シャルティアの日常   作:クロハト

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シャルティアはひとり考える

 ツアレという女がいる。

 

 彼女はなんだかよくわからないうちに色々あってナザリックに所属することになった人間だ。

 

 私自身の配下の者に調べさせてみたところ、セバスに助けられたのがきっかけで、実はアインズ様が世話になった人間の血縁者でその恩を返すためにナザリックに所属することを許可されたらしい。

 

 矮小なる人間に対しても恩義を感じ、その恩を返すことを良しとするアインズ様の懐の広さに敬服しつつ、直接顔を拝んでみようとツアレのいる場所に着てみれば、様子を見に来たセバスとツアレが話しているところに出くわした。

 

 遠くから気取られないように(といってもセバスには気づかれていそうだが)眺めているとツアレのセバスに向ける顔が完全に恋する乙女のどころか愛する男に向けるそれだった。

 

 多分きっとあの女はセバスになら自身のすべてを捧げてもいいと思っているだろう、だがセバスはそれに気づいているのだろうか?

 

 セバスの顔はあくまで仕事の顔であり、ツアレに対して特別な感情を持っているようには見えない、見えないが逆にそれが引っかかった。

 

 だから私は二人が話し終わるのを待ちセバスが一人になったところで声をかけた。

 

「セバス、ちょっと話があるんでありんすがよろしいですか?」

「何でしょうシャルティア様」

 

 こちらが覗いていたことなどには一切触れずに用件を訪ねてくるあたりは流石というべきだろうか。

 

「お前さん、あの女のことをどう思っているでありんすか?」

「どうと言われましても職場の同僚としか言いようがありませんな」

 

 セバスは先程までツアレと話していたときと同様の平静そのものといった顔でそう答える。

 

「聞き方が悪かったでありんすね。セバスはあの女がお前さんに懸想していると知っていて、その上でどう思っているか? でありんすよ」

「知っていても、仕事の同僚としか言いようがありません、ツアレの私に対する思いは救われた感謝の気持ちを愛情と勘違いしているだけです」

 

 私はセバスの言葉に一瞬呆気にとられ、そしてすぐさま頭にきて怒鳴っていた。

 

「ふざけるな! でありんすよセバス」

「シャルティア様?」

 

 私が怒鳴りつけてもセバスは顔色一つ変えない、それが余計に頭にきてさらに言葉を続ける。

 

「お前さんに好意を抱いたきっかけはたしかにお前さんの言う通りだったのかもしれないでありんしょうが、その想いが愛情と勘違いしているのだと断言できる根拠は何でありんすか?」

「根拠……」

 

 セバスは私の問いかけに言葉をつまらせ、私は答えを待たずに畳み掛けるように言葉を続ける。

 

「誰かに恋したり、誰かを愛したりするのに根拠や理由なんてないこともあるのでありんすよ、理由なんてあとから考えてみて多分あれが惚れた理由だとか思うくらいに『何で好きなのかわからない』こともあるでありんす!」

 

 私が一息ついたところでセバスがおずおずと問いかけてくる。

 

「シャルティア様、つまりどういうことでしょうか?」

「…………私にもよくわからないでありんす」

 

 悲しいかな、自分の中でセバスの言っていることに対して納得行かないという思いもあり、恋愛感情に関して言いたいことはあるのだが、それをさっと言葉として伝えるすべを私は持っていなかったらしい。

 

「セバス、怒鳴りつけたのは謝るでありんす。だから少しだけ待ってほしいでありんす」

 

 それでもここで諦める訳にはいかないという思いが明確にあった私はセバスに待ってもらいながらこめかみを押さえながら必死にどう言えばいいのかを考える。

 

「えっとでありんす。つまりでありんすよ、あの女、ツアレだったでありんすな、あれの想いを勘違いの一言で片付けないで欲しいでありんすよ、あれは本気でお前さんに惚れてるでありんすよ、多分きっと助け出したのが他の誰かだったとしてもそれに惚れたかどうかはわからないし、お前さんと出会ったのが別の形だとしてもお前さんに惚れた可能性だってあるでありんす」

