柊、ルナ、四津野は雪像を頼りに洞窟を進む。
その先にはこの島の能力者の榊原 玲華が待っていた。
榊原 玲華はその能力値で三人を圧倒し、四津野の力でさえ、玲華を倒すことはできなかった。
絶望を感じたそのとき、ホムラとアンドロイドが現れる。
だが、その二体も玲華の前では歯が立たずに戦闘不能になってしまう。
一方その頃、ホテルでは・・・
「リリー、リアの調子はどうだ?」
「えっと、まだ熱があります」
「いったんこの寒いなかに出すのはどーだ?」
「さらに熱が出ちゃいますよ!」
さっきまで能力を使っていたリリーと、雪像の破壊から帰って来たキラとクロサクは大広間で休憩する。そしてリアの寝る部屋の前で腕を組み、オルガは何か考えている。
部屋の中でリアを見守る雷帝はリアの顔と窓の外を交互に見ていた。リアも心配だが、仲間を探しに出た三人も心配している。
「雷帝、ちょっといいか?」
「なんだ?」
「ここの能力者についてだが、ある情報が手に入った」
オルガはリアが持っていたパソコンを使い、リアの作り出したデータを読み解く。
「これは・・・」
「このホテル、ただのホテルじゃない。ここには地下があって、そこには研究施設がある。もちろん、今は研究施設として働いてはいないが」
パソコンにはこのホテルのデータが詳しく映っていた。
そしてそこには地下へと続く階段やエレベーターと地下研究所の内部地図が出ていた。
「あの疲労・・・まさかこれを全てか!?」
「あぁ。そうみたいだな」
「新しい謎か。・・・ん?オルガ、そのカメラマークはなんだ?」
「これは地下研究所の監視カメラの記憶だ。全て視るのは不可能だが、一部なら再生することは可能だ」
オルガは雷帝の了承なしにカメラマークをクリックする。
そこには玲華ともう一人の少女が映っていた。
二人は榊原 玲華のことを知らない。だが、彼女の着ていた服に書かれたアルファベット表記と玲華の使用している能力から、二人は彼女が俺たちの求めていた仲間だということを理解した。
「この能力・・・一言で表すなら『残酷』だな」
「・・・」
オルガは彼女の姿に恐怖心を抱き、黙り込んだ。
自分が求めていたのは、こんな『化け物』だったなんて、と考えていた。
そしてそれと共に、三人はもしかしたら死んだんじゃないかと考えていた。
「三人にはちぃーと荷が重すぎたかもしれないな」
「いや、あの三人ならやってくれるはずだ・・・俺はそう信じている。この映像を見た後でもな」
オルガはそういい、パソコンの電源をきった。
★
「さぁ、次はアンタ等のバンだ!」
ここで俺の頭の中には選択肢が浮かんだ。
① 雷帝たちが助けに来てくれる!それまで待つんだ!
② 三人で力を合わせて倒そう!
③ 力ではなく言葉。玲華を感動するような言葉で戦う。
④ 死ぬ。
(このままだと④だねぇ・・・)
タマは正直なことを言う。確かに今の状態じゃ助けが来ない限りは俺たちに勝てる術はない。
俺が諦めかけたそのとき、四津野が立ち上がる。
「お前、親に捨てられた的なことを言ったな」
「だからなんだよ。アタシは売られたんだ、捨てられたんだよ」
「それは私も同じだ!私は、親に捨てられた。きっかけはこの身体のせいだ。重たいものを軽々と持ち上げ、友達を殴ったらそのまま他界・・・私は自分自身の身体が嫌いだった。私の妹もだ。姉妹両方とも捨てられたよ。妹は能力で両親を殺した。でも、私はできなかった。捨てられたけど、そんな中にも愛があったから、最後の最後までどこかに希望があったんだ・・・
これは夢なんだって、現実じゃないんだって。
でも、両親は死んじゃったよ。妹はチームTに。私はリアに拾われてチームOに・・・」
「・・・そんな長々と、命乞いか?」
「あなたにもわかってほしい。ここにいるのは全員、あなたと同じ苦しみを持った同じ能力者なんだって」
「・・・アタシにはアンタのその希望がわからねぇよ」
寒さが少しだけ和らぐ。体もどこか熱を取り戻し始めている。
「親の愛って覚えてる?」
「そんなもん、とっくに消えたさ」
「じゃあ、思い出してほしいんだ。あなたは確かに苦しい思いをした。だけど、それはあなただけじゃなかったでしょ?励まし合う仲間がいたはず」
「・・・」
「今度は私たちがあなたに愛を注ぐ。私は脳筋バカだから、言葉が出てこないし、伝えたいことも伝えられない。でも、愛を伝えることは脳筋バカでもできる」
『一緒に戦おう、玲華ちゃん』
なんだ?アタシの中に、昔の記憶が蘇る。誰だ?囁くのは!語りかけてくるのは!
