生物兵器の夢   作:ムラムリ

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2. 休息

 トラックが止まり、目を覚ます。体をゆっくりと起こすと同時にトラックの扉が開き、そこはもう室内だった。

 檻の鍵が貧相な身なりをした人によって恐る恐る開けられ、そして開けた途端にすぐ逃げた。

 自分達に怯えて逃げるその様は、いつ見ても体が疼くほどに襲いたくなる。首輪さえ無ければ扉を弾き飛ばして追い、首を刈り取っているだろう。

 実際それをした奴が居るが、威嚇射撃をされて立ち止まざるを得なかった。

 トラックから出て、目の前にはまた新たな檻がある。建物の地下へ、その檻に入って連れていかれる。

 その両隣には、自分達の首輪を爆発させられる装置を持った人間と、それから強力な銃器を持った沢山の人間。

 身を隠せる物はトラック以外何も無い。外への道には強固なシャッターが閉まっている。

 逃げられる見込みは一つも無い。

 疲れももう余り無い体をのっそりと動かして、新しい檻の中に入った。新入り達も、困惑しながらそれに従っていく。

 勝てない事も、逃げられない事も、この状況でははっきりとし過ぎている。

 戦闘に連携がまだ取れず、銃器の前にも簡単に身を晒してしまう程に知性が成長していなくても、だ。

 それでも抵抗する奴も偶に居るが、そういう奴は襲い掛かる前に銃殺されていた。

 全て、首輪の爆発ではなく、銃殺だった。

 その理由は分かっていない。

 新入りも含めて全員が入った所で、檻が閉まり、睡眠ガスを噴射された。暴れる新入りもすぐに静かになった。

 意識が落ちようとする直前に、檻を別の車が牽引し始めた。

 

 気付いた時には、いつもの檻の中に居た。いつもの仲間と共に。

 それぞれ三、四体ずつ入れられた、檻の中。飯として豚の太い足が三本置いてあり、それをそれぞれ、先に起きた二体は食べていた。

 傷を受けた部分には、変な臭いのするものが塗りつけられている。最初、舐めとっていると、傷の治りを早くするものだと窘められたものだった。

 肉を食い終え、隅の粗末な砂場で排泄も済ませ、蛇口から水を飲むと、もうする事は殆ど無い。

 色欲狂いの方からは、相変わらず人間の悲鳴が聞こえて来る。直接は見れないが、やってる事は見なくても分かる。

 支配している人間達が面白がって、どこかから連れて来た人間を色欲狂いが居る檻に放り込んだらしい。

 色欲狂い以外も含めて、全員で精が尽き果てるまで犯している。

 自分達の所にも人間が放り込まれた事があるが、仲間が犯す事も無く殺してそれっきりだった。

 その仲間に対しては、今でも少し恨んでいる。数少ない娯楽が増える機会だったのに。

 悲鳴は、その内くぐもって聞こえなくなる。

 ただ、犯しまくっても、その結果何も起こらない事も、その事実を聞いていなくても分かっているだろう。

 檻の外を歩く人間達の会話で、それを聞いた。

 作られた生物としての自分達には、生殖能力が殆ど無い。

 生殖器があろうとも、雌が居ようとも、子が生まれる事は稀にしかない。ましてや、その人間が半分程、自分達の元であっても、人間を犯して子が生まれる事は断じて無い。

 それを聞いた時には、理由も無く、とにかく落ち込んだものだった。

 

 適当に置かれた玩具は、人間達が先に遊んで飽きたものが多いらしい。

 その中の一つを自分は気に入っていた。

 一つの面に九つの色があり、その色の列を回転させて、面それぞれの色を揃えていく玩具。

 最初、回せるらしい、としか分からずに檻の外に投げ出した時、それを拾った人間が目の前で瞬時に全ての面の色を揃えて見せた時には素直に驚いた。

 その後、一つの面の揃え方を教えてくれた人間も居る。

 結局のところ、退屈を凌ぐには首輪で支配している人間に頼るしか無かった。

 これのお蔭で、退屈はかなり凌げているし、頭が鮮明になっていっているのも何となく感じている。

 もし、首輪を外せて檻の外から出られたとしても、その教えてくれた人間に対しては銃器を向けられない限り自分からは殺さない事にしていた。

 今では、二面まで揃えられるようになっている。

 この爪で傷だらけになっているが、今はもう、傷つけずに回せる。

 出来る事と言えば、檻の中の他の仲間が弄っている物で遊んだり、仲間同士で慰め合ったり。時々来る人間の会話に耳を済ませたり、その程度だった。

 

 偶に、別の場所に連れていかれる事があったりする。

 完全に体を拘束された上で、首輪を一度外された事があった。壊れていないかのチェックだったらしい。

 外に連れて行かれて、何を命じられる事も無く、ただ荒地で過ごした事もあった。ずっと閉じ込められている苛立ちを解消する為だったらしい。

 新入りだけが連れて行かれて、そのまま帰って来なかった事もあった。

 そして傷も癒えた頃の今回は、そのどれとも違った。

 まともな身なりをした人間が、怯える事無く、そして自分達にガスも掛けずに扉の鍵を開けて、自分に指さして出るように言った。

「No.27。出ろ」

 檻から出て、近寄ってもそう怖がる事が無い。背も普通に向けて、次々とその、言葉も理解出来る古くからの仲間が出て来た。

 途中、呼ばれていない、中堅の仲間が檻から出て、その人間に襲い掛かった。

 その人間は素早く銃を抜き、爪が届く前に弾丸を二発、的確に頭と胸に当てた。

「お前等は賢いし強い。俺を殺せるとしても、その結果は分かっているよな?」

 そう言って、地に伏したその仲間を蹴った。

 

 計、七体。

 No.1、6、7、10、13、21、27。

 古くから居る仲間の全員ではなく、その中でも、自分と同等以上の強さ、そして賢さを持つ仲間が出されていた。

 No.13、色欲狂いのソレは、相変わらず突き立って、精液も垂れていた。

「付いて来い」

 何が起こるのだろう。

 不安もあったが、それでも半分、思考は冷めていた。

 逃げられない事には全く、いつでも変わりない。




No.13:

色欲狂い
No.27(主人公)と同じく最も古くから生き延びているハンターの一体。
人間なら男でも女でも別に良いから犯す奴。同族と慰め合うよりそっちの方が好き。
現状は受け入れている。
生き延びてさえいれば、結構犯せるからいいや、という感じ。
殺戮の命令を受けても、気に入った獲物は勿体ないからこっそり生かして帰る。

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