生物兵器の夢   作:ムラムリ
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28. 最終ミッション 4

 能天気は足に食い込んだ爆弾の破片を取り除くと、死体の服を破って、覚束ない手つきで時間を掛けながらもきつく足に布を巻きつけて縛った。何とか立ち上がって、歩く程度なら出来るようになっていた。

 人間の首輪を、今一度じっくり見てみた。二つの半分の輪を合わせてあるような嵌め方をされている。それ以外は穴も何も無い。とてもシンプルな首輪だ。
 死体の首輪をナイフを当てて叩き切ってみた。
 直後に首輪は軽く爆発を起こした。破片がプロテクターにぶつかり、ナイフも爆発の衝撃で折れていた。
 無理そうか? カメラが無いとは言え、余り長い時間掛けても不審がられるかもしれない。
 殺すしかない、か。
「……俺の首輪を外そうとしているのか?」
 片目に取り押さえられたままの人間が、自分を見て聞いて来た。
 振り返ると、驚いたように見られた。言葉を理解している事は疑わしかったのか、本当に理解出来ると分かると畏怖するかのような目になった。
「……俺だけ生かして、目的は何だ」
 少し考えて、痩身と能天気にマスクを脱がせた。
 人間の目に首輪が入る。
「……」
 そして、その首輪のネジをナイフで回し、外した。
 痩身も、能天気も酷く驚いていた。まさか、と言うように。
 ただ、片目だけは腹を擦りながら憂鬱そうにしていた。
 そこから、何となく察したようだった。
「……首輪を外したら、お前等の反逆に協力しろと? その片目のファルファレルロを助ける為に?」
 そうだ。
 頷いた。
「B.O.WがよりによってB.S.A.Aに協力を求める? 聞いた事無ぇよ、んな事」
 それから、暫く黙った。体を抑えつけられたまま目を閉じ、悩んでいる様子だった。
 それから、言った。
「どうせ、反逆が済んだら用済みなんだろ? 俺も殺すんだろ?」
 否定はしなかった。敵の敵にしかならない。味方にはならないだろうし、する気もない。
「でもな……このまま死ぬよりはそいつらを道連れにするべきだよな。
 死ななかったら協力してやる。
 …………死体のズボンを二つ持って来い。ハンターの腕力ならこの腕輪は引き千切れるかもしれない」
 それを聞いただけで、すべき事は分かった。

 拳銃やナイフすらも人間の傍には無い。不審な動きをしたらすぐにでも殺せるようにはしてある。
 片目にもプロテクターを再度着けさせた。引っこ抜けた時にその首輪は間近まで飛んで来る。
 プロテクターを着けさせている時に、人間が悔しそうな目をしていたのを見逃しはしなかった。
 あわよくば、引っこ抜いた時の爆風で片目が死ぬのを目論んでいたな、こいつ。
 武器を持ってなくとも油断は、してはならない。
 そして、この首輪を外したらもう、すぐに行かなければいけない。
 どう仕掛けるかは、もう決めてある。
 爆弾は、B.S.A.Aの方に閃光の爆弾があった。それさえあれば、かなり良い。
 そして、痩身の首輪はここに置いて行く。能天気と自分の首輪はそれぞれ身に隠す。
 ズボンを首輪に括り付け、人間の頭に防具代わりに布を巻きつける。その顔はやはり、恐怖で歪んでいた。
 どう引っ張るか。少し考えて、肩に掛けて背中越しに引っ張る事にした。そして、呼吸を合わせて、自分と片目で一気に思い切り引いた。
 バキ、と金属が折れた音がし、首輪の半分が自分の頭上で爆発した。
 人間は生きていた。

 人間の頭の布を外し、狙撃銃だけを持たせた。それ以外は持たせなかった。弾丸も、多くは持たせない。
 そして、痩身を同行させる。
 撃たせるタイミングは、閃光の爆弾を投げた瞬間。
 簡単にジェスチャーをすれば、すぐに理解した。
「それを投げた瞬間に撃てば良いんだな?」
 そういう事だ。
 痩身には同行させる以外、何も指示しない。
 殺すようにも、生かすようにも。
 監視させるだけで十分だったし、武器を持った人数もそう多くは無い。痩身が居なくとも、虚を突けるなら制圧には問題無かった。
 片目と共に能天気の肩を担ぎ、そして別れた。



