雌の奴も死んだっぽいし。生き残ったとされているナンバーの中には無かった。それでも余り悲しむような感覚は湧いて来る事は無かった。
 聞いた時、死んだと聞いても悲しみよりも驚きが来て、その後、まあいいか、といつものように思った。
 ただ、それが、全滅してなかったから、同じ最初から生き残っている奴等がそれでも結構多く生き延びているから、というのも多分あった。
 自分だけが生き残ったとなっていれば、多分、流石に落ち込んでいたと思う。
 退屈だと、色んな事を考えてしまう。
 元々考える事自体余り好きじゃないのに、何も考えずにただ遊んでるだけの方が好きだったのに。
 唯一のこの玩具も、もう抵抗も何もしないし、ただの物に近い。いっその事首を刎ねてしまおうかと思うが、唯一の玩具だし、刎ねたら刎ねたで掃除が面倒だ。
 綺麗にしないと飯が出てこないし。
 飽きてしまうと、ここ辺りにある物を弄るか、考える位しかする事が無かった。
 俺がこれからもこの狭い空間で生きていく事になるのかと思うと、げんなりとした気分になる。退屈だけなら、あの場所に居た方がまだマシな気がした。
 ……あいつら、どうやって逃げたんだろうな。
 No.27が何かしらやったんだとは思うが、それでも首輪があるし。
 首輪、か……。
 外せる、のか? これ。もしかして。
 そもそもそこから出来ないと始まらない。
 周りには車に使うような色んな物があった。
 水道もあるし、明かりも少しある。首輪を見る事は出来る。
 試して、みるか。
 暇だし。



 色んな事を考えた。
 あいつに対して罪を問う事自体間違っている事だとか。
 そもそも、B.O.Wに罪なんてあるだろうか? 生きているとは言え、兵器だ。
 兵器に対して罪を問う事自体、おかしい。
 兵器である事があいつらの存在理由だ。人に対して脅威である事があいつらの存在理由だ。
 生まれながら人を殺せと教え込まれた少年兵に罪はあるか?
 今まで考えた事も無い。そう大した事も知らない。ここは治安は悪いとは言え、少年兵がそこらで跋扈する程じゃない。
 結局のところ、生物兵器に生まれた事は、運が悪かったなときっぱり殺す事が一番手っ取り早いし実際B.S.A.Aもそうしている。
 ただ、一番の問題は、俺が悩んでいる対象が知性を持ってしまっている事だ。
 それで俺は曲りなりにも助かったし、今、俺はこうして悩んでいる。
「馬鹿みてえ」
 B.S.A.Aにそんな事聞いたらどう思われるだろうな。
 まあ、どうせ聞いた所ですぐに場所を特定されてあいつが死ぬ事になるだろうが。
 知性を持っていようが、人を仇なす目的として作られた事は変わらないし、実際そうして来た奴だ。
 ……外はもう夜だった。
 取り敢えず、寝るか。時間はたっぷりとある。

-----

 ……外れた。
 あっけなく。そう大した事を試していない内に。
 二つのネジが落ち、同時にずり落ちる、二つに分かれた首輪を落ちる前に手に取った。
 何も起こらない。警告の振動も無く、何の変哲も無いままに外れた。
 窪みに合いそうなものを見つけて動かしていたら、いとも容易く、驚くほどに簡単に外れた。
 仲間の事を聞いた時のように、喜びとかよりも驚きが先に来た。
 …………いや。やろうと思わない。普通なら。
 No.27はどうしてこれを知ったんだ? 自分からやろうとしたのか?
 でも、首輪が爆発するかもしれない恐怖を堪えてまでやるような奴だとは思えなかった。
 あいつは慎重だった。あいつ程死を恐れているのも他に居なかった。そんな奴がこんな事を見つけるなんて、思えなかった。
 首輪をどうするか悩んで、取り敢えず近くに置いた。
 ……これから、どうする?
 この外がどういう場所なのか、全く知らないのに? プロテクターも無いのに、外は人間だらけの場所で?
 結局、俺は首輪を外せた所で、どこにも行けないのか?
 ……。
 No.27なら、どうしたら良いのか、分かる気がした。
 生き延びる為なら、時には大胆な事もした。そしてそれにはどこか安心感があった。それに身を任せて良いような希望があった。
 最初に爆弾を使ったのもあいつだった。あいつが指揮をしていなかったら、タイラントによって殺されていた仲間はもっと多かった。
 あいつが居なかったら、俺自身、今ここに居るかどうか。
 いや……居ないな。どこかで死んでしまっているだろう。
 ……考える事自体、余り好きじゃないが。

 目覚ましで目を覚ます。
 外から日差しが入り込んで来ている。
 目覚ましを止め、鏡を見てボサボサな髪の毛を少しだけ整えて、トイレで便をして。水をコンロで湧かし、冷蔵庫から適当に飯を取って食った。
 コーヒーを飲んでも、眠気はそんなに覚めない。
 毎日飲んでりゃ、慣れてしまう事を覚えてからはキツい味も求めなくなった。
 飲むだけなら、安物で十分だった。
 飯も、毎食凝ったりだとか豪華にしたりだとか、そんな事は考えない。危ない場所に身を置き、……自分があいつにとって良いケツをしていた事で助かり。そこからひっそりとただの平民に身を移し。
 何だかんだで、人生に派手な刺激なんて要らない事に俺は気付いた。
 そんな事、この一帯じゃ無理に近いが。この平穏そうな場所でも、銃撃戦がこの近くで行われた事もある。
 ……。あいつをどうにかしたら、遠くへ行こうか。
 蓄えも無い事は無いし、どこにでも役に立ちそうな技術も持っている。
 死ななかったからと言って、死んだ皆の為に復讐などするつもりも無いし、償いをするつもりも無い。善の道を歩もうとも思わないが、折角拾った命なんだから謳歌しなければな、とは思った。
 そんな緩い意志でも、俺は、俺を犯したNo.13を捕えて、自分なりに踏ん切りを付けなきゃいけなかったんだが。
 犯されて助かったという事による、モヤモヤとした感情は結局今でも変わらない。
 けれど、踏ん切りが付いた、とは思える。
 捕えて、目を合わせて、長い時間考えて、それでも俺の中の感情は何も変わらなかった。
 その結果は、会う前と何も変わっていないようで変わっていた。
 覚悟と言う程高貴というか、重いものでもないが、この感情とは一生付き合っていかなければいけないのだというような悟り。
 そんなものが、自分の中で固まりつつあるのを、段々と自覚していっていた。
 嫌な悟りだ、と思う。
 でも、あそこで死んでいるよりかはよっぽどマシだ。
 欠伸をして背伸びをする。ぼうっとしている内に仕事の時間が段々と近付いてくる。
 時たま喋りながら手と足を動かして金を稼ぎ、飯を外で食って、そして帰って多少の事をして寝る。
 同じような日々の繰り返しだが、あの組織に居た頃よりは緊張も何も無いし、平穏な場所に身を置けているのは、とても良い事だった。
 着替えて、椅子から立ち上がる。顔を洗い、歯磨きも済ませ、下の階へと階段を下った。
 扉を開けた。



この作品の場所は治安の悪い中東か南米辺りを思い浮かべてる。