この島で能力や異常気象の研究をするホムラ。
そして彼の元で働くアンドロイド、F-034。通称おさよが、仲間探索組の三人に襲いかかった。
三人は一人と一体の降参によって難を逃れたが、次に待っていたのはこの島の能力者が住むと噂される洞窟だった。
あの山小屋から数分後、ようやくこの山に入れると思われる洞窟の入り口を見つけた。
「情報によると、この中にいるらしい。ルナ、オルガとの連絡は?」
「それがここまで来ると、全然反応しないみたいです。圏外なのかわかりませんが、さっきからノイズしか聞こえません」
「そうか・・・。柊、洞窟のなかは?」
「入り口から見た感じ、というより見えん!」
一寸先は闇。その言葉を突きつけるような闇がその先にある。
こんな闇のなかに、いるとは言い難い。もしも仮にいるとしたら、その能力者はおかしいヤツだ。
「・・・よし、ここにマッチがある。これでなんとかならないかな?」
「ライターならまだしも、こんななかでマッチは無理ですよ。近くに松明のようなものがあればですが」
・・・タマ、なんとかできないか?
(妖術で火の玉とか作れるけど)
どうやったらそれができるんだ?教えてくれ!
(たぶん経験値?が足りない)
・・・はぁ?
(だから妖術を使うにはさらに私を海都の中に取り入れなきゃダメってことだ。ルナが戦闘時に、クロードを取り込んで、クロードの人格を発動するみたいにね)
それは俺にはできるのか?
(たぶん無理。あなたの身体が爆発してもいいならするけど?)
遠慮しておこう。
「こんな山のなかに・・・何か用ですか?」
洞窟の前でそんな話をしていると、洞窟のなかから一人の女の子が出てきた。
白いワンピースに黒く長い髪。
この雪山には似合わない格好をしている。
「君がこの島の能力者?」
「・・・あなたたちも、私目当てにここに来たんですか?」
「あなた、たち?」
「ここで話すのもなんですし、よかったら中に」
「中にって、こんな暗い道を進むのか?」
「私についてきてください」
トンネルのなかはやはり暗く、マッチの光で辺りを照らし歩くことに決めた。
「この道は昔、トンネルを作ろうとしていたのかほとんど一直線に掘られてるので」
「外にいた雪像も君の能力なのか?」
「はい。私の能力で作りました。雪像というよりは氷像に近いですけどね」
「そういえば名前って?」
「私は榊原 玲華。あなたたちは?」
「私は四津野。こっちの男は柊 海都で、こっちは赤井 ルナ」
「四津野、海都、ルナ・・・」
玲華は静かになると、俺たちの名前を復唱し・・・溶けて消えてしまった。
地面に水が溜まる。そして、地面を走るように、洞窟の奥へと進み始めた。
「急ぐぞ!あの水が消える前に」
「はい!」
俺たちは水を追いかける。
マッチの炎が消え、次のマッチをつけたとき、その空間は全く違うものに変化していた。
さっきの狭い通路とは逆に広々とした空間が造られ、壁には松明が刺さっていた。
四津野は持っていたマッチを消す。
「ここは・・・」
「ようこそ、アタシの部屋へ」
松明の光が届かない唯一の暗闇から現れた少女はさっきの雪像と同じ格好をしていた。
一つ違うところと言えば、案内する優しさが見える眼はこちらを睨むような鋭い眼へと変わっていたことだ。
「アタシが本当の榊原 玲華。この島を雪景色にした能力者」
「本物か・・・どうもさっきの雪像には人間らしさが無かったから疑っていたところだったんだ」
「アタシから遠くにいけば遠くに行くほど、雪像の形は雑なものになる。だけど、今さっきアンタたちが見た雪像は私に近いものだから、繊細にできていた・・・と思っていたんだが?」
本物の玲華の力は四津野の持っていたマッチ箱を凍らせた。
そして液体窒素に浸けられたバラのように粉々になって散乱した。四津野の手には箱を持っていた感触だけが残っている。
「アタシはアタシのテリトリーに入られるのが嫌いでね。昔からイラつく人間がいりゃ、この能力で粉々にしていた。だが、博士気取りの人間が私のことを知って、家にやってきた。アタシの親はアタシを売った。・・・そのあとどうなったと思う?その博士どもは」
「お前が氷付けにした・・・?」
「正解、この島ごと氷付けにしたってことよ。ここは蛍ノ島、観光名所の裏で、政府も知らないような実験をしている施設があった。この服も、本も、食べ物も、全部その研究施設から持ってきた物さ」
「狂ってるな、お前・・・」
「三年もここに閉じ込められてたら、嫌でも狂う。それに昔はモルモットだったからね」
四津野、玲華間で話が進むなか、俺は静かにしていた。
俺やルナはこの少女から放たれる冷気に口が震えていた。顎が寒さで言うことを聞かない。筋肉が縮まるのがわかる。
そんななか、人間離れした四津野は震えることなく話していた。同じ厚さのコートを着ているだけなのにここまで違うなんて、やはり基盤が違うのだろう。
ただ俺には四津野も俺たちと同じ冷気を浴びているのが見てわかる。その黒いショートカットの髪の毛の先が凍ってきている。発生源の最も近くにいるせいなのか?
