Creatures.E   作:駿駕

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あらすじ
柊を探すために、ルナは柊が最後に行ったと思われる場所へ行く。
そしてそこで有栖川 剣城という女に会った。

一方その頃、柊の方ではある試合が行われていた。


敵わないもの

私はその空間に入っても、なぜか冷静でいれた。

どこか懐かしく、そしてこの風景を知っていた。

この先、何が起こるかわからないが、私自身何が起こっても冷静でいれる気がした。

 

すると、いきなり私の前にドサッと倒れる男が現れた。

男は身体中血まみれで、今にも息絶えそうだった。

「どうしましたか!」

「ぐっ、俺に触れるな!」

よく見ると、彼の心臓を貫くように、長めの矢が刺さっている。

それは銀色に近い色をして、矢じりに十字架が描かれていた。

「俺は吸血鬼だ。だが、普通の吸血鬼じゃない」

話の途中で男は吐血する。

「だが、人間であるお前に頼み事をしなければなれないようだな・・・」

男は私に大事に持っていた剣を渡した。

「その剣は俺の魂だ。絶対に追っ手に渡すな。」

「ま、まだ、わかりません。あなたの名前は?」

「・・・クロードだ。人間に名前を告げるときが来るとは思わなかった・・・な」

男は最後にそう言い残すと、静かに息を引き取った。

そして、場面を変えるかのように追っ手が私の目の前に現れる。

「そこの女よ。ここに瀕死の兵士が来なかったか?」

「来ませんでしたが・・・ある男性は来ました」

「・・・まさか、その剣は!キサマッ!」

「クロードさんの意志は・・・私が受け継ぐ!」

そのとき、普段の私なら、何を言っているんだと思うところだけど、私は何も思わなかった。むしろ、光栄に思った。

なぜなら・・・

 

やっと、私にだけできることが見つかったから。

 

この感じ、小学生から中学生にかけてやっていた剣道に似ている。

振り方は全く違うが、この貰った剣の力もあってか、いつも以上の力を発揮しているのがわかる。

剣は相手の隙を縫うように動き、いつの間にか追っ手は戦闘不能で倒れていた。

ルナの力ではない。この剣に染み込んだクロードの魂が彼女を動かしている。

そして、彼女を先へと進ませる道標になる。

 

ルナは剣をしまうと、追っ手の現れた方向へ足を進めた。

 

 

「これから試験を受けてもらう!」

 

そう言われてやってきたのは、校舎から少し歩いた場所にある体育館近くのグラウンド。

そこには何人か観客と思える人間がいた。

「ここで行われるのは、入団試験を兼ねた新人戦だ。ここ数週間で入学した者が戦い、監督が真価を見るというものだ。この結果によっては、すぐに参加もありえるな」

「まぁ、私たちのチームは今、四人しかいないから、嫌でも参加できるけどね」

教室の奥の方の席に座って男のような格好をした女が、俺の耳元まできて話した。

「ごめんね、驚かせちゃった?」

「・・・いえ、別に」

「いやー、あまりにも私、空気だったからさ。私の名前は四津野 千理。よろしくね」

四津野は俺の手を握る。・・・痛い。握力が俺の右手を壊しにかかる。

「あ、ごめんなさい!私、昔から力が強くて」

(この女、本当に女か?握られたとき、私の腕にも力が伝わってきたぞ)

四津野が手を離したあと、数分は手が痺れていた。

ほとんど感覚がなかった。

「柊、ちょっとこっちに来てくれ」

リアが二回ほど手招きをする。俺はすぐにリアのところへ向かった。

「今日の新人戦だが・・・

 

君は一回戦目から負け試合みたいだ。

 

 

俺は静かに戦場へ出た。

武器などないが、俺には妖狐がいる。

(監督の言葉、まだ気になっているのかい?)

