クロノスと勅使河原の前に現れたオルガ。
オルガによって唯一の突破口は開いたが、勅使河原はクロノスに捕まってしまう。
そしてチームO全員でのクロノス戦。オルガの指揮でクロノスを倒すことに成功した。
多くの歓声と共に、オルガはリア監督の持ってきた担架で保健室に運ばれる。
腹部にできた穴は、気を失ったのを良いことに玲華の力で無理矢理凍らせて塞いだが・・・。
校庭に残された俺とルナとクロサクは、その場でただ待つことしかできない。あの船に乗り込むなんてまず不可能だ。
「オルガさん大丈夫かな・・・」
(今は待つだけだ。そして彼を信じるしかないだろう)
「だよね・・・海都、どうする?」
「どうするって言われても、監督にここで待ってろって言われたしな」
クロサクはずっとキョロキョロ辺りを見ている。
きっと待てない性格なんだろう。
「クロサクも待てない感じ?」
「いや、何か変なんだ。討伐部隊のヤツらもみんないなくなって、なんで俺たちだけここに残されるんだ?もし俺が監督なら教室に戻るように指示する」
「確かに・・・奇妙だ。一度、監督に」
俺はそう言い、通信機を取り出す。すると、通信機に監督から連絡が入る。
「三人とも。オルガは大丈夫、心配しないで。それと指示遅れてごめんなさい。今日は自由行動にするわ。オルガが心配なら、保健室に来ても良い。船が気になるならずっとそこで船を見ててもいいわ」
「了解です。ただ一つ気になることがあって」
「勅使河原のこと?」
「はい・・・」
「彼なら大丈夫だわ」
★
「おいおい、なんだこれは・・・」
俺がザザエルのおっさんの後をついていくと、目の前に大量のカプセルが現れた。カプセル全てに何かが入っているのを俺は察知した。
「フォッフォッフォ・・・気になるか?これはただの戦闘兵器じゃよ。今、天使は数が少なくなりつつある。特に戦闘向きの天使はなぁ。じゃから、ワシらは天使型戦闘用アンドロイドを作り上げた。全てに意思があり、全てにワシへの忠誠をプログラミングしておる」
「こんな武器があるのに、創造主が必要なのか?」
「これはあくまでも秘密兵器じゃよ。まずは創造主に侵略してもらい、残党をこれでやるってことじゃ」
「・・・なるほどね、理解した。
ようするにじいさんはこれをアリスに渡すために来たんだろ?
「な、・・・何を言っておる!これはあくまでも秘密兵器!人間に渡すということはな、ない!」
「図星だな?アリスに頼まれたんだろ?たくさんのアンドロイドを」
「なぜ、そう言い切れるんじゃ・・・?」
「俺の能力はすでにじいさん、アンタを囲んでいるからだ」
「な!?」
波はじいさんを囲み、ここいったい、全ての機械を覆っていた。じいさんの言動一つ一つに波が反応し、それで嘘か本当かを図っていた。
「情報さえ、聞き出せれば結構。じゃあな、じいさん!」
「ま、待て!ヤツを捕まえるんじゃ!」
「俺の手を固定するだけじゃ、俺は止められない」
そのとき、俺は波を荒ぶらせた。機械を覆っていた波はすでにその機械へと攻撃し、機械を破壊した。
じいさんや、天使軍のヤツらは爆発で体勢を崩し、立ち上がれなくなる。
「なぜ、お前は立っていられるんだ?」
「・・・では、なぜお前らは這いつくばっているんだ?」
「グヌヌヌ・・・、キサマァ!」
ザザエルはその老体に鞭を打ち、忘れられていた天使の羽を羽ばたかせる。
「その体とは真逆に良い羽持ってんじゃねぇか」
「バカにするでない!これでも司令官をやっている者じゃ!死ねい!化け物!」
ザザエルは天銀で作り出した鎌で俺の首を狙う。
だが、自然が生み出した波の前では無力だった・・・
★
空中に浮いていた母艦が少しずつ下へと落ちてくるのがわかる。隙間からは煙も発ち始めた。
「お、おい、柊。アイツ、こっちきてないか?」
クロサクが母艦を指差す。少しずつだが、煙の上がる母艦はこちらへと頭を向け、降下し始めているのがわかる。
「ルナ!逃げろ!」
「うん!」
俺はまずルナに逃げるように伝え、自分はゆっくりと3歩ほど下がったあと、全力で走り出した。
「ルナ!クロサク!潰されたくなければ逃げろー!」
