雷帝が死んだことを知る柊と、エースに挑むクロサク。
クロサクは敗北し、柊はとある作戦に出る。
それは柊の体とタマの体を入れ換えるというものだった。
ここは・・・
「確か俺はタマと交代して、俺の代わりにタマが戦うことになったんだっけ?」
目が覚めると俺は本棚に囲まれた部屋で倒れていた。
四方向の本棚の4分の1も埋まっていない。
「これは何の本だ?」
背表紙には「14」と書かれている。
俺は恐る恐るその本を開いた。
およそ400ページある、ライトノベルくらいの厚さをした本の1ページ目には「14の記憶」と書かれており、その次からは自分が何をしたかが全て書かれていた。
「その名の通りってわけか・・・」
俺はその本を本棚に置くと、一冊の本が目に入ってきた。他の本とは段違いに薄く、本当に十数ページくらいしかない本を見つけた。その背表紙には「4」と書かれていた。
確かに今思い出してみれば、俺が四歳の頃、あったことをほとんど覚えていない。だが、ここまで薄くなるのか?
そして良く見ると、「3」と書かれた本も薄かった。
「どうして3と4だけが極端に薄いんだ。俺はこの二年間、何をしていたんだ?」
俺は気になって、3の記憶を開いた。
『9月14日、誕生日』から始まり、およそ二週間経った先が1ページも書かれていない。そして、
「どういうことだ、これは・・・」
4の記憶の初めにはいきなり「兄がいなくなった」と書かれていた。
★
「やっぱり私の力を奪って、他の狐と契約結んでるだけあるな。こんなにもキツイとは思わなかった」
私は久しぶりにこの体を動かしたというのもあってか、力が弱くなっていた。
相手の狐はたぶん九尾クラスだろうと考えて、攻撃しては退くを繰り返して戦っていた。
私の能力である、"高度な"幻覚は狐相手では正直、無意味なものになっている。でも、それは相手に幻覚を見せるときだけだ。
「隊長!どうしたんですか!?しっかりしてください!」
「エース隊長!起きてください!まだ戦えます!」
「殿堂の一人、エース!どうしたことでしょうか!さっきから挑戦者に押されております」
観客や実況を騙すことはできる。
「楽しいか?そんなことをして」
「ときに人間ってのは、目から入ってきた情報と耳から入ってきた情報など、違う場所から入ってきた情報に惑わされて混乱することがある。戦ってれば、わかるさ」
エースの攻撃をひたすら避けるだけ。それが今の私がやること。相手を混乱させるのは私の十八番。
目から入ってくる情報による幻覚が使えなければ、耳から入ってくる情報による幻聴を使えばいい。昔、私を捕まえるためにやってきた岡っ引き達を集団催眠したときに習得した技だ。町の女に化けた私を捕らえようとしてきたから、町の全員に、来た岡っ引き達がどんどん殺されていく幻覚をかけた。町中が大混乱の波に襲われ、当然そんな空間にいる岡っ引き達はおかしくっていき、逃げれたってわけだ。
「んな、昔話今の状況で話してられないけどね」
「なぜ、逃げる?お前は何がしたい?」
「何って?海都にエースについて知ってもらいたいでたげだけど?」
「俺について・・・だと?」
エースは足を止める。
「君にだけ教えるよ。海都にはある時の記憶が一切無いんだ。そこに何が当てはまるのかは私だけが知っている。そして君の中にいた私は君の記憶を知っている。・・・つまり」
「俺のこの消えた記憶には、エースといた記憶が当てはまるのか」
「正解だよ、海都。交代しよう」
タマの姿は光が放たれると同時に海都の姿へと変わっていく。
「エース。お前はいったい何者なんだ?」
「・・・俺は少しの間、お前の兄だった。一年だけ、短い時間兄としてお前を可愛がっていた。それも、あのE-vil事件によって俺以外が知らないことになってしまったがな。あの事件の首謀者」
「何を話している、エースよ。戦いはまだ終わっていないぞ」
後ろから何らかの力でエースの首を掴む。それはエースの後ろを四本足で歩いてきた。
「狐・・・」
