ルナはアリスと会い、アリスの能力を知る手がかりとなる。そして、その記憶を抹消するためにチームZが動いていることがわかった。
「納得できんッ!」
チームZ会議室。
テーブルを強く叩く音が部屋に響く。
チームの監督の前に立つ、チームZのリーダーとアリス。
監督は今にも堪忍袋の緒が切れそうになっていた。
普段から怒りっぽい性格も今となっては暴力を振りそうなくらいに変化していた。
「アリス!キサマに研究室を使わせている理由がわかるか?他のチームに我等が取り組んでいるメビウスプログラムのことを教え、さらには自身の隠された能力すらもバレそうになっている始末!解雇までも考えるぞ!」
「・・・」
馬耳東風。アリスには全く言葉が入っていない。もちろん、隣に立つチームZのリーダーも同じだ。
チームZリーダー、カラス。本名は不明でいつも黒いマントを羽織り、体を見せようとしない。
チーム内の仲間からも不気味がられ、あのマントの下はサイボーグやら体がないやら、色んなことを噂している。チームのなかでもトップシークレットに近い。
「ぜぇ・・・はぁ・・・いいかー」
チームZ監督のドンは説教に疲れたのか、息が上がっている。さすがに60後半から70前半と思われる爺さんに数十分に渡る説教は疲れるだろう。
しかも何度も声をあらげ、何度か水分補給をしている。
アリスもその姿にただ目を閉じるだけ。見る意味もなく、ただ話を聞いているだけだった。
「アリス・・・例の物は?」
「この前の火事で更新したものは消えましたが、バックアップはあります。」
「そうか・・・」
無口なのか、ただ話そうとしないだけなのか、カラスは一言二言で、スーッとアリスの前から去ってしまう。
「メビウス・・・ルナ、私の能力に辿り着くための鍵。さて、チームAは何でその情報を得るのかしら。カラスによると、すでにルナの記憶を奪う計画は始まってるみたいだし。楽しみね・・・ルナさん。ふふっ」
アリスは笑いを少しだけ外に見せると、新しい研究室へ入っていった。
★
俺が部屋に入ったとき、ルナはベッドの上で大好物のイチゴオレを飲んでいた。
頭には包帯を巻き、近くにはリリーがいる。そして入り口の近くでオルガは目を閉じて座っていた。
「大丈夫か?ルナ・・・」
「・・・大丈夫だよ、全然」
ルナは我慢している。
ルナは我慢しているとき、少しだけ返事が遅れる。大丈夫の言葉が聞けるまで数秒間は静かだった。
「今、ルナさんの頭部には少し深い傷があります。だからあまり無理させないようにしてください」
「わかった・・・。」
「ルナがこの状態では、次の殿堂杯に出れないな」
「殿堂杯?」
「・・・聞いてなかったのか、今日の朝言ったろ」
殿堂杯。この学校の行事の一つだ。
優秀な成績、功績を称えられた者のみに与えられる称号に殿堂というものがある。
それは色々な種類が存在し、戦闘に関する殿堂を与えられた能力者に、俺たちが戦うというものだ。昔は親善試合のような優しいものだったが、今となっては殺しあいに近い状況になっている。
あるチームを憎み、集中攻撃するもの。殿堂に挑戦し朽ちるもの。ただただ力が及ばず死ぬもの。死因は色々と存在する。ここ数年の戦死のほとんどがこの殿堂杯によるものだ。
「そして俺達チームOはそれに出ることになった」
「へぇー・・・え?本当ですか?」
「本当だ。・・・嘘だと思ったか?」
オルガはそう言い、病室の扉を開けた。
「柊、教室に戻るぞ。三日後の殿堂杯の参加メンバーを発表する」
オルガは病室から去っていった。
「ルナ・・・じゃあいってくる」
「いってらっしゃい!」
ルナは元気よくそんなことを言ったが、どこか無理をしているようだった。
俺が帰ってからすぐにパックの底をストローがつつく音と、吸い尽くした音が聞こえた。
★
「シュウよ。次の殿堂杯、出たいか?」
「出させてください、お願いします」
プライドの高いシュウが頭を下げる。その先にはチームAのリーダー、エースが座っていた。
エースは大きな狐の背中に座りながら、シュウのその姿を上から見ている。狐の尻尾は九つあり、雪のような白い毛色に赤い毛が何本か混ざっている。
