シャルティアの日常   作:クロハト

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続きものはひとまずここまでとなります

次回からは全く関係のない読み切りとなります。
更新は2017年06月26日(月) 21:00です


想うシャルティア

(ココマデ…カ)

 

 不完全燃焼だった。コキュートスのなかには最後まで戦いたいという欲求がくすぶっていた。

 しかしこれはあくまで試合であり殺し合いではないのだと自身を納得させる。『戦いたい』という欲求はあれども仲間を『殺したい』わけではないのだ。

 

(ダガ……)

 

 シャルティアはどうだったのだろうか、自分はたしかに強いものといえるシャルティアと戦えた。そこから得たものも確かにある。このあと今日の戦いを振り返ってみれば更に得るものもあるだろうという確信もある。だがシャルティアは自分との戦いで、明らかにシャルティアよりも弱かった自分との戦いで得るものは有ったのだろうかという懸念がコキュートスの中で渦巻いていた。

 

 コキュートスはそんな懸念を抱きながらシャルティアの方を見る。シャルティアは勝利したことを喜ぶのでもなく、ただ静かにじっとアインズが居る方を見つめていた。

 

 シャルティアたちは一旦控室へと戻り回復魔法で治療を受け、その間にメイドたちが闘技場の整備を行う、それらがすべて終わると閉会式が始まった。

 

 表彰式などはない、あくまでこれはトーナメント形式の模擬戦兼御前試合であり優劣を決めるものではなかったからである。

 

「此度の大会で、お前たちがよく研鑽をつんでいることと同時にその心構えも改めてよく知ることができた。これからもよく励み、ナザリックのために尽くすが良い!!」

 

 アインズの言葉に皆が一斉に「はい!」と応える。ナザリックのためにアインズのために彼らはその生命を使うことだろう。その光景にアインズをはじめとして階層守護者たちも満足げに笑うのだった。

 

  ◇

 

 大会終了後、玉座の間にて玉座に座るアインズの前にセバスを除く階層守護者たちが並んでいた。

 

「改めて此度の大会ご苦労であった。傷をそれなりに負ったりもし癒やしの魔法を受けたと思うが身体に問題などはないか? 特にコキュートス、ダメージを抑えるためにとはいえまさか自ら腕を引きちぎるとは思わなかったぞ」

 

「身体ニ問題アリマセン」と魔法で治った左後腕を回してみせるコキュートス。

 

「アノトキハ無我夢中デシタノデ、今トナッテハ自分デモ思イキッタコトヲヲシタトオモイマス」

 

 アインズはコキュートスの様子に問題がないことを確認すると、その視線をシャルティアへと動かして問う。

 

「うむ、シャルティアはどうであった? 此度の件で何帰るものは有ったか?」

「はい、知っているのと実戦とでは大きく違うのでありんすねと改めて知ることができんした。また大会開催のために企画を立てたりといったこともいい経験になりんした」

「そうか、得るものが有ったならそれでいい」

 

 あとは細々した報告などをまとめて出すようにと告げるとアインズは自室へと戻っていく、そして他の階層守護者たちもそれぞれの成すべきことを成すために立ち去っていく、そんな中でコキュートスが「シャルティアニ聞キタイ事ガ一ツアル」と言ってシャルティアを呼び止めた。

 

「なんでありんすか?」

「シャルティアハ今回ノ戦イデ本当ニ得ルモノガ有ッタノカソレガ知リタイ、イヤ、違ウナ正直ニ言エバ、ワタシトノ戦イニ不満ハナカッタノカソレガ知リタイ」

 

 コキュートスの言葉にシャルティアはキョトンとした顔で「不満?」と呟く。

 

「不満と言われても質問の意味がよくわからないでありんすね。コキュートスは、わっちが一体何に不満を抱くと思ったでありんすか?」

「我ガ身ノ不甲斐ナサ、シャルティアハ強キ者ト戦イタイト言ッテイタノニ私ハシャルティアガ望ム強気者トシテシャルティアト戦ウコトガデキナカッタ」

 

 コキュートスの声が重く苦しいのは本人がそう思い込んでいるからだろうとシャルティアは理解する。だがしかし、コキュートスの言っていることは少しずれていると思った。

 

「コキュートス、わちきはお前さんが弱かったなどと思っておりませんよ、あの戦い方は見事だったと本気で思っているでありんす。アルベド……はともかくとして、わちきと戦ったデミウルゴスの戦い方なんかもそういう手があるのかと感心したでありんす」

 

 だが、その言葉でコキュートスは納得しない。

 

「本当ニ、本当ニソウ思ッテイルノカ?」

 

 コキュートスが再度シャルティアの問うと、ヒヤリと周囲の空気が凍てつくような気配がシャルティアから発せられた。

 