「アンタの部下、アタシの冷気で凍えているみたいだねぇ。どう?年下にいじめられる感触」
ついに脚が悲鳴をあげ、地面に座り込んでしまう。
そして四津野の横を通って、俺の前に立った玲華は、おもいっきり俺の頭を踏みつけた。
「ほーらほらッ!年下に踏まれてさ!この寒さが痛いだろ?地面に皮膚がついたら痛いよね!」
俺は残った腕の力で無理矢理でも、唯一肌が見えている顔が地面に触れないようにする。
「私の仲間に手を出すな!」
四津野が玲華を後ろから殴った。玲華がその攻撃をくらうと同時に、四津野の手袋の中で何かが折れる音がした。
「麓で砕けた人間の死体を見なかった?あれはアタシに近づいた人間の死体なんだよね。冷気を浴びすぎて、皮膚から順々に凍ってさ。まぁ、その露出した頭が禿げないように気をつけて」
四津野もやはり例外ではなかった。
四津野も俺たちと同じ、いや、それ以上に被害を受けていた。
「さぁ、さぁ、さぁ!」
「マスター、間に合いました。」
通路から光とエンジン音がこちらに向かってくる。それは、宙を走り、玲華に火炎放射を浴びせた。
「な、なんだ!この炎は!」
「だから言ったろ、逃げるという判断が最も正しいとな」
そこに現れたのは下半身が戦車のようになったアンドロイドとホムラだった。
「おさよ、よくやった。・・・この島の異常気象の原因。これ以上の騒ぎは止せ。さらに雪が降ってきた」
「止めないというのなら、あなたは排除します。」
「麓で見たロボットか」
玲華は右手で炎を払う。炎は雪のように散っていく。
「マスター、私の炎、効果ないようです。」
「炎をも凍らせる能力値、やはり異常だ。だが、俺の刀、対能力者戦闘用・三日月は相手の能力値に反応する刀。相手の能力値が高いほど・・・殺傷力が増す!」
「だが、その刀よりも先にアンタ自身が朽ちる」
玲華は立ち向かうホムラに冷気を浴びせる。冷気がホムラの身体にまとわりつく。
だが、止まることなく玲華に攻撃が通った。
「悪かったな、原因。俺ははなからアンドロイドだ」
凍った表面の皮膚が剥がれ、その奥に機械的な部分を見せた。
「人間、じゃ・・・ない?」
「その傷からジワジワと能力者の能力値を食らうウイルスが入っていくのを感じるか?俺の言う殺傷力とはこのことだ。その年で地獄に行くのも可哀想だが、それもまた摂理だな」
「ぐあ、何かが・・・入ってくる。・・・なんてね♪」
バキバキッ!
目の前でホムラが砕けた。
氷塊が砕け落ちるように、そのパーツごとに砕ける。
「な、なぜ・・・だ」
「アタシがアンタ等のウイルスに侵食されるとでも思った?やるならそーだな・・・一瞬で私を溶かすような酸とかを持ってくる方が良かったかもね」
「ぐ・・・不覚だ。俺の研究は無駄だったのか・・・」
「アンタ等のような男はこんな言葉なんてどうかな?」
チェックメイト。
能力解説
榊原 玲華 年齢14歳。
能力:氷、雪etc.
物を凍らせる、天気を雪にするなど高い能力値を持つ。
その高さは能力者の中でも最高ランク。
親に研究者のところへ売られてしまう。
どんなに寒いところでも、寒いとは思わない。逆に暑いのは苦手。