柊とルナはまた一段と成長した。
そして雷帝と戦い、自分達の弱さを実感することになった。
練習が終わり、雷帝は昼休みだと言って公園を去ってしまった。
俺はルナに手を引っ張ってもらい、何とか起き上がった。途中でルナは諦めて攻撃をやめたが、俺は雷帝が終了と言うまで攻撃し続けた。
雷帝のため息は精神的に俺の心を傷つけ、雷帝の最後の拳は身体的に傷つけた。
「あー、終了だ。もう昼休みだ、今日は終わりだ、終わり!」
雷帝の帰っていく姿は俺たちを見て、呆れているようにしか見えなかった。
「あれだけ時間があったのに、」
「俺たちは一度も攻撃を当てられなかった・・・」
それを思い、自分が情けなく思えたのは、俺だけではない。ルナもそうだろう・・・。
「おい!雷帝はどこにいった?」
疲れきって座り込んだところにオルガがやってきた。
オルガはその一瞬で何があったのか察すると、俺の膝の上に一枚の紙をそっと置いた。
「これって・・・?」
「屋外授業だ。お前達が来て早々、これが行われるとは思わなかったよ・・・
屋外授業。
お前達を強くするための物だ。ある島にいって訓練し、新しい力を修得することが目的だ。
もちろん、今の能力をさらに高めるのも必須だがな。
これが行われることで、能力者としての覚悟や努力を見て、監督は成績をつける。そして、次の戦闘メンバーを決めるデータにもなる。
しかし毎回のことだが、これによって脱落者も出る。
そして今回はまたあることもやってもらう」
「あること・・・ですか?」
「その島にいる能力者を仲間にすることだ」
「仲間にするって・・・まるでRPGゲームみたいですね」
「RP・・・何だ?それは」
「・・・続けてください」
「続けてくださいと言ってもな。とりあえず、その資料を見ておいてくれ。一週間後だからな。あと、日直頼むぞ」
オルガはそう言い、雷帝を探しにいった。
やることが増える・・・それは疲労の原因にもなるが、成長の一歩でもある。なんて綺麗事は捨てたい気分だ。
オルガは帰るとき、そんなことを俺たちに言って帰った。
「脱落者か・・・。」
(自信がないのかい?海都君)
「・・・その呼び方はやめてくれ、海都でいい」
(呼び捨てよりも君付けの方が可愛くないかい?)
「その歳で可愛いとか考えるなよ。前に女を捨てたとかまで言ってなかったか?」
(・・・ひどいことを言うな。まぁ、捨ててるのは本当だがな)
「それなのにそんな可愛げな着物を着てるのか?」
(・・・むぅ)
帰りの日直の仕事をしながらのタマとの会話。部屋に帰るとタマはどうもムスッとした顔でいるので話してこないが、こういった空間だとタマもノリノリで話しかけてくる。
夕日がさす校舎。唯一、教室を照らし、手元を明るくしてくれる。まぁ、そんな小さなことをやってるわけではないが。ただあまり使わない黒板を黒板消しで拭き、次の日直の名前を書く。それだけに時間を費やす。いわば、『無駄に有意義な時間』という矛盾だらけの時間だ。
(失礼だねぇ、君も)
「君もって?」
(あ、あぁ!それは、忘れてくれ。君に得な話じゃないからな)
たまに引っ掛かることを言うが、そういうときは大抵、「忘れてくれ」と言う。
「君、さっきから誰と話しているんだい?」
その声に背筋が凍る。俺とタマ以外誰もいないはずの教室を響くその高めの声は、俺とタマを凍らせた。
その声の方向、後ろの黒板に近いところにいるそれは、掃除用具入れの横に設置された棚の上に座っていた。
150cmくらいの身長の小柄な男。・・・小学生か?
「何か失礼なことを考えてるな?・・・俺はクロサク、このチームOに君よりも先に入った一年だ!」
クロサクと名乗る男は、棚から降りてこちらにむかってくると、片手に雷帝の雷に似た球体の何かを俺の方へ向けた。
「一つ、俺と交えようぜ。能力者なら、逃げねぇよな?」
エネルギー弾。俺の頭に流れ込んできたゲーム知識はその何かをそう名付けた。
(どうする?海都。逃げるわけないよね?)
