復活した創造主に敗北し、犠牲者を増やしていくチームO。
負傷者の方が多くなったチームOは、三人での創造主攻略を目指す。
・・・
その場の光、音。何も感じられない。暗闇。
どうしてこんなところに立っているんだろう・・・。
確か創造主が、法を作り出すとか、何とか・・・。
・・・もういいや、疲れてるんだ。俺達。
(それでいいのか?)
タマの声が聞こえた。
(お前は目の前の創造主を倒すんじゃなかったのか?)
創造主・・・倒せるのか?
この学校の校則、能力者は能力を使えず、創造主の前に戦意喪失する。校則は絶対だよ、タマ。
(あ、そう。・・・ねぇ、反旗を翻すなんてどう?かっこよくない?)
そんなことできない。ルールは、法は、校則は絶対だよ。反抗しても変えられないんだ。
(じゃあさ、私の最後の願い、聞いてくれる?)
最後の願い?
(海都君、あなたと100%、繋がりたい。同調して、融合して、合体して、一人の人として。このまま死ぬのならさ、私はあなたと一緒に、1つの体で死にたいな)
わかった。・・・最後の願い、俺の最後の願いは・・・。
暗闇のなか、チームOのみんなと、シュウや、アキネが頭を過り、最後に、高校の夕日差し込む教室で告白したときのルナの笑顔が映った。
「生きてルナの元へ帰ることだ!」
暗闇は晴れ、目の前に創造主が立っていた。視界に倒れる東条と勅使河原を見る。
「何!ば、バカな、我の能力は発動したはずだ!」
「私は、九尾の一匹、タマ!能力者じゃないからあなたのルールは適用されない!」
「九・・・尾?なぜ神に値するものがここに!」
「狐術、炎舞!」
炎は波のように創造主を襲いかかる。創造主の作り出した壁は炎の前に氷のように溶ける。
「100%、俺とタマは融合した。俺はタマで、私は海都。二人で一つ。」
「第2の法だ。俺への攻撃は全て、禁止、無効だ!」
「神に能力者が作った程度の法が、通用すると思ってんのか!」
創造主の顔を崩すような拳が突き刺さり、創造主は校舎の柱に張り付けになる。
「狐術、炎の十字架」
「我は創造主だ。全てを、全てを、創造する!」
俺は知っていた。創造主の知識量は完全に昔のものに、アリスの武器の知識を加えたものだ。今のことは一つも知らない。
もちろん、学校ごと俺達を消滅させるような核兵器なんて。
「もっと、この世界を勉強してから戦うべきだったな」
☆
目が覚めると、私は辺りを見回した。監督、シュウ、四津野さんが倒れ、校舎は瓦礫の山になっていた。
「目が覚めたか・・・」
右腕を骨折していたはずのキラさんがタオルケットを運んでいた。
「えっと・・・創造主は?」
「死んだよ、俺が見たときはもう腕だけになっていた。スライムみたいにドロドロに溶けてな」
「ドロドロ?・・・海都は!」
私は立ち上がると、瓦礫のなかを走って探した。
どこを見ても海都はいない。
「アイツは死んだよ。ヤツと相討ちでな」
「・・・え?」
「俺は・・・無能だ。暗闇のなかで必死にもがくことしかできなかった。死にたくないって。そんななか、アイツは創造主と戦って勝った。でも、ヤツが最後に放った能力で」
「嘘、でしょ・・・嘘ですよね?」
「すまない・・・」
勅使河原さんは下を向いて黙り混んでしまった。
勅使河原さんの目から涙がこぼれ落ちた。
「俺は・・・チームO元隊長失格だ。・・・また仲間を守れなかった」
私は地面に膝をついて泣いた。
すでに夜は終わりを告げ、太陽が昇り始めていた。太陽の光の先にこちらを見て微笑む海都の姿が、私だけには見えた。
☆
(タマ・・・ここは)
「試験会場よ。神になれるか、なれないかを決める大事な場所」
大きな門をくぐり抜ける。目の前にはこれまでの景色からは想像できないような大きなビルが現れた。俺は何が起きているのか、わからなかった。
(一つ聞いていいか?)
「一つでいいの?」
(じゃあ三つ。一つ目は、どこだここ?)
「だから試験会場って」
(違う、俺が聞きたいのはここは地球のどこだって話だ)
大きなビルとそれを囲むように生える大木。後ろには歩いてきたと思われる道が見える。道は壁のように連なる山が曲がり角まで続いている。
「えっとね、中国の山の奥。本物の九尾になれるかなれないかの試験はここでやるの」
(場所はあまりよくはわかってないがわかった。じゃあ次に、なぜ俺の足は地に着いていない)
ここからでも確実に浮いているのがわかる。普段見えていないタマのつむじが見え、景色がタマの歩みと共に上下する。
「それは、今は海都が私に憑いているからかな。」
(憑いている・・・?)
