あれから四年かー・・・。
創造主との戦闘から四年。私は卒業試験を終えて、玲華さんと話しながら、教室に向かっていた。
「いやー、すごかったです、赤井先輩!まさか元チームO隊長のオルガさんに勝っちゃうなんて」
「いや、あなたのサポートがあったから勝てた。ありがとう。玲華さん」
「アタシはやることはやったまでですよ」
「次は、あなたが隊長になって私を越える番かな」
「赤井先輩・・・うぅ、この榊原 玲華、チームOの隊長としてチームOを引っ張っていきます!」
「頼むよ、榊原隊長っ!」
私は玲華さんの背中を押す。玲華さんは照れて、顔を赤くしていた。
私は階段を上がって教室の方を見る。教室の前ではメンバーがざわつき、教室のドアから中を見ている。
「あ、隊長。お疲れ様です。」
「ありがと。・・・で何してるの?」
「あれ見てくださいよ、侵入者です。あんな人いましたっけ?」
教室のなかを覗く。窓際の席、勅使河原元チームO隊長の席に帽子を目深に被った男が座っていた。
「データにはない人です。どこのチームの方ですかね。」
「・・・私が見てくる。」
私は教室に入り、男の前に立つ。
男は椅子を傾け、こちらに気づいていない。
「あなたはいったい誰ですか?教室、間違えてますよ。」
「ん?あぁ、すまない。チームO監督のリアに用があってな。」
この声、まさか・・・。
私は気になって男の帽子を取った。
「!」
四年前、創造主を倒して消えた男、柊 海都の顔だった。
「よっ、ルナ。ただいま」
「海・・・都?本物、なの?」
「柊 海都。元チームO所属、戦績は新人戦で1回戦敗退、殿堂杯にて挑戦者側を優勝に導き、チームA隊長を倒したことで優秀能力者賞に選ばれ、この学校の脅威にしてこの学校を作った男、創造主の討伐に成功後、行方不明。まさか・・・本物か」
「海都・・・海都ーーー!」
私は机を倒して海都に抱きついた。
死んだと思われていた海都が生きていた。私は海都の腕のなかで涙を流した。
「泣くなって。今はルナが隊長なんだろ?部下の前でそんな姿見せんなよ」
「海都なのか?」
私の姿を見て、クロサクが入ってくる。
「お、その声はクロサク。腕大丈夫か?」
クロサクは治療した腕とどや顔を見せる。
「リリーに治してもらったんだ。結構かかったけどな」
「まぁかかるよな。俺も両腕治してもらったし」
「お、柊君。久しぶりー。」
クロサクの次はリア監督が入ってくる。
「監督!お久しぶりです。突然ですが、一つ話が・・・
俺と戦ってください。そして俺が勝ったら、この学校を卒業したということにしてください。
急に始まった対戦。
海都と監督は向かい合い、まずは握手をした。
張り詰めた空気。二人の能力値が私たちには見えていた。
「二人ともすごいですね。特にあの柊って人、監督と同じくらい、いやそれ以上です」
この四年間。海都に何があったんだろう・・・。
「これより卒業試験(仮)を始めます!お互い、定位置についてください!」
審判の指示に従う二人。
「柊君。あなたが勅使河原のところにいたのは知っているわ、風の噂でね。」
「そうですよ?それがどうかしました?」
勅使河原?・・・どうしてあの人の名前が・・・
その理由はすぐに理解できた。
「やっぱりか・・・」
海都の周りには、勅使河原さんが戦闘のとき見せたような波ができていた。
「波動・・・」
「教わりました。勅使河原さんに波動を教えた人にね」
「その四年か。だけど、それを見せたからと言って卒業できるわけじゃない。この学校の授業、まだ二割も終わってないのに卒業させるわけないじゃない」
「始め!」
審判の声と共に走り始めた海都は、掌底で監督のしていた眼鏡を破壊した。
真っ二つに割れた眼鏡は下でデータになって消える。
「もう発動していたか!」
海都はそれを見て、すぐに後ろへ下がるが、履いていた靴の底はすでにデータ化していた。
「
「上等」
監督お得意の範囲攻撃。特にあれは一定範囲の地面に触れた物を数字と文字の集合体、データに変えるものだ。
だが、海都にはそれへの対抗札があった。
海都は波で空気の塊を作り、情報網を上から抜け、監督に一撃を食らわした。
「
今度は、触れたらデータ化させる壁。あの壁は紙のように薄く、半透明に近いが、通ったものを確実に仕留める恐ろしいものだ。
「よっと!空中戦は得意分野だっての!」
海都の作り出す波は、海都を情報の壁から守り、さらに踏み台になる。
(勅使河原の波動は自らの衝撃で生成した波。だけど、柊君の波動は自然に発生した波。特に自分の声や歓声、太陽や電気による光で空気にできた波。なら、これなんてどう?)
