柊 海都はルナに嫌われた。
そして、昔話を始めるタマ。
まだ私がこの世界にいない頃、妖怪の世界では色々と戦争が起こっていた。
あらゆる妖怪を操る日本の大妖怪の一人が、私たちのところへ攻めてきて、何人もの仲間を殺していった。
始まったとき、戦争の始まる引き金になったものも曖昧で、私たちは混乱していた。
そんなときに、私の先輩である妖狐はその妖怪の群生に一匹で突っ込んでいったわ。それが私の愛した妖狐だった。
彼は私よりも幻術が得意で、人間以外にもその幻を見せることができた。普通、自分よりも上の力を持つ、神や大妖怪には幻を見せることはできない。だが、彼にはできた。それに妖術の大半を使いこなすことができ、妖狐の中でも最強と言われていた。
そして彼は私に「ヤツの首を持ってくる」と言って、数日経ったとき、彼は有言実行したわ。
でも、彼は暗殺された。噂では同種と聞いたけど、ほとんどわからない。
私は今でも彼を殺した人間を探している・・・。
・・・て、話だけど・・・どう?
「・・・すまない、納得はできないな。だが、お前にも人間らしいところがあるのはわかった」
(人間らしいって・・・私は妖狐だけど)
「あと、一つだけ。人間に頭を下げたくないと思うが、俺に頭を下げてくれ」
俺は一度立ち止まると、その勢いで俺の身体から現れたタマを振り向かせた。
(わかった。でも、一つだけ言うわ。あのとき、私は自分のことをペットって言った。でも勘違いしないで、私は海都のペットじゃない)
「わかってるよ」
タマは深々と頭を下げた。タマの長い髪が顔の前に出る。顔は見えないが、反省しているのはわかった。
「ごめんなさい!」
そのとき、なぜか俺はタマの頭を撫でた。
「むぅ・・・やっぱり私のことをペットだと・・・」
「いや、これが最後だ。よし、それじゃあルナを、」
俺が頭から手を離し、タマの横を通りすぎたとき、目の前にはるルナの姿があった。
頬を膨らませたルナはこちらに来ると、俺の頬を殴った。ビンタ、と言えばいいのか、それはとても強力なものだった。
「やっぱり・・・やっぱりその狐妖怪とはそんな関係なんだ。頭撫でてもらっちゃってさ」
「そ、その・・・」
「・・・私も」
「へ?」
「私も撫でてよ、頭。」
思わず、俺は唖然としてしまう。どこかペットのようなかわいい部分もありながも、少し強いことを言うルナが自分からそんなことをい言うとは思ってもいなかった。
前は少しでも頭を触ろうとすると、プイッとその手を避け、頭を触られることを嫌っていた。
なのに、今はこの状況だ。
「撫でてくれたら許す」
遠くでルナの影から現れた男がこっちを見ている。
「・・・わ、わかった」
嫌がられていたことをする。ついにできると思うが、手は言うことを聞かない。
何かここで撫でたら負けな気がする。・・・とか、思いながらもルナの頭を触った。
すると、やっぱり嫌なのか、俺の顎目掛けて跳んできた。俺は顎に重たい一撃を喰らい、後ろに倒れた。
「これでおしまい。・・・行こ?」
「ぐぇ、やったな!」
それから数分間、ずっとじゃれていた。
それを見るタマやクロード。周りの眼など考えずに・・・。疲れ、飽きるまでずっと・・・
★
「今日からチームOに入った、赤井 ルナだ」
次の日の朝のホームルームで赤井 ルナの入団が発表された。俺はそれを監督に言っていたので、驚くことはなかったが、他は新人に驚き、そして喜んだ。
久しぶりに全員が揃ったホームルーム。
俺は喜ぶ四都野、キラ、雷帝の影で、静かにガッツポーズをするオルガを見た。
「よ、よろしくお願いします」
「俺はキラ、よろしく!」「私は四都野 !」「雷帝だ!」
順々に自己紹介が続くなか、オルガだけは違うことを言い出した。
「その剣は何だ?」
真面目な声のオルガと、「お前空気ぶち壊してんじゃねぇぞ!」と言いたそうな眼でオルガを見るキラと四都野。
そして沈黙のルナ。
「オルガ、その剣に見覚えがあるのか?」
そして沈黙を切り開く雷帝。二人の視線は雷帝の方へ向けられる。
「あぁ。だが、どこで見たかは覚えていない。恐らく武器を使う能力者で調べれば出るとは思うが・・・」
「まぁ、そんなこといいじゃねぇか!これでやっと、チームOとして戦場に出られるんだからな」
「・・・わかった。歓迎する」
オルガは目をつぶると、机の上に置かれた分厚い本を読み始めた。
ルナはオルガの視線から逃れることができ、安心をするが、
「ただし、少しでもその武器についてわかったことがあれば、すぐにでも尋問する」
「は、はい・・・」
すぐに釘を打たれてしまった。
ルナは俺の前の席に座ると、剣を机の脇に置いた。
(この子には私の姿が見えるんだよね?他の人間には見えないみたいだけど)
タマの姿は俺とルナ以外の人間には見えない。
ルナの隣に立っているクロードの姿も。
(おい、狐。お前はこの人間をどう思っている?)