「売られた喧嘩は買うのが男だ・・・よな?」
「き、聞くなよ!・・・まぁいい、場所は寮近くの公園でいいよなぁ?」
「いいぜ、夜に待ち合わせだ」
場所は変わって日の沈んだ夜の公園。
街灯がポツポツと光り、月明かりが公園を不気味に照らす。
そんななか、クロサクの持つエネルギー弾はバチバチと電気を纏って光を放っていた。
「さぁ、始めようぜ。ルールは先に背中をつけた方の負けだ。まぁ、先に命の灯火が消えたら終了だがなぁ」
「面白いルールだねぇ。アンタ、素質あるよ」
「おい、タマ!」
クロードに会ってから、夜になるとどうしてかタマが普通に体外に出てきてしまうようになった。そしてルナによると、タマの姿は他の人間にも見えているらしい。
「ほぉ、そいつが教室で話していた相手か。そして、そいつがお前の能力の源だというのもわかった!」
クロサクはタマを指差す。
タマはニヤリと笑い、クロサクを指差す。
「だからどうした、少年!ほら、かかってこいよ!私はいつでもやる気だぜ!」
「タマ・・・戦うのは俺だ。力だけ貸してくれ」
「・・・はいはい、久しぶりに熱くなったんでね」
タマは俺の後ろに下がって、観客にでもなるのか、どこからか出した炭酸飲料の缶を開けた。酒じゃないだけ安心した。
「それじゃあ・・・いくぞ!」
クロサクはいきなり、俺にむかって走り出した。
あれはゲームでいうところのダッシュ攻撃。クロサクは手のひらで溜めたエネルギーを俺にぶつけるように飛び込んだ。
「だが、そんなのを避けるのは容易い!」
俺は攻撃をヒラリと避け、少しだけ離れた。大半のダッシュ攻撃は避けた後に隙ができるが、ゲームのようにうまくいかないのは知っている。なら・・・
手数を増やすのはどうだろう。
「うぉッ!?こいつ!増えやがった!」
クロサクにたくさんの俺を見せる幻覚を見せ、さらに大きな隙ができた瞬間に攻撃する。まぁ、こういう能力ならすぐに溜めたエネルギーを範囲攻撃みたく分散させて俺に攻撃してくるが、こいつの頭的にどうか。
「なら、こっちも数だ!」
作戦は見事成功。クロサクは幻覚で作られた俺を全て攻撃してきた。もちろん、その攻撃は幻覚を攻撃するので、俺のところには来ないはずだ。
そして、
「見事背中をとったぜ!」
俺はクロサクの背後にまわった。
そして、あとは中学の頃、体育の授業で習った柔道の技で、相手を倒した。・・・と思ったが、
「小さな体だからこその戦い方だ!」
クロサクは俺の掴んだ手を支点にして逆上がりの要領で、回転し、俺の顔を蹴り下ろした。
「この野郎ッ!」
おもわず、俺は腕を離してしまう。この状態では幻覚を見せることは不可能だ。
(まだ大丈夫でしょ?このチビッ子、なかなかの身体能力を持ってるわ。海都とは反対にね)
「悪かったな」
「おぉ?謝るのかァ?」
「お前にじゃねぇ!ッたく・・・こいつ」
(どうする?頭が使えない分、身体能力でカバーする能力者の対処法は。)
「もちろん、俺もゴリ押しだ」
(頭を使う者が、頭を使わないと残念なものになりやすい・・・これまでの経験談ね)
「わかってる!」
一度幻覚をかけることに成功したヤツほど次にかけるのは容易いものだ。
そのタマの言葉を思い出し、俺はもう一度自分が何人にも見える幻覚を見せた。
クロサクもアホみたいにそれに同じ事をする。
幻覚といえど形あるもの。もちろん、そのエネルギー弾の衝撃に爆発する。
「待ってました!俺は見つけちまったぜ!その幻覚の弱点をな!」
俺はその言葉に思わず、攻撃の手を緩めてしまう。
「幻覚に影はない!」
「ッ!」
俺は自分の出した幻覚の真下を見る。辺りは暗闇に近い。エネルギー弾の爆発によって出た光は俺の幻覚を照らすが影は作らない。だが、俺の下には影があった。
「そして!本物は、その影を見るために、他の幻覚とは違う行動を取る!この勝負、もらったァ!」
俺は次の攻撃をその場で防ごうとした瞬間、何かが俺の目の前に現れたのがわかった。それは大きな盾を何もない場所から取りだし、クロサクの攻撃を受け止めた。
「もう、終わりだ。早く風呂はいって寝ろ。」
ようやく、周りの街灯に照らされ顔が見える。そこに立っているのはオルガだった。
「クロサク、柊、明日は今日のことをレポートにして出してもらう。いいな?」
「「はい・・・」」
勝負はオルガによる強制終了で幕を閉じた。
そして次の日、俺たちは朝からレポートという名の反省文を書かされた。
俺はすぐに終わったが、クロサクはそれに1日かかったらしい・・・。