ルナはチームZの実験施設(専用保健室)から逃げ出した。
そして雷帝とアキネの対決が今、始まろうとしている。
雷帝とアキネの戦いが今始まろうとしている。
いつの間にか、周りには見物人が増え、盛り上がりを見せていた。
その中の九割はチームAの人間で、ざっと見た感じ、50人以上は絶対にいる。
「この量の観客・・・アキネ、何かやったのか?」
「どうせ、新聞部やら写真部やらが情報をバラまいたんじゃないの?私の能力では人間をこんな人数持ってくることはできないわ」
「四津野さん、アキネの能力って何ですか?」
「んー、敬語とその呼びはやめてくれよ、私は四津野でいい。それとその固ッ苦しい敬語もな」
「・・・じゃあ、四津野」
「うん、それでいい。」
「・・・」
能力者というのは変わり者が多いのか?
「アキネの能力って?」
「アキネの能力は空間を操る能力。特にぬるい攻撃はあの能力の前では無力、すぐにどこか知らないところにとばされてしまう。刀や拳みたいは物理攻撃してみろ~、そこだけ消されてしまうから」
「なるほど」
俺や四津野はまず無力だ。それにもしも、俺の予想が正しければ、最強の防御能力かもしれない。
(あの空間で能力を吸い込み、他の空間に移動させれば、まずあの娘に攻撃が当たることはない)
タマの言う通り、銃弾やキラの炎は空間に飲み込まれて、他の場所で着弾する。
あのシュウの能力だとどうなるのだろうか・・・
(おそらく、その部分だけ防がれ、他に散らばった衝撃波だけが攻撃をする。雨のなか傘を差すみたいに)
まぁ、本物を見たことないため、あくまでも予想だがそれか本当だったらと考えると、相手にしたくない能力の一つにもあがるだろう。
「お、始まるぞ。お前は目見開いて良ーーーく見とけ!」
そう言い、四津野は俺を壁に押し付けるくらいに近づけさせた。
雷帝は大きく息を吸うと、一気に飛び出した。
「はぁッ!」
雷帝の拳から放たれた雷は地面を何度か跳ねると、アキネの首をかっ切るように跳躍する。
「何だ!あの雷!」
「あれは雷帝の雷技術の一つ、『兎』。雷が兎のように地面を跳ねるところから、この名が付いた」
「あの動きはこの技を見飽きている監督や、四津野でも予測不可能。反射神経が試される技術!」
四津野とキラが説明する。
だが、その説明を無視し、アキネは身体を後ろにそらしてその雷を避けた。雷は天井に直撃し、辺りに分散する。
「予測不可能ねぇ・・・情報量はチームAの方が圧倒的なのかしらね。私がただ何の情報も知らず、何十歳も年上の大先輩に挑むとでも?」
「なら、次の攻撃も避けられるよなぁ?」
体勢を崩したアキネは次の雷帝の攻撃に驚いた。
普通は近づいてはいけないと考えるが、次の瞬間、雷帝は一気にアキネの懐に飛び込んだのだ。
そしてバチバチと電気が流れる音のなる拳をアキネの身体目掛けて撃ち貫いた。・・・ように見えた。
「驚いた。まさか、私に近づく馬鹿がいるなんて」
アキネはその拳を、自分の首から腹にかけて作った空間の裂け目を使い吸い込んだ。
アキネの能力をさらに詳しく言うと、アキネが手刀で空を切ることで空間の裂け目を作るという物だ。
「そして、空間は閉じる」
その空間は雷帝の拳を喰らって消えた。
「ぐぁぁぁぁぁぁッ!・・・なーんちゃって」
拳が無くなったはずなのに、雷帝は苦しい顔をせず、観客とアキネに笑顔を見せた。
「今、アンタは俺の拳を消せたと思ったろ?残念、俺の身体はほとんどが電気の塊。少しくらい消えても、電気がある限り、回復させることが可能!」
「残念だわ。・・・情報(予想)通りで」
「そう言ってくれなきゃなァ、面白くねぇ」
雷帝は喰われた拳を作り直すと、真剣な顔に戻した。
雷帝の周りをバチバチと電撃が走り、壁や天井を伝って、アキネを囲んだ。
「じゃあ、これはどうだ?王女を捕まえる籠なんてな」
その電撃は少しずつだが、アキネを囲み、鳥籠のようなものを作っていた。
