Creatures.E   作:駿駕

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あらすじ
海都とルナ、一年生以外が会議と補習授業で忙しいその日、帰る途中にルナはチームAの隊長補佐役であり、チームZのアリスのことを話す、ロカ・セルナードに襲われる。


ルナとロカ

「きゃあぁぁぁッ!」

 

私は階段横の草花の生い茂った坂を転げ落ちる。

私はロカのカウンターに逃げることしかできなかった。

攻撃はあの三日月の盾によって跳ね返される。海都はあれによって負けた。海都が負けたんだ、私には無理だ。

(希望を捨てるな、ルナ。お前ならいける)

「でも・・・ッ!」

今さっき、転んだときにできた傷から血が流れる。良く見たら履いているタイツのところどころが割け、穴が開いていて、そこから血が出ているようだ。

(大丈夫か?)

「平気、平気。私が寝ている間、みんな傷だらけのなか殿堂杯で戦っていたんだ。これくらい何ともないよ」

こんなこと言ったけど、クロードには聞こえてるんだよね。心のなかで誰かの助けを呼んでいることを。

携帯は鞄のなかで、鞄は玄関の靴箱の前で・・・。

「まだ生きてるんだ。死んでいいんだよ、楽になった方がいいよ」

「死なないよ。死ぬのはあなただ!」

ロカの三日月の盾は大きさを変えられ、私の前で大きく膨らむと私を突き飛ばす。ここに私の攻撃が加わることで威力を増して、剣で切られたような痛みが私を襲う。

なら、

「あなたを剣で攻撃するのは止めた。クロードから教わった吸血鬼の魔法であなたに勝つ」

私は剣を鞘に納めると、膝から流れる血を指で掬った。

(ルナ!まだそれは未完成だ!剣で戦え!)

「クロード、たまには私を信じて」

(・・・わかった。お前を信じる)

私はその血で手の甲に円を書き、そのなかに五つの鋭角がに接するような星を書いた。

「あなたのそのカウンターは、私が攻撃することで発動する。だけど、発動する条件はあくまでも剣で切る、拳で殴るといった打撃だけだ。現に、その能力を持っているあなたは海都の炎の攻撃を違うデュフェンスモードで防いでいた」

「あのときは彼の力を見たかったからデュフェンスモードで対抗しただけ。別にカウンターでも防いで攻撃することは可能だよ」

「じゃあ、これはどう?」

私は石畳に付着した血がロカの足元まで広がっていることに気づくと、それを導火線のようにして、魔法を発動する。

血の魔術、爆発(ブラッディ・マジック、エクスプロージョン)!」

手の甲にできた魔法陣は赤く光り、ロカの足元は爆発した。

「即座にデュフェンスモードにしといてよかった・・・」

だが、ロカはデュフェンスモードによって、その攻撃を逃がす。でも私の考えは当たっていた。

石畳の血痕は爆発で消える。

(血の魔術で使った血は消滅する。次の手は考えてあるのか?)

手の甲の魔法陣は残っている。それに相手が動かないタイプだからまだ作戦を練る時間はある。

「次はどうするの?・・・何もないならこっちから行くよ」

ロカはどこから取り出したのか、短刀を手に持つとこちらへと走ってくる。

あの早さから、三日月の盾はカウンターモード状態。

私は膝の血を手で払い、辺りに散らす。

「血の魔術、針鼠(ヘッジホッグ)!」

その名の通り散らばった血痕からトゲが飛びだし、ロカの攻撃を防ぐ。赤いトゲはカウンターで破壊されるとロカの制服に赤い染みを付けた。

あと二回は使える。

 

「血の魔術で扱われる魔法陣は繊細だ。線が薄くて細いものは1、2回、濃く太いものは最高でも5回使うことができる。だが、濃すぎても魔法が発動するかは丸と中の形の正確さで決まる。全てが繊細で、なおかつ大胆でなければならない。これが血の魔術の性質だ。形はお前の書きやすいものでいい。だが、できるだけ角が多いものがいいな。三角よりも四角の方が力は発揮しやすい」

