指揮をするリア監督の前に現れたのはアリスだった。
アリスは監督を襲うが返り討ちにあってしまう。
しかし、アリスが来た理由はあくまでも時間稼ぎだった。
ついに創造主が復活する。
その一瞬、何が起きたのかわからなかった。
迷路の壁が一気に崩れ、天井が開いたかと思うと、そこには赤い満月を背景に一人の男が浮いていた。そして地下にいたはずの俺たちは地面ごと地上へと押し上げられていた。
男は今さっきまで液体に浸かっていたのか、髪からは液体が滴り落ち、服はビショビショになっていた。
古代ローマ人のような服を身に纏い、白い髪に白い髭の男はこちらを見ると、地面に足を付けてこちらへと歩いてきた。
「あー、人間よ。我は創造主、この学校を作りし物だが、今まで何をしていたのか思い出せない。・・・何を怯えている?」
「創造主さマ!・・・彼ラはテキです!」
「敵か・・・。はぁー・・・ふんッ!」
創造主はその場で気合いを入れ、アリスの方へと跳び、リアを突き飛ばす。
「監督!」
「君が味方なのは知っている。暗闇のなか、君が我の前に立っていたのは鮮明に覚えている。」
「創造主様・・・ガ!」
創造主はアリスの首を掴み、片手で持ち上げた。
「そ、うぞ・・・う・・・しゅ?」
「だが、君では我に命令することはできない」
「し、・・・ぬ」
「ふんッ!」
まるでゴミでも投げるかのようにアリスを片手で投げ飛ばす。
アリスは壁に衝突すると、ガラス細工かのように弾けとんだ。
「彼女の記憶は見せてもらった・・・とても残念だ。平和的でなく、滑稽なものだ。この学校の生徒よ!もっと平和的な人間はいないのか!」
アリスの姿を見て、そこにいた全員は声を出すこともできない。
「・・・彼女の記憶の中にこんなものがあったな」
創造主は地面に複雑な魔法陣を作り出し、そこからチームZの戦闘メンバーの持つ銃と同じものを生み出す。
銃口は負傷するキラヘと向けられ、銃弾はその方向へと放たれる。
「キラ!避けろ!」
「動・・・けな・・・い」
鎖に拘束され、足枷をかけられたように身動きの取れない体を無理矢理動かそうとするが、やはり動けない。これも創造主の能力なのか・・・?
「拘束解除!」
その言葉と共に、最初に動いたのはまさかの無能力者である四津野だった。
四津野は銃弾を落ちていたパイプで叩き落とす。
「四津野!」
「やっとできた!・・・私の初めての能力!」
「この土壇場で修得したか。四津野」
「みんなの拘束も解除するよ!」
四津野は妹の万理のように目を光らせて全員の拘束を解く。
創造主は四津野のその姿を静かに見ていたかと思いきや、いきなり笑い始めた。
「面白いやつもいたものだ。もっと我を楽しませろ!」
拘束の解除されたシュウとキラは、その一瞬で創造主との間合いをつめ、刀で腕を切り裂き、拳で頭蓋骨を破壊する。
「やった!」
「やるじゃないか、屑能力者諸君」
並の人間、能力者ではすでに死んでいるはずの重傷のはずが、創造主は何事もなかったかのように、二人を作り出した鎌の柄で弾き飛ばす。
「あ、が・・・ッ!」
創造主は倒れたキラの腕の骨を折るように踏む。
「この腕が!我の頭を破壊した腕だな!」
「やめろーッ!」
見るに堪えきれなくなったオルガは創造主を天銀で作り上げた剣で切りかかる、
「邪魔者は引っ込んでろ!」
振られた大鎌の切っ先はオルガの胸を通り、周りに血の雨を降らせる。
「オルガーーーッ!」
オルガは捨てられたゴミのように地面に叩きつけられると、動かなくなる。
「これ以上は見てられない!」
リアは地面に手を当て、創造主の周りにデータで作り上げた包囲網を張り、安全にキラ、シュウ、オルガを助け出す。創造主は一度怯んだが、すぐに体勢を整えるとスナイパーライフルで、リアの手に銃弾を撃ち込む。
「データが、散乱する・・・ッ!」
