ルナがまた襲われるなか、少しずつ殿堂杯が近づいていた。
チームAリーダー、エースや四津野の妹、四津野 万理、東条 シュウの参加、チームOの参加メンバーが決定したなか、傷を負うルナのもとにある女が近づいていた。
四津野姉妹との会話から抜け出して、やっとルナのいる病室にたどり着く。そこにはリリーと意外な人物が座っていた。
「・・・どうしてここに?」
前に雷帝と戦い、勝敗つかずに消えたアキネが近くの椅子に座って、リンゴの皮を剥いていた。
キレイにリンゴの皮がアキネの生み出した空間の裂け目に入っていく。
「ルナさんがここにいるって聞いてね。話は聞いてるよ、君、アリスの能力を知ってるんだってね」
「そのリンゴをあげても教えませんよ」
「私はそんな姑息なことはしないわ。餌で釣るとかね・・・。これはあなたへのプレゼント。ウサギにした方がいい?」
「そういうわけじゃ・・・」
アキネはルナに皮を剥き終わったリンゴを渡すと、ベッドの近くのテーブルに置かれたティッシュで手を拭き、椅子から立ち上がった。
「私がここに来た目的はもう一つあるの。柊君、あなたにね」
「俺ですか?」
「ちょっと外に来て」
病室から少し離れた場所にある中庭でアキネは俺の腕を引っ張るのをやめる。
最近、こんなことが多い。
「で、話ってなんですか?」
「頼み事があるの。柊君にならできる頼み事・・・
私たちのチームのリーダー、エースを倒してほしいの。
ただとは言わないわ。できたら、私たちはルナさんの記憶や、あなたたちから情報を奪ったりしない。約束するわ」
「・・・無理です」
チームAリーダー、エース・ファン・ロード。俺と同じ狐憑きで、タマをはるかに越える妖術の多さと力を持っている。
オルガから聞いた情報によると個人勝率100%を誇り、学校のLost討伐部隊のリーダーもしている、言わばエリート中のエリートだ。もちろん殿堂入りし、あと数勝で伝説にもなる能力者だ。
「むしろ、なんで俺なんですか?もっと雷帝とか、四津野さんとか、それにアキネさんの方が俺より断然強いじゃないですか!」
「私じゃエースには勝てない」
「じゃあ、なんで俺に」
「・・・妖術のなかの幻術の分野、あれは妖術を使う者にしかみやぶることはできない。そう言われているわ。妖術には妖術をぶつけるのが最適なの」
「それでも俺が」
「へぇ・・・楽しそうね」
いつもの心のなかで話すタマの声が外で聞こえる。
「あなたが、柊君の狐・・・」
俺の横になぜかタマが立っていた。前にもあったが、どうしてこうなるのかは俺にはわからない。
でも、何度目を擦っても、タマはそこにいる。
「どうも、チームAの・・・東条 アキネさんだっけ?雷帝との戦い、なかなか白熱した物だったわね」
「その件はどうも。・・・で、楽しいとは?」
「私がその狐と戦うってこと。久しぶりかしらねぇ」
「久しぶり?」
「私が九尾じゃないのに、あの神社にいた理由と関係あるかな。そういえば、あのとき理由は後で話すとか言ってたっけ」
俺が初めて会った日、タマはそんはことを言っていた。
「それは私が聞いてもいい話?」
「できれば、ここにいる二人だけに聞いてもらいたいけど・・・さっきからつけてきてる人間が邪魔でね」
タマはそういうと後ろの木目掛けて狐火を放った。
「おい!タマ、何を!」
「あくまでもこの炎は偽物。今の私じゃ、本物の炎にはできない」
木の影から逃げるように現れたそれは頭に猫の被り物をしていた。着ぐるみの頭と言えばわかるだろうか。
そしてヤツの右手にはハンドガンが握られていた。
「バレてましたか」
その猫はこちらにハンドガンの銃口を向ける。銃弾は二発放たれ、俺たちにむかって飛んでいく。
「邪魔が入ったか」
アキネは俺を突き飛ばすと、左手で空間を切り裂いて銃弾を消し去る。
「ッ!」
俺の目には銃弾が消えたかのように見えていたが、アキネの左腕には二発の銃弾が撃ち込まれていた。
「アキネッ!」
「先輩を・・・呼び捨てとはいい度胸ね・・・こりゃ、またシュウに怒られるな」
アキネがそう言い、腕を押さえたときには次の銃弾が飛んできていた。俺の体は勝手に動き、アキネを後ろに倒していた。
「チッ!・・・殺し損ねたか」
猫の被り物をした男は舌打ちをすると、ハンドガンをしまい、その場から逃げようとする。だがその先には、猫の被り物の頭およそ二つ分大きな身長の男が立っていた。
「あれほど攻撃するなと言ったろ、隠密に行動しろとな」
「ひ、ひぃぃぃッ!ゆ、許してくだッ!」
大男は猫の被り物ごと、ヤツの頭を掴む。大男の手は光り始め、次の瞬間、被り物と共に男の頭が消えてしまった。
