生物兵器の夢   作:ムラムリ
<< 前の話 次の話 >>

20 / 37
19. 殲滅ミッション 7

 途中で振り向くと、さっきより走る速さが速くなっている気がした。追いつかれはしないが、距離も離せない。
 さっきは明らかにこっちの方が速かったのに。
 いや、体型が変わっている? 微妙にそんな気がした。
 片目が攻撃したGは、まだ来ていない。曲がり角を曲がると仲間の死体が複数あった。近くには壊れた機関銃。人間の死体は、無い。
 多分、注射器を打たれてから、殺して、そしてバラバラにしないで放置したんだろう。
 誰だ、この階層を攻めた同期は。
 あんまり責められないが。
 爆弾を転がしてGを転ばせ、その内に仲間の死体から爆弾を補充する。
 片目がその間に追撃を仕掛けようとして、止めさせた。この距離感で丁度良い。Gが起き上がりつつあるのを見て階段へ走ろうと思ったその時、その遠く後ろからもう一体のGが飛び出してきた。
 ……?
 何か、形が違うような。いや、四つ足?
 いや、速い! 明らかに自分達の足より速い!
 爆弾を投げ、また爆弾を補充してから階段へ走る。とにかく、階段室まで行けば良い。そこから先の事は、また考えれば良い。もう一つ曲がり角を曲がれば、階段室が見えて来る。
 後ろから、何かを踏み潰した音が聞こえた。
 四つ足のGが二つ足のGを強引に追い越したのだろう。
 階段室に着く頃にはもう、その四つ足のGが曲がり角から走って来るのが見えて来ていた。

 階段を一気に登る。疲労からか、足がもつれて転んだ。片目がすぐに腕を掴んで起き上がらせ、そのまま背負って上って行った。
 一階分上がった所で狭い階段室の扉に強い衝撃が走った。片目がよろけ、自分も背中から降りた。
 衝撃が二度、三度と鳴り、そして扉ごと壁が打ち破られた。
 ガラガラと瓦礫が崩れ落ちる音。何なんだ、本当にあれは!
 G-ウイルスを打ち込むだけでただの人間があんな風になるってどういう事だ!
 タイラントは、改良に改良を重ねてああなった、って言うのは何となく分かる。自分達だって人間とトカゲを組み合わせただけじゃなく、それ以外に色々とされて作られた生物だ。
 でも、ただ注射を打ち込むだけでああなる、ってどういう事だ本当に!
 もう一階分上り始めた所で、更に激しい衝撃が足元を襲った。
 何だ今度は!
 みし、と階段に皹が入っていた。
 嘘だろ? もう一度衝撃が来て、急いで階段を駆け上る。
 激しい衝撃がまた体を襲った。前に転び、どうにか転げ落ちる事だけは防いだ。
 三度目にして、階段が崩れた。壁に爪を突き刺して、階段を壊しながらその四つ足のGが這い上って来る。
 衝撃に襲われながら、どうにかしてまた階段を這い上がる。最後、一階分。
 這い上がってでも登らなければ、という所で衝撃が直に腹を襲った。一瞬、体が浮いた。
 胃液を吐いた。肋骨が階段と共にミシミシと音を立てた。息が苦しい。
 でも、まだ動ける。どうにか、何とか。
 片目に起こされる。片目も口から胃液を吐き出していた。
 咳き込みながら、爆弾を取り出した。
 どうにか立ち上がって、また上る。二度目の衝撃が体を襲う。足がびりびりと響く。転びそうになるのを片目と支え合って堪える。何度も銃弾を受けた足の骨が痛みを訴えた。片目と爆弾を構えた。
 三度目、階段が壊れてそこに爆弾を投げた。
 階段の隅に隠れて、爆弾が爆発した。
 耳が聞こえなくなる。今日は何度聞こえなくなったか。ずん、と衝撃が響く。
 それは、耳が聞こえなくても、Gが地面まで落ちた音だと分かった。階段を上り切って、口を拭った。
 流石に片目にも、余裕は無かった。

