生物兵器の夢   作:ムラムリ

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3. 淘汰ミッション 1

 連れられて来た場所には、この場所の人間達でない別の場所から来たらしき人間が複数、そしてその後ろには檻に入れられた、自分達に良く似た生物兵器が居た。

 目線を合わせれば、早速威嚇してきた。反応しないでいると、怒り狂ったように檻を叩き始めた。

 どうやら、似ているのは姿形だけらしい。

 別の場所から来た人間達が自分達が首輪だけで大人しくしている事に、驚き、それから話が進む。

 どうやら、これからその、自分達と似た生物兵器と戦わされるらしい。

 改良型だとか、T-アビスだとか、そんな事が聞こえる。流石に全部の意味までは分からないが、身体能力に加えて、妙な能力まで持っているらしい。

 戦わされる理由は、互いの戦闘のデータとやらを取りたいから。

 そして、自分達が負けたら、即ち死んだら、自分達以外の全ての仲間ももう、用済みらしい。

 その無視されて怒り狂っている似た奴が、自分達の場所に取って代わる、と。

 最後まで聞いて、何となく察した。

 負けたら自分達以外の全てのハンターαは、その怒り狂っている似た奴に変異させられるという事だった。

 

 話が終わると、また外に連れ出された。

 この組織は、廃墟を隠れ蓑にして地下に広がっている。その廃墟は戦う場所としては、うってつけだった。

 天候は中の檻に居る時には余り意識する事は無いが、厚い雲で覆われた、曇天だった。自分好みの天気だった。

 太陽は、自分にとっては眩し過ぎる。かと言って雨は滑りやすくなるから余り好きじゃない。

 自分達をここまで連れて来た男が振り向いて、話し始めた。

「なあ。俺はお前達の事を買ってるんだ。

 お前達は、他の仲間達とは違うだろう。経験もある。技量もある。知識もある。そして、それから培った知性もある。

 そんな生物兵器、他に早々居ない。

 だからな、能力で劣っているとは言え、あんな低能な奴等に負けるなよ。

 負けたら俺も悲しい」

 ……知性を培ったから何だというのだろうか。お前等が首輪で自分達を縛り付けている事は変わりの無い事だろうが。

 でも、負けるつもりは殊更無かった。

 あんなすぐに怒り狂うような奴等に、今まで爆撃と銃弾の飛び交う中生きて来た自分達が負けると思われている事自体、屈辱だった。

 静かに、怒りはあった。

 言葉全てを自分達が理解している事をもう、とっくの前提として、続けて男が言った。

「あいつ等は、体を回りの景色と同化させる事が出来る。

 だが、完全じゃない。目を凝らせば見えるはずだ」

 少し考えて、外から来たその人間達は、自分達の知性がその能力より劣っていると見做しているのだと、分かった。

「じゃあ、散れ。首輪の爆発しない場所はこの廃墟の中で、広く取ってある。同じ七体のファルファレルロの入っている檻も、この近くでそろそろ開くはずだ」

 そう言って、男は地下への入り口へと帰って行った。

 

 指を動かして、時偶に喉を鳴らして意志疎通をし、どう動くか軽く決める。

 三体と四体で分かれる事にした。

 自分は、三体の方に、色欲狂いと、片目と共に近くの廃墟へ走った。

 四肢を使い、上へと登る。爆撃の痕の凹みや飛び出した鉄骨を伝えば、登る事自体は簡単だ。

 すぐに屋上まで着き、辺りを眺めた。

 檻らしきものは、ここからでは見当たらなかった。 

 これからどう動くか、方針を決めようと振り返ると、屋上の縁に違和を感じた。

 ぼやけた何かが身を乗り出してくる。

 ああ、これがそういう事か。

 そう思った時には、色欲狂いと片目がそのぼやけたそれに体当たりをかまして突き落としていた。

 悲鳴の後に、潰れた音がした。

 そして、自分の背後からは微かに音がしていた。

 振り向きざまに爪を振るえば、血がこびりつく。そのまま畳みかけようかと思ったが、その腕や爪の位置が良く分からず、一旦引いた。

 腕が振るわれたのか鋭い風切り音が目の前でした。……速い。身体能力も向上してる、か。

 慎重に攻めようかと思っていると、片目が懐に素早く潜り込み、胸の辺りに爪を突き刺していた。

 蹴り飛ばして、爪を引き抜く。

 血を噴出させて倒れたファルファレルロは、姿が露わになって、もう後は死ぬだけだった。

 片目が爪に付いた血を舐め取る。

 相変わらず、一際強い奴だった。

 

 これまでも、戦う相手は人間だけとは限らなかった。同じ生物兵器、B.O.Wと戦わされた事もあった。

 リッカーとか言うらしき、脳みそがむき出しになった妙な生物。舌と爪にさえ気を付ければ銃器を持った人間よりも楽に倒せた。片目は飛んできた舌を掴んで千切っていた。色欲狂いは弱らせたそのリッカーを少し犯したが気に入らなかったようだった。

 でかい蛙のような奴。それが自分達とかなり似た方法で作られた生物で名前もハンターγとかと呼ばれていると知った時には余り良い思いはしなかった。水中で足から呑み込まれそうになった時は強い恐怖を覚えた。ただ、それ以上に色欲狂いが一心不乱に犯していたのを良く覚えている。

 そして、同じハンターαと戦った事もあった。それは余り、思い出したくない。仲間の数多くも犠牲になったし、終わった後の疲労は酷く心身共に残った。

 が、今回はそういう風にはならないだろう。

 改良型だとかは知らないが、あのただ暴力的な姿からは同種とは思えなかったし、思いたくもなかった。

 

 ファルファレルロ、その自身の姿は消せても、存在そのものさえが消える事は無い。瓦礫が多い場所に移動すれば、音で容易に分かるだろう。

 そう思い、屋上を伝ってその場所へ向かう。

 ただ、やはり、姿が見えないという事は脅威である事自体は変わらなかった。

 地上を移動している間に建物の高くから姿を隠したまま飛び掛られたら、気付けるだろうか。

 特にこの曇天だと、影も余り出来ない。

 今日に限っては晴れていた方が良かったと思った。

 その途中、ふと、足を止めて後ろを見た。片目が膝を付いて、苦しそうにしていた。

 ……何だ? 様子を見ていると、呼吸がとても荒い。

 外傷は負ってないはずだ。

 だとすると……。自分と色欲狂いがやっていなくて、片目だけがやっていた事は。

 ……血を舐めた事だった。

 その外から来た人間が言っていた事を思い出す。

 ――このファルファレルロは、T-アビスと呼ばれるT-ウイルスとジ・アビスという海底で発見された……

 片目の体内に、T-アビスと言う、ウイルスらしき何かが入った。

 それが、事実だった。

 




No.1:

片目
No.27(主人公)と同じく最も古くから生き延びているハンターの一体。
戦闘能力が一際高い。身体能力も平均に比べると高い。片目なのは後々説明。
戦闘自体を楽しんでいる。従っていれば楽しめるし、別に脱走とかは考えていない。

ファルファレルロの血を舐めた事により、T-アビスが体内に入る。

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