それはエースに憑き、エースを操っていた狐だった。狐の力によって、エースの首には掴まれたような跡が浮かび上がる。
「が、な、にを、する・・・?」
「エース、少し話しすぎたようだ。一度、息絶えてくれたまえ」
「に、げろ・・・柊」
エースは最後にそう言い、膝から崩れ落ちた。
観客や実況には未だにタマの幻覚が効いているのか、歓声が鳴り響いている。
「柊 海都・・・そして狐・・・お前ごときに事件を知る意味などない!」
「いや、知る必要はあるぜ。その事件の首謀者によって、俺の記憶が消されている以上は、その事件に関わってはいるんだからな」
「なら、仕方ないな・・・私は無意味な殺生は嫌いでな、普通なら逃がしておきたいところだが・・・君には死んでもらうしかないようだ」
狐は気絶したエースの体の中に入ると、白眼を向いたエースを立ち上がらせ、俺に攻撃を仕掛けてきた。
「私の力はお前ごときが考える予想や予測に収まらない。消えろ!」
「お前の敵は柊だけじゃねぇ!」
シュウは狐の隙を見て攻撃するが、狐の防御によって持っていた刀を折られてしまう。
「お前も刀を持たなければ、ただの人間も同然・・・はぁッ!」
エースの掌から放たれた衝撃波によってシュウは一直線にビルへと飛んでいく。
「邪魔が入ったな。だが、これでお前の盾は無くなった。さらばだ、能力者よ」
エースは胸の前で両手を合わせた。すると、周りの瓦礫が浮かび上がり、エースの頭上に集まっていく。
「くらえッ!」
エースは右拳を俺に向ける。頭上の瓦礫は槍のように細くなり、俺に向かって飛んできた。走り回っても追いかけてきそうなその槍は砕くしか防御方法はない。
「タマ、一ついいか?」
(こんなときに何?)
「昔、俺と意識を融合させたときがあったよな?今はどれくらい融合してる?」
(だいたい35%くらいかな。・・・まさか)
「50%・・・ダメか?」
(どうせダメって言ってもやるでしょ?いいよ、その賭け乗ってやる)
「行くぞ、タマ!」
50%
体がビリビリと痺れたような感覚が包み込む。俺の体の左半分がタマの姿になっていた。
瓦礫の槍は目の前で崩れていく。
「これが50%・・・」
「半分だからこんな感じ、力の感じはどうだい?」
「あぁ、最高だ。今なら、あの狐術?っての使えるかもしれない」
「試しにやってみるかい?」
「おう、えっと・・・まずは合掌だよな?」
「そう。そして、集中して・・・力がお腹の辺りに集まったら、狐術と言って」
「わかった・・・」
俺は目を閉じ、集中する。エースが攻撃を用意しているのがわかる。だが、心はすでにそんなことを無視するくらいに集中していた。
「・・・今だ!」
「狐術!狐火"改"!」
俺の足下に現れた魔法陣は辺りを炎に包み込む、まるでエースが最初にやったような炎がエースを襲いかかっていた。
「こいつ!数分で、私の狐術をモノにしたというのか!?ええい、狐術、水流!」
「なら、狐術! 落雷"改"!」
エースは水を操り、自分に燃え移った炎と周りの炎を消すが、それが仇となって、俺が放った雷によってさらにダメージを受けた。
「おのれ、人間よ!その程度で・・・」
「狐術!水流"改"!」
「ぐあああああッ!・・・クソッ!私がこんな人間に負けるというのか!」
「よし、これでいけ、る・・・?」
目の前がぼんやりとする。何が起こっているのか、俺にはわからないが、ただ少しずつ体が動かなくなっていくのだけはわかる。
「バカめ!あの人間、狐術も慣れぬのにあれだけの能力値を使って!あれでは、体がもたない!・・・お前の負けだ!」
エースが飛びかかってくる。
「ご苦労様、柊君」
俺の目の前に人影が現れる。それは手刀で空を切ると、そこに空間の裂け目を作り、エースを入れた。
「し、しまった!この小娘!なぜ、戦場に!?」
「柊君の狐のお陰です。この幻覚を使わせてもらいました」
「おのれ、いつか必ず!ここに戻ってきて、キサマを噛み殺してくれるわ!」
「いつでもお待ちしております・・・エース隊長。いや、元隊長。」