首から上が無くなった男は地面に落ちると、首から血を流し始めた。
「失礼した・・・。」
大男は地面に落ちた死体をその右足で踏み潰す。死体は灰になって、風に飛ばされていく。
なぜかこのときにはタマはそこから消え、俺にしか見えない状態になっていた。
「あの・・・今の大男は」
「イーグル。・・・殿堂の一人ね」
「殿堂・・・ってことはあの人も!?」
「えぇ、今回の殿堂杯に参加するわ」
イーグル・ウィント。殿堂の一人。
能力は物の破壊、解体など。対象物を粉々にすることを主流とし、触れたものがなんだろうと消滅させてしまう。もしも、炎を浴びた場合でも、手のひらが炎を触っていれば、その炎は灰のようになってしまう。
「誰が彼の相手をするのかしらね」
「俺が相手をするしかねぇのか」
木の上から声が聞こえる。
そこにはビールの缶を片手に俺たちを見る、少し顔の赤い雷帝がいた。
「アイツを倒せるのはチームA、O、Zのなかでも俺くらいしかいないだろ」
「まだ、こっちには鯰とフェロモーサが」
「確かにその二人はいくら粉々にしたとしても、ほとんど無意味な能力だ。だが、二人には違う相手がいるだろう?今回の作戦がどんなのかわからんが、あまり考えてないだろう?話を盗み聞きしていた感じ、だいいちの狙いはエースの排除みたいだからな」
「作戦はあるわ。でも、エースがいる以上、作戦なんてあってないもの、まぁ、狙いは誰にも話さないようにしているけど」
「今さっきの猫も、イーグルにやられたからな・・・」
雷帝は飲み終わった缶を潰すと、木から下りる。
「まぁ、他のチームの作戦なんてツマミにもならねぇからよ、今回は帰るぜ。正直、そんな硬い話は嫌いなんでな」
「お疲れ様です。」
「また明後日な、俺は明日いないから」
「?・・・どうしたんですか?」
「ちょっと上の人間に呼ばれてるからな」
雷帝はそう言うと、帰っていった。上の人間というのが少し気になっていたが、俺は深追いをしなかった。
「・・・邪魔がたくさん入ったわね」
「そうですね・・・。で、何でしたっけ?」
「もういいわ、私も疲れちゃったし。」
「・・・わかりました、それじゃあお疲れ様です」
★
次の日の朝、雷帝は校長室に呼ばれた。
真ん中に座る校長、その横にはリアが座っている。他、色々なチームの監督が座っているのが雷帝にはわかった。
三つの長い机に三方向を挟まれた真ん中に雷帝がいる。いつでも後ろから校長室を出ることはできるが、そんなことはできるわけがない。
「君、卒業する気はあるのかね?」
「今年で7年の留年。ここまでの留年はいませんよ。あなたの同級生はすでに普通大学を卒業する、能力者研究などの仕事につくなどして、成果をあげているのに。あなたは何をしたいのですか?」
「そして校内での飲酒は禁止されているのに、あなたは戦闘中も飲酒してますよね?あと盗みを働いたのとの噂も」
三方向から飛んでくる言葉に雷帝は耳を痛くする。
「君、今年度卒業できなければ、ここから退学してもらいますよ。・・・まぁ、あなたほどの能力があれば、電気会社にでも就けるでしょう。電力としてね」
リアはこの言葉に雷撃を発動しそうになるが、リアの顔を見て気持ちを抑える。だが、歯ぎしりだけはやめなかった。
「今後、将来のことを考えてくださいね・・・以上です」
雷帝はその言葉を聞き、静かに退出した。
「リア監督もあんなお荷物を抱えて大変ですね」
リアの横に座るチームPの監督がそんなことを言う。
「いえいえ、雷帝は私のチームのエースですから。彼をお荷物と思ったことはありませんよ」
その言葉にチームPの監督は唖然としていた。
会議が終わった後で、さらに酒の量が増えた。
そして、今度は整備されていない立ち入り禁止の屋上で酒を飲み始めた。もちろん、俺自身の能力で、屋上に入ることは余裕だ。
将来か。この能力を誰に託すか・・・だな。
俺のなかでそんな決心がついていた。
俺の寿命はあと2年・・・
死神は少しずつ俺に近づいてきている。
「あーあ、またリアに怒られるな」
その日の空は、少し雲がかかっていて青空があまり見えなかったが、雲の間から太陽の光が屋上を照らしていた。
能力者解説
東条 アキネ チームA
四年生
能力:空間を操る能力
前にも話したことがあるが、空間の裂け目を作ることで、攻撃を防ぐことが可能。またその空間に入ることで、人間は他の場所にとばされてしまう。
みんなに優しく、面倒見がいいお姉さんタイプで、普段から弟の面倒を見ているせいか、大半の家事ができて、料理もおいしい。
またチームAの副リーダーで、野望を持っている。