「普通は気になる。・・・それほどの力の差があるのか、それとも」

(戦う前から勝敗の指示があるか・・・。まぁ、戦ってみたらわかる)

俺は戦場のど真ん中、線の引かれた場所に立つ。

『新人戦 1グループ一回戦!左、柊 海都。右、東条 シュウ』

右と言ったが、俺の前にそいつはいない。

東条 シュウとか言ったが、どんなやつなのだろうか。

『新人戦初試合からこんな状態とは、どうやら不戦勝みたいだな、運のいいやつだ』

 

「誰が勝ちを譲ると?」

 

その声は、会場を一気に凍らせた。

熱気は外へと消え、そこには冷酷な眼差しをした男がこちらへと向かっていた。

「試合時間が押していると聞いている。すぐに終わらせるから、次の試合時間には間に合うだろう」

男は右手に握った刀の鞘を投げ捨てると、その刀をかまえた。

「お前は確か・・・昨日、キラと戦って初めて能力を知ったみたいだな」

「なぜ、それを?」

「あの集団の中に俺はいたからだ。風紀委員よりも上の役を持つ能力者としてな」

 

『それでは・・・試合開始ィーーーッ!』

 

審判は俺たちの話を断ち切るように、開始宣言を行う。

そして、俺の戦意をも断ち切った。

その刀は俺の右腕を切り落とした。・・・という幻覚を相手に見せた。

だが、あと少し遅かったら、それが現実になっていた。

「・・・お前の武器はその幻覚か?」

「!」

なぜ、バレた!

昨日のことを観ていたといえど、それでも観ていて二回だ。まさかその二回でバレたとは・・・。

「いや、その幻覚はただの防御だ。まぁ、俺には効かないがね」

シュウは眼光をこちらに向ける。・・・すると、俺の目の前に衝撃波のようなものが激突した。

まるで、車がぶつかってきたような、そんな威力の衝撃波が俺に襲いかかった。

「ッ!」

「この眼は幻覚をも消し去り、相手に衝撃波で攻撃する。いわば、攻撃と防御の両方ができる能力だ」

(柊ッ!こいつと私たちとではレベルが違う。まだ、私と完全に融合できていない状態では!)

妖狐は確かに今、融合と言った。

俺の意識が、妖狐の意識と融合すれば、シュウを倒せるのか?

(・・・難しいところね。今は数字で表すと、およそ10%くらい。あと20は欲しいけど・・・)

かまわない・・・とも思ったが、昔読んだ本をたった今、衝撃波をまともにくらい、壁に衝突したときに思い出した。

神や妖怪が人間と魂や意識を合わせるためには、それなりの体力が必要だと言われる。中には、魂の共鳴を図り、死んでしまったものや、完全にその相手に食われ、二度と人間の魂はこの世界に帰ってこなかったという話もある。

(大丈夫。だって、私には経験がある。昔にも、私と融合した人間がいたから)

・・・それはそれで何とも言えないが、今は仕方ない。

「力を貸してくれ!妖狐!」

「わかったわ!」

 

30%

 

何が起きたのか、俺にはわからないが、身体の奥から溢れ出す力にどこか『強さ』を確信させるものがあった。

そして、俺のケツから生えた尻尾は三つに増えていた。

「この数秒で能力値が上がった!?・・・進化だか何だかわからないが、まだ俺には策がある。この眼以外にもな」

「行くぞ!シュウ!」

俺はその力で、シュウの振り下ろした刀を受け止めると、右拳をシュウの顔面目掛けて殴り貫いた。

拳は顔面の手前で、シュウの能力によって防がれたが、次の左は完全にシュウの顔面を捕らえた。

「やった!」

「この衝撃波は片眼のみでしか発動できないッ!」

衝撃波をくらった俺のように後ろへぶっ飛ぶが、壁面わずか数ミリのところで踏み止まった。

「最初の言葉はどーしたッ!もう限界か!」

思わず、そんな言葉が口から出てしまった。きっと、妖狐が発した言葉も出てしまうのだろう。

「限界?・・・俺はまだ一つしか能力を出してない。俺には三つの能力がある。そして・・・これが二つ目だ!」

 

次の瞬間、シュウは瞬間移動をしたかのように、俺の目の前に立った。

本当に一瞬だった・・・

 

「ヤバイッ!」

刀は本当に俺の左腕を切り落とした。

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁッ!う、ぐ、ぐぁあッ!」

「悪者にはなりたくないが、こんなことを言ってやろう。その悲鳴、とてもすばらしいな」

シュウは俺を見下すと、右足で俺の左腕の付いていた部分を蹴り飛ばした。

 

そして、ここでレフリーストップか、鐘の音が鳴った・・・。

 

『ここで、柊 海都。戦闘不能です。これ以上戦っても死人が出るのみです!』

 

俺の初試合は初戦敗退で幕を閉じた。

 

ちなみに優勝者は俺を倒したシュウだったという。

 


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