柊、ルナ、四津野の三人はこの島の能力者を探しに山を登ることにした。
柊は途中で誰かに後をつけられていることを知る。
そして三人は山小屋に一端、隠れることにした。
四津野に肩車をされてから数分後、後ろから来ていた謎の影がいなくなっていることに俺は気づいた。
雪山の林の中にひっそりと建つ山小屋。そこで俺たちは休憩していた。とくに四津野は俺を肩車していたのだから、疲れているに違いない。
その山小屋はここ最近空き家になったのか、暖炉がなんとか使える状態だった。薪も中に完備されている。火も近くにあるマッチで十分だろう。
「それにしても、ここらへんは雪像の姿を見ないね」
「たぶんですけど、ここらへんに人は住んでなかったんじゃないですか?」
「?・・・どういうことだ?」
「たぶん雪像は元々、人間だったんじゃないですか?ここの能力者によって姿を変えられたとか」
「まさか~、ファンタジーやメルヘンの世界じゃないんだよ」
「春の南の島がこんな豪雪で雪が積もっていることじたい、非現実的ですがね・・・。それにルナの言ってることは一理あるかもな」
「じゃあ、ここの住人も雪像に?」
「たぶん・・・」
ルナはクロードを呼び出す。普段、ルナの中で眠っているクロードはルナの声に反応して起床し、ルナから出てくる。
(どうした?ルナ。)
俺にはルナとクロードの会話が聞こえる。今もその仕組みはなぜかわからない。
ルナがクロードと会話し始めたことで、四津野はなぜか寝始めた。雪山で寝るのはダメだと思うが、ここなら大丈夫だと・・・
「侵入者、直ちに排除します・・・」
安心したとき、暖炉の火ではない『炎』が木造の山小屋に火をつけた。
そして炎の中から白衣姿の女が現れた。
「侵入者、そこで止まれ」
「なんだいったい・・・。うぉッ!?これは火事か!?」
さすがの暑さと炎に四津野は目を覚ます。
女は右手を四津野の方へ向ける。
「侵入者、排除・・・」
「四津野!危ない!」
「へ?」
女の右腕は形を変える。手のひらに穴が開き、腕からエンジン音が聞こえ始める。
「発射」
次の瞬間、その右腕から炎の弾が放たれた。
四津野はその炎を刀で防ごうとするが、炎は刀に触れると共に爆炎と化した。
「あっちぃじゃねぇか!」
四津野はその爆炎によって、壁に叩きつけられた。
「排除失敗、次に移ります」
女はさらに炎の弾を放つ。それは燃えていく山小屋の壁に触れて爆発する。
「ヤバイ!く、崩れるぞ!」
「この山小屋ごと破壊する」
俺は倒れている四津野を抱きかかえると、ルナと共に山小屋の外へと出る。
山小屋の炎は一瞬で、全てを燃やしきった。
「次はあなた達のバンだ」
「海都、アンタが言ってたのはこれか?」
「たぶん、これだ・・・でもどうして俺たちを」
「そりゃあれだ、研究者が研究の邪魔とでも思ったんだろ?だからこんな物騒なモン送ったんだよ」
物騒なモン・・・これってロボットか?まさかこんな近未来な兵器に会えるとは思わなかった。
(感動してる場合かい?コイツは私たちを排除する気満々だよ。それにこの火力、なかなかだね)
確かにあの火の弾、さしずめ火炎弾と言えばいいか。この火炎弾は確かに当たったらまずいことになる。服が燃えるとかならまだしも、身体まで燃え尽きてしまいそうだ。
「Burning in hell・・・相手は驚いています。」
「いや、その逆だ!」
四津野は燃え上がる炎の中から、ロボットに攻撃する。
その衝撃波で一瞬だが、四津野の姿が確認できた。
持っていた刀をロボットに振り下ろし、ロボットはその刀を左手で掴む。
「アンタのその攻撃、昂らせてもらったよ。私の戦意をね!」
刀を支店にして、四津野はロボットの左頬を蹴り飛ばす。
人間のような反応を見せたロボットはその右手からまた火炎弾を放った。四津野は一度刀から手を離し、ロボットの背中に回ってその攻撃を避ける。
「アンタ、ロボットを越えてるね」
「アンドロイドと言ってください。そんな弱々しいものではないので」
四津野はアンドロイドが刀を離したのを確認すると、その刀を拾ってこちらへ走ってくる。
良く見ると、四津野の右腕の一部が火傷していた。
「さすがに、ロボット相手は無理か・・・二人とも逃げるよ!いったん、山を下ろう」
「それが一番だ・・・能力者」
俺はあのアンドロイドが現れた頃から、違和感を感じていた。雪に残る足跡の大きさが違う、あれは男の物だと。
「国家能力者研究団体研究者兼異常気象研究家のホムラだ。君たちは関わってはいけない」
「やはり他にいたか」
「・・・わかっていたか。授業で習ったよな?国に関わってはいけないと」
男は懐から銃を取り出す。現実でこのシーンを見るとは思わなかった。
(そんなこと言ってる場合か!避けろ!)