 聴力が戻り始めて来た。
 呼吸を整えている最中にもう、後ろからまた衝撃が聞こえて来ていた。
 曲がり角まで軽く走り、背後から衝撃が軽く響いて来る。体力はもう、危なかった。
 血肉を食おうが、甘い水を飲もうが、体は疲労を訴えていた。
 疲れていた。頭も体ももう、最善の動きはしてくれない気がした。
 それでも、まだ終わっていない。終わってはいけない。
 背後から階段を破壊してGが姿を現した。また、さっきと見た形と違う気がした。
 とにかく時間が経るにつれて、禍々しくなっているような。
 ……生物としての何かが無いと思った時の、その何かが今、分かった。
 それは、安定だった。途中でやや変異したタイラントでさえ、生物としての安定はあった。どこか、根幹となる部分があった。
 このGには、それが全く無かった。足の速さが変わった。二足から四足になった。禍々しくなっている。
 一定の姿を全く取っていなかった。常に、状況に禍々しく適応している。
 そして、そのGの目的は、自分達を殺す事だった。本当に、本当の意味で体の底から自分達ハンターを殺そうとしていた。
 ……普通の爆弾は自分は二つ。片目は一つ。煙幕が自分が一つ、片目が二つ。
 補充はもう出来ないだろう。この階で死んだ仲間は少ないだろうし。
 Gが階段室の扉を破壊して出て来て、自分と片目を見止めた。
 走り始めた。
 二度曲がって、そして長い直線を走り、また曲がって少しすれば表に出られる。自分達のミッションは終わる。
 問題は長い直線だった。明らかにもう、Gの方が速い。
 そこを爆弾計三つで乗り切れるかが問題だった。
 四つ足じゃ、転ばせられるかも分からない。
 走って曲がる。呼吸がすぐに荒くなる。それでも走らなければいけなかった。
 後ろから禍々しい足音が迫って来る。壁に激突して、そして曲がって来る。
 激突したのに全く痛みを感じずにそのまま走って来る。激突してまた走り直してくるのに、距離が縮められている。
 曲がった直後に爆弾を投げた。一瞬怯んだだけだった。
 そしてそのまま、長い直線に入った。間合いはもう、余り無い。
 それなのに、最後の直線は絶望的に長かった。
 が、その先には機関銃を構えている人間と、爆弾の束を持っている人間が居た。
「脇に寄れ!」
 唐突に聞こえたその声にすぐさま片目と自分が反応した。脇に寄ってGがまた壁に激突した瞬間、すぐ隣を機関銃の嵐が襲った。
 自分も最後の爆弾を一つ投げ、そしてまた走る。
 機関銃を浴びながらも、Gは吼えた。びりびりと空気そのものも震わせながら、血を弾丸を受けた分だけ流しながらも、こっちへ向かって来た。
 けれど、明らかに速度は落ちていた。
「さっさとこっちに来い! 特大を食らわせてやれねえじゃねえか!」
 そう言って機関銃の隣に立つ人間は、その爆弾の束を上に掲げていた。
 慎重に、機関銃を食らわないように走り、そして纏められた爆弾が投げられた。
 その人間の背後に階段を上って来た、もう一体の、二足のGが居た。
「伏せ」
 強大な腕が、振り下ろされた。
「びょっ」
 潰されて、血の詰まった皮袋が破裂したかのように血がはじけ飛んだ。
「えっ?」
 機関銃を操っていた人間が振り向いた時、その上には同じように、腕があった。
 片目と自分が伏せて、大爆発が背後で起こった。

 肉塊と血が弾け飛んで来る。後ろで瓦礫が崩れる音がした。照明が衝撃で一気に切れた。
 爆弾の欠片やその四つ足のGに撃ち込まれた弾丸もぶつかってきた。
 よろめきながら何とか立ち上がる。互いに肩を支えながら、何とか。
 耳は全く聞こえない。キィィンと鳴っているだけだ。
 そして、夜目で微かに見える先からは、二足のGが歩いてやってきた。
 背後の瓦礫は、明らかに動いていた。
 また、挟み撃ちだった。
 ここをやり過ごせれば終わりなのに。
 ……Gに夜目はあるのか? それも分からない。
 その時、片目が爆弾を保持する為に身に付けていたプロテクターを外して、最後の、普通の爆弾を一つだけ持って、後は自分に渡した。
 そして、包帯も千切って捨て、姿を掻き消した。
 二足のGが、立ち止った。
 夜目はあるようだった。
 そして、唐突にGの足から血が噴き出した。Gが爪を振り回した時にはもう、その範囲には居ない。続けて腕から血が出て、肩の目にまた、爆弾が突き刺さる。今度は、片目は、爆発のタイミングを間違えなかった。
 Gの背後に姿を現した片目が着地した直後、目玉は爆発した。二足のGが膝から崩れ落ちた。
 それから、背後の瓦礫を見返した。
 それも、うぞうぞと動くだけで、これ以上の脅威になって迫って来る様子は今の所、見当たらなかった。
 早く逃げるに限るな。
 先へ走り、置き土産に、残った煙幕の爆弾全てを置いて、最後の曲がり角を曲がった。
 煙幕の弱い爆風でさえもよろめいてしまい、片目が支えてくれた。

 広間まで戻って、倒れかけた所を片目にとうとう背負われて、人間達と仲間達が待っている所へ戻った。
 片目も自分もまず、人間達によって丹念にこびりついた血と肉片を洗い流された。
 それから痩身と能天気が、甘い水を飲ませてくれた。とても安堵してすぐにでも眠りたくなった。
 でも、Gの最期は見ておきたかった。
 この中に入り直したのは、時間としては短い時間だったろう。
 自分の役割は、単なる生物兵器以上の存在としての役割は、果たした。それなりの価値もあるだろう。その成果の結果を見ておきたかった。
 体を何とか起こして、暫くするとその先からGがまず一体、やって来た。ついさっき目玉を潰されて、同じように四つ足になっていた。
 入って来た途端に、数多の機関銃によって肉片にされていく。
 Gは吼えたが、ただそれだけだった。
 身動きさえさせて貰えないまま、手榴弾の塊を沢山投げ入れられて、その肉片は全て血煙と化した。
 そしてまた暫くして、どろどろのもう、生物とも言えない何かと化した、最後のGがやってきた。
 同じく弾丸を数多に浴びせられ、爆弾によって血煙と化した。
 ああ、本当に終わったのか、と思う。
 自分は疲れ果てていた。生き延びて、戻って来られた事に安堵して、気を抜けば、すぐに眠りそうだった。
 いっそのこと、もうここで眠ってしまおうか。
 そう思った時、人間が一人やって来た。
 自分が、ファルファレルロ達と戦わせた男を殺したんじゃないかと疑っていた男だった。
「……良くやった」
 それだけ言って、去って行った。
 最後の枷が外れたように、膝が力を失った。
 もう、眠る事にした。
 片目に支えられるのが、最後の記憶だった。
 ……結局、片目に支えられっぱなしだったな。



と言う訳で、一番長くなった殲滅ミッションお終い。
タイラント戦書いた時は、これ以上熱く出来るんかな、って思ったけど、そう出来たのかなあ。