次回更新は2017年06月22日(木) 21:00です
休憩時間をはさみ、シャルティアのライフと疲労は完全回復し闘技場の整備も終わり、あとは時間が来るのを待つだけだった。
「イヨイヨダナ」
「そうでありんすね、今回はセバスがいないからわちきとアルベドとお前さんの三つ巴でありんしたしね」
「ウム、仕方ナイトハ言エセバストモ戦ッテミタカッタモノダ」
そんなことを話している内にやがて時間がやってくる、決勝戦の時間が。
会場は大いに盛り上がっていた。アルベドとシャルティアの戦いに興奮冷めやらぬものたちは闘技場にシャルティアとコキュートスの姿が見えた途端に大きな歓声を上げた。
「わっちたちが見世物なのはどうなんでありんしょうと最初は思ったりもしたのでありんすが」
「ウム?」
「純粋に尊敬の眼差しとかそういうものを向けられるのは少しだけ悪くないでありんす」
「ソウダナ……」
闘技場の中央で向かい合って立つ二人、コキュートスは幾つもの武具を持ち込み地面に突き立てていく、ルールの上では問題ないことを確認済みなのでシャルティアも審判もなにもいわない、多種多様な武器を使いこなすことがコキュートスの特技の一つなのだからそれを活かすための準備は容認されるし、言ってしまえばバフをかけたりするのと変わらないという判断である。
審判が二人の顔を交互に見て無言で意思確認をする。それが済むと審判は二人から離れ高らかに宣言する。
「決勝戦はじめ!」と。
「最初から全力で行くでありんすよ、エインヘリヤル!!」
シャルティアと全く同じ姿の分身が現れ、シャルティア自身が左に分身は右に飛んでそれぞれが弧を描きながらコキュートスに向かい突進する。
「フロスト・オーラ」
静かにだが重く力のある声でコキュートスもスキルを使用する。それによって周囲の温度が急激に冷え込み多少なりとも動きが鈍るシャルティアと分身、コキュートスは瞬時に右前腕と左後腕に剣、左前腕と右後腕に盾を持ち、シャルティアの突撃を手にした盾で受け止めると同時に剣で斬りつける。シャルティアと分身は突撃の勢いを利用された形となり回避しきれずにダメージを負う。だがそれで怯むようなことはなく無理やり体制を立て直して槍を突き刺す。
槍に刺されながらも追撃を行おうとするコキュートスだったがそれは一瞬にしてシャルティアと分身が間合いを離し空振りに終わる。しかしシャルティアが次の手を打つよりも速く武器を弓二つに持ち替えたコキュートスがて四本の腕を駆使しシャルティアと分身その両方に向かって次々と矢を射っていく、シャルティアと分身はそれらを躱しながらシャルテイアは魔法を放つ。
「マキシマイズマジック、ヴァーミリオンノヴァ!」
最大限に強化された魔法の豪炎がコキュートスを飲み込む、その身を焼かれつつもそれでもコキュートスは矢を放ち続けるのをやめない、魔法を撃つために回避がおろそかになったシャルティアの身体に数本の矢が突き刺さる、その間に横から分身がコキュートスに向かって槍を構えて突進するが、それも想定内と言わんばかりに右に持っていた弓矢を置くと今度は分身が持つよりも長い槍を手に取りそれによって分身の接近を阻み一撃を与える。その間もシャルティアに向かって矢を放ち続けるのは変わらない。同時に二体を相手にすることになってもコキュートスにとっては問題ない、コキュートスの六つの眼と四本の腕は飾りなどではないのだとシャルティアは改めて思い知る。
ならばその目を塞いでみようと分身に地面を攻撃させて土埃を巻き上げさせる。だがそのことに一手使ったのは間違いだったとシャルティアはすぐに知ることになる。土埃を巻き上げさせたときには分身の目の前にコキュートスがいたのだ。「フン!」という一呼吸とともに四本の剣が一斉に分身の身体を切り刻みそのダメージで分身は消滅する。
