生物兵器の夢   作:ムラムリ

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17. 殲滅ミッション 5

 途中、殺した人間をマスクを外して食べた。

 首から血を飲み、服を剥いで肉を食い。気持ちだけでも疲れが癒せれば良かった。

 血は飲んでいると、片目のようになった気分だった。肉を食い千切れば尚更だ。

 けれども、痛む全身は変わらず、疲れも変わらないまま。

 また走り始めなければいけなかった。

 

 片目達ファルファレルロは、もう身を隠していた場所から去っていた。死んだ古傷と人間ももうここには居ない。

 何故か、地面に焼け焦げた跡があった。

 森から出ると、死んだファルファレルロ達は燃やされていた。

 少しの間その光景に茫然していると、人間が近寄ってきて言った。

「悪く思うなよ。T-アビスが蔓延しちゃマズいんだ」

 ……。

 どう思えば良いのか分からなかった。

 片目が腕に包帯を巻いて、その火の近くで立ち尽くしていた。

 色欲狂いと紅はどうしたんだろうか。

「No.7とNo.13はもうトラックの中だ。あいつらは今日はもう無理だ。

 両方とも歩くだけで精一杯だったからな」

 それは助かった。

「それで、だな。一つ聞きたい事がある」

 自分とは目を合わせず、ただ炎を眺めながらその人間は聞いて来た。

「お前、殺したのか?」

 一瞬、どう反応すれば良いのか迷って、遅れが生じた。

 それから、何を? と言う感じに振り向いた。

 人間が、じっと、自分の顔を見て来た。

「…………いや、いい。どうせハンターの顔の表情なんて、俺達には分からねえし」

 人間を食ってから外しっぱなしだったマスクを被り直した。

 ……疑われているのか?

「それで、まだ戦えるのか? G-ウイルスとやらの化物が中で暴れている。

 あいつら、適合する人間を集めていたのか、それとも適合し易くしたのか、かなり多くの人間に配って逃げやがったんだ。

 放置して帰る訳にも、B.S.A.Aとかを呼ぶ訳にもいけねえし、ここで始末しなきゃいかん」

 戦えるのか? と聞かれて、戦えないとはもう答えられない。普通に走って来たし、それに殺したと疑われているなら、戦わない訳にはいかなかった。

 殺したと知られても、それ以上の価値を自分に作らなくてはいけなかった。

 身体を動かして、戦えると答えた。

 はっきり言って身体は動かす度に軋むし、疲れは全身にとても溜まっているが。

「で、粉微塵になるまでロケットランチャーでぶっ飛ばしたのは良いが、こっちの手持ちのロケットランチャーを撃ち尽くした後に、数体残っちまった」

 ドォン、と地下から音が聞こえて来た。

「で、お前達、No.1、No.6、No.10、No.27。命令だ。

 この入り口までこの化物を連れて来い。殺さなくて良い。ただ、逃げて連れて来ればいい。

 そうすれば、こっちが手榴弾やら残ってる兵器や奪った兵器で粉微塵にする。

 そして、今はお前等の次に数の小さいハンター達に誘導させているが、失敗して犠牲になった奴も居る。

 お前等で、連れて来い。悠長にあっちから来るのを待っている時間は余り無いんだ」

 ……この組織の自分達ハンターαと言う生物兵器に対する考え方は、最初とは違って来ていた。

 最初の頃は、沢山連れて、沢山死んで行った。その度に新しい仲間が補充された。

 けれど、自分達が何度も生き延び、高度な連携をするようになり、犠牲が減るようになった。そして今はこんなプロテクターまでを身に付けている。

 量より質を選ぶようになってきていた。

 片目がのっそりと歩いて、自分達に寄った。

 自分自身の事を確かめるように、静かに呼吸をしていた。

 …………片目は、片目だった。

 ファルファレルロになっても、闘争本能に塗り潰されようとする事があっても、片目は、片目だった。

 最も親しくしていた古傷が死んだ事を、最も失いたくなかったであろう仲間を失った事を、受け入れようとしていた。

 Gと言うB.O.Wがどれだけ危険なのかは分からない。

 けれど腕を射抜かれていても、片目は戦うつもりのようだった。

 一緒に、走り始める。

 後ろでぼそっと人間が言った。

「成果を見せろよ」

 ……自分の命を、殺した人間より重く出来るだろうか。

 

 最初にロケットランチャーで破壊され尽くされた場所は、今は血で染まっていた。そしてその血も、火炎放射器で焼き払われている最中だった。

 トラックの近くで、怯えている中堅が複数居た。護衛ミッションの時の人間が、良くやり切ったな、とそれぞれ頭を撫でて宥めていた。相当変わり者だと思う。

 やっと来たか、と言われ、随分と便利にされているんだな、と今更ながらに思う。

 甘い水を飲まされる。人間の血肉とは違く、心なしか体力が回復したような気がする。

 残っているのは後、二体。地図を見せられて、即座に現在地とGが居るであろう場所を把握させられる。

「分かってるよな? お前等なら」

 分かっている。地図は読める。行くべき場所も把握した。

 でも、ここが組織の場所からどの位離れているのか、この周りはどういう地形なのか、それは知らなかった。

 少し、指と喉で意志疎通をして、それぞれが行くべき場所を決める。

 自分の首輪が簡単に外せる事を教えてくれた人間は、もう既に死んでいるようだった。その人間の居た場所の近くには殺した事を示すようなマークがあった。それともう一つ、仲間達でバラバラにした人間の近くはあれ以降流石に何も起きていなかったようだった。何のマークも無かった。

 そして残っている二か所は、どっちもやや遠い。

「ああ、そうだ。プロテクターは外していくか? 死んだハンターは全員、プロテクターも役に立ってなかった。Gの肉体そのものの攻撃で、やられている」

 なら、外していこう。

 外すと、プロテクターで見えなかった体は痣だらけだった。鱗も多少剥がれている。

「……随分ボロボロだな、お前」

 それでも、動ける。走れない程の痛みは無い。それに、久々に全身のプロテクターを外したからか、身は軽い。

 爆弾を持ち運べる所のプロテクターだけは身に付けたまま、また、片目もそれだけ新たに身に着けた。

 普通の爆弾と、煙幕の爆弾を二つずつ貰った。

 ……戦わなければいけなかった。戦いの場へ向かわなければいけなかった。

 今、自分の命は危なかった。逃げようとも逃げなくとも。

 

 壊されて広くなった扉の先へ歩く。照明は所々壊され、最初に入った時よりも薄暗い。

 階段を皆と下り、先に片目と能天気と別れた。

 階段を更に下りていき、最も下に行ったところで広間に出る。最も奥深くに居るであろうそのGに対して、痩身と共に意識を張り詰めた。

 最もボロボロになっている自分が、奥深くの方へ行く。皆には反対されたけれども、自分の価値を示す為にはそうしなければいけなかった。

 分かれて、歩く。Gがどういう形をしているか分からない。このやや狭い通路で固まって歩いていたら、逃げる時に危険の方が多そうだった。

 呼吸を落ち着かせながら、ゆっくり歩く。

 先はT字路だった。

 …………何も音は聞こえない。

 足音も、何も。血の臭いはしたが。

 慎重に顔を出して、先を確認すると、叩き潰された仲間の死体があった。

 近付いてみれば、それは古参にかなり近い仲間だった。

 呼吸は自然と荒くなっていた。

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