チームAの一人、東条 アキネが柊に、チームAのリーダーを倒してほしいと頼む。
そして雷帝の寿命があと二年であることが発覚した。
エレベーターの着いた音がした。
リリーはコーヒーとイチゴ牛乳を両手にエレベーターの扉が開くのを待つ。
「ルナさん・・・大丈夫かな」
扉が空き、リリーは急いでエレベーターに入ろうとするが、中から出てきた男に当たり、倒れてしまった。
「おっと、大丈夫かい?」
青みのかかった髪に銀縁メガネの男はリリーを起こす。
「ご、ごめんなさい・・・あ!」
リリーの持っていたコーヒーが少しだけ、出てきた男のシャツにかかってしまった。
リリーはそれを見て、何度も頭を下げる。
「ごめんなさい!えっと、ど、どうすれば」
「あぁ、いいよ。このシャツ安物だしさ。それよりもケガはしてないかい?」
「あ、ごめんなさい。ケガは大丈夫です。」
「大丈夫ならいいんだが」
「何をグズグズしてるの!鯰!」
男のとなりに立つ女は男に強めの口調でそう言い放つ。
「フェローサ。ちょっと待っていてくれないか?」
「ったく、早く来なさいよね!」
ピンクのような紫のような色の巻髪と、少しだけ吊り上がった目の女は、リリーの姿を見てクスッと笑い、その場から立ち去る。
「ごめんね、こっちの不注意だしさ、気を落とさないで」
「鯰・・・フェローサ・・・まさか!」
「おっと、そろそろ時間みたいだ、僕たちも急いでてね。それじゃあ、気を付けるんだよ」
鯰は腕時計を見ると、フェローサを追いかけた。
「本当に、あなたは鯰ね!」
「まぁ落ち着いて、ちょっとした事故だからさ」
「・・・ったく、ちょっとは心を鬼にして接しなさいよ」
「僕は鬼が嫌いなんだ」
リリーは二人が見えなくなるまで、二人の会話をジッと聞いていた。あの二人が、チームAを代表する有名な二人だと知っていたからだ。
「来る途中に、チームAの鯰さんとフェローサさんに会いました」
リリーはルナの病室の窓近くの席に座るオルガにそう伝えた。そしてそのとき何があったかも順々に伝える。それを聞いた雷帝や四津野は、どこか困った顔をしていた。俺とクロサクとルナはそれを聞いて目が点になっていた。
「あの・・・その二人って?」
「あぁ、柊は知らなかったな」
「鯰とフェローサ。チームAのなかでも特に実力派の二人だ。どんなときでも二人で行動し、チームワークのとれた完璧な戦術をこなす、まさに完璧な二人だ」
「それに鯰の空気を固め、相手に向かって放つ能力と、フェローサの爆弾の粉は相性が良い。」
「的確な場所を狙うことのできる鯰とフェローサの超火力・・・狙われたら終わりだ」
三人して、鯰とフェローサを誉めちぎるなか、リリーはその罪悪感に頭をさげてしまう。
「ごめんなさい、みなさん・・・」
「いいよ。それに今度の殿堂杯でやつらが俺たちを狙ってくることはないだろう」
「もしも二人が攻撃してくるようなことがあれば、俺が握り潰してやるぜ!」
「雷帝さん・・・」
雷帝は手のひらに電気を溜める。そしてその電気を握り潰した。やっと顔をあげる。
「・・・話は変わるが、次の殿堂杯のことで、」
オルガが話し始めて少し経つと、病室の扉がガラガラと音をたてて開く。
「おっと、作戦会議中のところ失礼します。」
そこには鯰が立っていた。
「何の用だ?」
「僕は別にかまわないのですが、フェローサがちょっと怒ってましてね」
「アンタ達!誰でもいいから二人、かかってきなさい!鯰は別に良いなんて言ってるけど、私はもう堪忍袋の緒がキレてるのよ!」
リリーはオルガの前に置かれたテーブルのところまでくると、その上の皿が割れそうなくらいの強さでテーブルを叩いた。
「・・・ということなんだ。さっきから僕は気にしなくていい、って言ってるんだけどね」
「そこのアンタ!勝負しなさい!アンタがやったんでしょ!」
フェローサはベッド横に立つリリーを指差す。
リリーはまた顔をさげてしまう。
「さぁ、来なさいよ!」
「怒るとシワができちゃうよ~、君ィ?」
雷帝はフェローサの手を下に下げさせる。
「何よ、アンタ?」
「あー、俺のこと知らないのか?まぁ、アンタの相手になってやるから、そんときにでも教えるぜ」
「知ってるわよ!・・・アンタが相手してくれるの。老いぼれだからって手加減はしないからね」
「俺は手加減するよ、老いぼれでも年上だしね。もう一人は・・・クロサク頼むぜ」
「俺スか!?」
「あぁ、お前だ。お前しかいねぇよ。俺との訓練の成果をみんなに見してやれ!」
「・・・わかりましたよ」
戦場B。
森のような空間に少し開けた部分が、数ヶ所存在する戦場。この木は全てここの戦場を管理する能力の能力で作られており、燃えても次の戦闘では何もなかったかのように生え変わっている。
「雷帝とクロサク・・・おもしろそうね」
「監督ー、席空いてるぜ」
キラは真ん中に空けておいた観客席に監督を座らせる。その観客席の下部分には雷帝から取り上げた酒の入った瓶が置かれていた。
「ありがとう、オルガ、キラ。・・・話は聞いているわ。なかなか大変はことになったわね」
「雷帝は手加減するって言ってたがよぉ~、ちと無理なんじゃねぇか?ここ最近、本気で戦いてぇなとか言ってたしよ」
「そこは雷帝しだいだな・・・そろそろか」
「ルールは二人のどちらかが戦闘不能、または審判が審議を下したものが負けで」
「どーぞ、どーぞ。好きにしてくれ」
「・・・それじゃあ、戦闘開始!」
フェローサの合図で戦場にドラの音が響き渡る。
フェローサはポケットから親指くらいの大きさの瓶を取りだし、フィールドにばらまく。それを鯰が固めた空気の中に入れる。
「爆弾、発射!目標は雷帝!」
爆弾粉を含んだ空気は一直線に雷帝の方へ飛んでいく。
次の瞬間、爆発が起こった。
「当たってないじゃない!なんで爆発するの!?」
「俺を、忘れるなよ!」
爆炎が晴れたとき、そこにはクロサクが片手にエネルギー弾を持った状態で立っていた。
「そんな爆発で、俺が死ぬと思うか?」
「チッ!・・・次よ!」
クロサクはその俊足でフェローサの前に現れる。
(こいつ!なんて早さで!)