「三次試験か?いくつまであるんだ?」
監督が無言で作り出した空間、それは全てを閉鎖する空間。それは音、光、空気、全てを通さない。監督は無言で作り出したのではなく、作り出したことで無言になったのだ。
(苦しそうだが、これも試験だ)
だが、その空間もあっけなく海都によって破壊される。
「な!」
海都は波を生み出すこともできるようになっていた。
「こんなんじゃ、波動は消えない!」
「なら、データの波をあげるわ」
二つの数字が波になって海都に襲いかかる。空間を蝕むそれは海都の両手両足を掴み、海都を監督の目の前から消した。
「まだあなたは能力の裏を知らない。だから飛び級なんてしてはいけない」
「まだだ・・・!」
空気に亀裂が入る。ガラスをぶち破るように海都は現れた。海都はその勢いで拳を撃つ。しかし、攻撃が入ると思っていた私の想像を越え、彼の拳は監督の手のひらに軽々と止められてしまう。
「能力値が尽きたのね・・・、柊君」
監督の前に立つ海都の息は上がり、立っているのがやっとの状態だった。
「本当は不合格にしたいところだけど、私に攻撃を当てた。それに、勅使河原君から君の努力は聞いてるからね。」
「・・・ということは」
「柊 海都!卒業試験結果、合格!これより、卒業試験を終了します!」
戦場に歓声があがる。海都は拳を天に突き上げると、静かに後ろへ倒れた。
「海都!」
私は観客席から下りて、海都のところへ走る。後ろからクロサクと玲華が来てるのもわかった。
「リア、すぐに校長室まで来い。」
「わかりました。」
私は通信を切り、戦場の方をみる。
戦場では胴上げさせる柊君の姿があった。
「おめでとう、柊君。」
私は戦場から消えた。
そして卒業試験は幕を閉じた。
☆
卒業試験が終わり、あの島から出て元の世界に帰って来てから10年が経った。
俺はルナと結婚し、多くの鳥居が目立つ稲荷神の祀られる神社の近くに家を建てて暮らしていた。
娘の
青空の、
「ランドセルと神社で写真撮るー」
という頼みで神社まで来ていた。
神社前の稲荷神の像を見て、タマのことを思い出す。
今、何をやっているのだろう・・・。あれ以来、一度も会っていない。日が経つと共に、声も姿も、全て少しずつ薄れていく。
「パパ!キツネー!」
青空は境内の方を指差す。
見たことのある後ろ姿が神社の奥へと消えていく。
「待てー!」
青空は神社の方へ、ランドセルを置いて走っていく。
「青空!待て!」
俺は青空を追い掛け、神社の裏へ回る。
神社の裏には、前から少しだけ見えていた桜の木の太い幹と、その下に一匹の狐がいた。
「野生の狐・・・。まさか、いるわけないよな」
「ここだよ。ここ、君の目の前」
その狐は俺の前で人の姿へと変わる。
「タマ!」
「私は妖狐。久しぶりだな、このやり取り」
その日撮った写真には二人の能力者と一人の子供、そして一匹の狐が写っていた。