 車の場所まで戻って行く。緊張が体を襲っていた。すべき事はまだ、一つ終わっただけだ。
 これからが自分に課した唯一のミッションの始まりだった。
 片目も、能天気も、痩身も、唐突に自分が反逆へと身を翻そうとも素直に付いて来てくれた。
 自分が考える事に従ってくれていた。死ぬ可能性があろうとも。逃げ出した先に何が待っているか、それを何も知らなくとも。
 それを思うと紅が死んだ時に、自分がB.S.A.Aに感謝すら抱いた事に酷い罪悪感を覚えた。
 自分が出来る事と言えばその死を最大限利用する事だけだったとしても、感じた事は悲しみよりもその反対の感情の方が強かった。
 森を抜けて、車が見えて来る。
 ……それに対して考えるのは後だ。
 今は、集中しろ。
 これから、自分の未来が決まる。もう、この道を選んだからには生物"兵器"を続ける事は無いだろう。
 死ぬか、生物兵器を辞めるか。そのどちらかだ。
 車に近付いていくと、研究者達が出迎えて来た。
「最後の一人に随分時間が掛かったようだけど、遊んでいたのかい? それで一体死んだのかい?
 正直言って、失望だよ」
 その位で思われているのなら別に良い。
 そして、それ位しか分かっていない事も、分かった。カメラ以外に自分達を監視していたものは無かった。
 頭を伏せた。
「褒美も無しだ」
 そんなもの、要らない。
 それどころか、これからくれてやる所だ。
 ぶつくさ研究者達の愚痴を項垂れて聞いていると、自分の組織の人間がやってきた。
「余り、責めないでくれ。こいつ等にも感情はある。古くからの仲間が二体も死んで疲れている」
「もっと優秀ならそんな事も無かっただろうよ」
「B.S.A.Aも優秀だったんでしょうよ」
 自分達を庇護してくれる、その人間も裏切る。
 もう、それは決めた事だった。申し訳なさも余り無い。
 ほんの少しだけ、あるが。
 その人間が自分達の方を振り返って言った。
「No.10まで死ぬとはな……。
 それから、No.7は死んだのか? 位置の反応だけここにあるんだが」
 能天気の担いでいた腕を外す。だらりと能天気の腕が垂れた。
 爆弾の保持する所から、紅の腹に埋まっていた爆弾を取り出して、渡した。
「……それを取り出して、どうしようとしていたんだ? まさか、形見な訳ないよな」
 形見、か。死を利用した自分には、似合わない物だ。
「まあ、持たせておいてやるよ。その位」
 ……そうか。
 後、それから。
「また何かあるのか? プロテクターの中なんかまさぐって」
 首輪を出した。
 これも返す。
「……え?」
 能天気が手の内に隠していた閃光の爆弾を、投げた。
 目を閉じた。

「あ、うぅ」
「なに、が」
 目を開くと、目の前に居た、今さっきまで自分達を庇護してくれていた人間の脳天が銃弾で貫かれていた。
 片目が担いでいた能天気の腕を払い、怯んだ人間達へ一気に襲い掛かる。
 研究者側の武装した人間が、身を隠して閃光を受けていなかったのが見えた。自分の前へ倒れて来た人間を抱え、盾にして走った。
 ショットガンの銃声。けれど、弾丸は散弾ではなく一発だけ、人間の体を貫通しそのまま自分の右腕にぶつかった。
 骨が折れた感覚がした。人間を持っていられない。腕がだらりと力を失った。
 酷く痛んだ。骨に皹が入った事はあっても、今まで折った事は無かった。
 初めての痛みだった。
 でも、止まる訳にはいかなかった。頭が弾けるような痛みでも、自分は殺さなくてはいけなかった。
 ショットガンのポンプの音が響く。人間の盾がずり落ちた。距離を詰めた。
 再装填を終えた銃口が自分へ降りて来る。
 それと同時に、跳んだ。銃弾は自分のすぐ下を飛んで行った。上を向く、人間の絶望した顔が見えた。
 爪を振り下ろした。

 酷い痛みが体を襲っていた。右腕は殆ど動かなかった。
 けれど、足は動く。左腕は動く。
 振り返り、銃声を聞く。片目が怯んでいた人間の大体を始末していた。
 B.S.A.Aの銃弾でやられた人間もそこそこ。
 残ったのは、爪から血を垂らす片目を前に動けなくなった、研究者数人だった。
 能天気の手には、首輪を弄る装置があった。



痩身、片目:無傷
主人公:スラッグ弾を肉盾込みで受けて右腕骨折
能天気:両足に深めの傷
紅:死亡