「失礼ながら、何故そう言えるのかをお訊きしてもよろしいでしょうか?」

 

 ちょっとした意趣返しであろうことはすぐにわかった。けれどセバスとは違い私はこれに簡単にこたえることができた。

 

「簡単なことでありんすよ、私も愛している者がいるからでありんす。だからあの女の想いを勘違いの一言で否定されるのは許せないのでありんす」

 

 私の言葉にセバスは「なるほど」と言いながら少しだけ考え込むような仕草を見せた。

 

「シャルティア様のお言葉を胸に刻み、ツアレの想いに対しての答えを出すのはもう少し保留にしてみようかと思います」

 

 保留……。まあすぐに考えを変えれるものでもないし、自分の好みと違うとかいうこともあるだろうしとひとまず納得する。

 

 そもそも私は別にあの女とセバスがくっついてほしいというわけでもないのだし。

 

「わかればいいでありんす」と話を終わらせて私たちは別れた。別れたあと私は一人ブラブラとナザリックの中をあ歩きながら考え事をしていた。

 

 というのも惚れた理由がどうのとかそういう話をした場合、私自身にとってかなり、かーなーり不利な話になるということに気づいてしまったからだ。

 

 なんでも聞いた話によればアルベドの「設定」をアインズ様がいじった結果、アルベドはアインズ様愛するようになったらしい、らしいというのはどこが出処かはっきりしなくなってしまっているからなのだけど、私達は至高の御方々に創り出され「かくあるべし」として「設定」された。

 

 ここで問題になるのは「アルベドの設定」ではなく「アインズ様の行動」だ。

 

 私自身がアウラとの関係で「不仲」と設定されているからそう振る舞いはするものの、根本的なところでは別に嫌っていないしむしろ仲はいいほうだと思っている。

 

 これは私とアウラの創造主のお二方がご姉弟で仲がよろしかったからその影響もありそうだけれど、つまり「設定」は絶対的なものではないのだ。

 

 だからアルベドが、本当にアインズ様を愛しているかどうかというのはわからなくなるが、私自身の見立てでは本気でアインズ様を愛していると思う。

 

 だからアインズ様はどうなのかという話になる。アインズ様ご自身が、心のなかでアルベドに愛されたいと思っており、それでアルベドの設定をいじったのだとしたら?

 

 そうなると正妃の座につくのはアルベドになるであろうといえる。正妃を巡る争いはナザリックの誰もアルベドに敵わない、何故ならアインズ様が望んだことなのだからと異議を唱えることもできないだろう。

 

 けれどアインズ様はきっとご自身のなされた行為によってアルベドを簡単に正妃にするのは難しいだろうとも思う。

 

 何故なら、「自分を愛せと命令したから愛してくれる者の愛を素直に受け入れられるかどうか」という問題があるからだ。

 

(すべてはアインズ様の望むがままと言えるでしょうけど、『愛し合う』のがお望みなら設定してしまった者相手に…ひどい言い方をすれば『お人形』相手に愛し合うのを良しとするかどうかよねえ……)

 

「設定」は絶対ではない、そうだとしても、アルベドの愛が設定など関係なく本物だとしても、それを証明するのはいくら頭の良いアルベドどころかアインズ様ご自身でもなかなかに難しいだろうというのは私でもわかる。

 

(だからまあ、アルベドがアインズ様を納得させる言葉を見つける前に、もしくはアインズ様がアルベドの愛が本物だと確信する前に私がアインズ様を籠絡するしかないわけでありんすが)

 

 アルベドのようにもっと胸があったなら楽だったのか、はたまたアインズ様と同じスケルトン系なら良かったのか、アインズ様はアルベドの何が良くて愛されたいと思ったのかがわかれば楽なのだけれど……。

 

(これでもしも、アインズ様がアルベドに愛されたいと思った理由なんてものがなかったとしたら、本当にもうどうしようもないわねえ……)

 

 そんなことを思いながら、私は何とも言えない気持ちを抱え天を仰いだ。

 


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