(男らしくないね。男ならもっと胸張ってさー)
「お前は死ねって言ってるのか!タマ!」
船は火を吹きながら、校庭に船頭を突き刺す。
船頭が校庭を抉りながら数キロメートル進んだ後、校舎数メートル先で船は止まった。
「はぁ、はぁ・・・大丈夫か?」
「私は大丈夫。」
「俺もだ。・・・それにしても、どうしてさっきまで飛んでたコイツが落ちてくるんだよ」
「それは俺が墜落させたからだ」
火の上がる船のなかから、黒くなった勅使河原が男を背負いながら現れた。
その男はひどく年老いていた。
「この人は?」
「ザザエル。天使に指揮をしていた、いわばこの船の親玉だな」
「生きてるんスか?コイツ」
「辛うじて息はある。コイツには色々と聞きたいことがあるからここから持ってきた」
「持ってきたって・・・」
「とりあえず、みんなよく頑張った。ミッションクリアだな」
勅使河原はザザエルを保健室へと運ぶ。俺たちは船をずっと見ていた。そしてこの船を見て、あの人が改めて強いというのを確信した。
「さーて、天使の親玉さんよぉ。この落とし前はどうつけてくれるんだい?」
「ひ、ひぃ~~~。ゆ、許してください、な、なんでも話しますからー」
ザザエルは勅使河原の顔を見るなり、ベッドから逃げ出して部屋の隅で土下座をする。これが天使の親玉と聞くと、少し残念にも見えるが・・・。
「今、なんでも・・・って言ったよな?じゃあ聞くぜ。具体的にアリスとはどういう契約を結ぼうとしてたんだ?」
「せ、戦争のコマとして戦ってもらおうとしてたんじゃよ。そして創造主のことを聞くためにきたんじゃ。」
「・・・で?」
勅使河原はザザエルの後ろの壁を蹴って威圧する。
「そ、それだけ、それだけです!あの船のなかにあったアンドロイドはあくまでも人間の代わりにと持ってきたものです!人間よりは劣りますが、数としては結構な数を・・・」
「わかった・・・。」
勅使河原はそれを聞くと壁から足を離し、近くのイスに深く腰掛けた。
「それじゃあ、最後に聞きたい。オルガが欲しかった理由はなんだ?」
「そ、それは・・・」
「俺が説明する・・・」
扉を開け、そこにいたのは傷だらけのクロノスだった。クロノスは今にも溶けそうな天銀を杖のような形にして自分の体重を支えていた。
「今現在、天使のなかにオルガほどの研究員はいなかったんだ。この天銀もオルガの作ったものだ。臨機応変に形を変えることができ、こんなにも使いやすい物質を作る者は、今の研究員誰を見てもいないんだ。そこでこの技術と戦闘員としての力を見て、もう一度帰って来て欲しかったんだ。俺たちの戦力増加のためにな。・・・そうだろ?ザザエルのじいさん」
「お前、生きてたのか・・・」
「ここの設備はいい。やはり人間はすごいな・・・」
次の瞬間、クロノスの体重を支えていた杖は液体のようになる。そしてクロノスは病室の床に倒れた。
「く、クロノス!」
「人間の知恵と技術あっても、天使を治すことは不可能か・・・。あばよ、ザザエルのじいさん・・・」
クロノスは金色の光に包まれると、その身と魂を天国へと帰した。
「あぁ・・・あぁ・・・クロノス。」
「じいさん。最後に聞いて良いか?」
「な、なんじゃ。止めでも刺すのか?」
「違う、アリスについてだ。アリスとはいったい何者なんだ!」
「アリスは・・・あの事件の・・・生還しゃ・・・」
銃声が病室を轟かせた。
ザザエルは脳天を撃ち抜かれ、俺たちの前で倒れた。
「それは言わない約束だろう?・・・ザザエルさん」
開けたままの扉の先にはアリスと思われるウサギのフードをかぶった女が立っていた。服を着ていてもわかるスラリとしたボディーラインとクリーム色の髪だけが唯一の特徴だった。
「あ、あ、・・・」
「それじゃあ、au revoir・・・フフフ」
「待て!」
勅使河原と四津野はすぐに廊下へと飛び出る。廊下の先には誰もいなかった。
ザザエルの体はクロノスと同じように消えていく。
「クソッ!」
勅使河原は思いっきり壁を殴った。そのときできた波でさえ、アリスを捕らえることはできなかった。