雷帝が死んだ。
クロサクは雷帝の力を得て、イーグルを倒した。
そしてキラと大和の前に次の殿堂が現れた。
「逃げろ、柊!」
キラは俺の襟を掴むと、窓から外へ投げ飛ばした。
「キラさん!」
「お前はエースを倒すための鍵だ。お前だけは逃げろ!」
「・・・わかりました!」
俺はできるだけそこから遠くへ逃げることにした。オルガの情報だと、少し走った先に仲間の反応があるという。チームZはアリス以外戦闘不能。ということはチームAのメンバーだろう。
★
「チッ!逃がしたか・・・まぁいいや、あとで倒しにいけば良いしな。」
「あとで・・・か。お前にあとがあればな!」
「俺たちはお荷物と言ったことを、後悔するがいい!」
先手必勝と、大和が肩に背負った砲台から、ミサイルを放った。
大和の武器の弾は能力値によって威力や形が変化する。特に肩や腕につけたものは、自由にミサイルを放ち、自由に砲弾を放てるだろう。
「そんなミサイルなんて、俺の阿修羅の前では無意味だよ、残念だったねぇ」
阿修羅は飛んできたミサイルを破壊する。
「いや、残念じゃねぇ」
だが、キラはミサイルが壊れるその一瞬で、すでに修羅の後ろに回っていた。
「な、なんだって、ぐあっ!?」
キラの拳は修羅に届き、阿修羅ごと地面に叩きつけた。
「お前が余裕ぶって目を閉じた瞬間を待っていただけだ。俺はお前が阿修羅に防御を任せるとき、余裕ぶるのを知っている」
「そして、俺がすでに次のミサイルを撃っているのを知っているかい?」
修羅が顔をあげたとき、すでにそこにミサイルがあった。
「う、うわぁーーーッ!」
修羅はそれを防げずに、次の攻撃を食らってしまう。
前には大和、後ろにはキラ。修羅は絶体絶命な状況に立たされた。
「ち、畜生・・・うぅ、よくも・・・俺をコケにしてくれたな!」
「おうおう、殿堂様が泣いてるぜ」
「最後の〆といくか?キラ」
「おうよッ!遅れるなよ、大和ーッ!」
二人はこの攻撃で修羅を倒そうとする。だが、
「俺の嘘に踊らされて、楽しかったかい?」
二人は思いっきり、阿修羅によるカウンターをくらってしまう。
キラの拳は阿修羅の拳によって届かず、大和のミサイルは阿修羅の口から放たれたビームによって撃ち落とされ、そのまま大和の右肩に装備された砲台を破壊した。
「阿修羅、第二形態!ヒーローが強くなるのは常識だろぉ?」
「この・・・」
「野郎が・・・ッ!」
キラは左腕を負傷し、大和は右肩の砲台を破壊された。
「俺の阿修羅は強いぜ!そんなパンチと、そんなミサイルで死ぬと思ったか?」
修羅は阿修羅の手の上に座り、笑い始める。膝をつき、腕を押さえる二人を見て、バカにするような笑い方をする。
二人の堪忍袋の緒は今にもキレそうだった。
「大和、第二形態だってよ。だからどうしたって感じだよなぁ?・・・大和?」
「このくらいの傷、何てことはない・・・」
大和の右腕は上がらなくなっていた。キラの左腕の負傷が軽傷に聞こえるくらい、大和の右肩は砕けていた。
壊れた砲台や、腕につけた盾をぶら下げてこれから戦うとなると、とても戦いにくいだろう。
「キラ、早く倒すぞ・・・。これは本当にヤバイやつだ」
「無駄だよ。お前たちはここで死ぬんだ。まずはお前から倒してやろう!」
阿修羅は大和に向かって放たれる。
今、修羅は無防備だが、キラは大和を助けることを優先した。
振り上げられた阿修羅の拳をキラは右腕で受け止め、右足で阿修羅の脇腹を狙う。だが、阿修羅の他の腕がキラの右足を掴んだ。
「ハハハッ!そのまま、足を折ってしまえ!」
「ぐぁぁぁぁッ!」
キラはもしものときにと、護身用に持っていた設置型の爆弾を阿修羅に向かって投げた。
「無駄だ、阿修羅はあくまでも精神の具現化!透明にすることも可能だ!」
「違うぜ、透明になることを狙ったんだ」
透明にすることで、キラは阿修羅から逃げることができた。そのままの勢いで、修羅への攻撃を図るが、もう一度現れた阿修羅によって、攻撃は防がれた。
「おいおい、チームOの悪魔がその程度かよ。前に戦ったときは、真っ黒に肌の色を変えてな!」
「・・・俺はあの頃の俺を捨てた。海都、ルナ、クロサク。後輩ができて俺も、正義として戦わなくてはならなくなったからな」
「へぇ、お前にもそんなプライドがあるんだ」
「だが・・・今の俺には関係ない」
キラのつけたイヤホンの先、そこではオルガが指揮を送っていた。キラの能力発動の権利は常に、オルガが握っている。
オルガは周りの柊がいないことを教えていた。
「行くぞ・・・我が心と体、黒く染まれ。悪魔を受け入れる!」
