生物兵器の夢   作:ムラムリ

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18. 殲滅ミッション 6

 Gとは一体何なのか。

 T-ウイルスより危険なウイルス。単純にその言葉が意味するのは、恐ろしい事ばかりだ。

 タイラントより強い生物兵器かもしれない。ただそれだけで、今、自分が置かれている状況が危険過ぎると分かる。

 そして、自分の身に打ち込まれたら、ただじゃすまない。

 T-アビスは、何故自分達の身に受けても死んだり、人間がT-ウイルスを受けた時に大半がなるゾンビのようなものになったりせず、ただ強化されたのか。

 それは、T-アビスというウイルスがT-ウイルスを利用されて作られた、らしいものだからだろう。

 自分達はT-ウイルスを利用して、人間とトカゲを強引に組み合わせて作られた生物だ。

 だから、T-ウイルスを利用して作られたT-アビスにも、馴染めたのかもしれない。

 ただ、G-ウイルスは、Tという言葉すら無い。

 身に受けた時、死ぬだけなら余程良いだろう。自分が自我を失いタイラントより強力な化物になって仲間を襲う、そんな事もあり得た。

 ……やる事は単純だ。

 そのGを見つけたら、攻撃を躱し続けてあの場所まで誘導しながら逃げれば良い。

 ただ、それがどれだけ難しいのか、Gという生物がどういう形をしているのか、それが全く分からない。

 

 この階層の地図は頭に大体入っていた。一本道で背後を取られたら逃げ場が無い、という場所もそこそこあった。

 ただ、突き当りには何かしらの部屋がある。そこで何とかなるだろう。

 T字路を何度か通り、窓から部屋も何度か眺める。

 食事をするらしき場所。腹も減り気味だ。人間の食い物は大抵美味いんだが、今はそんな余裕もない。

 あったのは人間の死体と、穴が開いて中身が垂れている缶詰少しだけだった。

 血の付いた足跡が見つかった。

 人間の靴の足跡が大半で、その中に一つだけ、変な足跡があった。

 ……いや、多分これはGの足跡だ。

 大きさからして、タイラントと同じ位か、……それ以上。

 自分が、恐怖しているのは間違いなかった。

 その足跡を、慎重に辿って行く。

 段々薄くなり、そして、G自体を見つける前に足跡は消えてしまった。

 目の前には、そのGにやられた仲間の死体。

 思い直して、その仲間の死体から爆弾を一つ取っておいた。もうプロテクターに保持は出来ないが、手に一つだけ持っておこう。

 どく、どく、と自分の心臓の音が聞こえる。

 体の軋みが分かる。鱗が剥がれた部分が張り詰めた空気に晒されて、乾いている。

 先のT字路から、何かがやってきて一瞬驚いた。

 ……痩身だった。驚かすなよ。

 痩身が自分に気付き、更に何かに気付いた。

 そして、思い切り叫んだ。

 …………うし、ろ。

 一瞬の硬直。後ろを見ないままに自分は前へ、痩身へと走った。

 おぞましい咆哮が聞こえた。まるで、体の芯から震え上がらせるような、何者でも殺すと言うような確固とした殺意。

 痩身が爆弾を取り出し、自分の後ろへと投げた。自分も持っていた爆弾をそのまま落として走った。

 ガリガリと爪で壁を抉りながら巨大な足音で迫って来るのが聞こえる。

 曲がり角へ逃げ、爆発が起きた。ズン、と体が倒れた音が聞こえた。

 走って距離を取り、振り返る。

 煙の中から、曲がり角から姿を現したそのGという生物は、正しく異形だった。

 人間が基なのは間違いない。異形とは言え、その人間の形を残していた。

 けれど、今まで見て来たT-ウイルス等で作られた生物は、色々おかしな所があれど、それでも普通に生きていると感じさせる何かがあった。

 脳みそが剥き出しになっている、リッカーと言う生物でさえもだ。タイラントと言う、あの生物兵器の完成体とも言われるものでもだ。

 それが、このGには無かった。

 Gの姿自体はタイラントに似ていた。心臓は剥き出しにはなっていないが両腕と両足はちゃんとあり、頭も普通だ。鋭利な爪をその両手に備えていた事自体にもそんなに驚きはしない。

 そのGが、生物と思わせる何かが無いと思った理由は、右肩が肥大化してそこに付いていた巨大な目玉だった。

 何の為にもあるように思えないそれは、ギョロギョロと辺りをしきりに見回していた。

 恐怖もあった。それ以上に、不気味だった。

 そして、その目玉が自分達を見止めると、走って来た。

 

 階段室へと走る。後ろからは強い足音が響いて来る。すぐに、階段の前の場所へ着いた。階段室の近くで見つけられた事は幸いだった。

 休憩所とも見えるその場所には、椅子や机が多く置かれていた。

 すぐに階段室へ向おうとし、そこでまた、不穏な足音が聞こえた。上からパラパラと埃が落ちて来る。背後からはGがやってくる。上からも振動が聞こえてくる。

 階段室に入るかどうか迷ったが、もう距離は無かった。

 階段の折り返しまで上り、上を覗いた。

 階上へと逃げる能天気と片目がぎりぎり見えた。そしてその後から似た形のGが入って来た。

 そのGは、上へと脳天気と片目を追う前に、自分を見止めてしまった。

 そして下からGが入って来た。上からのGは、能天気と片目を追う前に、こっちへ降りて来た。

 挟み撃ちにされた。

 ……嘘だろう?