俺はタマの声を聞き、すぐにその場から離れた。
今さっきまで俺の立っていた場所を銃弾が通る。やっと俺のなかに恐怖心が生まれた。
「銃弾といっても銃弾じゃない。麻酔銃って知ってるか?それの強めのやつ。前に戦ったものが、能力でこの銃弾を溶かしたんだ。じゃあ俺たちはこの銃弾をどうすればいいか考えた。その結果、能力を使わせる前に眠らせてしまえばいい、ということを考えた」
四津野はアンドロイドと戦っている。ルナは通信機を使い、情報を伝えている。そして俺は目の前のこいつと戦わなければならない。
「・・・やっぱり長々と説明するのは苦手だな。真面目にしてたが、どうも俺には似合わない」
ホムラは銃口をこちらに向けた。
「説明はありがたいが、その考えに間違いがある。なら、こっちはその銃弾が当たる前に、アンタを倒せばいいってことだ」
「ほぉ、面白いこと言うじゃないか」
次の銃弾が放たれる。俺はその場から少し右ななめ前に踏み込む。
「数打ちゃ当たるってこと知ってるか?」
撃たれた。だが、それはヤツに見せている幻覚。
ホムラには俺が撃たれた映像が見えているはずなのに、ホムラは次の銃弾を放つ。
あの眼鏡、幻覚を無効化できるのか?この幻覚は視覚に直接映像を送ってるわけではないのか?
(あくまでも私の幻覚は『相手に幻覚を見せる』程度。言わば、目の前にその映像を見せているだけだ。物体として作るのは幻覚とは言わない。)
あとでその話は聞いて勉強しよう。
(あとがあればね?)
・・・あとがあるに決まってるはずだ。
「次の銃弾が来る!」
俺はその瞬間、ある『体験』をした。
その瞬間をフレーム単位で見ているようなゆっくりとした映像だ。
逆に俺が幻覚でも見ているのか?
だが、その幻覚があったから俺はその銃弾を避けることができた。
「その身体能力、あそこにいる女とは比べてはいけないが、すごいね。研究材料として欲しいくらいだ」
「されてたまるかぁッ!」
俺はやっとホムラに俺の拳が当たるところまで近づいた。
すると、ホムラは銃を俺に向かって投げた。
俺は思わず、避けた後のそれを目で追ってしまう。
「さよッ!銃を回収しろ!」
「了解です。マスター」
ホムラは投げた銃を交戦中のアンドロイドに拾わせに行かせ、自分は腰につけた刀を抜き、その場でかまえた。
「おいおい、どこ行くんだ!」
四津野はアンドロイドの腕を掴む。
アンドロイドの腕は肩から千切れるが、それでも銃を拾い、コートの中にしまった。
「回収しました。」
「撤収だ。・・・戻るぞ」
ホムラはアンドロイドが銃を回収したのを確認すると刀を鞘に納めた。
「了解です。マスター」
俺は背中を向けたホムラに攻撃しようとするが、アンドロイドの拳が俺を横から妨害してきた。
「おい!どこに行くつもりだ!まだ、戦闘は」
「習ってないのか?国に関わってはいけないと・・・」
ホムラのその言葉には優しさが見えた。
さっきまでの説明口調ではなく、ただただ注意をする、そんな言葉だった。
「失礼しました。」
アンドロイドは座ったままの俺を引っ張って起こすと、一礼してホムラの後を追った。
俺たちは二人を追うことはなかった。
ただ森の中に消えていく姿を俺は見ているだけだった。
「こっちに来てる、三人・・・」
能力解説
四津野 千理
能力:なし(人間離れした身体能力)
四年生。(この学校は五年生で、希望によっては延ばすことも短くすることも可能)
彼女もまた、リアに拾われた能力者(?)の一人。
この話はたぶんあとで書く。
あまり先輩らしくせず、年下に「敬語を使うな」と言っている。
そして二歳下の妹がいる。