キラの心臓部から闇が放たれる。それはキラを包み込み、闇が全て放たれたときには、肌が黒くなり、髪の毛と筋肉以外の凹凸を全て失った、アイススケートレーサーのような姿になっていた。
「この姿になるのも久しぶりだな。約一年ぶりか?」
「これが、キラの本当の能力・・・悪魔の契約か」
キラの能力はその身を悪魔に捧げることで、悪魔の力を扱えるというもの。普段からのちょっとした魔法もこの悪魔の契約に入る。ただ、キラの悪魔の契約は体を売りすぎてしまうので、オルガから止められている。
「さぁ、始めるぞ・・・デリャァッ!」
キラの姿は一瞬で消えた。
「な、いつの間に!」
その場にいた全員が見失う速さで、修羅の後ろに現れたキラは修羅の阿修羅の攻撃が届く前に、修羅を蹴り飛ばす。
「あの状態になったキラの速度はまず見失う。・・・あそこのリーダー、オルガなら見えるんじゃないか?」
一人言を呟く大和は、使い物にならなくなった右肩の砲台を取り外していた。
「ッ!」
「殿堂だよなぁ?経験値はどこにいったんだい?」
「なら、俺の阿修羅はまだ第三形態を残している!」
修羅の後ろにいた阿修羅はその身を霧のような姿にし、修羅を覆う。
「これが第三形態!精神の装備(スピリットアーマー)だ!これさえあれば、お前なんて」
「それは知っている。予想範囲内だ・・・と、オルガなら言うだろうなぁ」
キラはオルガの指揮でその力を解放できる。普段はその能力の代償のせいで、力を制御されているが、今日のキラは一味違う。
「まぁ、俺は知らねぇけどな!」
阿修羅を纏った修羅ですらも、力を解放したキラの前では歯が立たない。
「な、俺が負ける!?ふざけるな!ありえない!絶対に俺が勝つ!」
「そんなプライド、俺がへし折ってやるわッ!」
二人の拳が真正面からぶつかり合う。
キラの腕にはその衝撃によってヒビが入ったが、修羅の腕はそれ以上のヒビが入り、割れてしまった。
「精神の具現化。壊れたということは、ヤツが心から敗北したということだ」
「修羅、戦闘不能!すごい、イーグルに続き、チームZのほとんどを倒した修羅を倒すことに成功したーーーッ!」
観客はその光景に歓声が止まない。目の前で、思ってもいなかったことが行われているからだ。勝てないと思われていた殿堂に二人が立て続けに勝ったからだ。
「いける、これなら・・・今年のチャレンジャーは違うぞ!」
思わず、観客席で見ていたチームAの監督が拳を上にあげた。自分のチームのメンバーによる勝利ではないが、それでも嬉しいのだ。
★
そんななか、王宮の前では・・・
「さすが、殿堂に近い女戦士のアリス・・・」
殿堂の一人、ツバサが苦戦を強いられていた。チームZがどんどん倒れていくなか、一人だけ無傷で立つ女がいた。
「あれ?もうおしまい?それでも殿堂かな?」
「煽らない方がいい、僕を起こらせるのだけはやめておいた方が身のためだ」
「今の君の姿を見て、まだそんな口が叩けるのか?」
片翼を折られた天使、そんな二つ名が相応しい体になったツバサはすでに大粒の汗と大量の血を流していた。
アリスの武器は小さなナイフとちょっとしたハンドガン。そして左腕にはアリスの顔くらいの大きさの盾が付いていた。
と、言ってもアリス自身はウサミミの特徴的なフードを深く被っているので、顔はほとんどわからない。
「なめるなッ!」
ツバサは手から青く光る軌道修正可能な矢を三本放つ。
「もう飽き飽きだよ、そんな攻撃」
アリスはそれをアクロバティックに交わし、一本を盾で地面に叩き落とす。そして軌道を変えて飛んできた二本の矢を銃で撃ち落とす。
「さぁて、次は君の番だ。まだ何人か殿堂がいるのにも関わらず、君たちのような若人の殿堂を参加させたことを後悔するといいさ」
「う、うわぁぁぁぁッ!」
「ツバサ戦闘不能!これで残り二人になった!」
★
戦闘が終わると共に、アリスは森のなかに消えていってしまう。
「アリサ、もう十分でしょ?」
「ごめんね、有栖川。でも、久しぶりに戦えて嬉しかったわ。・・・で、次は?」
「残りは任せてもう帰ってきて。そろそろ、カラスが気づきそう」
「了解。それにしても、殿堂も弱いね」
「ちょっと失礼、お嬢さん」
リタイアしに行く途中のアリスを誰かが後ろから止める。そこにいたのはチームAの鯰と後藤だった。
能力者解説
キラ・ヘルフレア チームO 三年生
能力:悪魔の契約
悪魔と契約することによって力を得る。キラ自身、普段から軽い契約をしているため、身体能力が標準より高い。
前は学校をサボることが多かったが、柊など後輩ができてから、サボることが少なくなった。