あらすじ
柊を追って、柊が行ったと考えられる美術館に行くルナ。そこで待っていたのは異世界への扉と、クロードだった。
ここは、いったい・・・
このベッドや消毒の臭い・・・。どこかの病院・・・なのかな・・・。
でも、それにしては窓はないし・・・。もしかして、どこかの病院の診察室とか。
「起きたか。まさか、こんな場所に連れてこられるとは思わなかった」
「わわっ!あなたは確か、クロードさんですよね?」
「何を今さら、俺はクロードだ。」
確かこの人は私の目の前で死んだはず。なのにどうして、こんなところに?
「それか。それなら、俺が『お前が俺の意志を貫き通すのを近くで見ていたい』と、神に願ったから・・・とでも言えばいいか」
私の心のなかで思い浮かんだ質問にクロードは答えた。
「私の心の中が読めるの?」
「あぁ。思考からお前の記憶まで、色々なことが今の俺には手に取るようにわかる」
「じゃあ、今から私が心の中であなたに質問するので、心を読んで答えてください」
「・・・なるほど。俺の好物は血だ」
確かに心の中が読めるみたいだ。
今、私は『あなたの好きなものは何ですか?』と質問した。そして、クロードはそれに答えた。もちろん、相手が吸血鬼だから、そう答えるだろうなと思ったけど・・・
「予想通りだったのか。じゃあ、何て言えば、お前は驚いたのだろうか・・・部位とか言えば良かったか?」
「・・・結構です」
「そういえば、そういったグロテスクな話は苦手と書いてあったな」
クロードは近くの椅子にドッシリと座り、難しい顔をした。
「それで話を変えるが、お前は早々に約束を破ったようだ」
「約束・・・!」
「わかったみたいだな、俺の剣を盗まれたようだ」
周りを見回すがそれらしきものは一つもない。
「とりあえず、ここから脱出することが最適だ。連れてきたヤツを殺してでもな」
私はベッドから足を下ろすと、扉まで息を潜めて進ませた。そして、扉をほんの少しだけ開けると、その先に見えるものを、目を細めて確認した。
「ここは・・・病室とか、診察室じゃない。保健室だ」
どこかの学校の保健室なのか、近くのコンクリートの柱に保健室と書かれていた。その下にはチームZと書かれている。
学校にしては廊下が全体的に暗いし・・・もしかして、廃校かと思ったが、すぐそこに人が話しているのを見て、廃校でないことがわかった。
だが、おかしいのはその人達の格好だ。
二人とも、兵隊の制服を着て、頭には首から上全部が隠せるような鶏のマスクをしている。・・・とてもおかしい。一人は普通の白ベースに赤のもので、もう一人は黒ベースに黄色のものをつけている。そんなことはどうでもいいが、いかにも怪しい人達だ。
(アイツらは監視の人間か?珍妙なマスクをしているが)
クロードもクロードで、私の身体の中に霊を潜め、テレパシーのような他人に聞こえない声で、コミュニケーションを図る。
「さすがに見つかる・・・よね」
私は静かに扉を閉めると、ベッド近くの丸椅子に腰かけた。
「どうにかして、逃げなきゃ」
(おいおい、忘れてないか?俺の目的を、剣を取り返すことを)
「でも・・・」
迷いと共に後悔がじわじわと大きくなっていく。
私はベッドに上半身をうずめると、涙が出始めた。
(泣くのか?確かに涙の元は血液だが、それでは俺は強くなれない)
「あなたにこの気持ちはわからない」
(・・・確かにわからないかもな。これまで殺した人間の血を飲んで、その肉を食って生きてきた。食料の気持ちはわからない)
「・・・」
(だが、仲間が死んで、仲間と共に強者を倒し、人間の力が偉大だというのは魂がわかっている。・・・お前がそんな身体して心は強いということくらいはな)
クロードはもう一度、私の身体から出ると、近くに置いてあった長さ1メートルくらいの鉄の棒を持とうとする。
だが、霊体のクロードでは物を掴むなんてことはできず、何度も手が鉄の棒をすり抜けて空振る。
