突如現れた天使。
やつらの目的はオルガだった。
久しぶりだな・・・オルガ。
天銀を纏うクロノスを見て、オルガは本気になる。
そして勅使河原はあの防御を崩せるのはオルガしかいないと信じ始めていた。
犬猿の仲。そんな関係の二人だが、今は共闘する以外の名案は無かった。
「いくぞ、オルガ・・・。ここはやるしかないみたいだ」
「みたいですね。くれぐれも足を引っ張らないように」
「お前こそな!」
オルガが最初にクロノスに攻撃する。オルガの天銀を使った攻撃は唯一の天銀を破壊する手段と言っても過言ではない。
そして装甲の開いた部分を、俺はオルガの持ってきた槍で攻撃する。もちろん、コーティングはされているが材料は天銀だろう。
「ッ!」
クロノスはおもわず、体勢を崩してしまう。
「今です、勅使河原さん!」
「指図すんなっての!」
槍はクロノスの天銀で作られた装甲にできた穴に、吸い込まれるように突き刺さる。
「チィッ!勅使河原!テメェだけでも殺さねぇとタダじゃすまねぇ!」
クロノスは俺の持っている槍に天銀を纏わせ、それに気づいたときには俺の手首まで浸食されていた。
「勅使河原さん!」
「離しやがれ!」
「あとは、母艦の中で話そうぜ。茶でも飲みながらよ」
「ッ!・・・オルガ!テメェはコイツらを天国へ引き返させるための第一の鍵だ。絶対に死ぬんじゃねぇぞ!」
俺はそう言うと、光に包まれ母艦に乗り込むことに
成功した。
★
「大丈夫なのか?ルナ」
「うん・・・まだ少しだけ頭が痛いけど、大丈夫だよ。私も戦える」
(ルナ、さすがにそれは不可能だ。まだ俺の魔力侵食が完全治っていない。)
「それでも戦わないと、それに・・・ずっと寝てるのは嫌なの!」
(ルナ・・・なら、まずは俺の魔力に馴れろ、いいな?)
「・・・うん!」
「さーて、ルナも復活したことだし、あの船を破壊しますか」
四津野は剣の切っ先を船に向ける。
そのときだった。
四津野はその事態に気づき、すぐに窓から離れ、俺たちの方へ走ってくる。
次の瞬間、窓の外が光り、壁が破壊された。
爆風が病室内を駆け巡り、俺たちを壁まで吹き飛ばす。
「こ、攻撃してきた・・・」
俺たちが生きていることに安心し、通信機のダイアルを回す。
「早く勅使河原さんに繋がらないと!勅使河原さん!勅使河原さん!」
四津野はダイアルを勅使河原さんの持つ通信機に合わせ、何度も通話ボタンを押す。だが、通信機から聞こえるのは砂嵐のような雑音のみが何度も繰り返される。
「勅使河原さん・・・まさか・・・」
「元気にしてたかよ、天使の長さん」
「これはこれは勅使河原よ。よくぞ、我がティアラ号に来てくれた」
俺の前に座る爺さん。これが天使の長、クロノス達に指揮をする親玉だ。名前はザザエルだっけな。
「で、この学校にこの母艦ごとやってきた理由はなんだ?テロなら小さな戦艦一隻でいいだろ?」
「ワシはここに取引をしにきたのじゃよ。ここにいるアリスというものになぁ。」
「アリス?」
アリスと聞いて出てくるのはチームZの一人。だが、なぜあんな若い能力者が?
「あの娘が唯一、この学校の裏を知っているようでな。そこであの娘と取引しにきたのじゃよ」
「この学校の裏を知って、お前らに何の得がある?俺には何の得にも」
「全てはこの学校の、いや、能力者が産み出されるきっかけとなった人物の情報を得るためじゃよ」
「なんだと?」
「その名はクリエイター、創造主、創造神・・・色々な名前があるが、その能力は後に破滅を作り出す。この能力者戦争で鍵になる」
「・・・理解した」
「ワシのしたいこと、それは能力者戦争にて勝利することだ。その戦争によってこの地球のほとんどの能力者が消え、ワシらは・・・ゲホッ!ゲホッ!」
「無理しない方がいいぜ、もう歳なんだろ?」
「無理してないわい!・・・クロノス、お前はオルガを捕まえてこい。ワシはこいつとでも話しとるわ」
クロノスはビシッと敬礼をすると、俺を鼻で笑い、後ろへと去っていった。
「なーに、年寄りの話し相手になれってことじゃよ。それにお前にはこれから先のこの学校について知る必要がある。
星英能力者専門学校についてな・・・
★
『オルガ・アーガイル!今すぐこの戦艦の前に姿を現せ!お前たちの隊長、勅使河原の命はこちらが預かっている!いつでも殺せる準備はできているぞ!』
戦艦から響く放送はオルガへの放送だった。
オルガはチームOの教室の席に座ったまま動こうとしない。
チームO全員が教室に集まると、すぐに会議が始まった。
「オルガ、どうするんだ?」