「アキネ。この世にはこの能力を創る神が三人いる。特に、俺やお前はその中でも、創成の神なんだろうな」
「!・・・なんでそれを!?」
「さぁな~。まぁ、リアにでも聞けや」
「・・・もういい、私は帰るわ。」
アキネはそう言うと、その鳥籠から能力を使って、いなくなってしまう。
「待てよ、そっからは逃がさねぇぜ」
雷帝の鳥籠の格子から、雷帝の腕が生え、アキネの腕と足を掴んだ。
「やめて!離して!」
「逃がすかよ!ちょっと秘密を握られたからって、逃げるのはチームAの副隊長としてどうなのかねぇ~」
「なら、その腕ごと空間に引っ張り込む!」
アキネは雷帝の腕を片方の腕でガッシリ掴む。
鳥籠はガタンと揺れ、雷帝の腕はす少しずつだが空間の中へ吸い込まれていた。
「ぐ、逃がすかよ!久しぶりの試合が不戦勝は気持ち悪いぜ!」
俺は戦闘が盛り上がっているなか、タマが戦闘中に言ったことが気になり、観客の集団の外に出た。
(叫び声が聞こえた)
急にそんなことを言い始めたら、さすがに気になるだろう。昔から悪い予感は必ず的中する。嫌な記憶を思い出しながら辺りを見た。
むこうから誰かがこっちに向かって歩ってくる。
(あれだ。いったい何者なんだ?)
「あれは、おい!」
目の前から歩って来た誰か。それは見たことある外見をしていた。
「なんで・・・なんでここにいるんだ」
「か、海都!?海都こそ、どうしてこんなところに!?」
そこにはルナが立っていた。夢かと思い、頬をつねるがそんなことはない。
ルナ、ルナがいるんだ。ただ、一つ気になることがあるだけで・・・。
「・・・で、その持っている剣は何だ?」
「あー、これ?これは~その・・・あの・・・」
ルナは剣を俺に見せる。すると、ルナの影から男がスゥーっと生えてくるみたいに現れた。
「クロード!」
「おいおいおい!何だよ、この男!」
「何で出てきたの?」
「いや、その男がこの剣のことに疑問を持ったようで、教えてやろうと」
その筋肉質の体に合わない黒いスーツを着た男は剣の鞘を抜き、刃を俺に見せた。
「この剣は血を吸うことでその能力を発揮する剣。名前はない」
男はルナの後ろに下がると、影の中に消えてしまった。いったい、なんだったんだ?
「はぁ・・・。で、本当にどうしてこんなところに?」
「えっと、海都を探してあの昆虫博物館に行ったら、奇妙な女に会って、なんやかんやあってここに。海都は?」
「俺はその博物館の地下を歩っていたら、・・・ここに着いた」
「何か隠してる?」
「いやいやいやいや!何も隠してない!」
「んー、あやしい。もしかして、その隣にいる女性に関係する?」
俺はルナの指差した方向を恐る恐る見た。
俺が一番ルナに見せたくない女がそこに立っていた。
「あ、私はタマ。今はこの海都君のペットをやってます」
「タマ・・・ペット・・・」
「お、おい!何言ってんだ、タマ!その・・・ルナ違うんだ!」
「サイテー・・・、知らない!」
「おい!・・・待ってくれ!」
ルナは遠くへと走っていってしまう。久しぶりに会えたことで得た喜びは、一気に絶望の中に捨てられてしまう。
(やっぱり、面白いな)
タマは嫌な笑いをすると、俺の前に出てきた。
「何が面白い」
(こういうことだよ、憑くことを許すということはね)
俺は未だ許してはいない。
確かにシュウとの戦闘で俺は契約した。確かにあのときは生半可な気持ちだった。今、この状況は変えることができれば・・・というそんな考えで。
「お前は、愛する人にサイテーって言われる気分わかるか?しかも今のは冗談口調じゃなかった」
(・・・私だっていたよ。最愛というか、とても愛する同種がね。とっくに神になって私の前から消えていったけど。少しだけ、昔話をしてもいいかな?)
「まずはルナを追いかけることが大切、お前のことは二番目だ」
「要するにいいってことだよね?」
俺はルナを追いかける傍らで、タマの昔話を聞くことにした。