「・・・最初から話すわ。」
創造主を倒したあのとき・・・
「我は死ぬ。だが、お前も道連れだ!」
「海都!早く跳んで!」
「跳ぶ!?」
「無駄だ、既に我が創造した毒はお前の肺に到達している!」
既に周囲には猛毒のガスが蔓延していた。
海都はそれのダメージから意識を失い、体を失いそうになった。そこで私と体を交換し、魂だけでも何とか救いだした。海都の体は既に溶け始めていたけど。
「そこで私があなたを助けるためと、目標達成のためにここに来たってわけ。どう?」
(そうだったのか・・・)
「・・・私に何か言うことあるでしょ?ほら、ほら」
(ありがとう。)
俺は頭を下げる。
「おいおい、
後ろから男の声が聞こえる。
振り返ると嘲笑う狐がいた。狐といってもタマのような人間の体に耳と尻尾を生やしたような姿だが。
「久しぶりだな、ヨーコ。」
「久しぶりね、
(知り合いか?)
「えぇ。昔、私の試験の邪魔をしてきたアホ狐よ」
「だぁ~れがアホだってぇ?」
豪酒はタマの頭を叩く。全く動きが見えなかった。
(タマ!)
「タマ、タマだってよ!ギャーハハハッ、飼い猫かよ!」
豪酒は指を指し、下品な笑いをかます。
「主人の前では猫っぽくした方が可愛げあるぜぇ。ま、今度こそ受かるように頑張れや、その可愛いだけの弱っちぃ狐術でな。」
豪酒は笑いながら、先にビルへと入っていく。
(タマ・・・大丈夫か?)
「海都が命名したんだ。私はもう何も思わない、むしろ誇りに思ってるから。・・・いこう、試験会場に」
(お、おう!)
ビルの中は外見からは予想できないような寺院の造りになっていて、真ん中には俺の6倍はありそうな狐の像が座っていた。
(こうなっていたんだな・・・)
「タマ様、海都様、こちらです。お待ちしておりました。私、試験案内人の独楽といいます。」
俺たちが狐の像を見ていると、案内人の独楽と名乗る狐がやってきた。タマよりも狐らしく、顔が狐で、胴体が人間だった。
「いくよ。」
タマが入り口を通り、次は俺の番になり扉を通ろうとする。だが、俺は透明な壁にぶつかって入れない。
(な、なぜに・・・)
「海都様は霊体ですので、あちらからお入りください。」
独楽はそう言い、試験会場とは逆の扉へと向かい、重たい扉を開けた。
(わかった。・・・タマ、またあとでな)
「うん、
(おう)
ん?気をつけて?
俺は疑問に思いながら部屋に入る。俺が入ると同時に扉は閉められ、入り口から部屋の向こうへと蝋燭が一気に点火する。
蝋燭の燃える道の先にはエースに憑いていた狐がこちらを見ていた。
「久しぶりだな、人間よ」
「エースの狐か?・・・どうしてここに」
「私とあの男は、あの空間の裂け目の中で分裂した。そして私はここで人間の魂を待っていた。」
「俺を?どうして」
「決まっておる。人間の魂を食らうためだ。私にとって人間の魂は大好物。さぁ、少しは抵抗したまえ」
狐は口を開け、こちらへと突っ込んでくる。蝋燭は辺りに散らばり、床の絨毯が燃え始める。
タマがいないと能力が使えない。・・・どうすればいいんだ。
「・・・いや、能力は使える」
あのとき、俺はタマと完全に融合した。もしかしたら、
「狐術ーッ!」
周囲で燃える炎は少しずつこちらへと集まってくる。
確実に能力エネルギーが生まれているのがわかる。
「狐術、狐火!」
周囲から集まった炎は球体になり、狐を捕らえる。
「この土壇場で狐術を発動しただと・・・」
「タマ、九尾の称号を与える。」
「ありがとうございます。」
大きな狐はタマに九尾の称号と言い、手のひらサイズの紫色の宝珠を渡す。
「日本の狐を祀っている神社で、人間の願いを叶えてやるのだ。・・・今年は一匹のみであった。来年は取れるように努力するのだ。」
大きな狐は煙になって消える。
タマは周囲の狐の目なんて気にせず、試験会場の出入口の扉をおもいっきり壊して、海都の入った部屋に入る。
「海都ー、やったよ!私、やっと九尾になれたよ!」
扉の先は焦げ臭く、床には灰が散らばっていた。
そこに海都の姿はなかった。
「海都・・・、そんな。」
タマは床に残った灰を集める。
「柊 海都。彼なら、下界に帰した。」
一匹の普通の大きさの狐がタマの肩に手を置く。
「あなたは・・・エースの」
「彼は一人の能力者として成長した。お前の力なんて必要ないくらいにな」
タマは涙を拭い、狐の顔を見る。
「てことは生きてるってことですよね?」
「そうだ。お前が日本にいれば彼と会う日が来るかもしれないな」
「よかった・・・」
集まった灰に涙が落ちる。
タマは立ち上がると、そのまま日本へと旅立った。