キラは深刻な顔をしてオルガにこの現状を問い質す。だが、オルガは聞く耳を持たず、目を閉じたまま席に座るだけだった。
そして放送が止み、戦艦から何かが校庭に降りたのを確認すると同時に、LOST討伐部隊が襲いかかる。
その後の光景は見るに堪えなかった。
無惨にも一人の天使に攻撃が効かずに敗北していく部隊員と戦闘兵器。そのなかにチームAのキラの好敵手であるヤマトも見える。
ヤマトの撃ったミサイルは天銀によって防がれ、天使の目の前で爆発する。
「キラさん!ヤマトさんが・・・」
「ッ!・・・オルガ!キサマァァァーーーッ!」
キラはついに怒りの限界を迎えたのかオルガの胸ぐらを掴んで床に叩きつける。
「どこまでお前はアホなんだ!お前一人のせいで既に何人もの犠牲者が出ているんだぞ!それに勅使河原さんも!」
「・・・俺だって」
「はぁ?」
「俺だってなんとかしたいんだよ!だけど、アイツと戦ってわかった!俺は弱い!お前よりも!四津野よりも!柊よりも!クロサクよりも!ルナよりも!玲華よりも!このチームの中で誰よりも弱い!俺は弱いからこれまで指揮をしてきた!そうに違いない!俺が、あんなぶっ壊れた野郎の前に立っても死ぬだけだ!」
キラはオルガを殴った。
オルガはその勢いで後ろに倒れる。
「キラさん!」
「俺は、指揮が誰だろうと戦う!どんなに弱くてもな!気に入った指揮が他のチームならチームだって変える!たが、俺はここにいる!それはお前が強いからだ!お前ほど全員の戦闘を見て、色々な戦闘の経験をしている頭のいいお前に指揮をしてもらいたいんだ!」
「お前・・・」
俺はキラの言葉を聞いて一歩前に出た。
「オルガさん、俺はオルガさんを弱いなんて思ったことないです。訓練のとき、俺の攻撃の良い点、悪い点を理解して指導してくれる。あんな芸当できるのはオルガさんだけです」
オルガは目を服の袖で拭うと、充血した目で俺たちを見た。
そうか、俺にはこんなにもすばらしい仲間がいたんだな
「わかった。指揮を出そう。全員、通信機の準備をしろ」
★
「おい、君・・・ってオルガ・アーガイル!なぜ、ここにいる!」
「なぜって?こいつに呼ばれたからですよ」
俺は天銀を槍へと変化させると、通信機で全員に指揮をとる。
柊と四津野は左から、キラとクロサクは右から、ルナと玲華は(少し心配だが)背後を取らせるように移動させる。
俺が出てきたことに驚いているのか、討伐部隊は銃撃を止め、俺に戦場を進ませる。
「オルガ、お前が出てくるとは思わなかった」
「取引のために顔を出したんじゃない。お前を倒すためだ」
あの天銀の鎧を崩せるのは天銀のみ。俺があの鎧を砕かなければならない。
「ほう、研究員も同然のお前が、俺の敵として前に出るか。いいだろう、かかってこい」
「いくぞ!」
天銀は固まっても天銀相手には無意味だ。中和され、やがて柔らかく液体のように流れてしまう。
「ッ!・・・やはり、天使相手では分が悪いか」
こいつがあのときみたく単細胞な野郎なら、ここで俺だけを殴るために天銀を硬め、剣や槍にでも変えてくる。少しでも鎧が薄くなった瞬間、全員で一斉に攻撃をする。
「な、なんだと・・・」
ヤツの鎧は数ミリ薄くなっただけで、手には股から肩まで守れる程度の盾と俺の持っているものに近い槍が生成されていた。
「いやー、ここ最近は盾に槍というものが自分の流行りでね。さぁ、ここからだ」
攻撃的になったクロノスの槍は俺の槍を弾くように突き飛ばした。
俺は一度、後ろへ退いてから槍を構え突き進む。俺の槍はクロノスの盾で受け流され、その一瞬でクロノスの槍は俺の腹部分に穴を開ける。
「ッ!」
ここまでか・・・いや、ここまで近づいた!
「食らえ!俺特製の天銀酸だ!」
俺は護身用に持っていたクロノス達の知らない天銀酸を投げる。
「こ、これは!」
「天銀酸・・・。この小瓶一つしか持ってないが、これさえあれば十分だ」
天銀酸。それはただ天銀に酸を合わせたものだ。天銀に酸を混ぜることで他の天銀物質につけると溶けるということに気づいた。もちろん、これで武器を作ることは不可能だが、いざというときに使えるだろうと思い、取っておいた。
天銀酸は思ったとおりにクロノスの盾ごと鎧を溶かす。
「お前らの欲しいのは俺じゃない。俺の頭脳だ。そうだろ? この単細胞が」
「き、キサマーーーッ!」
「冷静さを欠いた。それがお前の敗因だ。全員!一斉攻撃!」
三つの方向から現れたチームO戦闘班の全員はクロノスにおもいっきり攻撃する。
最初にクロノスを攻撃したのはキラだった。
「これが・・・チームだ・・・。」
立っているのですら危うかった俺は気を失ってそのまま後ろに倒れた。