生物兵器の夢   作:ムラムリ

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24. 最終

 いつも通りに眠らされ、そして気付いた時には檻の中で目が覚めている。

 ファルファレルロにもされていない。腹に縫い痕がある訳でもない。首輪はそのままある。

 それにほっとしながら、置かれていた肉を食い始めた。

 次のミッションはどういうものだろう。何であれ、もう一つ、好機が欲しかった。自分が逃げ易くなるような機会は次にあるだろうか。

 片目が起きて、肉を同じように食い始める。寂しげな仕草はまだ、変わっていなかった。

 ……すまない。

 いや、自分だけが居なくなったら、他の皆はどうなるのだろうか。

 もっと早くに死んで行くのでは。

 片目は、もっと寂しくなるのでは。

 ……それは、分かっていた事だ。余り考えたくない事だったけれども。

 どう逃げるかは、ミッション次第でしかない。前もって色々考えようが、そのミッション次第で自分だけが逃げる為に尽力するのか、それとも仲間の首輪も外して一緒に逃げる事にするのか。

 その中に、片目や紅が入る事は、余り無かった。

 出来るとするならば、最低限、自分達の首輪を制御している機械を奪わなければいけなかった。

 機械がどういう仕組みなのかは良く分からない。けれども、機械を近くに置いておけば、爆弾が爆発せずにミッション区域からも出れるかもしれない。

 ただ、爆発するかもしれないという事も十分に考えられる。機械を奪ったところで、また別の予備があるかもしれない。そもそも、機械は持って来ておらず、全てこの基地からの操作も出来るのかもしれない。

 考えれば考える程、片目や紅と一緒に逃げられる可能性は、少なかった。

 人間を脅して、片目と紅の爆弾を取り出させ、そして腹を閉じさせるなんて、それも余り現実的には思えなかった。

 時間も掛かる。腹を割いてそして閉じた後にすぐ動けるとも思えない。

 そうしたら爆弾の恐怖は完全に無くなるが、その後担いで逃げなければいけない。

 何にせよ、とても難しい。可能性は、余り無い。

 そして、自分が死ぬにせよ逃げ切るにせよ、そのどちらかになった場合、この仲間達は死に易くなる。

 統率を失ったら脆いのは、自分達より、とても賢い人間も同じだったのだから。

 そう思い返してみれば、タイラントの時だって、自分が統率していなかったら更に死んでいただろう。

 他の様々なミッションの時だって、死んだ仲間の数は多かっただろう。

 それは、自信をもって言えた。

 人間にも言われた事だ。自分は、この仲間達の中で一番賢い。

 

 人間の会話に耳を澄ませていると、片目も同じように耳を傾けている事が多かった。

「また実戦テストしたいっていう話が来たわ」

「……テストなんかであいつらを犠牲にはしたくないな。今、戦闘経験が浅い奴等だって、No.27のような奴になり得るような、もしくはNo.1になり得るような素質がある奴等だぞ」

「いや、その点に関しては大丈夫みたい。相手は捕えたB.S.A.Aの人間で、使い捨てにしてもいいみたいだし。

 装備もプロテクターを壊せない装備しか与えられないそうよ」

「……それでもあのB.S.A.Aだろ……? 万一って事はあり得ないか?」

「いつでも万一はあり得て来たでしょうが。あいつらはその万一を回避しながら生き延びて来たんだから、信用してやりなさいよ」

 対B.O.W専用の組織が敵、か……。でも武器はプロテクターを壊せない。

 それが自分にとって多分、逃げられる最後のミッションだ。

「場所はどこに指定するんだ?」

「場所の詳細は教えてくれなかったけれど、森の中だって。人気のない森の中でどれだけ早く殺せるか、そんな実戦みたい」

 ……!!

 これ程の好機があっただろうか。

「森の中、か……。戦わせるのはやっぱり、一番強い奴等でか?」

「ええ。No.1からNo.27までの五体で、七人を相手にするみたい」

「……」

「何か、不安でも?」

「……見張りは?」

「分からないわ。でも、人間にも首輪をつけるみたいだから、逃げられるなんて事は無いわ」

「首輪……か」

 ……本当に、最後だ。

 このミッションが逃げられる最後だ。多分とか、そんなものでなく。自分が首輪に関して何か知ったであろう事まではもう、見当が付けられている。

 もう近くに、爆弾を腹に埋め込まれるだろう。そうでなくとも、どう足掻こうとも首輪は外せなくなるか。

 ……逃げるだけなら簡単かもしれない。仲間とも逃げられるかもしれない。

 でも、片目と紅だけは置いて行く事になる。

 それはどうしようもない不安でもあった。

 会話が途切れると、片目が自分を見て来た。

 人間の会話からその不自然なものを感じ取ったらしく、自分に対して疑問を投げかけて来るような目をしていた。

 ……言葉が使えるとしても、自分は何も言わなかっただろう。

 片目は暫くして顔を背けた。

 

 その夜、夢を見た。

 森の中でただ、月を見ている夢だった。

 どうしようも無い強い感情が溢れ出て来て、自分は吼えていた。

 ただ、それだけの夢だった。

 朝がやってくる事も無く、景色が変わる事も無く、ただただ、月に向って吼えている夢だった。

 ……そうだ。

 分っていた事だ。

 これまで生き延びて来た仲間も、とても大切だった。

 誰かを見捨てて逃げたとしても、自分は後悔するだろうと。逃げおおせたところで、そこで待っている感情は決して良いものではないと。

 けれども、それでもやっぱり、そんな感情が後で待っているとしても、自分は逃げたかった。

 どちらもとても、とても重たい事だった。

 それでも、自分は軽い方を捨てて選ぶのだ。比べれば軽くとも、重いものを捨てるのならば、その代償が待っている事は当たり前だった。

 

 数日後、呼び出される。

 No.1、6、7、10、27。

 片目、能天気、紅、痩身、そして自分。

 弄っていたルービックキューブを投げ捨て、口に隠していた注射器を入れた。

 片目は自分を見て来たが、特に何もする事は無かった。

 ……ルービックキューブは結局、完成までは至らなかった。

 もう少し続けていたら、次なる一歩に進む為の何かが見つかるような所だったが、まあ、仕方がない。

 もう、これに触れる機会も無い事を願う。

 人間に付いて行き、渡されたプロテクターを身に付ける。爆弾は既に補充されている。煙幕とただの爆弾二つずつ。

 口の中にはファルファレルロになれる注射器を忍び込ませたまま。

 最後にマスクを被り、留め具をしっかりと留めた。

 中からはもう何も見えないトラックに乗り、その中の檻へ入る。檻が閉められ、人間が数人その檻の外に座り、トラックが閉まる。

 小さな明かりが後は点いているだけ。

 そして、発進した。

 




「お前、首輪が外れたら俺を殺すか?」
 そんな事言わないでくれ。今でさえ我慢してるのに。
「……良く分かった。殺しはしなさそうだな。殺しは、な……」
 その夜、良い夢を見た。とても良い夢だった。
 周りを汚したまま、仰向けになったまま余韻に浸っている俺を見て、やってきた人間にとても呆れられた。


明日は出かける為、12時に予約投稿のみ。

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