『私、名前がないの。だから、玲華ちゃんが付けてよ』
『な、なんだよ・・・名前?』
『なんでも良いよ。でもせっかくだから玲華ちゃんみたいにキレイな名前がいいな~』
『ば、なんだよ!・・・キレイか』
『痛いけど、頑張ろう。あともう少し耐えれば、希望の光が見えてくる。だから、玲華ちゃんも頑張ろう』
『・・・わかった』
この声、研究所にいた・・・
『あり、がとう・・・玲華ちゃん』
『おい!諦めるな!死ぬな・・・死ぬなって・・・』
「・・・」
玲華は何を思い出したのか、その場に膝をつき、涙を流し始めた。冷たい涙が頬をつたい、地面に落ちる。そして涙は地面で固まらずに広がっていく。
「なんだよ、さっきからこの声は・・・」
「さっき雪像が言ってたこと、ここには元々トンネルが造られるというのは嘘なんだよな?」
「・・・あぁ、そうだ。ここはアタシの友達がその能力で必死に掘ったアタシとアタシの友達の部屋だ。だけど、友達は能力の使いすぎから出た熱のせいで死んだ。」
玲華は涙を手で拭うと俺たちに背中を向けた。
そして、
「アンタ等、熱のせいで苦しんでる仲間がいんだろ?雪像使って見たよ。それが治ってからもう一度来てくれ」
といい、膝を抱えて座った。
「ただいまー。」
やっとあの洞窟から帰って来た俺たちはホテルの裏口から入った。
入ってすぐに見えるロビーに誰もいない。もしかしたらリアのいる部屋にいるかもしれない。
そう思って、俺はリアのいる部屋の前にいく。
「おっ、帰ったか。オルガは向かいの部屋にいるぜ」
「監督はどうですか?」
「監督は今、リリーが付きっきりで看病している。まだ熱は下がらないみたいだ。それで、お前たちに聞くが、行った先で国の人間と戦ったか?」
俺たちは目をそらした。
「・・・その反応、戦ったんだな。今すぐオルガのところに行ってこい、謝ればなんとかなるかもな」
雷帝の足元には酒の瓶が置いてあったが、開いてないということは飲んでいないのだろう。・・・まぎらわしい。
「し、失礼します・・・ただいま帰りました」
「遅かったな。こっちは・・・なぁ?」
オルガの前に座る人を見て、俺は開いた口が塞がらなかった。
玲華によって壊されたホムラがそこに座っているではないか。しかも、眼鏡も完全に直っており、顔や手に傷はない。そして横にはアンドロイドのおさよが立っている。
「・・・俺の最高傑作を壊したのはお前たちか?」
「いや、それは違います!」
「じゃあ、この島の能力者か?」
ホムラは立ち上がり、俺たちのところに近づいてきた。
腰には折れたはずの刀がある。きっと懐には銃があるだろう。
「・・・その目、本当のことを言っているな。」
ホムラはそういい、もう一度オルガの前のソファーに座った。
「で、オルガと言ったな。このホテルの地下にある研究施設のことは知っているか?」
「ついさっき知りました。仲間にこのホテル内の情報をデータ化する能力の能力者がいるので」
「それは興味深い。だが、今はそんなことはどうでもいい。その研究施設から、ある物を取ってきたいんだ。俺は他の研究施設に用がある・・・頼めるかね?この要件に承諾するなら、俺はこの三人を捕まえて実験台にはしない」
オルガは目を閉じ、
「・・・わかりました。」
と承諾の返事をした。
能力者解説
柊 海都 年齢15歳
能力:狐憑き(タマ)
相手に幻覚を見せる。幻覚を具現化(身代わり程度)できる。身体能力の上昇など。
この物語の主人公。
オカルトや超能力など非科学的なものが大好き。
最初は能力者を見たとき、カッコいいと思っていたが、今となってはいつ襲いかかってくるのかと考えている。
タマとは色々と会話していくなかで仲良くなっている。
最近、そのせいでルナが少し冷たい。