生物兵器の夢   作:ムラムリ

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27. 最終ミッション 3

 能天気と痩身はどこに居る?

 片目と木陰に隠れながら見える範囲を見渡した。

 その間、銃弾は無駄には飛んで来なかった。持っている弾が少ないのかは分からない。自分達のプロテクターをも破壊出来る武器がどれ位あるかも分からない。

 そして、能天気と痩身の位置も分からなかった。

 生きているかどうかすらも。

 でも、見渡す限り新しく爆発した痕跡は見当たらないと言う事は、多分大丈夫だろう。それに、B.S.A.A達ももう、そんなに移動している訳ではない。

 待ち構えているのか?

 どうするか……。相手の銃器がどの位のものなのかが分からない事も脅威だが、もう紅を殺されている、という事が重く圧し掛かっていた。

 人間そのものの強さも相当だ。

 パチン、と音が聞こえた。片目がマスクを脱いでいた。

 確かに、人間は視線が合ってから撃って来た。確認してから撃って来た、という事はその位置が分かる道具は持っていないだろう。その擬態能力は役に立つ。

 けれど、ここは森の中だ。音を全く立てずに移動するなんて無理だ。完全な隠密は出来ない。

 それに敵は一か所に集中している。しかも強者揃いだ。ばらけてるならともかく、そんな所へ行くなんて死にに行くようなもんだ。

 けれども、片目はプロテクターを脱いでいく。

 まるで、お前が援護しろと言うように迷いなく。持っていた煙幕の爆弾の一つを自分の方へ転がしてきた。

 そして、両手に爆弾を一つずつ隠し、姿が掻き消えた。

 そっと遠ざかって行き、もうどこに居るか分からない。

 ……やるしか無い、か。

 煙幕の爆弾を敵の方へ投げた。

 煙が立ち上った。

 

 銃声は聞こえない。人間の声も小声で、何を言っているか聞こえない。

 言葉を理解出来る事も悟られているのか、侮られていないのは、嬉しさもあったがそれ以上に厄介だった。

 煙幕に隠れながら、場所を移動する。煙は風にたなびいていく中、風下へ移動した。片目は、風上へ行くはずだ。

 自分が寄せ付けなければいけない。自分が囮になる必要があった。でかい葉を千切り、別の木陰から葉を振った。

 銃弾が飛んで来たが、それは強烈な弾丸じゃなかった。ただの拳銃の音だ。

 ……風上も警戒されているのか? この囮は分かり易過ぎるか?

 片目を風上から攻めさせるつもりだったが、それも見抜かれている?

 ……落ち着け。考えろ。

 片目はどこに居るのか分からない。でも確実に距離を縮め、攻撃へ移るはずだ。それだけの実力が片目にはある。

 そしてそこから反撃を受けない程に、敵の意識を削がなければいけない。

 葉をまた振った。拳銃の音がまた飛んで行く。

 そもそも、この拳銃の音は何だ。当たっても意味が無い弾丸をどうして撃って来る。

 ……あれ?

 自分は、釘付けになっているんじゃなく、釘付けにされているのか?

 しかも、煙幕で近くまで来られても気付けない。

 仕留めるには一番、楽だ。

 咄嗟に周りを見渡した。

 その瞬間、倒れる音がした。

 

 直後、連射音と物陰に飛び込んだ音がした。

 連射音がしたという事は、倒れたのは人間だ。片目が仕留めた。

 危なかった、と一瞬思い、それ以上に危ないのが片目なのに気付いた。

 片目は今、裸だ。銃弾を食らったら一溜まりも無い。

 一個しかない、手に持っている爆弾を煙の先へ投げた。

 爆発音、悲鳴。木が倒れる音、そしてまた、悲鳴。

 銃声が止まった。そして、その悲鳴が聞こえてすぐ後、新しく煙が更に二か所で舞い上がった。

 良いタイミングだ。能天気と痩身が姿を現し、距離を煙の中まで詰めていくのが見えた。

 そしてもう一手、欲しい。絶対的に優位に立つ為に。

 逃げられたら爆弾を無駄遣いしただけになってしまう。それに相手は二人か三人減って四、五人。こっちは四体。まだ、数の優位も無い。

 煙の中に飛び込み地面へ伏せた。自分の撒いた煙は薄くなりつつあった。体を動かしただけで位置がばれる。

 弾丸が頭上を飛んで行った。今度は強い弾丸の音だった。転がり、葉を振る。また煙の動いた先に強い弾丸が飛んで行く。これは、何の弾丸だ? プロテクターを貫く程のものか?