「コキュートスは、わっちがアインズ様に申し上げたことが嘘だと言いたいんでありんすか?」

 

 とても穏やかな声だったにも関わらずそれはまるで刃のようにコキュートスの喉元へと突きつけるような鋭さを宿していた。それでようやくコキュートスも自分の失言に気づき、そのことに対してコキュートスが謝るよりも先にシャルティアが口を開く。

 

「コキュートス、自分が弱かったとか戦い方に不満があったなら、これから何をすればそう思わずに済むようになるのか、次はどうするべきかそういったことを考えれば良いんでありんすよ」

「アア、シャルティアノ言ウ通リダ、先程ノ失言ヲ謝罪スル。本当ニスマナカッタ」

「許すでありんす」

 

 これでこの話は終わりとシャルティアはゲートを開いて何処かへと消え、残されたコキュートスもすぐさま何をするべきかを考えながら自室へと向かう。

 

 こうしてシャルティアの思いつきが発端となった。ナザリック武闘大会は各々の胸にナザリックのために、アインズのためにもっと強くならねばという想いの火を灯して終りを迎えたのだった。

 

 

  ◇

 

 

 ナザリック地下大墳墓第九階層アインズ自室にて、アインズは今日の大会のことを振り返っていた。殺し合いではなく試合だからと油断していたら思っていた以上に鬼気迫る戦いを見せられ度肝を抜かれてみたり、ギルドメンバーたちがまだいた頃のPvPの模擬戦を思い出したり、もともとダメ元で振ってみた大会運営を無事に終わらせたことに感心したりと、ただ見ていただけにも関わらずアンデッドでなければ心が揺れ動きすぎて疲れ切っていたのではないだろうかとそんな気がしていた。

 

 そして、階層守護者たちの成長を嬉しく思うと同時に少なからずの怖さを覚えたことがアインズの、鈴木悟の心に少しだけ影を落としていた。NPCたちが自我を持ち考えることを覚え本当の意味で自立した時、生みの親であるギルドメンバーたちのようにここから去っていくのではないかという考えが頭をよぎったからである。

 

 もしも本当にその時が来てしまった時、自分はどんな顔をするのだろうか、自分は素直にそれを祝福し見送ることができるだろうか?

 

 アインズは、その問いに対する答えを出すことができなかった。

 

 

 

 

 大会も終わり、あとはアインズ様のおっしゃっていた「細々とした報告のまとめ」を作って提出すれば終わり、シャルティアとコキュートスはそれを簡単なことだと考えていた。

 

 だが「細々」というのは「少々」や「少ない」「些細」とかそういう意味ではない、『細々としたことをまとめた報告書』とはつまるところ「全部」を「わかりやすく」して「まとめた」ものである。

 

 事務経験などまったくない二人がとんでもない勘違いをしていたという事実に気づき、精神的に血反吐を吐きそうになりながら奮闘するも、最終的にアルベドに泣きついて事務の手伝いができるものを貸してもらうことになったのは致し方ないことであり、そうして出来上がった報告書がなんとも微笑ましい出来だったとしても、それを受け取ったアインズはおくびにも出さずにただ一言「ご苦労であった」と言って受け取るのだった。

 

 こうして本当の本当に大会に関することがすべて終わったシャルティアは、精神的に疲れ切り部屋に戻るなりベッドにダイブしてぐでーっと寝そべっていた。

 

 そんなだらしない格好ではあったものの、シャルティアはずっと考え込んでいた。何をといえばそれはもちろん事の発端であるアインズよりも強い存在に出会った場合のことである。

 

 もしもそんな存在が現れたらというのを考えながらああしよう、こうしよう、こう備えてみようなど考えるけれど、一番の解決策であり同時に決して叶わないであろう願いともいえることがシャルティアの脳裏に浮かぶ、至高の御方々が揃っていれば、それが無理ならせめてペロロンチーノ様がアインズ様と一緒に居られれば……と。

 

 お顔をずっと拝見する許可がでるならばずっと見つめ続けていたいと思うアインズの顔に寂しげな色が時折浮かんでいるのをシャルティアは知っていた。

 

 その寂しさを紛らわすことが自分たち階層守護者どころかナザッリックの者達すべてでも無理だろうということもシャルティアは知っていた。せめてアインズ様と特に中の良かったペロロンチーノ様がおられればアインズ様はあのような顔をなさらずに済んだのだろうかと、そんな想いを抱く、だからこそとシャルティアは願うのだアインズの隣に立てるような存在となり、その寂しさを埋めれるようになりたいと。

 

 そのためにももっと強く賢くならねばならないと心に刻み、今日も彼女はアインズのために何ができるのかを考えるのであった。




続きものでここまでのおつきあい本当にありがとうございました。

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