新人戦一回戦で、チームAの東条 シュウに負けてから数日後。まだ痛みの残る柊は、これからの目標と妖狐の名前を決めた。
妖狐の名前が決まってから二日後。
やっと身体が完全回復し、痛みがなく動けるようになった。寝返りができない、飯を食べるときも腕に痛みを抱えていた・・・そんな日々とはもうおさらばだ。
「おはよう、タマ」
「・・・」
タマという名前が気にくわないのか、ムスッとしている。そんなにタマという名前が嫌なのか。
「それもあるが、何か嫌な予感がするんだよ」
「例えば?」
「何か災難に巻き込まれる感じ」
「まぁ、大丈夫だろ」
俺は学校側で用意された服に着替える。俺の着てきた服はこの前の戦闘でボロボロで、血で真っ赤に染まっている。
用意された服は着てきた服に似ていて、俺の好みにピッタリの服だった。あともう一着あるが、それはジャージみたいだ。
「・・・とりあえず持っていくか」
俺は畳まれたジャージをカバンにしまうと、部屋から出た。
「おはよう、柊。ケガは大丈夫か?」
部屋を出ると、すぐそこにオルガが立っていた。
「あ、おはようございます。完全回復して、全然動けますよ!」
「それならいいが。・・・さっそくだが、今日の時間割りを伝える。今日は一日、個人練習だ。その能力を磨くように。そして、明後日に能力値検査があるから、あまり無理はするな」
「はい!」
「それじゃあ、俺は監督に呼ばれてるから、練習相手が欲しければ、キラや四津野に頼んで」
「わかりました!」
オルガはそのまま、階段を下りていった。
(個人練習言っても、何をするんだい?)
「難しいな。二人がどこにいるのかわからないからな」
学校に来てばかりの俺は二人の場所よりも、今俺がどこを歩いているのか、それを知る方が大事に思えてきた。
(・・・迷ったのか)
仕方ない。地図も渡されないし、壁に窓がないからどこが出口なのか外も見えない。
(それにどこか、空間がねじれている感じがする。これも能力かしらね)
「あれ?どうして、君がここに?」
そんな俺に後ろから声をかけられた。助け船かと俺は振り向くと、そこには全くもって見たことない顔があった。
「えっと・・・」
「あ、そうか。君とは会ってなかったもんね。私は東条 アキネ。よろしく」
「東条・・・もしかして」
「そのもしかしてで、シュウの姉。この前はごめんね、昔からシュウは熱くなっちゃうときがあって。シュウにはいつも言ってるんだけどね」
前々から思っていたのだが、ほとんどの生徒が私服で、この学校に制服というのは無いはずだが、オルガやこのアキネはこの学校の校章が胸部分に書かれた服を着ている。
「で、あれか。道に迷ったのか?なら、着いてきてくれ」
「え?あ、はい。こっちなんすか?」
「うん。まぁ、ただ出口に送るだけなんだけどね」
少し歩いた後に、アキネがこんなことを言い始めた。
「ここらへんはチームA~Cが使用するトレーニングルームや、研究室があって、他のチームはほとんど来ないんだ。来ると言えば、係や委員会で上の人間に用があったり、あとは宣戦布告とかね」
「じゃあ、俺って相当まずいことをしてるんじゃ・・・」
「ピンポーン!正解。まぁ、私の後ろにいればとりあえずは大丈夫じゃないかな」
アキネの横を通る人の大半がアキネに向かって挨拶をする。この人がすごい人だというのを実感した。
シュウの姉ということはあれ以上の力を持っているに違いない。少しでも、何か悪いことを言ったら、首が飛んでいくかもしれない。
とりあえず静かにしてよう。
「君ってさ、その妖狐をどうやって仲間にしたんだい?」
「仲間にって・・・。仲間にしたというよりは使われてる感じですね。あっちからでしたし」
「へぇ・・・。じゃあさ、その妖狐はどこで会ったんだい?」
「え?それはすッむぐぐ!」
俺はいきなり口が動かなくなった。タマが押さえている。
(バカ!余計なことは言うな!)
「妖狐が口を押さえているのか。その感じ的に、20~30%は融合してるね」
(こいつは君を捕まえようとしている!逃げろ!)
俺はタマの言っていることが本当だと思い、すぐにその場から逃げ出した。来る途中、一ヶ所だけ窓があった。あそこから脱出する!