(可愛い少年・・・て感じかな?そういう君はどうなんだ?こんな可愛い女をまさか、食いモンとでも思っているのかい?)
(馬鹿馬鹿しい。俺はルナのことを受け継ぐも者だと思っている。俺の目標、そして俺の意志を受け継ぐ者と)
(それはそれは、すまなかったね)
「柊、ちょっといいか?」
二つの霊が話しているのを見ていると、オルガが話しかけてきた。
やっぱりルナの剣が気になっているのか、近付いたとき、チラッとけ剣を見た。
「今日のメニューだが、新人のルナと共に雷帝と練習をしてくれ。雷帝が少しでも逃げたり、酒を飲み始めたら俺や監督に言ってくれ」
「了解。・・・で、場所はどこですか?」
「寮の近くに、能力者専用の公園がある。今日、あのトレーニングルームは少し修理中だからね」
話によると、昨日の雷帝とアキネの戦闘によって(ほとんど雷帝が原因)壁や天井の電気配線が壊れてしまったらしい。
「それでは、今日も頑張っていこう」
公園にて・・・
学校の寮から徒歩3分のところにある公園で、ここでは能力者が日々、外の空気を吸いながら鍛練している。
そして、
「ふあぁあ~~。ったく、あくびが出るぜ」
雷帝はあくびをしながら公園に現れた。
すでに準備体操を終えて、俺はタマの能力を発動した状態で、ルナは剣を構えて、雷帝が準備をするのを待っていた。
「お願いします。」
「お、いいね~、ルナちゃん」
「どこからでも、お願いします。訓練にならないんで」
雷帝は腕を組むと指示を出した。
「今日のメニューだが、俺の聞いたのはお前らの練習に付き合うことだ。どんな攻撃でもいいから、俺に攻撃してみろ」
格闘ゲームでよくあるチュートリアルのような指示。
正直、俺たちは自信を持っていた。
「「お願いします。」」
「おう!どっからでもかかってこい!」
雷帝は腕組みをやめると、俺たちの攻撃を防いだ。右から来た俺の拳、左から来たルナの剣を手のひらでハエを払うように防ぐと、次の攻撃を避け、その次の攻撃で、俺たちの利き腕を掴んだ。
「なかなかの攻撃だ。だが、やっぱりオルガとキラには負けるな。アイツらは仲悪くても、戦闘ではシンクロして攻撃してくんだよ」
そう言いながらも、俺の左腕の攻撃を避けた。もう、防ぎ手がない。そんな状態も完全に避ける。
「この人、強い」
「さぁ、始まったばかりだぜ。シンクロしてこいよ。お互いの心を合わせて!」
シンクロと言うが、何をすればいいのかわからない。今はここだ!と思う場所に攻撃をするだけ。他はどうしようもない。
その考えは素人の俺らだから思うことなのか?
「お前らの関係は聞かなくてもわかっているぜ。さぁ、まだ練習は始まったばっかりだぜ!」
それから一時間、俺たちは攻撃を繰り返したが、雷帝に攻撃が届くことはなかった。
そして、雷帝は酒を飲み始めてしまった。
★
その頃のオルガは監督から渡された紙を見て、前髪をかきあげ、ため息をついていた。
「始まるのか・・・」
オルガの持つ紙には、屋外授業と書かれていた。