「これで、仕舞いよ!」
「フェローサ、何をしてるんだ?」
鯰はすでに次の策を始めていた。
フェローサの前に現れた空気の塊は、空中でエネルギー弾をかまえたクロサクを包み込み、地面に叩きつけた。
「僕らの爆弾が不発したことなんて、これまでの何度もあったじゃないか。彼らを少しなめすぎだ」
「・・・」
「君はいつもそうだ。たまには冷静に戦うことも大事だ」
「・・・うるさいわね!次の爆弾で、仕止めればいいんでしょ!」
「そういうことだ!」
顔をあげたクロサクに待っていたのはフェローサの蹴りだった。フェローサの蹴りはクロサクの頬に当たり、また顔を下げる。
「ほらほらほら!さっきまでの威勢はどこいったの!」
「上・・・だぜ」
「上?・・・まさか!」
フェローサが気づいたときにはもう遅かった。フェローサの頭上に雷がたまっていた。
「どうぞ、くらいあがれッ!」
雷帝の雷はフェローサの体に直撃する。フェローサは雷をくらって足をふらつかせた。
その瞬間をチャンスと思ったクロサクはすぐに起き上がって、片手にためたエネルギー弾をフェローサの顔面目掛けて投げる。
「フェローサ!」
鯰は空気でフェローサを包んで、自分の方へ引き寄せる。
空気の膜はエネルギー弾を受け流し、フェローサを防御する。
「クロサク!避けろーーーッ!」
「・・・え?」
フェローサを攻撃するクロサクの耳に雷帝の声が入る。その声の方向には、雷帝が放った雷撃『獅子』がクロサクのすぐ側まで近づいていた。
鯰はフェローサを囮にして、雷帝と鯰の対角線上に入るのを誘っていたのだ。
「うわぁぁぁぁーーーッ!」
「クロサクッ!」
雷帝の雷を受けたクロサクはその場に倒れ込む。
「ありゃりゃ、あれはヤバいね」
「雷帝の獅子が直撃したか・・・すぐにリリーを!」
雷帝は雷を食らったクロサクから残った電撃を放電し、少しでもダメージを少なくしたが、クロサクは・・・
「ぐ・・・い、痛ぇぇぇッ!思ってたよりも痛かったなー!」
クロサクは痛がるだけで、すぐに起き上がった。
「驚いたな、雷帝の雷を受けてすぐ立ち上がるとは」
「しかも、雷帝の技のなかでもかなり強い電撃を放つ獅子を食らって・・・もしかしたら器が大きいのかもね」
器とは能力を使う人間が持つ、能力値を溜める部分である。それが大きいほど、能力を使っても疲労を抱えずに済む。今回のように能力を浴びても回復しやすくなる。
「さーて、やりますよ。まだ一人残ってるッスよね?」
「降参だよ。」
クロサクが戦闘体勢に入ったとき、鯰はすでに降参していた。フェローサがほとんど再起不能の状態、戦う理由もないだろう。
「ルールは彼女が言った通り、『どちらかが戦闘不能になったら』だ。・・・それじゃ、また殿堂杯にでも」
鯰はフェローサを空気の固まりで運び、戦場から外へ出た。
能力者解説
クロサク (本名は後々)
チームO 一年生
能力:エネルギー弾(気弾に近いもの)
能力値によるエネルギーを形や大きさを変えて放つ能力。
ルナとほとんど同じ身長(ルナの方が少しだけ大きい)で素早いフットワークで相手を翻弄する戦闘スタイル。今回は相手が二人かつ、広範囲に攻撃する能力だったため、翻弄できなかった。
身長が低いことにコンプレックスを抱き、常日頃から牛乳を飲んでいる。だが身長は伸びない。
クロサクは偽名で、本名はあることがきっかけで忘れてしまった。
いつかクロサクの過去を書くことになるだろう。