(彼女は追ってきてない。今なら、脱出できる!)
俺は窓を開けると、そこから下に飛び降りた。そして、タマの力を使い、下の階の窓の縁に掴まった。
そして、窓を開けて中に入った。
「柊!どうしたんだ!」
入ってすぐのところに、リアが立っていた。どうやら、俺が落ちてきたのを見て立ち止まったらしい。
「た、助けてください!チームAの方に!」
「話は後で、助けないと!」
「何だぁ?朝っぱらから起こされたかと思ったら、次は空から女の子ってかぁ?」
リアの後ろから低い男の声が聞こえる。
男は俺の腕を掴むと、窓から一気に引っ張り上げた。
金髪の右腕だけ袖のない服を着た大男で、その右腕には龍の刺青が入っていた。龍の口からは『Emperor』の文字が炎のような字体になり、吐き出されていた。
「何だ、男か。リア、新入りかい?」
「彼は柊 海都君。この前、チームOに入ったの」
「お!新入りか!俺の名は雷帝。本名はあるが言わないぜ。よろしくな!」
「よろしくお願いします・・・」
「そんな畏まんなよ!俺には敬語使わないでいいから!」
雷帝は俺の背中をバンバン叩くと、そのまま笑いながら廊下を歩っていった。
「彼はあういうヤツだ、気にしなくていいよ。まぁ、もうこの学校に八年も留年してるから先輩だけどね」
それにしても、肌の艶や髪の感じからして、それ以上に歳をとっている気がする。
「彼の人種的に人よりも歳をとるようになっててね、普通の人間の二倍の歳をとるらしい。今、彼は28歳だから、56歳くらいじゃないかな?」
「なるほど・・・。キラさんと四津野さんの居場所って知ってますか?」
「うーん・・・。たぶん、チームO専用のトレーニングルームにでもいるんじゃないかな?雷帝に着いていけば着くと思うよ」
「わかりました。ありがとうございます」
俺はそれを聞き、雷帝の後を追った。
「雷帝、久しぶり!」
「おう、四津野。相変わらず、女らしくねぇな」
雷帝はトレーニングルームに入って早々、近くにいた四津野に絡み、みぞおちに一発突きをくらった。
「相変わらずの力だな・・・。キラは来てないのか?」
「アイツはどうせ、今日もゲーセンに入り浸ってるんだろ。自由の時はいつもこれだからな」
「まぁ、アイツらしいな。それと、柊だっけ?入ってこいよ」
俺の存在はとっくにバレていたようだ。
俺は柱の影から静かに出てきた。
「それともう一人、柊の後をつけてきたヤツ。確かアキネとか言ったよな」
「何!?」
俺は後ろを振り向く。そこにはアキネがあきれた顔をしてこちらを見ていた。
「相変わらずの能力ですね。えっと、誰でしたっけ?」
「雷帝だ。覚えてくれ」
「ごめんなさい。ここ最近、全く試合で見かけなかったもんで」
「俺も休んでたんでなぁ。後輩に戦線は任せて」
雷帝はトレーニングルームから出ると、アキネの目の前で止まった。雷帝の身体から出る弾けた雷撃は近くで見ていた俺の心を震わせた。
「久しぶりにやるかぁ?チームAとZには本気出していいとリアから言われてるからなぁ!」
「本気ですか・・・。元LOST討伐部隊隊長の本気と手合わせできるとは光栄です」
「やるならこっちこいよ。そこじゃあ周りに迷惑かけるからよ」
「わかりましたよ」
雷帝とリアはトレーニングルームに入る。
「柊、お前は外で観てろ。四津野もな」
「久しぶりに雷帝の戦闘が観れるのかい?いつもなら、割り込みたいところだが、観ることにするよ」
四津野は壁に立て掛けておいた刀を持つと、トレーニングルームから出た。
このトレーニングルームの出入口側の壁は全体がガラス窓になっており、中が見えるようになっている。もちろん、どんな攻撃にも(たぶん)耐えられると思われるものなんだろうが、信用できない。
「さぁ、始めようぜ。お前も研究なり、委員会なり仕事が残ってるだろ?・・・まぁ、ケガしないように頑張れとしか言えないけどな」
「お手柔らかにお願いしますね・・・あまり、汗をかきたくないので」