「あくまでも、お前のために戦うのではない。剣のためだ」
私はそのときの心情を聞き、その棒を掴んだ。
「剣を奪う。それがあくまでも第一目標。ここからの脱出は二の次ってことで」
「ルナ・・・。戦闘だ、お前にその意志はあるか?」
「Yes!」
「そうじゃなきゃな」
曲がり角にある保健室でカランカランと音が鳴る。それに気づき、近くにいたチームZの研究員は恐る恐るそこに近づいた。
マスクの先に見える眼は、目の前に実験台の女を見た。目の色を変えた女を。
マスクが吹っ飛ぶほどの衝撃を頭にくらうと、研究員はその場に倒れてしまう。いくら女の力といえど、鉄の棒が顔面にフルスイングで当たったら重傷だろう。
「何をしている!」
次に脇腹を砕くような痛みがその研究員を襲う。痛みを感じたときにはもう遅く、攻撃は終わっていた。
「が、じ、実験台が、逃げるぞ・・・誰、か・・・」
「逃げないよ、私は。私の持っていた剣はどこにある?言えば、この横で倒れている仲間のようにはしない」
顔面全てが隠せるくらいの鶏の形をしたマスクの首から血が流れ出ている。どうやら中身はその衝撃のせいで助からない状態になっているようだ。
「私は剣を返してもらうまでここから逃げない。君が死ぬまで人質として扱わせてもらう」
「ひ、ひぃぃぃぃい!」
「はいはい、終了でーす。」
私とこの研究員の中に入ってくるように、女の声が現れた。
その声の先には、ウサギのマスクを被った女が立っていた。マスクというよりはフードか。被ったとき、ウサミミがピョコンと立つものだ。
顔は口と鼻の部分を隠し、目だけが出ている。
「あ、アリス様!た、助けてくださいぃぃぃッ!」
研究員はゴキブリみたく、カサカサと動いてアリスと呼ばれた女の足元へ隠れる。
「あらあら、可哀想に・・・。そんな気持ち悪い姿になっちゃって」
「こ、この実験台に!」
「へぇ~。まぁ、あなたが悪いんでしょ?」
「ち、違います!僕はただ博士の言う通りに、」
研究員は途中で口を塞がれてしまう。
アリスの手は彼に向けて、チャックを閉めるような動作をした。そこに種はある。
「あなたがルナさんね。ようこそ、チームZの実験施設へ。そこの保健室に連れてきたのは私です。いい身体だったわ。胸は大きくなく、控えめな方で、あまり太ってないのか、ウエストや脚はスラッと」
「そんなことはいい!・・・何が言いたいの」
「実験は終了。剣は返すからどこにでもいってらっしゃーい。まぁ、元の世界には帰れないけどね」
アリスはどこからか、剣を取り出すと私に投げ渡した。
「ここは異世界の学校。あなたには、能力者としてこの世界で生きるしかないの。わかる?」
「そんなこといいから出口は?」
「話を聞かないな~。ここから出ていって強姦とかされても保証しないよ」
私にはどこからか湧き出る自信があった。
もしものときはクロードがいるし、この剣もある。
「出口はすぐそこ。ま、あなたがどうなろうと私には関係ないからいいけど、じゃーねー!」
アリスは私の横を通ると、曲がり角を曲がっていった。
私は剣を見て安心した。クロードの感情がそこにはあった。
「ここは・・・」
アリスの言われた通りに、すぐそこの扉を開けると、新しい廊下が見えた。
奥で何をしているのかわからないが、応援をする観客席のような盛り上がりが見えたのでそこに向かった。
彼らの見ていたものは、男と女がアリスの言っていた能力のようなもので戦っている。
一人は雷で、もう一人は・・・何だろう、全くわからない。
「いけ、雷帝!チームAを倒せ!」
「アキネさん!負けないで!」
そんな応援を聞きながら、その後ろを足音を忍ばせて通る。
「おい。」
ほとんど気配を消していたはずなのに、私の肩を掴む人がいた。私は恐る恐る振り向く。
「何で・・・何でここにいるんだ・・・」
そこには海都が立っていた。