生物兵器の夢   作:ムラムリ

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10. 休息

 トラックの揺れが一際大きくなった後、静かになる。

 廃墟を通り過ぎて、その中の基地に戻った。

 仲間達も人間達も徐々に目を覚まし始め、暫くするとトラックは完全に止まった。

 人間達が先に降り、組織の下っ端が鍵を開ける。慌てて逃げるのを、片目は強く我慢するように腕に力を込めながら、じっと見ていた。

 疲れた皆が別の檻にのっそりと入り、それから睡眠ガスを掛けられる。

 ここには新入りは居ない。誰もそう暴れたりする事は無かった。

 

 目が覚めて、片目と古傷が豚の足をいつも通り食べているのが目に入った。

 ……? 古傷の体色が片目と同じだ。

 首輪も無くなって、腹に縫い痕がある。

 えっ?

 自分の首に恐る恐る手をやった。首輪が……無い。

 自分の心臓が跳ねた。一気に焦りに体が持っていかれる。

 恐る恐る、自分の腹を見ないようにしながら、首に手を掛けた。

 ……首輪が無かった。

 自分の腹を見た。縫い痕があった。

 腕を見る。体色が緑色から青黒く変わっていた。蛇口の反射で顔を見る。やはり青黒くなっていた。

 嘘だ。

 片目と古傷が、豚肉を乱暴に食い千切っている。何も変わり無いように。

 嫌だ。逃げられなくなるのは、嫌だ。腹に埋め込まれたら、もう絶対に取り出せない。

 真っ暗になっていく。

 

 そこで目が覚めた。

 跳ね起きて、自分の首を真先に確認する。

 首には、いつも通り首輪の丸い感触があった。腹にも縫い痕は無く、体色も緑のままに変わらなかった。

 …………嫌な夢だった。本当に。

 首輪が嵌められている事に安堵するとは思わなかった。

 一番早く目が覚めたらしく、片目も古傷も目を覚ましていない。

 自分も含めて全員、無傷で、こうして目が覚めた後で軟膏の臭いが近くからしないのは珍しかった。

 無造作に置かれている肉を食っていると、片目と古傷が起きて同じく食べ始める。

 食い終えると、片目は水を多めに飲み、それからまた、寝始めた。

 古傷は少し悩んでいるような様子を見せながら握力を鍛えるものを握ったり、骨を弄ったりしていた。自分はルービックキューブをかちゃかちゃさせていた。

 気まずい感じだった。

 片目がまた寝たのは、自分が異質だからか。それとも変異した後では体力の消耗も違うのか。

 ファルファレルロに変異するのは、経験と学習を重ね、知性を持った自分達でも欠点が出る。知性自体は変わらなくとも、暴れたくなる。より多くの水を必要とする。

 それだけなのか、まだ知らない。逃げる際に本当にファルファレルロに変異する事が必要になったら、それについては知っておいた方が良い。

 

 暫くして、古傷が起き上がり、片目を起こした。

 片目はやや不機嫌そうに目を覚ましてから、指や動きで意志疎通をした。

 ……古傷はどうやら、自分もファルファレルロになると決めたようだった。

 それが分かると、片目は喜んで自分の腕を軽く傷つけ、血を舐めさせた。

 自分にも舐めるか? というように見せて来たが、拒否した。

 残念そうだった。

 少しすると、古傷は仰向けになって呼吸を荒くし、痛みに耐えるように体を丸めたり転がったり、せわしなく体を動かした。

 それから段々と落ち着いて行き、体の色が一気に変色していく。

 呼吸も落ち着いて行くと、疲れ切ったように寝始めた。

 片目はその様子を見届けると、嬉しそうに隣に寄り添って、寝た。

 古傷は、片目に倒されて、そして助けられた身だ。そして、今は片目にとっても古傷にとっても、どちらにとっても互いに大切な存在だった。

 こうなる事は当たり前だったのだろう。

 

 それから、人間に複数のハンター達が連れられて行き、中堅から自分達の代まで、少しずつがファルファレルロになった。新入りは一体も連れて行かれなかった。

 等しく首輪を外して腹に縫い痕を作り、体を青黒くして。安定してくると体も同じく少し大きくなっていた。

 体を慣れさせる為、そして自分達との比較の為に檻から出されて、動き回される事も増えた。

 中堅の三体、そして自分達の代では、古傷を含めると四体。片目、紅、そして悪食。

 力試しでは、力の弱かった雌の紅にも負けた。

 色欲狂いが紅に寄ると、紅が逆に押し倒していた。色欲狂いが暴れようとしても動けず、搾り取るだけ搾り取られると去って行った。

 色欲狂いは仰向けのまま茫然としていた。

 ファルファレルロになった者同士での戦いもあった。

 片目と古傷が、互いに透明になって、輪郭だけがぼんやりと見える中で戦っている。

 目を凝らしても、何が起こっているか分からない。

 傷が付いて来て、やっと分かって来る頃には、疲労して休憩を挟んでいた。

 体力の消耗も激しいらしいのは、確定に近かった。

 そして、姿を見せた状態でも片目は同期や中堅と戦った。

 早速もう、この前人間から学んだ事が生かせていた。同じファルファレルロの悪食に対して、振るわれた腕をそのまま勢いを利用して転ばせて、仰向けになった所を踏みつけた。飛び掛かって来た中堅に対してはそのまま投げ飛ばして檻に叩きつけた。

 そうして深い傷を与えていない所を見ると、大丈夫なような気もするが、新入りを見て爪を動かしているのを見てしまうと、我慢しているのがはっきりと分かった。

 紅も、悪食も、古傷も、そして中堅達も、入って間もない新入り達なら、と言うように獲物を見る目で見ている時があった。

 もし、それを実際にやってしまったらもう、お終いだった。多分、自分達に対する人間の警戒も強くなるとか、そういう事以上に、ファルファレルロ達が生物兵器そのものでも無くなってしまう。

 使えない存在として処分、殺されてしまう可能性だってあり得る気がした。

 その危機感をどうしようかと思っていると、扉が開いた。

 変なB.O.Wが大量に入って来た。

 物凄い細身で、骨ばかりのような形の生物。

 スピーカーが響いた。

「好きにしていいぞ」

 人間も危機感は持っていたらしい。

 ファルファレルロ達は一気に、そのB.O.W達に対して喜んで襲い掛かった。

 暫くは、骨の折れる音と、そのB.O.Wだけの悲鳴が沢山響いていた。




感想からアヌビスというB.O.Wを思い出して犠牲になってもらいました。
ちょっと次で自分の為にも情報の整理します。

後、日間15位及び、原作バイオハザードでの総合評価3位になっていました。
ありがとうございます。

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