この蛍ノ島の能力者、榊原 玲華との戦闘は終わり、泊まっているホテルに帰って来た三人。
そこに待っていたのは壊れたはずのホムラだった。
地下へと続く階段。
薄気味悪い蛍光灯が辺りを照らす。たまに着いたり消えたりを繰り返しているためかさらに奇妙だ。
俺は内心、幽霊とか出ないかなー、とわくわくしながら階段を下りていた。
「それにしても不気味だな。・・・それにしても、あの気持ち悪い研究者は何を探してんだ?」
「どうやら、榊原 玲華の記録を探しているらしい。この島に来てどんな研究をしているのかをな」
「本人に直接聞けばいいじゃんか」
「それができればやっているだろう。・・・お前らのその傷からして、強かったんだろう?」
「・・・三年間で一番かもな」
「雷帝よりか?」
「んー、難しいところだね。マジの雷帝と同等かそれ以下?」
「つまり強かったんだな」
オルガ、四津野間で行われる会話を聞いた感じ、玲華も強いがあれと互角に戦える雷帝もすごいというのがわかる。
そしてルナはオルガって四津野に敬語使わないんだ、と思っていた。
「おい、これは・・・」
階段を下りたところに白衣を着た骸骨が壁に寄りかかって死んでいた。
それの右手の下には本が置いてあった。
「オルガ、その手の下の本は?」
オルガは本に気づくと、しゃがみこんで本を取る。
その本は少し分厚いノートで表紙に『記録』と書かれていた。
中身は殴り書きでグチャグチャになるくらいの力でたくさんのメモ書きが見えた。
「記録か・・・読めないな」
「監督なら読めるんじゃないか?一度データ化させて」
「監督のデータはそこまで万能じゃない」
オルガは背負ったリュックにノートをしまうと、電気のついていない奥を懐中電灯で照らす。
光で照らされた一瞬、何かが壁を這っていったのが俺たちにはわかった。
「・・・今の見たか?」
「な、何?今の・・・」
オルガが懐中電灯で探すなか、俺はその生き物を探しに暗闇のなかを進む。
後ろでタマがうるさいからという理由もある。
(あの生き物から能力値を感じた。もしかしたら、能力者かもしれない)
タマの言うことが本当なら、俺たちに危害を及ぼす。
「柊、どこにいくんだ?」
オルガが俺の肩を掴む。
「さっきあそこに変な生き物が」
「まさか・・・Lostか?」
「Lost?」
能力値を水、能力者の能力最大値を器とする。
水がその器から溢れてしまったときに暴走して発動する。それがLostだ。
能力者は完全に意識を失い、その能力者の能力が暴走してしまう。Lostの形は人それぞれで、その人間の能力の具現化された物が現れる。龍や人形やその人間の霊体など、様々な形が今のところ発見されている。
ちなみに俺は目の前でそれを見たことがある。確かそのときは騎士だったな。
「つまり今さっきのは・・・」
「まぁ、オルガの言ったことはほとんどありえないこと。それがただの生き物かもしれないし」
カシャン!
四津野の話を止めるような金属音が奥から放たれる。
四津野はその音に反応し、ピョンと身体を跳ねさせた。
やはり何かがいる・・・。
(海都、何かがこっちに来るぞ)
タマの鋭い聴覚がすでにその何かの動きを捉えていた。
(来るぞ!)