データの集合体によって作られた波から落ちたシュウは、意識を取り戻すとキラとオルガを肩に背負い、こちらへと走る。
「二人の回収はできた・・・。今は撤退するべきだ。この状況でヤツと戦えるのは0に近い!」
「・・・シュウ言うとおりだ。ここは一度撤退する!」
リアはシュウの意見を飲むと、上空に緊急事態発生の文字を浮かばせる。その字を読み取った学校敷地内を飛ぶセキュリティのドローンは、創造主の周りでハエのように飛び始める。
「目障りだ!」
創造主はドローンを破壊する。
そのときにはすでにチームO+αの全員はその場から消えていた。
創造主のいる隣校舎二階、家庭科教室。
「よし、これでいいかな?」
「ありがとう、リリー」
オルガは意識不明。すぐに傷口を玲華が凍らせたため、出血は押さえられたが戦うことは不可能だろう。キラは右腕の骨の一部を破壊され、リアは手のひらに銃弾が埋まった状態。どちらも戦うことは不可能。
クロサクもあれから目を覚まさない。
ルナも頭と膝、足首を負傷したみたいだ。
「戦えるのは、勅使河原、四津野、柊、東条、榊原・・・か。後半は勅使河原が指揮を行えば・・・」
「監督、俺はそれに反対だ。」
勅使河原は立ち上がる。勅使河原は右手は拳を作っていた。
「あれと一年生のような若い能力者を戦わせるのは無謀だ。いくら数が多くても、あれを倒すことは無理だ。俺が前線で戦う」
「俺達をあまりなめないでください」
シュウは勅使河原の胸ぐらを掴む。
「チームOは上から下まで全員が強く、穴のないチームと他のチームから言われていた。現にチームAはチームOをそう言って警戒していた。あなたが思うほど、ここにいる能力者は弱くない」
「・・・わかった。なら柊と東条、二人がヤツを押さえろ。俺と四津野でトドメをさす。監督と榊原は引き続き、下で怪我人を守れ」
「「了解!」」
「よし、いい返事だ。」
「諸君、いつまで我を待たせるのかね?」
校舎の壁を破壊して現れたそれは、すでに一能力者として目覚めていた。さっきまでの目とは変わり、殺意を見せる目と血管の浮き出た腕。そして創造主の手には肘くらいまでのトンファーが握られていた。
「創造主・・・。全員、作戦開・・・始?」
創造主は監督の後ろに周り、おもいっきり腰辺りを蹴って壁に叩きつける。
「監督!・・・キサマ!」
四津野は怒りに身を任せて剣を振るうが、創造主のトンファーを前に刃が立たず、
「弱々しいな・・・」
剣ごと、窓の外に押し出される。
「残るは・・・お前らだ。」
「・・・作戦はまだ終わってない。柊、東条、いくぞ!」
「はい!」 「了解!」
四津野にトドメを刺しに行くのか、外へ飛び出た創造主を追い、俺達は外へ出た。
二階から飛び降りた俺は、真下にいる創造主の頭に蹴りを食らわす。
「お前の敵は四津野だけじゃねぇッ!狐術、
空中で円を描くように足から放たれた炎が、創造主の背中に横一線の傷を作る。
創造主は二回目の俺の蹴りをトンファーで弾くと、黒い刃のサバイバルナイフを俺に投げる。
「狐術、幻惑盾!」
「チッ、やるな」
「シュウ、今だ!」
創造主が気づいたときには、シュウの刀が創造主の右肩から腕を切り落とそうとしていた。
創造主は間一髪でそれを防ぐが、勅使河原の攻撃が続いてやってくる。勅使河原が四津野から受け取った剣が創造主の右手のトンファーを弾いて耳を切り落とした。
「剣術は苦手だが、波動がサポートしてくれる。」
創造主は血の流れる耳を押さえ、ふらついた足で後ろに下がる。後ろは壁、逃げ場はない。
「もう少し落ち着いてからやれば良かったと後悔しているよ。何十年も寝ていた身だというのを忘れていたよ」
「降参したか」
「だが、それもこれで終わりだ」
勅使河原は息を吸い、手のひらを合わせる。周囲の空気が揺れるのがわかる。
「今から、法を作り出す。さらばだ、能力者共よ」