「じゃあ、星とかどう?」

「・・・お前は、もしものときにそれを正確に書けるのか?」

「星ならいける。私が緊張したとき、手のひらに書いていたのが星だから。ほら、緊張したときに手のひらに人って書くと緊張がほぐれる的な・・・」

「あくまでもお前の書きやすい形だ。好きにしろ。」

 

ロカは短刀に付いた血を三日月の刃に擦り付ける。刃に付いた血はなぜかわからないが消える。

「血を使う魔法、戦っている限り血は流れる。私のかあなたのかはわからないけど・・・ね!」

ロカの短刀での攻撃は止まず、既に届く範囲まで潜り込まれていた。

(剣に持ちかえろ!まだ間に合う!)

「ッ!」

ついに攻撃は届き、胸の上を切っ先が通る。

切り傷から血が吹き出す。

「ほら、流れた」

(ルナッ!)

「血の魔術、痛み分け(シェア・ザ・ペイン)

血の魔術の本で見たカウンター魔法。

禁じ手の一つに近いが、今受けた傷を相手にも付けるというもの。

だけど・・・。

「わかってた。あなたのその皮膚の下は機械だってこと」

ロカの皮膚の先に見えていた色は赤ではなく銀だった。

そして今の魔法で魔法陣は消えてしまった。

「もう一回使えるって予想は外れたけど、当たった」

私は意識が朦朧になり、その場に倒れる。

「あとは頼みます。・・・キラさん」

ルナの数メートル上を通る太い枝の上から、悪魔の黒く重い拳がロカのカウンターをすり抜けて頭を襲う。

「っぁらッ!」

ロカの首はその威力に耐えきれず、首から外れて地面に叩きつけられる。

「ルナ、よくわかってたじゃねぇか。俺が会議に出てなかったってことが」

「キラさん・・・面倒事は嫌いだから・・・」

「とりあえず、すぐにリリーを呼ぶ。だから、その血の魔法で少しでも治してな」

「そう・・・します・・・」

キラさんはロカの頭を踏みつけ、ストレスを発散すると学校へリリーを探しに向かった。

私はその傷を治す魔法と出血を止める魔法を知らなかった。

しだいに意識が薄れ、起きたときにはベッドの上に横になっていた。

 

 

「壊れて回収できず・・・か。」

「まぁ、その程度だったってこと。所詮は機械だ、アキネを殺せただけで十分」

アリスはパソコンの電源をつけ、研究室の奥にあるデータベースに、ロカが壊れる前に送ってきたルナの戦闘データを保存する。

「ルナ・・・メビウスプログラム実験台の一人。メビウスプログラムの可能性」

「まぁ、私にはもう必要ないけど。ついに完成するんだ、第二のメビウスプログラム、創造主様がね。創造主様の体と私の魂を使うことで、創造主様は復活する!これが第二のメビウスプログラム、心臓と体ではなく、魂と体の共鳴だ!これが成功すれば、アリサ!世界は私たちのものになる!」

「有栖川・・・今日はあなたの担当ね。チームAとOのメンバーに悟られないように任務を進行して」

「わかってるよ、創造主様のためにね」

有栖川は机の上のアリスの生徒手帳を取ると、部屋から出ていった。

「・・・次は、彼かな」

 

 

次の日の新聞の一面でチームAの隊長補佐、ロカ・セルナードが死んだことが大きく取り上げられていた。死因は校外での戦闘による戦死。対戦相手や戦闘開始と終了時刻、その他色々なことが書かれていなかった。それもそのはず、監視カメラの情報は、リア監督によって削除され、戦闘が行われた日は夜遅くまで会議や補習授業が行われていたからだ。

そしてチームOだけが、ロカの死を詳しく知っているという結果になった。

 

昼食を終えた帰り、俺はシュウに会った。二週間で仲間を二人失ったシュウの顔はどこか暗かった。はなから、あまり口を開けないが、その日は声をかけても、無視してその場を離れるだけだった。

 

そしてロカという駒を失っても、チームZの計画の進行は止まることを知らなかった。

 

 

 


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