 それは分からなかった。

 そして、爆発音がまた、二度連続で鳴った。濃い煙が一気に吹き飛んだ。

 何故煙を吹き飛ばす? 一瞬の困惑の後に分かる。

 この爆発は、敵のものだ。

 銃弾が一気に鳴り響く。その数だけプロテクターに弾かれる音がした。

 煙が一気に過ぎ去り、開けた視界には足から血を流して倒れている能天気が居た。

 咄嗟に起き上がり、走った。身を守りながら何とか能天気が木陰に隠れるが、そこへ人間が爆弾を投げた。

 能天気に向って思い切り吼えた。マスクで声が籠っても、意志は通じた。そして自分の方を振り向いた能天気の目の前に爆弾が落ちて来る。

 体を捩って、能天気はまた、木の陰から片足で跳んだ。そこへ、人間が仕留めに走って来ていた。

 爆弾が爆発し、能天気が吹き飛ばされた。

 自分は人間が能天気に辿り着くまでに間に合わない。

 痩身はどこへ行っている? まさか、死んでないだろう?

 片目の位置は自分の後ろだ。

 爆弾で飛び散って来た土砂を払った先では、能天気は煙幕の爆弾を手に取り、その場で煙幕を張った姿があった。

 

 辿り着いた時、能天気はまだ生きていた。人間は警戒したのか居なかった。

 けれど、片足の足の指が数本もげていて、両方の足裏には爆弾の破片が食い込んでいた。歩けそうにも無い。

 ……くそ。

 人間の悲鳴が聞こえた。能天気が自分を腕で払ってさっさと行けと促した。

 そうだ、倒さなきゃ皆で逃げるどころか、生き延びる事さえも出来ない。

 立ち上がって煙の中から飛び出した。

 木の下敷きになっていた人間を助けようとしていた人間の首から血が噴き出していた。後ろにはぼやけた輪郭があった。

 痩身が狙撃銃を持っていた人間の首を貫いていた。

 片目が殺した二人、痩身が殺した一人。自分の投げた爆弾に巻き込まれた二人。動ける人数は後二人、自分の目の前に居る、能天気を殺し掛けた人間、そしてもう一人は片目の近くだった。

 その目の前の人間が拳銃を捨ててナイフを構えた。その手に乗るか。プロテクターの防御を前面に押し出しながら突き進み、人間が横へ回り込もうとしたその瞬間、地面に手を付き、足を滑らせた。

 自分の足首に、人間の足が引っ掛かる。

「なっ」

 素の驚きの声。生物兵器がこんな事する何て予想だにしなかった声だった。

 そのまま掬い上げると人間は無様に転ぶ。その頭を踏みつけ、ナイフを奪った。

 利用出来るかもしれないなら、利用しよう。出来ないのならば、殺そう。

 ここ辺りのカメラも破壊されていた。

 

 片目が残りも仕留めてから最後にやって来た。

 痩身に能天気の傷を任せて、最後に残ったその人間を仰向けにさせた。

「何なんだ、お前等は……」

 近くに居る自分と片目を見て、その顔は恐怖に染まっていた。

 首輪にはネジは無かった。見た限り、半分の輪をそれぞれはめ込んで首輪にしているような形だった。

「殺すならさっさと殺してくれ」

 これをどうにかして壊せないか……?

 片目に、人間の死体を少し持って来るように頼んだ。能天気も同じく、人間の死体を持って来るように頼んでいた。




 唐突にシャッターが開いた。
 今、人間は外に出ていない。車もここにある。
 ……誰だ?
 車の陰に隠れて、耳を立てる。
 息を落ち着かせながら、二人の人間が喋り始めた。
「ここは大丈夫なのか?」
「……ああ。何日も見ていたが、ここに住んでいるのは一人だ。脅して隠れ家に出来る」
 一人じゃないんだよな。
「さっさとその一人を脅しに行くぞ。時間が無い」
 どういう人間かは分からなかったが、まあ、あいつに危害を加えようとしてるのは確かだな。
 それは俺も困るし、それに、良いカモが入って来た。

「……それで? 銃も奪って、一人は殺して、もう一人をそうして玩具にしてる訳か。ちゃんと口まで封じて。
 ……俺にしたように」
 悪いか?
 必死に塞いでる口を動かそうとしながら、自分の犯している人間が助けを求めていた。
 銃を指でくるくる回しながら、そいつは冷徹に言った。
「自業自得だろ」
 良かった。
「でもな、その内警察が一応捜査に来るだろうからその時まで、ちょっと隠さないとな」
 そうなのか。面倒だな。

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