タマの声と共に、その何かが飛び出してきた。
それはトカゲのような身体にサソリのような尻尾をつけた
生き物だった。大きさは俺の手のひらくらいか。
「これは、Lostか!」
「案外、小さいッスね」
「いや、これはLossだ!これだけでも能力者の平均以上の能力値を持っている!」
Lossは俺に飛びかかってきた。だが、オルガの攻撃によってその肉体を散乱させて下に落ちた。
オルガの武器はどこから出したのかわからないくらいの大きさをした巨大なハンマーのようだ。大きさはオルガの身長くらいはある。
「オルガさん、その武器って?」
「これのことか・・・」
オルガはそのハンマーを地面に叩きつけた。すると、ハンマーは液体のようになってオルガの持っていた小さな瓶に入っていった。
「これは天銀といって・・・説明が難しいな。」
「まぁ、オルガの能力媒介として使われる銀色の液体だな。それ以上は話さない、というよりはオルガがそれ以上の情報をくれないんだ。」
話している間に砕け散ったLossの身体は元通りになる。
むしろ二体に分裂していた。
「増えた!」
「Lossの大半は消滅してしまうが、こいつは例外みたいだな」
Lossは尻尾をむけると、闇のなかに消えていってしまった。
俺たちはそれを追いかけることにした。
オルガの持つ懐中電灯のみが道標でその先は暗闇が続いた。行く途中、何人もの死体があったが、俺たちは立ち止まってそれを一つ一つ見るようなことはしなかった。
そして少し走ると、そのLossはドアにできた穴へと入っていった。
「これは・・・バイオハザード」
そのドアには大きくバイオハザードの標識記号が描かれていた。そしてその記号の下に人間の骨がいくつか散乱していた。
「・・・準備はいいか?」
「いつでもどーぞ」「いいですよ」「・・・」
「いくぞ!」
オルガはそのドアをおもいっきり蹴り飛ばした。
「◇○# ▲◇ ?」
理由のない音が俺たちの入室を歓迎する。
「うわ・・・」
その部屋のなかにいたのは手を伸ばせば二階以上の建物の屋根に届くくらいの大きさをした人間がいた。
人間といっても身体つきや顔が人間なだけで、肌には鱗のような模様が入り、蠍のような尻尾と蛙のような水掻きをつけている。それが何類に分類されるか俺たちにはわからない。
「これがLostだ」
「◇○ ◎◎ ●◇ ◇◇!」
さっきと似た音が響く。
Lostは腹部からゼリー状の卵を産み落とす。中からさっきまで追いかけていたLossと同じものが現れた。
「天銀ッ!」
オルガは天銀で弓矢を作り、本体を狙う。
矢は本体の鱗に跳ね返されて空中で消えてしまった。
「ッ!・・・四津野とルナはLossの駆除、俺と柊は本体への攻撃だ!」
(オルガはわかっていない!あの鱗、あの天銀じゃ無理だ)
「お前にはわかるのか?」
(えぇ。あの天銀は形を変えるときに発生した能力値より高い能力値を持つ物に当たると消滅する。そしてあのLostが持つ能力値はオルガの能力値を遥かに越える)
「ということは・・・」
(オルガでは無意味だ・・・)
タマの言ったことはオルガも理解しているはずだ。オルガは前にこんなことを言っていた。
「強くなるために大事なのは自分を知ることだ。」
そんなことを言っておいて、無意味に攻撃を放っているわけではないだろう。
オルガにも策があるはずだ。
「柊、前に言ったことを覚えているよな?強くなるためには何が必要だ?」
「自分を知ること・・・ですよね?」
「そうだ。今、俺の攻撃はヤツに無意味だ。それを理解している。だから俺は指揮をする者として何個もの作戦を練っている・・・例えば、」
この天井が崩れる・・・とかな。
オルガの作戦は成功した。次の瞬間、Lostの頭上の天井だけが崩れ落ちていく。オルガは俺の服を掴むと、ルナと四津野に
「ここから逃げろ!」
と言い、ドアへと走っていく。
四津野とルナもLossとの戦いをやめ、俺たちを追いかけた。
結界でも張られているのか、ドアから先の廊下は全く被害がなく、ドアの向こうでただ崩れる音だけが聞こえる。
「・・・全員無事か?」
「まぁ、なんとか・・・ただ資料とかが」
「そうか・・・。作戦失敗か」
オルガは指揮としてその失敗を悔やんでいた。
だが、一人もケガすることなく帰ってこれたということだけでも喜ぶべきなのでは・・・。
「指揮は作戦失敗が一番嫌いなんだよ。・・・まぁ、オルガには責任感があるからね」
四津野は俺の肩をポンと叩くと、オルガのところへ行き、
「まぁ、とりあえず資料はあの遺体が持ってたノートでも持ってけばいいだろ。帰ろーぜ」
と言って、来た道を戻っていった。
オルガはノートを回収し、すぐにホムラに渡した。
ホムラは中身を確認すると、頭を下げてそのホテルから出ていった。
外は少しずつだが、暖かくなっていた。
能力者解説
オルガ・アーガイル
能力:天銀 (色々な武器の形に変えられる。)
三年生。
チームOリーダー。
元々は天界にいた。だが、天界から追放され、行く宛が無くさ迷い続けて数週間後、この学校を見つけた。
キラとは犬猿の仲。