どうして人は争うのだろう。言葉が違っても、文化が違ってもそこを許容して仲良くできないのだろうか。1つしかないなら分けあえばいい。自分の受けた被害しか覚えていない。皆同じ、こんなに綺麗な青い空の下で生きているのに……」
「何言ってんだよ。変な感傷に浸ってないで現実見ろって。それにここ屋内だから空見えないだろ」
「だって暇じゃん。朝のニュースで今日は天気だっていってたから外には青空広がってるって」
「こっからじゃ全然確認できないな」
「あとこんなことでも考えてないと気がかりで仕方ないんだって」
「別にお前は大丈夫だろうよ。問題なのは俺だ。中身大丈夫かな」
「まあお前の方がダメージ多そうだけどよ。だいたい俺ってダメになるの?」
「知らねーよ。自分のことだろ? ポン酢」
「そうだけどさー、ドレッシング。俺たち買われる前は常温じゃん? そう考えると問題ないのかな」
「でも開封後は早めにお使いください的なこと書かれてんじゃん。しかも賞味期限のところには未開封って添えてあるし」
「まあ、どちらにしろ今の状況がいいとは言えないなー」
「だな」
二人は今ポツンとテーブルの上に置かれている。室温はやや高め。
「まさか冷蔵庫に戻されるの忘れられるとはな」
「奥さんいつ頃帰ってくるかな?」
「さっき出たばっかだし、それにあれは手芸教室に行くっぽかったから昼過ぎまでは帰ってこないだろ」
「まじかー、あと三時間はあるな」
人気のない部屋にただポン酢とドレッシングが放置されれいるだけの光景。実際は時計が秒針の音しかしない。
「あれだな。お前も青じそ系だったらそんなに心配なかったのにな」
「ああ、あいにく俺は胡麻ドレッシング。現在進行形で中身の油が分離中だぜ。てかお前が朝御飯に出番ってのは珍しいな。ここの家の皆は目玉焼きに塩コショウ派だったろ」
「ふははは、お前はいつから俺が朝から出しっぱにされていると錯覚している? 実は昨日の夜からなんです…」
尻すぼみながらポン酢は言う。昨日の夕食で使われてそのまま一晩放置され今に至るのだ。
「そ、そうだったのか、どんまい」
「お前は出番多くていいよな。俺が来てからもう4回は生まれ変わってる」
「ここの子供達は野菜嫌いだからな。俺めちゃんこ使われるんだよ。あいつら野菜食ってるってより俺食ってるって言った方がいいんじゃないか?」
「さすがにそれは大袈裟だろ。盛りすぎだ」
「そうか?」
「ああ。俺は冬になれば結構出番あるんだがな」
「鍋か」
「そうそう。あれでいっきになくなるから。俺の輝ける時季」
「最近じゃ味付きの鍋の素みたいなのが流行ってるから前よりは減っただろ」
「やめろ! それを言うんじゃない、悲しくなる」
しばらく静寂が二人を包む。
「暇だな」
「だろ? だから平和についてでも考えとけって」
「んなことしてもつまんねーよ」
「あー、俺もマヨネーズやケチャップくらい使い勝手よかったらなー」
「そりゃ無理だろ。やつらら俺たち、冷蔵庫の扉の部分にいれて保存される協会の中で人気者ナンバーワンとツーじゃん」
「そういえば昨日また牛乳のやつが協会いれろってしつこく迫ってきた」
「またあいつか。あいつ飲み物じゃん、俺たちとジャンルが違う」
「やっぱ協会の名前がまずいのか?」
「でもうまく表現できなくね?もう(牛乳を除く)って後ろにつけるだけでいいだろ」
「ピンポイントだな」
またもしばしの沈黙。
「あー、暇だ」
「まじやることねー」
二人はここから奥さんが帰ってくるまでの三時間、沈黙とこの一言を繰り返し続けたのだった。
リビングに女性が入ってくる。ふとテーブルに目をやりはっとする。
「あら、しまい忘れてたわ。大丈夫かしら…。ま、大丈夫よね。今までも大丈夫だったし」
ポン酢とドレッシングは冷蔵庫に持っていかれ、扉のところに立てられる。パタンと閉まり冷蔵庫内は真っ暗になった。
「やっぱこの温度だよな。落ち着くわー」
「ああ、これでゆっくり寝れるな」
その日の晩、ドレッシングは空になり生まれ変わったのだった。また1つ、ポン酢は友達に置いていかれる。
シリーズ筆が進まねえ。こっちは軽くぺってできるのに。