エース本人は赤い髪に、黒いコートを羽織り、中には白いシャツを着ていた。履いていた青色のジーンズはボロボロになり、破れたところは赤く染まっている。
顔はシュウの目では確認できない。
「出たいか・・・良いだろう。それに俺はお前らの敵となるのだからな」
「!」
エースの黒いコートには小さな金色のバッチが輝いていた。
それは殿堂杯に殿堂としての参加を表すバッチだった。
「枠はいつもの俺の分空くはずだ。・・・入れておこう」
「ありがとうございます。」
シュウは頭を下げると部屋を出た。
「シュウ。」
「・・・姉さん」
扉のすぐ横でアキネが待っていた。
「姉さんもリーダーに用があって?」
「いや、シュウを待ってたのよ。・・・いい、落ち着いて聞いて」
「エースは、もう死んでいる・・・この部屋にいるのはエースじゃない、『何か』よ。」
★
黒板に『チームO参加メンバー』と大きな字で書かれている。
だが、その下に何も書かれてはいない。
「あの・・・メンバーは?」
「これからだ。最初から書いてあると、廊下を通る他のチームに見られてしまうからな。情報漏洩だけは避けなければならない」
「まぁ、情報が漏れようが俺たちは人数が少ねぇから誰が出るかなんてバレバレだろーな」
「それに殿堂に入ってるやつらは誰だろうと殺してくる。まぁ、新人は入らないことを願うべきだ。私たちは入るの確定だろうけど」
隣に座るキラと四津野が余裕の表情で教卓に立つオルガを見る。
「これより、メンバーを発表する。指揮、オルガ。」
「指揮?」
「・・・話の腰を折るな、後で説明する。戦闘メンバーは雷帝、四津野、キラ、柊、クロサクだ。控えにルナの名前を書いておいたが、まずあれでは戦えないだろう。誰一人としてその日までケガをせず、訓練で無理をしないように。解散!」
本当にメンバーだけを言って、すぐに解散になる。キラと四津野は前のドアから、雷帝は机で引き続き酒を飲み始め、オルガはリアと作戦について話始めていた。
俺はとりあえず席から立つと、教室に残った三人に、
「お疲れ様です」
と言い、教室から出た。
さっそくルナのところに向かうが、二階に下りたところで四津野の姿が目に入ってきた。
四津野の前には四津野とは明らかに真逆な格好をした女子が立っていた。
特にフリフリのスカートから出る細くきれいな脚が、四津野の女とは思えない男子バスケットボールの選手みたいな脚と比べて格段的な違いを見せた。
「お姉ちゃんも出るんだ。」
「あぁ、今度こそは負けないよ!」
お姉ちゃん?・・・もしかしてあれが四津野の妹なのか?
「お、柊。ちょっと来いよ」
後ろで見ていたのがバレた。四津野はこっちにドスドスと歩いてくる。それに着いてくるようにテクテクと歩いてきた四津野の妹がまた可愛く見える。
「こいつ、私のチームの新人の柊 海都。こいつも出るぜ」
「な、情報漏洩は」
「そう固いこと言うなよ」
「は、初めまして。私は万理っていいます。えっと、よろしくお願いします!」
「万理ー、柊君の方が年下なんだから、そんなんじゃなくていいよー。むしろ、もっと先輩っぽくしないとなめられちゃうよ」
「そ、そうだよね・・・お、おう、後輩。えっと・・・ぱ、パン買ってこいよー、・・・なんて」
「成長したな、万理!前なんてそんなこと無理、言えないとか言ってたのにな」
「えへへ、お姉ちゃんと特訓したから」
一言、一言が可愛い万理さんにどこか心を奪われそうになる。だが、
(ルナがいるのにー、可哀想だなー。)
タマの言葉に心を取り戻す。
「えっと・・・万理さんはどのチームに?」
「私はチームTです」
「・・・ん?まさか」
「私がチーム殿堂の一人、四津野 万理です。」
このとき、俺は理解した。この人は能力者だと・・・
能力者解説
四津野 万理 チームT
三年生
殿堂入りの一人。三年という短い時間で、殿堂まで登り詰めた四津野 千理の妹。
四津野とは真逆なところが多々あり、能力を持っている。
そして「ばんり」と打つと万里の長城の「万里」が出てくるため、誤字が出てきても仕方ない。