Creatures.E   作:駿駕

5 / 47
前回までのあらすじを三行で

学校に入学。
新人戦開始。
シュウに敗北。




命名する!

新人戦から三日が経った。

 

俺は泊まっている寮の部屋で起きた。

夢ではない。まだ左腕に痛みが残ってい・・・左腕!?

俺は左手で掛け布団を軽く握った。感触がある。

「あ!まだ起きちゃダメですよ!」

部屋のキッチンの方から女の声が聞こえる。

そこには俺と同じくらいの歳の女が立っていた。

「お、お前は!ぐぁ、ぐッ!・・・」

「ほら!ダメですよ!」

女は俺がベッドの上で後ろに倒れたを見ると、していたことをやめて、俺の方へ歩ってきた。

「まだ傷が回復していません!寝ていてください!」

「お前はいったい・・・」

「私はリリー・クロノといいます。チームOの看護係をしています。監督に看護を頼まれまして」

「そうだ!妖狐は!」

手の甲に刻まれた狐の文字は消えている。どこかにいったのか?

「ヨウコ?・・・あ、あの女性ですか!あの人なら、ベランダにいますよ」

「そ、そうか・・・ん?」

俺は思った。どうして、リリーに妖狐が見えているんだ?確か妖狐は・・・

 

『私の姿は海都君以外には見えない。だから、他人に違和感を持たれたりすることはないよ』

 

と、言っていた。

「妖狐の姿が見えているのか?」

「え?あ、はい。うっすらとですが、形は見えています。狐のような尻尾を生やした・・・」

「ありがとう。ちょっと、ここから立てない・・・よな」

あのシュウの攻撃で足もケガをしていた。

シュウの能力は身体中のあらゆる部分を攻撃していた。頭から爪先まで、身体中が悲鳴をあげているのを食らった際に感じた。

骨まではいってないみたいだが、筋肉には痛みがある。

肉をえぐる・・・そう言えばいいか。

「柊さんは無理矢理この世界に入ったんですよね?」

「え?あぁ、そうだが」

「その・・・元の世界に帰りたいとか、そんな気持ちはありますか?」

「・・・」

YesかNoかというと、Noだ。

俺自身、こういった非科学的な超能力系が好きだからだ。スプーンを曲げるとか、人の考えることを当てるとか、そんなレベルじゃない。瞬間移動とか、魔法とか、眼から衝撃波を放つとか・・・

「最初は帰りたかったけど、今はNoだ。俺は超能力とか好きだからな。それに新しい目標を見つけたしな」

「目標・・・それって」

「東条 シュウに勝つ。もちろん、妖狐と力を合わせて」

「えっと、言いにくいのですが。言ってもいいですか?」

「ん?何だ?言いにくいって」

「その・・・えっと・・・今回の新人戦の結果」

 

東条 シュウさんが優勝しました。しかも、圧勝です。

 

「・・・えっと、すまん。それは俺にとって良い知らせなんだが」

「え?」

「それを聞いて、さらに壁が高く、そして厚くなった。目標が大きいほど、それを達成したときの達成感はデカイからな」

俺はそんなことを言って、笑ってみせた。

リリーにはそんなことを言ったが、俺は心の中で押し潰された圧迫感が残った。

高く厚い壁。それは俺にとって、とても大きなもので、乗り越えることが厳しいものだと思った。

本当に妖狐の力を全て使わないと無理なんじゃないかと思った。

「リリーはどうして、この世界に?」

「・・・」

それまで笑っていたリリーは一気に顔を暗くした。

聞いちゃいけないことだったか?

「私は拾われた身でした。中学生の頃、ある事件の中で、完全に死んだことにされました。ある建物の地下で行われた能力者のみの殺し合いで、私は回復のみを使い、三人一組のチームで傷ついた二人を回復するという役目をやっていました・・・」

 