 上から、下から、この狭い階段の折り返しへと、Gがやってくる。この狭い階段室であるのは爆弾のみ。

 逃げ場所は無い。扉も無い。壁を伝おうとも、Gの巨体では逃げられない。

 ヴルルルル、とおぞましい唸り声が、上から、下からやってくる。そのタイラント並の両腕に生えた爪が、巨大な目玉が迫って来る。

 爆弾を握った。痩身を上の階からやってくる方へ、自分は下の階からやってくる方へ。

 じわじわと、追い詰めるように歩いて来た。

 同士討ちも期待出来なかった。元々こうなるまで追い詰めたのは主に自分達ハンターだった。

 両方のGが爪を似たように大きく振りかぶった。ただの振り下ろしなら、躱すのは容易だ。若干の安堵を覚えた。

 ただ、上に行けるのは痩身だけだった。

 爆弾を置いて爪の振り下ろしを躱し、背後へ回った。

 上へ駆け上がっていく痩身が一瞬自分を見る。さっさと逃げろ。

 階段室から出た直後、爆発が起きて、階段が崩れた。

 自分だけ、最下層に取り残された。

 

 煙幕の爆弾を置いて一旦距離を取った。

 階段室からの粉塵も合わさって、煙はかなり多く立ち上っている。

 仲間の死体の場所まで行き、爆弾を補充した。普通の爆弾は二つ。煙幕の爆弾が一つ。

 もうその死体には爆弾は無かった。

 両方とも上に行ってくれていれば、もう後から出るだけなんだが……。

 ただ、そんな甘い希望は無かった。煙の中から出て来たのは、G、二体。爆弾を二つも爆発させたのに、ダメージを負った様には全く見えない。

 両方とも、上に行った三体よりも自分を優先して来た。

 崩れた階段を登れないからか? 階段は別の場所にもあるが、そこまで行かないといけないのか。

 そっちの階段からなら、もう登った後にすぐ人間達が居る場所に着けるのに。

 鼓動が激しかった。階段室からは、仲間達の叫びが聞こえて来ていた。

 けれどもそれには耳を傾ける程度で、G二体の意志は、別の階段を使う方に、そしてきっと、こっちへ逃げ込んだ自分を先に片付ける方に傾いている。

 協力するまでの素振りは見せていないが、全くG同士で敵対とかをする雰囲気は無かった。

 どうする、どうする? 人間は時間が無いと言っていた。

 多分、時間を掛け過ぎれば、ここに組織以外の誰かがやって来てしまうという事だ。

 悠長にやってられない。でも、ここに居るのはたった自分だけだ。

 出来る出来ないよりも、G二体に対して自分しか居ない事が恐怖で堪らなくなっていた。

 疲れからか、諦めたいというような感覚さえ湧き上がり始めているように思えた。

 その時だった。

 階段室から、より強く雄叫びが聞こえた。

 自分達の声とは少し違う、その声は片目だった。

 流石にそれにはG二体は振り向いた。その煙の中からいきなり姿を現した片目は、自分がかつてタイラントにやったように一体の肩の目玉に爆弾を突き刺し、反撃を食らう前にそのまま後ろへ跳んだ。

 直後、爆発が起きた。爆風の勢いで片目が着地し損ね、自分の足はもう走り出していた。

 片目を起こし、追撃を避けて一気に逃げ始める。

 片目が目玉を爆発させたGは倒れたまま、もう一体が追い掛けて来た。

 危険過ぎる状況だと言うのに、嬉しかった。そして少し、申し訳なさもあった。

 片目は、片目だった。




痩身:
ほぼ無傷。

片目:
片腕に貫通痕。でもそこまで重傷ではない。

紅:
足に貫通痕。重傷ではないが走れない。

能天気:
爆風に何度も巻き込まれ、銃弾の衝撃も数多く身に受けている。全身に打撲。

主人公:
能天気以上の回数の爆風、銃弾の衝撃を受けている。更に加えて木の幹ではないが、太い枝の下敷きになった。全身に打撲。更に骨には皹も入っているレベル。

色欲狂い:
至近距離からプロテクター越しとは言えショットガンを2度食らう。
肋骨を多数骨折し、走れない。戦闘も難しい。

悪食、古傷:
死亡。

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