生物兵器の夢   作:ムラムリ
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番外編:色欲狂い

 チクっと腕に何かが刺さったのを感じた時にはもう、遅かった。
 体から一気に力が抜けていく。
 ここに敵は居ないと思い込んでいた。だからか、警戒もしていなかった。
 体が全く動かなくなり、腹から倒れる。折れている肋骨が衝撃で痛んだ。
 声も出なかった。助けも呼べない。
 死ぬ……? 嫌だ。でももう、何も出来ない。
 視界の片隅に、人間が一人、やって来ていた。首も上げられず、足だけが見えた。
 引き摺られて、車の中の広い荷台に乗せられた。背中を壁に凭れ掛けさせられ、顔が見えた。
 何か、機械を操作しながら問いかけて来た。
「俺の事、覚えてるか?」
 何となく、見覚えがあった。
 男で、良い尻をしていた。
 ……ああ。かなり前、俺が犯してそのまま放置した奴だった。
「ま、後で詳しく話すよ。B.O.Wにしては言葉が通じる事も知ってる」
 そう言って、車が発進した。
 距離は離れていくのに首輪は何故か、うんともすんとも言わなかった。

 車を走らせながら、人間がぽつぽつと喋り始める。
「まさかこんな上手く行くとはなー。運が良かった」
 俺にとっては、運が良いのか悪いのか。
「俺はな、ずーーっと微妙な気持ちだったんだ。
 ずっとな、お前に犯されてから。
 お前にケツを犯されたから俺は助かった。
 何だよそれ。本当に、それで俺は他の組織の奴等が全員死んだ後に、初めてケツを犯されて生き延びたって、訳分からねえよ。
 本当にな。
 もう見れないと思ってた朝日を拝んだよ。ケツからドロドロとしたものが垂れていくのを感じながらな!
 仲の良い奴も悪い奴も、俺を除いて全員死んだけどさ、もうそんな事どうでも良かったよ!
 どう思えば良いのかすら分かんなかったんだよ、俺は!
 生き延びたのは確かに良い事だけどさあ、それに抜けるに抜けられなくなっていた俺の属していた組織から抜けられたのも良い事だったけどさあ、それでもなあ、ケツを犯されて生き延びたって訳分からねえよ。
 どうにかまた食い扶持を見つけて新しい生活も送れるようになったけどさあ、いつまで経っても、そのどう扱ったら良いか分からないもやもやした気持ちが消えねえんだよ」
 それで、何故俺を攫った。
 微かに動く目で鏡ごしに顔を見ていると、その訳分からなそうな顔で言って来た。
「そのもやもやとした気持ちに踏ん切りをつけるには、お前を捕まえてどうにかしなきゃいけなかったんだ。
 お前と対面しなきゃいけなかったんだ。
 殺すにせよ、自由にさせるにせよ、何にせよ、まだこれからお前をどうするか、俺も分かっていないし」
 水を飲んで、それからその自分が昔犯して放った人間は、黙った。

 暫くすると、指先から、ほんの少しずつ体が動くようになってきた。
「動けるようになっても、抵抗はすんなよ。
 お前はもう、俺のモノだ。首輪の所有権は俺にあるし、俺から少しでも離れるか、俺を殺すかしたら首輪は爆発するように設定し直した」
 はあ。首輪が爆発しないと思ったのに、結局のところは変わらないのか。
 この男に身を任せるしか無い訳だ。
 寝がえりを打って、隠れているケツを想像した。突っ込みたい。
 ムクムクと自分のでかいソレがそそり立って来た。
「ここで抜くなよ」
 呆れた声だった。
 そういや、自分の手で最後に抜いたのはどの位前だったか。
 我慢する事もいつ振りだったか。

 町が近付いて来る。そこに置いてある分厚い布で身を隠せと言われた。
 ばれたら死ぬからな、と。
 身動きもするなよ、と。
 車を止めている余裕も余り無いんだと言いつつも、自分が顔だけ出していると、車の速度を落としてさっさと隠れろと言われた。
 今は自分を殺したくはないようだった。
 今は。
 暫くして、多くの人の声が聞こえて来た。
 こんな、怯えても興奮してもない、ただの普通の声がこんなにも入り混じっているのは初めてかもしれない。
「絶対に体の一部も出すなよ。B.O.Wが居るって分かった時点でお前、すぐに蜂の巣だからな」
 自分は、生物"兵器"だ。
 その意味を今改めて実感していた。
 人の騒音。初めて聞くそれは、騒がしく、結構耳障りだった。でも、聞こえる数からして、かなりの人間がこの車の周りには居るらしかった。
 それは恐怖でもあった。たった俺だけで、こんな所まで連れて来られてしまった。
 
 暫くして、車が暗い場所に入った。ガラガラと、シャッターが閉まる音がした。
 そのまま隠れていると、車の後ろが開いて出された。
「……よくもまあ、こんなもの突っ込まれたもんだ」
 自分のソレはまだ少しはみ出していた。
 手で機械を弄りながら、人間は聞いて来た。
 ケツを眺めていると、機械を見せびらかして、爆発させるぞと言って来た。
 目を逸らした。ああ、犯したい。
 眺めている間に首輪を人間に押し当てれば良かった。
 まあ、そうした所でその後何にもならないが。
 殺すと脅しても、主導権はあくまで機械を弄れる人間の方にある。自分が機械を奪っても、首輪を外せはしない。
「お前、文字は読めるのか?」
 いや、と首を振る。
「まあ、嘘吐いてるかは分からないんだが……」
 はぁ、と人間は息を吐いて言った。
「連れて来たものの、結局どうすりゃ良いのか分からないな……」
 椅子に座って、何もする事が無い自分をじろじろ眺めて来た。
「良く分からないな……」
 何度も溜息を吐いて、何度も似たような言葉を呟いて、暫くしてから人間は立ち上がって言った。
「前の環境がどうだったかは知らんが、飯は出してやる。排泄も汚されたら嫌だから適当に用意してやる。
 で、声を出したりして不審に思われて、お前の正体がばれたら死ぬからな。
 そしてまた、この場所から出たり、俺を殺したりしても死ぬからな。そのように設定した。
 じゃあ、一旦俺は自分の部屋に戻るわ」
 そう言って、扉の先へ出て行った。
 ……俺も良く分からねえよ。
 結局、俺はどうなったんだ? 組織から気付いたら逃げられていたのか?
 俺はこれからどうなるんだ? あの男の気が済んだら殺されるのか? 殺されないのか?
 分かった事と言えば、もうこれからは戦わされる事もなく、そして同時に、これからは人間を犯す事も出来そうにない事だった。
 前の方が良かったかな……。戦わされるとは言え、それ以外の時は好きに犯せたし。
 親しい奴もそこそこ居たし。
 うーん…………。



実際、同じ目に遭ったとしたらどういう気持ちになるのか訳が分からない。
後、その人間は都合よくT-ウイルスに対して耐性を持ってるか、それとも突っ込まれた量が少なくてゾンビにはならなかったかは、大して決めてない。