この地下から、生き残った2チームだけが、この世界から脱出できるというもので、私のチームはそこに入れませんでした。

その2チームは一人以外全員が死んで、結果1チーム一人の合計二人でした。

その後、この事件の犯人の男は逮捕され、私たちは救助隊に助けられました。

ですが、その結果、私はその男の手によって完全にこの世から消された存在となり、私が住んでいた家や家族、全てが消されました。繋がりのある者も全て・・・。

私は中学生で一人ぼっちになりました。

そんなとき、チームOの監督であるリアさんが、私を助けてくれたんです。

「君の力が必要だ。お願い、力を貸してくれ」

助けてくれたと言いましたが、そのときのリアさんは私にむかって、お金も住む場所もない私にむかって深く頭を下げていました。まるで、神様にでも感謝しているかのように、膝を地面について・・・

「君が住む場所も、お金も、食べ物も、何でも願い事なら叶える。だから、私に力を貸してくれ」

そう、何度も、何度も言いました。

私はそんなリアさんを見て、逆に神様に感謝しました。

そして、リアさんに・・・

「ありがとうございます。」

と感謝しました。

 

それからここにいるんです・・・あれ?」

「何かすまない。そんなことがあったなんてな」

リリーは能力で助けられたといっても過言ではない能力者だ。ここに来て、キラやシュウと戦い、超能力は争い事の道具になり、人を傷付けるだけのものになってしまうのか、と考えたがリリーの話を聞いて考えが少しだけ変わった気がする。

「私以外にもそういった人はたくさんいます。四津野さんも助けられたみたいですし。オルガさんとキラさんは自らここに進学されたみたいですが」

「そうか・・・そうだ!妖狐に話があるんだ。少しだけ無茶してもいいか?」

「それくらいなら全然無茶じゃないですよ」

俺は立ち上がり、ベランダへとむかった。

カーテン越しだが、妖狐が立っているのがわかる。

俺はカーテンをめくり、ベランダに出た。

「・・・あれ?起きれたのか。大丈夫かい?」

「まだ痛みが残ってるけど、これくらいなら余裕だ」

「そう・・・で、話って何だ?」

「聞いてたのか・・・大したことじゃないが」

「重要さはどうでもいい。そんな焦らさないで話してくれ」

「何かさ、妖狐って呼ぶのはどうかと考えて、これからは名前で呼ぼうと思うんだ。・・・で、名前は?」

「そういうことか。ずばり言おう!私に名前はない!」

俺は風船の空気が抜けたように、おもわず心から緊張が抜け出てしまった。

「名前がない?」

「確かに神には○○神とか、何々の神とか名前がある。だが、私は所詮、妖怪狐の一人だ。ほら、河童だって一匹ずつに名前がついているわけじゃないし」

「・・・じゃあ、何て呼べばいい?」

「んー、考えたことないな。前の主はずっと妖狐って呼んでたな、ようこというよりはヨーコ?」

「つまり、ヨーコでいいのか?」

「いや、それは何か嫌だな」

俺は一度会話をやめ、腕を組んで名前を考えた。

妖狐と何年も一緒に暮らすかもしれない。何度も妖狐のことを呼ぶことになる。

親が子供に名前をつけるとき、どんなことを考えるんだ?字の意味とか、読みとか、形とか、画数とか・・・

子供に名前をつけると考えるからいけないんだ。

「確か、俺のことは『君』って呼んでたよな?」

「まぁ、名前で呼んで欲しいなら呼ぶよ、海都君ってさ」

「・・・それは嫌だな。海都でいい」

一つ考えが浮かんだ。妖狐を一匹のペットと考えればいいんだ。

「・・・よし!命名する!」

 

今日からお前の名前は『タマ』だ。

 

パッと頭に浮かんだ名前。呼びやすく、それっぽい名前だ。何となく狐というよりは、猫って感じだが。

「・・・却下で」

「ダメか?」

「ダメか?って!私は猫じゃないし、君のペットでもない!それにどちらかというと、神に近い存在だ!あと少しで神になれる存在だぞ!神社とかに住めるような存在だ!」

「じゃあ、あれだ!妖狐が呼んでほしい名前を俺に言うまでタマだ!あらためてよろしくな、タマ」

「ぐぬぬ・・・あー!もういいよ、タマで!その代わり、何があっても絶対にタマって呼べよな!力を貸してほしいときでも、話を聞いてほしいときでも、まるでペットを呼ぶときみたいにな!」

タマは怒りながら、部屋のなかに入っていった。

 

俺はその後ろ姿を見て、少しだけだが、タマとの距離が近付いた気がした。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。