失敗したと悟りつつもコキュートスが分身を排除するためにこちらへの攻撃をやめているのはチャンスだとみてシャルティアはスキル「清浄投擲槍」に魔力をこめ「必中」を付与して放つ、コキュートスは分身を倒すなりすぐさまその身をシャルティアに向けており、飛んでくるスキルもしっかりと見えていた。コキュートスは装備によって飛び道具を無効化できるがスキルによって必中化したのは流石に無効化できずその身に大きなダメージを追う。だがダメージを受けるほんの少し前に彼は手にしていた四本の剣すべてをシャルティアに向かって投げつけていた。
コキュートスの豪腕によって投げられた剣は二本はシャルティアの槍によって弾かれたが、残りの二本はシャルティアの左腕と右足に突き刺さっていた。
それを見てコキュートスは自身の敗北を確信した。隙を見せたのはわざとだったのだ。それによって来るであろう強烈な一撃も理解した上でこちらの攻撃を確実に通すための策だった。
だが結果としてそれは失敗だった。投げつけた剣はすべてシャルティアに突き刺すつもりだった。それができなかった時点でコキュートスは己の敗北を察した。
すぐさまシャルティアから二本目の清浄投擲槍が自身に向かってくるのが見えた。これで終わりだとコキュートスは諦める。だが武人としての部分がそれを良しとしなかった。半ば無意識に彼は左後腕を清浄投擲槍に向かって突き出していた。そして清浄投擲槍が左後腕に当たった瞬間自らの手でその左腕を引きちぎることで清浄投擲槍のダメージを左腕だけに留める。
その光景にシャルティアを始めとした全員が驚きの声を上げた。その隙きを見逃すコキュートスではなかった。
「アイス・ピラー、アイス・ピラー、アイス・ピラー」
「な、目くらましでありんすか!?」
コキュートスの魔法によって巨大な氷の柱がいくつも出来上がっていく、シャルティアはその柱を躱したり壊したりしながらコキュートスを視界に収めようとする。
その時シャルティアは視界の外で何か金属音を聞いたような気がした。だがその音の正体について考えるよりも先にコキュートスの姿が見える。それはいつの間にか槍を手にし今にも投げようとしている姿で、「しまった」と思ったときには槍と魔法による無数の氷の弾がシャルティアに向かって飛んでいた。
「不浄衝撃盾!」
槍が刺さる寸でのところで攻防一体の衝撃波の盾を展開することに成功する。
(アイス・ピラーデ目クラマシト同時ニ地面ニオイテアッタ武器ヲコチラニ動カシ回収ニ向カウ時間ノ短縮シテ不意打チデキルカト思ッタガヤハリウマクイカナイモノダナ)
流石はアインズ様が単純な力押しなどではなく策を弄することで勝利をおさめることになった相手だと言える。小手先のその場での思いつきなどでは勝利をつかむには足りない、そうコキュートスは思った。その一方でシャルティアはシャルティアでコキュートスが左腕を犠牲にしてダメージを抑えたこととその後の槍を投げつけてくるまでの流れにただただ感心していた。
(ああいう戦い方もあるんでありんすね。勝利を掴むためになら、いや勝利をアインズ様に捧げるためなら自身などいくらでも捧げることができる)
けれど、それでシャルティアの優位がひっくり返るわけではないという事実もそこにはあった。三度目の清浄投擲槍を放つと同時に突進してくるシャルティアをコキュートスは防ぐすべがなく、その連撃がとどめとなり、審判はコキュートスのライフが30%以下になったのを確認し声高に叫ぶ。
「勝負あり! 勝者シャルティア!!」
一瞬の静寂のあと歓声が上がる。それとは対象的に戦っていた当人たちはとても静かに戦いの終わりの余韻に浸っていた。こうして大会決勝戦は無事に終りを迎えたのだった。